保険診療の質的向上と適正化を図る 歯科診療所の個別指導対策

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  1. 厚生局による指導・監査等の実態
  2. 個別指導や監査による返戻命令と取消事例
  3. 歯科診療所の個別指導対策

 


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1.厚生局による指導・監査等の実態

1.厚生局指導・監査の実態

(1)返還金の状況

平成27年度において、厚生局が行う個別指導や適時調査により発生する医療機関の返還金の総額は、124億円となっています。
個別指導は、ほとんどの場合が自主返還の対象となるため、医業収益を圧迫して歯科診療所経営に大きな打撃を与えることにつながります。
日常的に個別指導や、診療報酬の査定対象とならない対応が求められます。
今回は、自主返還事例を通じ、個別指導を想定した歯科診療所における対応策について解説します。

2.療養担当規則と個別指導の対象

(1)療養担当規則とは

医療機関は、健康保険法等で定められたルールに則り、適切に診療を行うことが求められています。
厚生労働省令である「保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下、療養担当規則)」にこれらルールが定められており、療養給付の範囲や療養の給付の担当方針など、保険医療機関が日常的に診療を行う際の規則が明示されています。

指導とは、医療機関がこの療養担当規則に違反していないかを患者本人や保険者及び支払機関等からの情報提供に基づいて、実地指導を行ったり、ルールの詳細について周知徹底したりすることを目的として、各地域の地方厚生局により実施されています。

(2)指導の概要と対象となる医療機関

指導は、集団指導、集団的個別指導、個別指導の3つに分類され、その内容は次のとおりです。
個別指導は、集団的個別指導の実施が前提となり、実施の翌年以降も診療報酬請求点数が高いままの医療機関などに対して行われるのが通例です。

(3)個別指導の対象となる理由

集団的指導と個別指導は、それぞれ次のような理由を持つ医療機関が対象となります。
通常は、地域の平均点数の上位8%程度の高点数医療機関が集団指導の対象となり、さらにその中でも翌年度実績が都道府県平均点数の1.2倍を超える医療機関が個別指導の対象とされています。

例えば、レセプト1枚の平均点が1,500点の地域であれば、単価1,800点(=1,500×1.2)を超える医療機関は、次回に個別指導の対象先とされていましたが、近年は集団的個別指導を経ることなく、いきなり個別指導になるケースが増加傾向にあります。

3.近年の個別指導事由の傾向

(1)個別指導時改善要望事項の種類

個別指導時に指摘される改善要望事項については、(1) 診療に係る事項、(2) 事務的取り扱いに係る事項の2つに分類されます。
指導事由としては、診療に係る事項が圧倒的に多い状況にあります。

(1) 診療に係る事項

本項目は、診療録や傷病名といった記載から、基本診療料、特掲診療料、保険外診療などの個別の算定状況に展開します。

(2) 事務的取扱いに係る事項

2.個別指導や監査による返戻命令と取消事例

1.保険医療機関等の取消し等状況について

歯科診療所の取消しの端緒は、保険者等からの情報提供が半数以上を占めています。
また、取消しの内容については、付増請求、振替請求、二重請求等が多くみられます。

2.保険医療機関指定取り消し事例

【指導実施までの状況】

E歯科は、個別指導を実施したところ、保険医が1名であるにもかかわらず、異なる施設の複数の患者に対して同じ時刻に歯科訪問診療を行ったとする請求が散見されました。
このことについて説明を求めたところ、明確な回答が得られなかったことから個別指導を一旦中断し、その後再開した個別指導において、歯科訪問診療に関する疑義がさらに強まったため、個別指導を中断し、監査を実施しました。

【監査結果】

実際には行っていない保険診療を行ったものとして診療報酬を不正に請求していました。
また、実際には行っていない保険診療を付増しし、その他、実際に行った保険診療を保険点数の高い別の診療に振替えて、診療報酬を不正に請求していました。

