地域包括ケアシステムの深化・推進 2018年度介護保険制度改正の概要

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地域包括ケアシステムの深化・推進 2018年度介護保険制度改正の概要

  1. 地域包括ケアシステム強化法案が成立へ
  2. 要介護度を改善した自治体に交付金を付与
  3. 新たな介護保険施設・新機能サービスの創設


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1.地域包括ケアシステム強化法案が成立へ

1.地域包括ケアシステム強化法案とは

平成29年4月18日に「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」(以下、「地域包括ケアシステム強化法案」)が衆議院本会議において可決され、今国会で成立する見通しとなりました。
本法案は、介護保険法をはじめとして、老人福祉法、医療法、児童福祉法、高齢者虐待防止法など31本の法改正を束ねるもので、この成立により、平成30年度介護保険制度改正の大枠が固まりました。
高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止、地域共生社会の実現を図るとともに、制度の持続可能性を確保することに配慮し、サービスを必要とする方に必要なサービスが提供されるようにすることを目的とするものです。

地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案の概要

2.地域包括ケアシステムの深化・推進

(1)財政的インセンティブの導入で保険者機能の強化

今回の改正案では、市町村の権限強化として、財政的インセンティブが新たに導入されます。
これは、自立支援や介護予防などで成果を上げている市町村や、それを支援する都道府県を評価し、国からの交付金を増額するというものです。
具体的には、国から提供されたデータを分析した上で、計画を策定するとともに「介護予防・重度化防止等の目標を設定し、その達成状況に応じて、市町村と都道府県に国が財政的インセンティブ(交付金)を増額する仕組みです。

自立支援介護に向けた保険者機能の強化に関する取り組み

(2)新たな施設が創設される医療と介護の連携推進

医療と介護の連携の推進については、新たな介護保険施設として「介護医療院」が創設されます。
これは、現行の介護療養型医療施設(介護療養病床)が、平成30年3月末に廃止される措置(ただし、経過措置期間は6年間延長)への対応策です。
介護医療院は平成30年4月から導入され、日常的な医学管理や看取り・ターミナル等の機能と生活施設としての機能とを兼ね備えた施設として位置づけています。

医療・介護の連携の推進等に関する取り組み

(3)「共生型サービス」創設で地域共生社会を実現

地域共生社会とは、高齢者、障害児・者、子どもなど地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、活躍できる地域コミュニティであり、この実現を目指すとします。
具体的には、新たに「共生型サービス」を位置づけ、すでに介護保険サービスを提供している介護事業所が、高齢者と障害児者が同一事業所でサービスを受けやすくすることを目的として、障害福祉サービス事業の指定を受けやすくするため、基準緩和等を行うというものです。

地域共生社会の実現に向けた取組の推進に関する取り組み

3.介護保険制度の持続可能性の確保

(1)高所得層は3割負担に引き上げ

平成30年8月から、特に所得の高い層について介護保険サービスの利用者負担割合が3割に引き上げられます。
利用者負担については、平成27年8月に2割負担に引き上げられて以来の改正となります。
一方で、高額介護サービスの自己負担上限が月額4万4,400円に引き上げられたことから、居宅サービスであれば、ほぼ当該金額が上限となり、自己負担額は変わらないことから3割負担導入に伴う混乱は少ないと予想されています。
介護保険の対象者約496万人のうち、3割負担となる対象者は約12万人(2.4%)と見込まれています。

利用者負担の見直しに関する取り組み

(2)介護納付金への総報酬割の導入

平成29年8月より、介護保険の第2号被保険者(40歳~64歳)の保険料については、現在の負担方法である加入者に応じて負担する「加入者割」から、段階的に報酬額(収入)に比例して負担する「総報酬割」に移行します。
厚生労働省は、組合健保と共済組合は負担増となる一方、協会けんぽについては負担が軽減されると試算しています。

費用負担の見直しに関する取り組み

(3)上限額が設定される福祉用具貸与

福祉用具の価格については、同一製品であっても平均的価格と比べて非常に高額の価格請求が行われているケースが存在する等の問題点が指摘されていました。
次期制度改正では、国が商品ごとに、当該商品の貸与価格の全国的な状況を把握し、「ホームページにおいて全国平均貸与価格を公表する仕組みを作るとともに、適切な貸与価格を確保するために上限が設定されます。

