自由診療トラブルを防止 診療契約書の作成ポイント

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自由診療トラブルを防止 診療契約書の作成ポイント

  1. 自由診療トラブルを防止する診療契約
  2. 診療契約作成上の留意点
  3. 診療契約書等の書式例
  4. 診療トラブル事例と対応策

 


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1.自由診療トラブルを防止する診療契約

歯科医院では、治療中に自由診療から保険診療への変更があった場合や、治療後の診療費の値引き要求など、診療費に係るトラブルが起こるケースがあります。
患者と歯科医院との間で「診療契約書」を交わすことで、これらのトラブルは防止可能ですが、多くの歯科医院では、治療計画書や治療申込書等に署名することはあっても、「診療契約書」を用意して署名押印いただくことはほとんどありません。
今回は、自由診療を行う前の「診療契約」について解説します。

1.書面による診療契約の必要性

歯科診療は、補綴を含め、患者の学術的や機能的な状態から治療方法を決定するという特性があるため、歯科診療上の債務は適切とされる医療行為を行うこととされています。
そのため歯科医師は、歯科診療に関して、患者に対する善管注意義務を負うことになります。
この善管注意義務とは、下記のように定義されます。

善管注意義務

自由診療においては、高額な治療費に対して、保証を付けることがほとんどです。
また、インプラント等を含む最新医療・高度医療となるため、治療期間が長いとともに技術の高さが求められます。
そのためクレームも多くなりがちであり、口頭での診療契約ではなく、診療契約書を取り交わし、細かな条項を設定することによってリスク回避を図る必要があります。
細かな条項とは、例えば、保証期間や診療費の支払い方法、中途解約に関する取り決め、準委任契約の明示などで、これらの内容をきちんと説明することが重要です。

診療契約の必要性

2.診療契約は準委任契約

(1)準委任契約

準委任契約とは、法律行為以外の行為を委任する契約です。
例えば医療は、必ず病気を治すことを確約できません。
治療をすることを委任されているだけであり、このような契約を準委任契約といいます。
結果を出すことは受託者の義務ではなく、必ず治癒させることを目的とするものではないのです。
また、受託した業務(仕事)を完成させることを目的とした請負契約がありますが、患者は医療を請負契約と勘違いするケースが多いようです。
つまり準委任契約では、高度な注意義務を持って誠実に治療を行えば、治療費を返す義務はありません。

(2)診療契約の成立とは

診療契約は、患者が病院や診療所を訪れて口頭その他の方法により窓口で診療を申し込み、これに受付が応じてカルテへの記載を開始した時点で成立したものと解されています。
つまり診療契約書を取り交わさなくとも、口頭での申込(実際は保険証の提示や問診票への記載提出、再診の場合は診察券の提示等の行為はある)だけで診療契約が成立しています。

準委任契約の立場に立脚するという裁判事例

3.自由診療の取扱いについて

厚生労働省では、「療養の給付と直接関係ないサービス等の取り扱いについて」という通達を出しています。
医師法や歯科医師法の法律においては、患者から同意を取ることまでは強制していません。
また、療養担当規則には、「保険外併用療養費制度を使う場合には、あらかじめ患者に対し、その内容及び費用に関しての説明を行い、その同意を得なければならない」と記載されていますが、文書による同意までは規定されていません。
通達は法律を補完する役割を担っていますので、厚生労働省の見解として、実質上は強制となっていると解釈されます。

厚労省通達「療養の給付と直接関係ないサービス等の取り扱いについて」、厚労省通達からみる自由診療契約のポイント

なお、「療養の給付と直接関係ないサービス等」とは、新薬、新医療機器、先進医療等に係る費用として、保険適用となっていない治療方法(先進医療を除く)等が含まれます。

2.診療契約作成上の留意点

患者が来院して診療を申込み、受付でカルテ記載を始めた時点で書面を取り交わさなくても契約自体は成立しています。
しかし実際は、カルテ記載を始めた時点では、どんな病状か、それに対してどのような治療を行うかまでは、患者も歯科医院側でもわかりません。
またこの段階では、保険診療を行うのか、あるいは自由診療になるのかに関しても決定していません。
特に自由診療になる場合、診療中断や保険診療に戻す他、治療後にクレームを受けたり、医療訴訟にまで発展することもあります。
そのため、診療費用の支払い方法や患者の都合によって診療中断となった場合の違約金や損害賠償など、細かな規定を決めておくことが重要です。

1.診療契約書の記載事項

歯科口腔外科治療やインプラント治療等は、一般の歯科治療と比較しても病状の程度も進んでいて、治療リスクが高く、費用も高額となります。
そのため、事前に患者と診療契約書を取り交わしたうえで、患者から診療申込み書を提出してもらうことは必須とすべきでしょう。
一般的には、治療内容や料金については契約書、また治療内容の説明やそれに対する同意については説明書・同意書・治療計画書といった名称の書面があります。

診療に当たっての書面(内容が同等のものを含む)

2.契約書面の内容

契約書等に記載する具体的な内容には、まず費用が挙げられます。
治療に要する総額費用の他、支払い方法(一括・分割)やその手法(現金・クレジットカード・ローン申し込み等)、中途で解約した場合の費用計算方法、違約金等を詳細に規定することが重要です。
ただし、「支払われた治療費は、診療中に解約された場合、理由の如何を問わず一切返金致しません。」というような内容は、消費者保護を目的とする消費者契約法違反に該当し、無効とされるケースも考えられるので、注意が必要です。

