環境変化への対応度を測定 経営改善に向けた自院分析方法

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環境変化への対応度を測定 経営改善に向けた自院分析方法

  1. 自院分析の必要性と各テーマ
  2. 診療圏調査の手法
  3. 院内分析からみる改善ポイント
  4. 事例からみる診療所分析

 


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1.自院分析の必要性と各テーマ

歯科医院の院長が、経営に関して考えるべきことは多々あります。
実際は、診療しながら多くの経営判断を行うとなると、時間的制約があり、なかなか実施できないという歯科医院が少なくありません。
経営判断を要するテーマには、広告宣伝の見直しや内外装・医療機器のリニューアル、診療体制の再構築、訪問診療や予防歯科への新たな取り組み、スタッフ教育など様々あり、どれも行わなくても良い、というものはありません。
優先順位を定め、期限を設定したうえで一つずつ行うことが必要です。
優先順位を付けるには、まずは自院の状況を分析することです。
患者視点に立ち、外から見る自院を知って初めて改善点が判ります。

1.自院分析の必要性

開院して以降、地域の環境変化は必ず起こっています。
人口数の変化や大規模商業施設の開設、道路拡幅工事による生活道路の変化、地下鉄の開通やバス路線の変更、近隣に歯科医院の新規開設、既存歯科医院の診療体制の変化(夜間診療の延長や土日診療への変化)など、自院の増患対策に大きな影響を及ぼす項目は多々あります。
院長は、開業後は数年ごとに自院分析を行い、環境変化に合わせた増患対策を取る必要があります。

自院分析の必要性

2.各テーマの調査ポイント

自院分析の各テーマについて、重要な調査ポイントがあります。
診療圏調査から、居住人口や昼間人口の変化、年齢層により患者種別を把握し、また競合医院数や診療体制を把握します。
広告戦略では、医療法の広告に関する改正に合わせた広告方法の検討が挙げられます。
SNSの普及により、広告は工夫を求められています。
地域にとって歯科医院に望まれる項目を把握し、診療体制や最新医療機器の導入の検討が必要です。
毎日自院内で過ごしているスタッフでは、院内の汚れや不具合について感じることが難しいケースもあるため、定期的に患者アンケートを実施し、患者目線からの判断によって、内外装や医療機器のリニューアルを検討します。

各テーマの分析項目

3.患者アンケートの重要性

自院分析には、患者アンケートの実施が重要な情報収集手段です。
患者からの評価は、院長やスタッフがどんな医療サービスや診療を提供しているかではなく、患者が医療サービスや診療を受けた後の評価がより大きな意味を持っています。
患者がどう感じているか、どう受け取っているかは、通常の診療時には判断できません。
たとえ不満があったとしても、院長やスタッフには面と向かっては言えないものです。
大げさに言えば、クレームほど自院を評価しているものはないかもしれません。
怒りから発せられているものもありますが、この歯科医院、この歯科医師やスタッフにこんな問題があるので改善して欲しい、との思いから苦情を申し出るケースも少なくありません。

患者アンケートの質問項目

2.診療圏調査の手法

診療圏調査は、開業してから行う歯科医院はほとんどありません。
経営が安定すると、近隣に競合医院ができて患者数が若干減少しても、経営や生活ができていると気にしなくなってしまいます。
しかし、歯科医院はその後も何年間も継続していきます。
常に自院の診療圏を意識し、環境変化に注意を図る必要があります。

1.診療圏調査の手順

(1)診療圏マップの作成

診療圏の範囲を設定し、地図を作成します。
競合医院を地図上にプロットします。

診療圏調査の手順1

(2)受療率の設定

「傷病分類別受療率」という歯科疾病に関する受療率を総合すると「1.031%」となっています(受療率は、統計や計算の方法や統計年度によっても変化します)。

(3)人口の把握と潜在患者数の計算

地域の人口と競合医院を考慮し、この地域の潜在的に患者となり得る人数を算出します。
地理的基準としては、自院から半径ごとに期待割合を定めてエリア別けを行います。

地域別推計患者数(居住者数より)

