職場環境の美化で職員のモラル向上 歯科医院における5Sの活用ポイント

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職場環境の美化で職員のモラル向上 歯科医院における5Sの活用ポイント

  1. 歯科医院における「5S」徹底の重要性
  2. 「整理・整頓」の実行でムダ・ムリ・ムラを排除
  3. 「清掃・清潔」の実施で医療提供サービス向上
  4. 「躾」の徹底で挨拶、報告、連絡、相談を習慣化

 


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1.歯科医院における「5S」徹底の重要性

1.歯科医院における「5S」とは

医療機関においては、来院した患者に「院内がきれい、清潔感がある」という印象を持ってもらうことが重要であるため、院長は、日々スタッフに対して清掃や片づけを徹底していることと思います。
しかし、ありきたりの清掃や片づけをしているのみで、「これくらいで良いだろう」で済ませていないでしょうか。
社会では常識となっている「5S」を実践することは、組織にとって重要な仕事の基本です。
特に、歯科医院が医療サービスを提供する場であることを考えると、一般社会よりも一層重視すべきだともいえます。

5Sとは

2.「5S」と理念

歯科医院におけるすべての行為は、院長の経営理念と診療方針が基盤となっています。
理念という共有された価値観の中で、組織としての規範を策定し、信念を持って仕事が行えるようになります。
また、理念が浸透することで、行動や会話・説明に統一感を持たせられるようになり、患者に与える印象も良くなります。
「5S」の行為自体は難しいものではなく、特別な知識も必要ありません。
しかし、その根底にあるのは、自院の経営理念から導かれる共有する価値観であり、その実践を目指して組織全体が取組み、継続すること、そして維持向上することが重要なのです。

5Sの向上

「5S」は、それぞれ個別に行うのではなく、共有化された価値観や規範、理念・方針に基づいた体制を構築して、これが根付く組織文化を育てることを目標とします。

医療従事者の5S

3.「5S」で仕事の棚卸

「5S」を行うことにより、業務が増えることはありません。
「ムリ・ムダ・ムラ」をなくし、単純化・効率化を図ることができるため、実際には仕事が整理されて、スムーズに進む上に、全体の業務量が減少することにつながります。
「5S」を通じて仕事の棚卸をし、仕事の効率化と単純化を図りましょう。

仕事の棚卸手法

4.「5S」のチェックポイント

仕事の棚卸を行ったうえで、マニュアルを作成したのち、これを実践する際には、数多くのチェックポイントがあります。
ここに問題が多くあると、自院は「5S」が徹底されていないということになります。
さらに、チェックし、改善を実行するためには、組織内でこれらを継続できる体制(PDCAサイクル)を構築することが求められます。

5Sのチェックポイント、計画・実施・評価・改善PDCAのサイクル

2.「整理・整頓」の実行でムダ・ムリ・ムラを排除

1.「整理」の基本

整理とは、不必要な物、未使用物、期限切れや保存義務のない物を、法令やルールに従って処分し、必要なものだけで効率良く業務を行える診療スペースを確保することです。
診察室や消毒コーナー等には、器具や模型、書類、材料等さまざまな物があふれています。
医療従事者側では、診療に支障が出なければ、使用しないものを不必要だと認識できません。
ところが患者は、物があふれかえっている様子を見るだけで、清潔感のない歯科医院という印象を持つものです。
「いつか使用するかも」と置いておくケースは珍しくありませんが、6ヶ月以上使用しない場合は処分すべきと判断するようにします。

整理の意味

整理に際しては、保管場所や行動、意識と知識、感覚、体制等を考慮し、すべてに「ムリ・ムダ・ムラ」が生じていないかを常にチェックすることが求められます。
チェックは、次のような観点で行います。

ムダな時間と物と労力を排除

2.「整頓」の考え方

整理が行われても、整頓がされていないと、結局は時間を掛けて物探しをする等の作業が増えてしまいます。
ムダな動きを排除するためにも整頓は必要な業務です。

整頓の意味

(1)整頓のポイント

整頓のポイントは、使用しやすいことに加えて、見栄えよく並べるということも必要です。
業務内容や使用目的を考え、すぐに使用できる状態を維持します。

棚の上と引き出し、消毒コーナー・水回り、消毒業務フロー、技工コーナー、受付・会計

(2)整頓で働きやすい環境づくり

整理整頓が徹底されている歯科医院では、院内の見た目もスッキリして、スタッフも無駄のない動きをしており、働いているスタッフのストレスも少なくて済んでいます。
患者も、清潔な歯科医院でスタッフが機敏に動き、しっかりした挨拶を交わし、余裕をもって対応されると心地よく感じ、快適に診療を受けることができます。

3.「清掃・清潔」の実施で医療提供サービス向上

医療の現場である歯科医院は、「清潔」の空間を提供することが基本です。
また「清潔」を維持するには、「清掃」という取り組みが不可欠です。
つまり、「清掃・清潔」への取り組みと結果は、そのまま歯科医院の診療方針を表すものになります。
歯科医院の全員が「清掃・清潔」の重要性を認識し、誠実に取り組むことが、患者に対して居心地の良い医療サービスを提供することにつながります。

1.診察室内の清掃ポイント

同じ患者が毎日来院するわけではありません。
人は、汚れや乱雑さ等、普通と違う状態に目線が集中します。
院内を毎日見ているスタッフと違い、見慣れていない患者の目線からは、こうした部分が目立って見えてしまいます。
特に清潔な空間である診察室内に注意し、患者の目線を意識した清掃に取組みます。