契約内容

治療計画書や同意書、契約書等の説明は、主治医もしくは院長が行います。
治療に携わる歯科医師の善管注意義務に基づく説明となるため、契約締結の際に最も重要であると認識すべきです。

3.中途解約時のポイント

準委任契約においての契約解除権は、当事者どちらも有するとされています。
また口頭での契約も書面による契約のいずれも解除権があります。
ただし、当事者の一方に不利益が生じる場合は、相手方に対する損害賠償責任が生じます。
書面による契約の場合、違約金条項が記載されている場合もあります。
また違約金ではなく、用意していた診療材料代金や技工物を発注していた場合の技工物費用については請求できる場合もあります。

中途解約時のポイント

【解約理由が自由診療から保険診療へ移行した場合の注意点】

金額負担への考え方が変わり、自由診療から保険診療へ移行するために中途解約する場合は、違約金等の金額の問題の他、混合診療にならないかどうかを注意しなければなりません。

保険診療移行時の注意点

3.診療契約書等の書式例

1.自費治療承諾書

自費治療を希望する患者には承諾書に署名してもらい、写しを交付します。
この書式を「契約書」に変えても大丈夫です。

自費承諾書例

次に、自費治療保証規約を作成します。
法的に保証期間を設けることは義務ではありませんが、他院との差別化のために、また患者とのトラブルを防止するために保証期間を定める歯科医院は多くあります。
保証期間を設けた場合の保証内容については、歯科医師が自由に決定できますので、保証期間を治療時から1ヵ月間や1年間、あるいは10年間と設定することも自由です。
回数についても、修理は何度でも無料、また3回まで無料など、どのように決めても構いません。
次に紹介する規約例では、年2回の定期メンテナンスを義務付けるなどのリスク回避を行っています。

自費治療保証規約例

2.治療計画説明書

治療計画説明書

自費治療を勧める際に、主訴(患者が医者に申し立てる症状のうちの主要なもの)部分だけでなく、口腔内全体の治療計画を説明する必要があります。
このような場合には、説明書を使用し、署名を得てコピーを交付しておくと、説明と同意の記録になります。

3.インプラント同意書

インプラントに対する患者説明の証拠として、同意書を受け取ることをお勧めします。

インプラント治療に関する同意書

4.診療トラブル事例と対応策

自由診療を行う上で、料金が高額かつ治療期間が長期にわたるようなインプラント等の場合は、診療契約もしくは同意書を取り交わすことはありますが、保険対象外の補綴物を使用する場合等ではこうした対応はほとんどありません。
一般の自由診療だけでなく、契約を取り交わした自由診療でさえも治療結果へのクレームや治療中断の材料費の請求や違約金等の支払いに関するトラブルが生じています。
以下に、トラブル事例と対応策について解説します。

1.説明義務に関するトラブル事例

事例は、歯科医師の説明義務に関するトラブル事例です。
患者の初診時に過去の破折した治療跡を発見したものの、主訴の部位ではないことから現状を説明せず、主訴の部位のみ治療を行いました。
しかし再発した際に患者は他院に通院し、当院の治療に問題があると指摘され、損害賠償請求をされてしまった事例です。

損害賠償請求をされてしまった事例

歯科医師には、診療の際の説明義務があります。
歯科治療は治療方法選択の幅が広く、自由診療の種類も多数存在するため、患者自身が決定することが多くなり、選択肢を提供する歯科医院側の説明義務の範囲は多岐にわたります。
病状について、それに対する治療方法の概要だけでなく、前治療の状況、治療に使用する材質や材料、医薬品が多種ある場合には、その材料や手法、見た目への関係性や効果、副作用や危険性、自由診療や治療費について説明する必要があります。

対応策

2.自由診療の中断と保険診療移行の事例

この事例は、自由診療で治療開始後、治療の途中で患者から保険診療に変更を依頼され、保険診療のみの請求となってしまったトラブル事例です。
口頭での概略の説明だけで治療を開始したことが、大きな要因であったといえます。

自由診療の中断と保険診療移行の事例

自由診療を行う際には、書面による説明と同意書もしくは診療契約書を取り交わし、中途解約や変更といったリスクに対応できるように、違約金や損害賠償といった条文を入れておくことがポイントです。

違約金や損害賠償といった条文

3.治療後の不具合による治療費不払いの事例

事例Cは、過去に自由診療で治療した患者が、不具合を理由に無償で治療のし直しを要求して来たトラブル事例です。
診療は準委任契約であり、診療行為への約束事です。
準委任契約の法律知識を持ち、診療契約を取り交わすことがリスク回避のポイントです。

治療後の不具合による治療費不払いの事例

保証書は準委任行為であることを前提に作成することが重要ですが、保証期間を定めることや保証内容について、法的に義務付けられた事項はありません。
保証書は歯科医院側の定める内容で作成できます。
過度にならない内容で、治療の完治を約束するものではないことを前提に作成することが重要です。

 

■参考資料
ビズアップ総研「歯科経営のための契約の知識」講師 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村泰久氏

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