2.競合診療所の分析

診療圏調査は、あくまでも推計来院患者数の平均を計算したものです。
重要なのは、この地域にいる潜在患者を競合医院との競争から獲得するかの手法を考えることです。
そのためには、競合医院の調査分析が重要です。

競合医院分析

3.院内分析からみる改善ポイント

競合医院調査分析は、自院の分析にも必要です。
自院で足りない部分や弱い部分、逆に強い部分と医院の得意分野を知ることです。
地域によっては、足りない部分や弱い部分を強化するよりも、強い部分や医院の特徴、得意分野を伸ばすことの方が増患につながることもあります。

自院分析のポイント

(1)環境分析

医院への通院アクセスも影響します。
1次診療圏は徒歩圏内ですが、患者数の増加ポイントは2次診療圏からの集患です。
高齢者や母親と子供といった患者層では、公共交通機関での通院方法も重要です。
また、車での来院には、生活道路からの誘導や駐車場の台数の確保、止めやすさもポイントです。
看板だけでなく外観も大きな宣伝効果が期待できます。
オシャレでセンス良く、という診療所を見かけますが、目立たないものでは意味がありません。
目立ったうえでのセンスが必要です。

環境面の分析ポイント

(2)診療所施設、設備等の分析

診療所の各室、医療機器、清潔さ、院内の情報提供等について分析を行います。
患者は治療時間よりも待っている時間の方が長いため、診療所内の動きやすさや使いやすさ、見た目、雰囲気など、様々な視点からチェックを行っています。
特に新規患者は待ち時間の間に、どんな診療所なのかを設備等のハードの部分、スタッフ等のソフトな部分を観察しているため、清潔への取組みを含め、雰囲気やイメージまで確認と維持管理が必要です。

診療所施設、設備面の分析ポイント

(3)窓口やスタッフの分析

窓口は患者が診療所と最初に接点を持つ場所であり、診療所の顔とも言われています。
ここでの対応や受けた印象が診療所のイメージを決定するといっても過言ではありません。
窓口のほか診療時の待ち時間やスタッフの言葉使い、態度や身だしなみ、診療への説明や患者からの質問への回答、費用についても、検討と分析が必要です。

窓口やスタッフの分析

(4)広報活動分析

医療機関の広告活動には制限があります。
その制限の中でも、診療に対する有効な広報活動は継続して行う必要があります。
患者は診療に関する情報を求めています。
ITの発達した今、SNSを活用した広報活動が主になっていますが、高齢者患者(独居も多い)は、今までの紙媒体や看板等による情報しか受け取れない場合もあります。

広報活動分析

4.事例からみる診療所分析

自院分析の結果を確認し、改善点については、競合医院を意識した上で取組み項目を決め、いつまで行うかのスケジュールを組み立てて実行していきます。
ある戸建診療所の分析結果から改善点をみていきます。

1.外観分析

外観や看板には、問題ないと思われます。
夜間診療を行っていないので、外観を照らす照明はありませんが、イメージの良い外観なので照明でもっと住民にアピールしたいと思います。

外観・看板分析シート

2.院内アメニティ

開業後長く経過した医院のため、完全なバリアフリーではありませんが、補助するための設備は備えています。
トイレへの配慮が検討課題です。
待ち時間があるため、待合室の整備は重点的に取り組んでいます。

院内アメニティ分析シート

3.接遇サービス分析

接遇に関しては、普通と診断されています。
より高い接遇力の向上が今後必要です。

接遇サービス分析シート

4.分析結果からの検討

分析結果から、改善点を洗い出し、外部の照明設置や院内アメニティ、接遇に関して見受けられた課題について対応策・改善点を検討しました。

課題について対応策・改善点

経営改善や増患対策への取組みは必要ですが、新しいことに取り組む前に自院分析を行い、改善を経て新しく取り組むことが、より増患対策につながります。

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