リーダーとしての役割を明確化 歯科衛生士 戦力化のポイント

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リーダーとしての役割を明確化 歯科衛生士 戦力化のポイント

  1. 歯科衛生士は患者やスタッフ間の調整役
  2. 患者とのコミュニケーション力を高めるポイント
  3. スタッフミーティング開催で経営意識向上
  4. 歯科衛生士を含めたスタッフ教育事例

 


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1.歯科衛生士は患者やスタッフ間の調整役

院長は、患者を治療すると共に、収益管理や労務関係、資金繰り等、経営について多くの時間を費やしています。
歯科医院の運営は、院長の診療理念や経営方針に沿って行われます。
そのため、院長の業務を理解し、患者や他のスタッフとコミュニケーションをとっている歯科衛生士がリーダーとなって院長のサポートを行うことにより、歯科医院運営はスムーズに機能します。
今回は、歯科医院における歯科衛生士の役割を見直し、チーム力の向上と医院活性化につなげられる歯科衛生士の役割と教育法を紹介します。

1.歯科衛生士の仕事

歯科衛生士は、「予防処置、診療補助、保健指導」といった国家資格上認められている業務を行います。
しかし実際には、備品や診療材料等の補充や管理・発注業務、器具機材の滅菌消毒、歯科助手や新人歯科衛生士等の教育や指導、歯科医院内の環境整備等、患者に直接対応すること以外の方が多くあります。

歯科衛生士の仕事

2.診察室の環境整備

歯科衛生士の仕事のひとつには、診察室内全般の管理を行い、患者にとっても、また歯科医師を含めたスタッフにとっても良好な環境を維持するというものがあります。
診察室を良好な環境に維持することは、患者に対し、効率的に歯科治療を提供でき、気持ちよく受診できるようにするということにつながります。
診察室内には本当に必要かどうかの判断ができない物が多くあります。
使うかもしれない、何かあったときのため用意しておいても良いのでは、というものが置かれてないでしょうか。
不要な物が年々増加することで、必要なものを収納できるスペースがなくなる、雑然として整理されているように見えない、使用頻度が高いのにすぐ取り出せるところに設置できない、スタッフの行動の邪魔になる等の状況を招いてしまいます。

診察室の整理整頓

3.患者との調整役

最も重要な業務には、患者と院長、大きく言えば歯科医院と患者との調整役としての役割もあります。
治療するだけでなく、心地良く診療を受けてもらうという患者の気持ちもくみ取った仕事であることを理解する必要があります。

対患者とのコミュニケーション

4.スタッフ間の調整役

(1)院長とスタッフとの調整役

歯科衛生士は、歯科医院内全体を見渡せる立場にあり、院長とスタッフ間の橋渡し役になれる存在です。
日常の指示命令も、いつも一方的に行われるのであれば、スタッフのモチベーションも低下します。
院長は、必要最低限のこと、および特に注意すべき事項をリーダーである歯科衛生士を介して指示を出します。
リーダーは各人への言い方を考え、一番伝わりやすい方法をとることで、スタッフ全員が高いモチベーションを保ち、業務を行うことができます。

歯科衛生士が行う院長とスタッフとの調整

(2)スタッフ間の調整役

スタッフ間においても、歯科衛生士の役割は重要です。
受付・会計、歯科助手、他の歯科衛生士とそれぞれが勝手に業務を行っては、良い歯科医院にはなれません。
院長の理念や方針に沿って、円滑なチームワークにより業務を行うには、リーダーとしての歯科衛生士の存在が欠かせません。

歯科衛生士が行うスタッフ間の調整

2.患者とのコミュニケーション力を高めるポイント

1.場面ごとのコミュニケーションを理解

患者に対して病状や治療法などについて十分な説明をし、それを理解し納得してもらうためには、コミュニケーション力の向上が非常に重要です。
どの場面においても関わりを持つ歯科衛生士には、この能力向上が求められます。

コミュニケーション力が重要となる場面

2.より具体的に悩みを聞き出す、初診カウンセリングの重要性

受付で問診票に記入頂いた後は、初診カウンセリングを行います。
原則としてカウンセリングルームなど、周囲を気にせず会話できる空間で行います。
実際のカウンセリングで最も重要となるのは、患者の悩みを聞くということです。
「どこが」「どんな状態で」「どんな時に」「どんなふうに」困っているのかについて、詳しく聞いていきます。