【処分等】

不正請求分の4,768千円の返還と、平成27年5月付で保険医療機関指定が取消となりました。

3.個別指導等実施後の措置

個別指導後及び監査関係実施後の措置は、以下の取り扱いとなります。

4.返還金算出の作業定準

個別指導の結果、不適切な診療報酬の請求が確認された場合(算定要件を満たした診療録記載がない等)には、原則として通知により自主返還が求められます。
自主返還対象となる期間は直近1年間ですが、状況により2年以上に及ぶ場合があります。
自主返還に向けた作業工程は、概ね以下のとおりです。

抽出作業においては、レセプトコンピュータを活用し、当該項目(例:歯周精密検査、歯科衛生実施指導料等)を検索ワードとして、毎月の算定患者を個別に抽出する必要があります。
月1回算定ではない項目もあるため、このリストアップだけでもかなりボリュームのある作業となります。
それ以降は、保険や公費を確認し、それぞれ保険者負担分及び患者負担分を記載していくサイクルを繰り返すことから、エクセルなどを活用することが作業効率化に結び付きます。

3.歯科診療所の個別指導対策

1.個別指導と指導内容の理解

(1)個別指導の目的を十分理解する

開業後1年以内に、新規集団指導とその後おおよそ半年後に新規個別指導があります。
新規集団指導は、保険診療のルールを徹底するための講習会方式の指導です。自由参加ではないものの、講習会形式のため、その後の新規個別指導や個別指導も同様に行われると勘違いするケースもあるようです。
本来個別指導はあくまで行政指導ですが、実際には、事実確認や不正・不当がないかどうかの調査となっています。
個別指導に対応する際には、改めて保険診療のルールを確認し、正確な知識を習得することが重要です。

(2)個別指導対応のための情報収集とその対応

平均点が高い医療機関(上位8%)がいきなり個別指導の対象となるケースが増えています。
そのため、適切な診療報酬請求の堅持はもちろんですが、毎月の査定状況などの把握と診療報酬請求業務の適正化に向けて、組織的な対応が求められます。
また、自院の請求点数が他院と比べて高いのか、あるいは低いのかといった情報はチェックしておく必要があり、さらに過剰請求に陥っていないかを確認するために、自院が属する都道府県の請求点数の月次推移や、診療科別の日当点などの情報を的確に把握する必要があります。
レセコンの機能に依存してカルテを作成するのではなく、治療に即した記載とすることが重要です。

(3)個別指導時の持参物

2014年11月からの個別指導時の持参書類が変更になっています。
指導に備える準備ではなく、指導を受けないための予防として、持参書類については日々注意して作成しておくことが重要です。

2.個別指導対策

(1)個別指導時の持参物の用意

個別指導時の持参物は多岐にわたるため、個別指導の実施日近くになってからではなく、通知が来てからすぐに準備に着手することが必要です。
治療に関する提供文書やX線写真は除き、それ以外の帳簿や書類のチェックを行います。
作成時には、他の書類と突合をしようと思っていたり、診療後に修正や摘要を記載しようと思っていたのが忙しさのあまり忘れていた、ということは多いようです。
日々の業務において、その都度修正や加筆等管理を適切かつ確実に実施するのが基本であり、個別指導時にはチェックのみ行うというのが理想です。

(2)訪問診療はカルテ記載に注意

訪問診療に対する社会的ニーズの増加につれて、医療保険費・介護保険費の増大から、厚生局でも歯科訪問診療へのチェックが増加しています。
訪問歯科診療においては、患者紹介先(業者や施設等)からの依頼だけではなく、患者自身若しくはその家族からの依頼で診療を行うという書類の作成とカルテへの記載がとりわけ重要です。

 

■参考文献及び参考資料
厚生労働省ホームページ/平成27年度における保険医療機関等の指導・監査等の状況報告~都道府県歯科個別指導における持参物について
関東厚生局ホームページ/平成26年度に実施した個別指導において保険医療機関(歯科)に改善を求めた主な指摘事項
北海道厚生局ホームページ/保険診療の理解のために(歯科)
ライティング株式会社/「指導・監査100%合格のカルテ」~今すぐできる!歯科個別指導の必勝攻略法(著者 小出一久 発行者 高木伸浩)

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