人材不足を補う外国人労働者の戦力化を図る外国人労働者の活用のポイント

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人材不足を補う外国人労働者の戦力化を図る外国人労働者の活用のポイント

  1. 外国人雇用の背景と実態
  2. 外国人労働者受入れ時の各種手続きと留意点
  3. 増加している外国人実習生を保護する技能実習制度
  4. 外国人労働者の戦力化と定着につなげた事例

 


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目次

1.外国人雇用の背景と実態

日本国内の景気回復基調において、わが国の労働力人口が減少している中で、人手不足に悩む中小企業は増加しています。
このような経営環境の中で、中小企業にとっては、外国人労働者は重要な職場の担い手となっており、我が国の産業を下支えしているといっても過言ではありません。
経済社会の国際化に伴い、就労を目的として我が国に入国、在留する外国人は増加傾向にあり、我が国の労働市場に及ぼす影響は看過できないものとなっています。
このような外国人労働者と企業との間で言葉や文化の違いから退職やトラブルにつながってしまう事例も多発しています。
今回は、外国人労働者を既に雇用、あるいはこれから雇用を検討している経営者に外国人労働者を雇用する際のポイントについて解説します。

1.外国人雇用の実態

外国人労働者数は1,278,670人(平成29年10月現在)。前年同期比で194,901人(+18.0%)増加し、過去最高を更新しています。
増加している要因は、政府がわが国の労働力不足を補うために、外国人労働者の受け入れを積極的に推進していることが大きく作用しています。
外国人労働者を雇用している事業所の規模は、「30人未満事業所」が最も多く、事業所全体の57.5%を占めており、外国人労働者全体の33.9%を占めています。
事業所数は、どの規模においても増加しており、特に、「30人未満」規模事業所では前年同期比で14.2%増加であり、最も大きな増加率となっています。
産業別では、製造業が最も多く、外国人労働者数全体の約30%を占めています。

外国人労働者の増加要因、国籍別の状況、在留資格別の状況

2.外国人の登用が求められる背景

近年、外国人の登用をめぐる状況は、大きく変化しています。
今後「雇い負け」の状況に陥らないためにも、ダイバーシティ推進の機運の高まりとともに、外国人の登用を躊躇している事業者についても、外国人の登用について検討、実行に移していくタイミングに差し掛かっているといえます。
グローバルな競争に勝ち抜いていくために、

(1) 有能な人材は国籍を問わず確保が急務であること
(2) EPAやTPP等によるグローバル化の進展
(3) 訪日外国人の増加(※)
(4) 東京オリンピック・パラリンピックに向けた対応 等

を背景に、外国人登用が期待されるケースは増大する可能性があるからです。

外国人登用が期待されるケースは増大する可能性

2.外国人労働者受入れ時の各種手続きと留意点

1.日本で働くことのできる在留資格

入管法では、外国人が日本に在留して仕事に就くためには、在留資格を取得することが求められており、在留資格のない外国人は就労することはできません。
日本の在留資格制度は、外国人の入国と在留の管理を行うために設けられています。
日本国籍を離れた者、または出生その他の事由により上陸許可の手続きを受けることなく日本に在留することとなる外国人も、在留資格を持って日本に在留する必要があります。
そのうち、日本での就労が認められている在留資格は、以下の通りです。

就労が認められる在留資格

2.外国人労働者受入れ時の労務手続きの留意点

(1)出入国管理及び難民認定法(入管法)に遵守しているか

前述のとおり、入管法で定められている在留資格の範囲内でのみ就労活動が認められています。
外国人を雇用する際には、在留カード等で就労が認められているか等、在留資格や在留期間について、必ず確認しておくことが必要です。
もし、不明点がある場合は、最寄りの地方入国管理局に照会することで確認することが可能です。

(2)雇用契約書の内容が理解されているか

外国人労働者との雇用契約書には、日本人と交わす労働契約書よりも細かく記した方が良いです。
契約内容を曖昧にしておくと、外国人との間でトラブルが起きたときに大きな問題になりかねません。
日本人同士であれば曖昧な契約内容でも問題がないとしても、外国人労働者を雇用する際には詳細を記しておくことが大切です。