初診カウンセリング

3.患者との話し方・コミュニケーションを高める

(1)判りやすく誠実に

歯科医院における会話に求められるのは「わかりやすさ」です。
わかりやすく話すためには「この話をわかりやすく伝えよう」という熱い思いと患者に対する誠実さが土台となります。
患者の生活の向上を想像し「わかりやすく伝える」ということが重要であり、その誠実さは必ず患者に届くはずです。

スタッフに求められる話し方の要素

(2)話し方のスキル

「話す」「聞く」は、「書く」「読む」と同様にコミュニケーションの重要な要素です。
近年ではインターネットやメールの浸透により直接の会話の量が減少し、その質が劣化してきているといわれます。
メール等による文字のみの一方的な伝達が多くなり、年齢を問わず、わかりにくい話をする人が多くなってきています。
話す力を育てるには、自ら意識的に学び、鍛えていくことが必要です。

(3)場面・目的・相手の明確化

患者と話をする際には「場面意識」「相手意識」「目的意識」を持つことが求められます。
この3つの意識に基づき、話の内容を考えて、組み立てや話し方を工夫することによって、簡潔で明快に話せるようになり確実にわかりやすくなります。

3つの意識による話の組み立て方

4.正しい敬語の使い方

(1)敬語の種類

患者に対して温かなまなざしを向け、正しい敬語を使い、患者を尊重する姿勢を態度と言葉遣いで表現している医療機関の方が信頼を集めています。

敬語の使い方から医院やスタッフが判断されること

(2)医療人としての言葉使い

歯科に限らず、医療用語は大変難しく、よく判らないと言われています。
国立国語研究所の「病院の言葉」をわかりやすくする提案では、『患者が自らの責任で医療を選択するには、こうした言葉が表す内容を理解することが強く望まれます。
そして、その理解を促すのはほかならず医療者の責任です。医療者は患者がよく理解できるように分かりにくい言葉を分かりやすくする工夫を行う義務があるといえるでしょう』と記載されています。

患者に言葉が伝わらない原因

3.スタッフミーティング開催で経営意識向上

1.スタッフのやる気を起こすリーダーシップ

歯科医院のリーダーとして歯科衛生士が果たすべき役割には、他のスタッフとの意識の共有があります。
院長の理念や方針に沿って、診療を含めた医院運営を行うためには、院長が何を考え、どうしたいのか、またスタッフはどう思い、どうしていきたいのか、という意思が統一されることが重要です。
院長の理念や方針を伝えても、上から目線で命令されていると感じて反発するスタッフや、適当に返事をして聞き流し、行動しないスタッフもいますので、お互いを理解することが前提となります。

「サーバント・リーダーシップ」の考え方

リーダーである歯科衛生士がこの立場に立てば、社会や患者に奉仕したいという欲求を強く持ち、ひいては他のスタッフにも奉仕していくことになります。
リーダーがスタッフを支え、スタッフが社会を支えるという考え方です。

スタッフが共用する姿勢

2.働く環境の整備

スタッフが活躍できるステージ、仕組みが出来れば、診療の質は確実に上がります。
誠意ある診療は心と体に健康を与え、患者は心からの満足を得ます。
そこには、健康を求める患者が集まり、歯科医院経営は安定し、医院環境や働く環境を整備することによってスタッフの離職防止につながります。

環境の整備による効果

3.スタッフ全体のスキルアップ

歯科衛生士の能力向上を図ることで、他のスタッフにも好影響が期待できます。
リーダーである歯科衛生士に研修・育成を行い、その歯科衛生士が学んだことを他のスタッフへ教育していく、という流れを作ります。

(1)会話力アップ

会話力が足りなければ、そこに良好なコミュニケーションは生まれません。
コミュニケーションの基本は、挨拶、笑顔、敬語、知識です。

コミュニケーションの基本

診療の知識のない患者に対し、説明を行い、最終的には、患者自身の意志で、スタッフと一緒に診療に向かうことを目的とします。
そのため、患者とのコミュニケーションの重要性を再認識する必要があります。
また、歯科衛生士が患者にとって、良きアドバイザーとならなくてはなりません。
歯科衛生士は他のスタッフに対し、自身が身につけたものを他のスタッフに伝えて、同じように能力向上のための指導を行います。