福祉用具・住宅改修に関する取り組み

4.今後のスケジュール

改正案は、今国会中の平成29年5月に成立となる見通しであり、その後下記スケジュールに基づいて、各改正項目が施行されます。
また、平成30年には診療報酬と介護報酬の同時改定が予定され、平成29年12月以降、次期改定に向けた諮問・答申が進められます。

今後の主なスケジュール

2.要介護度を改善した自治体に交付金を付与

1.財政的インセンティブ付与の仕組み

高齢化が進展する中で、地域包括ケアシステムを推進するとともに、制度の持続可能性を維持するためには、保険者が地域の課題を分析して、高齢者がその有する能力に応じた自立した生活を送っていただくための取組みを進めることが必要であるとして、財政的支援を含めて保険者機能がさらに強化されます。
財政的インセンティブは、全市町村が保険者機能を発揮して、自立支援・重度化防止に取り組むよう、下記の法律により制度化されます。

主な法律事項

財政的インセンティブ付与の仕組みは、下記のような流れです。
具体的には、都道府県が市町村を研修等で支援するとともに、効果的な介護予防やケアマネジメントを市町村が実施した結果を評価し、要介護状態が改善した自治体に財政的支援が行われるというものです。

保険者機能の抜本強化に向けた具体的取り組み

2.重度化防止のモデルとなっている自治体

厚生労働省の地域包括ケアシステム強化法案のポイント資料に掲載されている埼玉県和光市と大分県は重度化防止のモデルとして、今回の審議の中でも取り上げられ、その取り組みが注目されています。
下記は、全国数値と、和光市及び大分県の要介護認定率の推移を比較したグラフで、全国平均が増加しているのに対して、和光市と大分県は減少しています。

重度化防止のモデルとなっている自治体

3.埼玉県和光市の自立支援の取り組み事例

(1)埼玉県和光市の自立支援の取り組み

和光市は、市町村介護予防強化推進事業報告書~資源開発・地域づくり実例集~でも紹介され、介護保険制度の発足当初から、高齢者をはじめ市民や事業者に対し、自立支援の理念を浸透させることに注力してきました。
特に重視してきたのが、介護保険制度に携わる市職員及び介護支援専門員や介護サービス事業者の意識改革で、さまざまな角度から自立支援の視点を備えることを徹底することでした。

和光市の取り組みポイント

(2)介護予防施策の全体構成

和光市が作り上げてきた介護予防施策と予防給付、総合事業、予防モデル事業の全体図は以下のとおりです。

介護予防施策の全体構成

支援メニューは、すべて委託して実施しています。
これは、市が長期的な取り組みとして、介護サービス事業者に対し、保険給付だけではなく地域支援事業も視野に入れて介護サービスからの卒業を目指す考え方を浸透させるためです。

(3)介護サービス以外にも豊富なメニューを用意

2か所の高齢者福祉センターで、介護予防を重視した公募により決定した株式会社と社会福祉協議会がそれぞれ運営し、いずれも工夫を凝らした特色ある事業を展開しており、介護予防事業の拠点施設として、また介護サービス卒業後の受け皿として機能しています。
各施設では、マシントレーニング、運動教室、ヨガなどの運動や、パソコン、英会話等の教養講座のほか、カジノ、ゲーム、囲碁クラブ、料理教室など数十種類の豊富なメニューが用意されており、興味や関心のあるものを見つけやすい工夫がなされています。
特に、下記に示した「一日執事券」や利用者が自分でプログラムを選ぶ「巡回バス」、「ゴミの個別収集」の取り組みは、先進事例として注目されてきました。

介護サービス以外にも豊富なメニューを用意

そのほかにも、知育包括支援センター等が主催するコミュニティケア会議を開催し、主に要支援者のケアプラン見直しを行って、介護給付費の減少に成果を上げてきました。
こうした取り組みを行った和光市では、要介護認定率の減少とともに、介護保険の給付費が圧縮され、第6期(平成27年から平成29年度)の介護保険料は4,228円と、全国平均よりも1,222円も低いという効果を上げています。