(3)雇用状態の届け出義務を遵守する

外国人労働者の雇用状態(当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等)のハローワークへの届け出は、事業主の義務となっています。
また、離職の際にも届け出る必要があり、届け出を怠ると30万円以下の罰金が科されるので注意が必要です。
現在では、届け出方法は、ハローワーク窓口への提出の他、インターネットを使用しての届け出も可能となっています。

(4)社会保険への加入は必要

外国人労働者を雇用する際に、手取り額が少なくなるという理由で社会保険への加入を拒むケースがあります。
社会保険は、日本人と同様に、正社員や一定の労働時間を超える労働者は、外国人でも強制加入しなければならないことを採用時に説明し、理解させる必要があります。

(5)就労ビザの更新は3ヶ月前から

就労ビザの更新は、期限の3ヶ月前から手続きが可能です。
外国人労働者の就労ビザの更新は、自社で管理し、手続きを忘れないようにしてください。
就労ビザの更新は、本人しか申請することができません。
しかし、行政書士は本人に代わって申請手続きが行えるため、本人に申請を任せるのが不安な場合は、行政書士に依頼することが望ましいでしょう。

3.高度外国人材の戦力化と定着につなげるポイント

日本で働く高度な技術や専門的知識を持った外国人材(以下「高度外国人材」という。)は、近年増加傾向にあり、平成29年10月末現在において、「専門的・技術的分野」の在留資格を有する外国人労働者数は23万8千人に達し、前年同期と比較して約18%増加しています。
政府としては、日本の経済社会の活性化の観点から高度外国人材の受入れを積極的に推進しており、事業者もグローバル化に対応するため、高度外国人材を確保することは、経営戦略上でも重要となっています。
高度外国人材を積極的に受け入れて、定着につなげていくためには、彼らにとって魅力的な就労環境等を整備していく必要があります。
そのために整備するべき項目としては、以下の取り組みが挙げられます。

高度外国人材の戦力化・定着につなげるための整備項目

(1) 外国人労働者は、自身の職務内容が明確になるよう求めてきます。
逆に、示されていない業務は行ってくれないケースもありますので、役割として与えたい業務は、モレなく記載してください。
(2) 高度外国人材は、自社にとっても貴重な戦力です。
さらに能力を発揮してもらえるようキャリアプランを整備し、本人に将来目指す姿を示すことは必要です。
(3) 外国人に合った評価方法は、目標達成度の評価です。
そのため、担当職務における目標とその目標数値を具体的に示すことが大切です。
また、自社の習慣や規則を遵守させるような評価項目も加えるとよいでしょう。
(4) 海外での勤務経験や語学力のある社員が相談相手となって公私の悩みを解決するようなサポートも大事です。
(5)、(6) 言葉の壁が低くなると、コミュニケーションも取りやすくなりますので、日本語が上達するようなサポート体制をつくることや日本での生活をする上で知っておくべき社会資源を教えることも必要です。

3.増加している外国人実習生を保護する技能実習制度

1.外国人技能実習制度の目的と実態

(1)外国人技能実習生の管理監督体制を強化するための「技能実習法」

外国人技能実習制度は、「我が国で開発され培われた技能・技術・知識の開発途上国への移転を図り、当該開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的とする」と定められています。
しかし、技能実習生の増加とともに、管理監督体制が不十分なことによるトラブル事例が多発し、管理監督体制を強化するために、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)」が2016年11月に可決・成立されました。

技能実習制度の目的

(2)技能実習生数の推移

技能実習生数は、平成29年6月時点で技能実習生数25万人(平成28年度比約10%増)となっておりますが、今後も年々増加傾向になる見通しです。

技能実習(国籍別在留者数)の推移

(3)技能実習制度の受入れ機関別のタイプ

技能実習制度は2つのタイプがあります。
一つが団体管理型、もう一つが企業単独型です。前者は、非営利団体(事業協同組合、商工会等)が技能実習生を受け入れ、当該団体傘下の企業等で技能実習を実施します。
後者は、日本の企業等が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施します。
監理事業を行おうとする者は、主務大臣の許可を受けなければならないこととされ、監理団体として満たさなければならない要件が、技能実習法及びその関連法令で規定されています。
ただし、許可を受けた場合であっても、その後、許可の基準を満たさなくなった場合には、監理事業の全部又は一部の停止や、監理事業の許可の取消しが行われることになりますので、常に法令等の基準を満たして監理事業を適正に行う必要があります。