(2)知識・技術力アップ

口腔衛生指導の知識や、歯肉炎から歯周炎に対しての検査・診断と、歯周基本治療、そして再評価、メインテナンスまでの一連の歯周治療技術力のアップが求められます。

4.ミーティングによるスタッフの経営意識向上

(1)スタッフ参加型ミーティング開催のポイント

組織は、一人ひとりが多様な価値観を持っています。組織の人数が増えれば増えるほど、全員が同じ基準で考え、同じ方向を向いて行動できる土壌をつくることの重要性が増してきます。
浸透しにくいビジョンやミッションを、スタッフが価値観として共有し、判断基準とするためのミーティングが重要です。
形式としてはスタッフが中心となって行うミーティングが理想であり、リーダーである歯科衛生士が司会となって、スタッフの意識統一や、情報の共有化、目的や目標の再確認が主な目的となります。

スタッフ参加型ミーティングのポイント

(2)ビジョン・ミーティングによる経営目的の共有化

院長の最大の役割は、設定した組織全体のゴールへ向けて、一人ひとりのスタッフを支援しながら、最終的に個々の設定したゴールへ到達させることです。
ゴールを示すことで、そこに集うスタッフの判断基準が確立でき、取り組みの効率・効果が高まります。
そのためにも、ビジョン・ミーティングを最低でも年一回は開催し、院長のビジョンをスタッフ全員が共有して、実現に向けた意思統一を図ります。

ビジョン・ミーティングのテーマ

4.歯科衛生士を含めたスタッフ教育事例

歯科医院の運営は一人ではできません。
院長や歯科医師、他のスタッフの協力と連携を図ることで達成できるものです。
また、永く歯科医院を続けていく上では、スタッフの交代は必然的であり、その中で新人の歯科衛生士や復帰組、未経験の助手や受付等、知識や技術に乏しい職員も入職することがあります。
院長の理念や診療方針を伝えるべく、スタッフ教育こそが歯科医院運営の柱になります。

1.新人歯科衛生士への教育

歯科衛生士の資格を得たばかりの新人は、最低限の知識は持っていますが、知識と技術がつながっておらず、即戦力とは言い難いのが事実です。
また、社会経験がないため、一般社会のルールそのものも習得していないことから、社会のルール、自院におけるルールを身に着け、実践できるように教育します。
また、なぜそのルールがあるのか、ルールを守ることによってどのような効果が期待できるのかなど、トータルで研修する必要があります。

新人歯科衛生士研修システム(Iデンタルクリニック事例)

2.復帰組の歯科衛生士への教育

結婚や出産によって一時現場を離れたのち、子育てが落ち着いた時期に復職する歯科衛生士も多くいます。
パートや正職員など、雇用形態も様々です。
一方、歯科医療の進歩も早く、数年現場を離れているだけで、診療自体が全く違うものになっていて、戸惑いを覚えるケースも少なくありません。

復帰組の不安点

こうした不安に対し、歯科医院側としては育成システムと雇用環境を整備する必要があります。
診療技術や知識に関しては、実践と研修会や講義で習得できますが、他のスタッフとの人間関係の構築や、家庭との両立は、当人の努力も大きく影響します。
残業の軽減や、保育所との提携を進めたり、ミーティングや研修会等コミュニケーションが取れる場を設定するなど、医院側でも準備します。
教育研修に関しては、新人教育と同様にスケジュール策定とペア制を導入し、見て覚える方式が有効なようです。

復帰組雇用時の注意点(S歯科医院事例)

3.歯科助手、受付への教育

歯科助手や受付・会計という医療資格を持たない職員は、医療法自体や守秘義務、個人情報保護法、院内安全管理、院内感染防止等の医療において特殊な法律や規則を知りません。
そのため、有資格者は同じ職場で働くスタッフに対し、法律や規則を教え遵守させることが義務だと捉える必要があります。
「治療を受けたくない」と考える患者が、最初に接するのが受付です。
そして、治療を長く待ち、また受けたくなかった治療が終わり、早く帰りたいと思って会計を待っているのも待合室です。
ここでの対応を誤ると、治療以前に不快感を持たれ、感情的になって、治療中の些細な出来事がクレームを招いてしまいかねません。
細かい配慮と注意を払うことが必要です。

応対のポイント、具体的注意点(T歯科診療所研修事例)

 

■参考文献及び参考資料
株式会社サンエープリント 「歯科衛生士の仕事」より (著者 筋野真紀 高橋裕美 高野舞弥)
クインテッセンス出版株式会社 「歯科医院での話し方 80の法則」 より(著者 山岸 弘子)
クインテッセンス出版株式会社 「歯科助手が患者様を増やす」 より(著者 領木 誠一)

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