■診療室の場所別清掃ポイント

(1)壁

週1回をめどに、掃除の最初に天井付近の壁の隅を重点的に行います。
化学モップや柄の長い静電気防止モップを使うと便利です。

(2)エアコン・暖房器具

吹き出し口・フィルターを中心に、月1回は昼休み等のまとまった時間を利用し、吹き出し口は化学モップ、フィルターは掃除機で埃などを落とします。

(3)棚の上

特に患者の目に入る棚の上は、最低週2回、診療終了後に棚専用の水拭き雑巾で拭き掃除を行います。

(4)ユニットアーム

ユニットアームすべてを、毎朝ユニット用の専用タオルで拭いて掃除をします。

(5)ライトカバー内

診療終了後に、埃がたまっていないかどうかを確認し、清掃します。

(6)スピットン下の床

診療が終わった都度、モップや床専用雑巾で水拭きと乾拭きを行います。

(7)スピットン斜め下のパーテーション・壁

診療開始前や水が飛んだ都度、壁専用雑巾で拭き掃除をします。

(8)スピットン外周

ひとりの患者の診療が終わったら、その都度、使用後のディスポエプロン巾を利用して拭き掃除を行います。

(9)スピットン内部

外周同様、内部については念入りに使用後のディスポエプロン巾で拭き掃除をします。

2.ユニット周りの清掃ポイント

定期的に行うものと、患者ごとに行う清掃があります。
この患者ごとに行う清掃は、次の患者を待たせることにもなるので、「速やかに、正確に、徹底する」ことが求められます。
ユニット周りは、患者が直接触れる場所でもあるため、特に注意が必要です。
清掃のポイントを整理してマニュアルを作成し、効率良く清掃を行います。

■ユニット周りの清掃ポイント

(1)ユニット~座面・ヘッドレスト・背面

ひとりの患者の診療終了ごとに、カウンタークロスに消毒スプレー(アルコールスプレー、家具清掃スプレー)で拭き掃除します。

(2)スピットン

バキュームで水を吸引し、使用後エプロンを用いて拭き掃除を行います。患者ごとに実施します。

(3)ライト

ライトハンドルも忘れずに、アルコールワッテで拭いて掃除します。

(4)ドクターテーブル

診療が終了して片づけた後、器具を運ぶ前にアルコールワッテで拭き掃除を行います。

(5)フットペダル

午前・午後の1日1回以上は、専用の水拭きタオルで拭き、清潔にします。

3.清潔な歯科医院で患者を迎える

清潔とは、整理・整頓・清掃が維持されている状態です。
スタッフは、きれいな歯科医院で気持ちよく働きたいと思い、患者も、居心地のよい歯科医院でスタッフと一緒に治療や予防を行い、維持していきたいという希望を持っています。
場所だけでなく、精神的にも清々しい空間を提供することが求められています。

清潔の意味

4.消毒室の改善方法

患者の診療終了後、下げてきた基本セット等を消毒コーナーにとりあえず置く歯科医院があります。
置く行為を禁止し、汚れたものは直ちに清潔にする、という習慣を付けましょう。

消毒室の改善方法

5.医療人としての姿勢

患者から見て清潔感のあるスタッフが求められます。
その評価は患者がするため、姿勢・精神ともに、医療人としてあるべき姿を具体化します。

医療人としての姿勢

4.「躾」の徹底で挨拶、報告、連絡、相談を習慣化

スタッフの育成には、実技と接遇の研修による単なるスキルアップだけではなく、人間性を高める研修も必要です。
「躾」とは厳しい指導を行うことと捉えられてしまいがちですが、本来は、自分と接する相手に嫌な思いをさせない行動を普通に行うことが「躾」なのです。

1.「躾」の考え方

「躾」は自然と出来るものではなく、教育と指導によって覚えるものです。
また、徹底が必要なため、繰り返し指導が必要ですが、怒るのではなく、諭し、身につけさせるようにします。

躾の意味

2.「躾」の基本

「躾」の基本は、「挨拶・報告・連絡・相談」です。
医療の現場でチームとなり、目標に向かって全員が進んでいくベースとなるのは、経営・診療に対する院長の「理念・方針」です。
この同じ価値観のもとで、お互いを認め、感謝し、尊重する姿勢が求められます。
院長とスタッフ間では、常に「挨拶・報告・連絡・相談」を行える組織を目指しましょう。
とりわけ「報告・連絡・相談」は、一般には「ホウ・レン・ソウ」として常に意識されています。
これが徹底されると、問題解決や体制改善に大きな効果が期待できます。

報告・連絡・相談の意味

チームとして業務を行うには、報告がなければ問題が見えず、連絡がなければ連携が取れず、相談がなければ改善や方向性を見出すことはできません。

報告・連絡・相談のポイント

2.約束を守る

組織内のルールだけではなく、患者とのルールも守らなければいけません。
予約診療を行っている歯科医院では、患者との約束である予約時間を守ることが重要です。
急患対応で予約時間よりも診療開始がずれこむケースもありますが、こうした場合は、予約患者にきちんとした説明を行わなければなりません。
何も知らされず待たされるのは、患者にとって最も不安で、不満を抱く状態です。
ただし、予約は歯科医院と患者双方にメリットが大きいため、可能な限り予約時間を守るように、医院全体で意識することを徹底しましょう。

予約時間を守るための取り組み

■参考
「歯科医院の活性化 仕事の視える化シリーズ Part2 5Sで仕事の視える化」編著 小原啓子 出版 医歯薬出版株式会社
「歯科医院の整理・整頓・清掃マニュアル」著 田上めぐみ 出版 クインテッセンス出版株式会社

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