技能実習制度の受入れ機関別のタイプ、管理団体の許可の流れ

2.技能実習の流れ

(1)外国人技能実習機構の役割

技能実習法に基づき外国人技能実習機構(以下「機構」という。)が設立されています。
機構は、後述する技能実習計画の認定、実習実施者の届出の受理、監理団体の許可申請の受理等を始め、実習実施者や監理団体に対する指導監督(実地検査・報告徴収)や、技能実習生からの申告・相談に応じるなど、技能実習制度の適正な実施及び技能実習生の保護に関する業務を行っています。

(2)技能実習計画の認定制

技能実習を行わせようとする者(実習実施者)は、技能実習計画を作成し、その技能実習計画が適当である旨の認定を受けることとされ、技能実習計画に記載しなければならない事項や申請の際の添付書類が、技能実習法及びその関連法令で規定されています。
技能実習計画は、技能実習生ごとに、第1号、第2号及び第3号の区分を設けて認定を受けることとされており、特に第3号技能実習計画に関しては、実習実施者が、「技能等の修得等をさせる能力につき高い水準を満たすものとして主務省令で定める基準に適合していること」(法第9条第10号)が認定の基準となります。

技能実習の流れ

(3)実習実施者の届出制

技能実習生受入れまでのフロー

新制度においては、技能実習法により、実習実施者が技能実習を開始したときには、遅滞なく届け出なければならないこととされました。
この届出は、機構の地方事務所・支所の認定課に行います。
技能実習では、段階を「修得」と「習熟」に区分しています。
技能実習の「修得」段階を在留資格「技能実習1号」とし、「習熟」段階は在留資格「技能実習2号」としています。
さらに実技試験の受験に合格した者は、一旦帰国することとなりますが、「技能実習第3号」として在留資格を更新することが認められます。

(4)技能実習生の保護

新制度では、技能実習生の保護のため、技能実習の強制、違約金設定、旅券又は在留カードの保管等に対する禁止規定を法律に定めるほか、これに違反した場合の罰則に関する規定を定めています。
また、実習実施者又は監理団体の法令違反があった場合に、技能実習生が当該事実を主務大臣に通報・申告することができることとし、技能実習生からの相談に応じる体制を整備しています。
さらに、人権侵害行為を受けた技能実習生が引き続き技能実習を継続することができるよう、機構において転籍を支援する体制も整備することとしています。

4.外国人労働者の戦力化と定着につなげた事例

1.採用時に業務内容を明確に伝えているA社

採用時に業務内容を明確に伝えているA社

(1)雇用管理改善の背景・動機

A社は、総合職と専門職に分け、国内外から新卒・キャリア採用を行っています。
国内の留学生の採用に当たっては「ジョブディスクリプション(職務記述書)」に対するハードルは低い一方で、キャリア採用や海外からの直接採用に当たっては、就社という概念がなく「自分の専門性を生かしたい」という世界共通の考え方があるため、オファーレターに業務内容をしっかり書かなければ、優秀な人材の確保が難しいことを痛感していました。

(2)雇用管理改善

海外の大学・大学院出身で、一定のキャリアを積んだ高度外国人材には、就社という概念がなく、「自分の専門性を生かしたい」という気持ちが強いのが特徴です。
そのため、海外から高度外国人材を採用する際、「ジョブディスクリプション」を細かく提示せず大きな方向性だけ提示して、入社後の業務内容は幅広く柔軟に対応するというやり方だと、特に海外の一流大学出身の外国人材は採用できないことが分かりました。
そこで、まず採用職種を総合職と専門職に分け、総合職の場合は担当業務に少し幅を持たせる一方で、専門職の場合はどのような業務に従事するのかを細かく定めました。