3.新たな介護保険施設・新機能サービスの創設

1.介護医療院の創設

今後、増加が見込まれる慢性期の医療・介護ニーズへの対応のため、新たな介護保険施設「介護医療院」が創設されます。

(1)介護療養型医療施設廃止の経緯

平成18年医療保険制度改革および診療報酬・介護報酬同時改定により、平成23年度末での介護療養病床廃止が決定したものの、代替サービスへの転換がうまく進まず、転換期限は平成29年度末まで延長されることとなりました。
医療保険の適用される医療療養病床との役割・機能分担を明確にすることも、介護療養型医療施設(介護療養病床)廃止の目的のひとつであり、平成18年3月時点で12.2万床あった介護療養病床は、平成27年3月には6.3万床まで減少しています。
そのため、「医療・介護難民」を生むことなく、介護療養型医療施設(介護療養病床)を廃止し、介護保険施設への転換を促すかが課題とされていました。

新たなサービス提供体制の選択肢~厚生労働省「療養病床のあり方検討会」における検討

(2)介護療養型医療施設からの転換を優先

介護療養病床は、平成29年度末での廃止が決定していますが、新施設への転換準備のために設ける経過期間は、平成30年4月から平成36年3月までの6年間とされました。
厚生労働省は「介護療養病床からの転換をまず考える」との姿勢を見せているも、将来的には転換以外の新設や介護療養病床を持たない病院からの移行も可能となる予定です。

新たな介護保健施設の概要

具体的な介護報酬や基準、および転換支援策については、平成29年3月末までを目途に、介護給付費分科会等で引き続き検討が行われ、費用面や医療の充実度などを、介護療養型医療施設(介護療養病床)などの既存施設と比較して決定されます。

2.共生型サービスの創設

高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、 介護保険と障害福祉両方の制度に新たに「共生型サービス」を位置付けました。
介護保険と障害福祉の両制度には、訪問(ホームヘルプ)・通所(デイサービス)・短期入所(ショートステイ)など共通するサービスがあります。
現行制度では介護事業所の指定を受けていれば障害福祉サービスを基準該当サービスとして提供できますが、障害福祉サービス事業所の指定を受けているだけでは、介護保険サービスを提供できる仕組みにはなっていませんでした。
次期改正では、障害福祉サービス事業所が介護事業所の指定を受けやすくすることで、障害者が高齢化した場合に対応して、高齢者、障害児・者に一体的に通所や短期入所サービスなどを提供できるようになります。
なお、介護保険法と障害福祉サービス両方に創設されるため、それぞれが関連する法律によって、次のとおり位置づけられます。

新サービスを提供する事業者区分

介護事業所が障害福祉サービス事業所としての指定を受けやすく、逆に障害福祉サービス事業者が介護事業所の指定を受けやすくする特例が設けられます。

共生型サービスのイメージ

共生型サービスの人員・設備・運営基準等については、今後の社会保障審議会・介護給付費分科会で議論されます。

3.新型多機能サービスの提言

学識者や社会福祉法人等で組織した「地域包括ケア推進研究会」は、現在の小規模多機能型居宅介護(以下、「小規模多機能」)における新たな類型として、新型多機能サービス(仮称)を厚生労働省に提言し、平成30年度介護保険制度改正案の意見書において、今後検討することが適当と明記されました。
新型多機能サービスとは、要介護度3以上の人を対象とし、施設への「通い」・利用者宅への「訪問」・施設への「泊まり」を柔軟に組み合わせて提供する施設で、既に現行の小規模多機能においても「通い」「訪問」「宿泊」を組み合わせたサービスは行われていますが、現行では「通い」利用が中心となっていることや、2012年に創設された定期巡回・随時対応型訪問介護看護(定期巡回・随時対応サービス)の利用者数の伸び悩みなどから、この2つのサービスの要素を併せ持つ新サービスが考案されました。

新型多機能サービスにおける定員及び提供サービスに係る考え方

こうした提言が行われた背景には、土地や人材の確保が困難なことにより、特に都市部などでは将来的に大規模な入居型施設の増加が見込めないという問題があります。
このような地域では、高齢者が「施設に入りたくても入れない」という状況があることから、自宅で十分な介護・看護・医療のサービスが受けられる体制づくりが求められています。

新型多機能サービスの概要案

 

■参考文献
日経ヘルスケア 2017年4月号 特集「激動の介護マーケットを読み解く」
厚生労働省 「市町村介護予防強化推進事業報告書~資源開発・地域づくり実例集~」
厚生労働省 「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案のポイント」

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