(3)採用時の取り組みの工夫

採用に当たっては、海外の習慣を理解した上で、「ジョブディスクリプション」を細かく提示することが重要ですが、日本国内における業務に及ぶまで、すべてを海外流にする必要はないと考えています。
専門職の人材とはいえ、実際の業務に当たっては、明確化した業務範囲のみを全うすればよいというわけではなく、派生する関連業務をこなす必要が生じますので、採用時に「ジョブディスクリプション」を明確に提示することはもちろんのこと、「業務範囲は場合によってはこれだけではない」ということを申し添えています。
そうすることで、高度外国人材側からの「話が違うではないか」といった不満や、周囲の日本人従業員側からの「なぜ彼や彼女は狭い業務範囲だけこなして認められるのか」といった不満を予め防ぐことができるからです。

ジョブディスクリプション(職務記述書)の記載項目

2.昇給のための基準を明確にしているB社

昇給のための基準を明確にしているB社

(1)雇用管理改善の背景・動機

B社はもともと日本人社員のみでしたが、昨今のエンジニア人材獲得競争の激化を背景に、2014年より海外から直接外国人材の採用を開始しました。
外国人材の採用開始以降も、「国籍やジェンダーによる差別を行わない」方針のもと、2000年頃から開始した職能資格制度「昇段制度」をマイナーチェンジして、全社員共通基準での評価を行っています。
「昇段制度」は元来、社員がスキルアップを行うために導入したものですが、外国人材の採用に合わせ、それまでの制度内容の職種を細分化し、さらに求められるコンピテンシーも細分化を行いました。
外国人材の採用を行うことで社内環境が変化していくため、評価制度のマイナーチェンジも年1回程度行っています。
「昇段制度」はキャリアアップのモチベーションであると同時に、給与を決める判断材料にもなっています。

(2)雇用管理改善

「昇段制度」は無段から4段までの5段階あり、職務とその段位ごとに、どのような業務をどのようなレベルで行うのか、必要なコンピテンシーを策定しています。
外国人材の採用を開始してからは「英語コンピテンシー」を追加したり、より職務を細分化し、それぞれ必要な能力の定義の明確化して新たなコンピテンシーを加え運用しています。
この職能資格制度は、全社員共通で必要な能力を規定する「共通職段要件」と、職務単位(職科)の職段ごとに必要な能力を規定する「職科ごとの職段要件」の2つの制度を規定し、社員の職務ごとに必要な能力を定義、社員のキャリア開発のためのモチベーションを喚起しています。
社内では今後も人材のダイバーシティ化が進むことが想定されるため、制度は固定化せず、今後も実態に合わせて適宜制度改定を行うことを会社方針として決定しています。

B社の職能資格制度

(3)定着への取り組みの工夫

「昇段制度」では、段位ごとに想定年収レンジが決まっています。
昇段にあたっては、社員自らで昇段の意志を申請したうえで、規定されている能力(コンピテンシー)を満たしている理由を自身より上段の社員に説明、それをもとに上席者による承認を経て昇段可否を決定しています。
昇給は原則年1回の考課・査定により決定されますが、昇給額は自らの持つ段位の想定年収レンジの範囲内で決定されます。
本人が昇給を望む場合、必要とされる自らの能力を高め、昇段することが必要であることを理解できる仕組みとなっています。
これらの取り組みの結果、優秀な外国人材の確保ができるようになった点や低い離職率につながっています。
これらの事例は、今後外国人材の採用を検討している企業にとって必要な取り組みであるといえます。
自社の外国人材の採用・定着の参考になれば幸いです。

 

■参考文献
『高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために雇用管理改善に役立つ好事例集』(厚生労働省)
『必ず取れる 就労ビザ! 外国人雇用ガイド』小島健太郎 著(セルバ出版)
『外国人 研修・技能実習生 支援マニュアル』佐野 誠・秋山周二 著(日本加除出版)
『失敗しない 外国人社員の人事労務管理』木全美千男、福田敦子 宇代謙治 共著(中経出版)

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