歯科医院収入の増加に直結 自由診療患者の増加策

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

歯科医院収入の増加に直結 自由診療患者の増加策

  1. 自費率の高い歯科医院の特徴
  2. 自由診療増加につながるマーケティング戦略
  3. 自由診療患者を増やす準備と具体策

 


この記事をPDFでダウンロードする。

 

目次

1.自費率の高い歯科医院の特徴

歯科医院経営を安定する手段としては、マーケティング戦略、増患対策、予防歯科への取組み、コスト削減、スタッフ教育など、様々な重要項目が上げられます。
自由診療の取組みは、歯科医院経営の安定に資する医業利益率の向上に直結するため、どう取組んでいくかが重要なポイントとなります。
今回は、自由診療への取組み方を解説します。

1.自由診療の取組み状況

(1)自費率の推移

個人歯科診療所の医業収益に対する「その他の診療収入」(自由診療等)の占める割合は下記の推移となっており、平成26年では12.5%と低い数値となっています。

自費率の推移

自費率の向上により、医業収入及び医業利益はどう変わるかを次に試算してみました。

(2)自費率向上シミュレーション

保険診療を中心とする歯科医院では、医業利益率は一般的に約25%といわれています。
一方、自由診療へ取り組んでいる歯科医院では、医業利益率が約45%と高いため、1日当たりの患者数が少なくても、保険診療中心の診療所以上の医業利益を確保することが可能です。
保険診療100%の診療所と、自費率を25%に高めた場合の医業収入と医業利益の比較を実施すると、月別患者数が211人減少しても、年間の医業利益は2,220千円増加するという結果になりました。
自費率を高めることは大きな効果を生みます。

事例検証

2.自費率と相関関係にある項目の検証

(1)ユニット台数と自費率との相関関係分析

ユニット台数が多くなるにつれて、自費率が高くなる傾向があります。
中央値では、ユニット2台では6.4%だったのが、8台以上の場合は33.6%となっています。

ユニット台数と自費率との相関関係分析

(2)インプラントと自費率との相関関係分析

インプラントを実施していない歯科医院は、自費率0%~5%が大部分を占めており、実施している歯科医院の上位は10%~15%、次いで5%~10%となっています。
より高い自費率を上げている歯科医院の状況をみると、インプラントへの取組みが自費率を押し上げていることがわかります。

インプラントと自費率との相関関係分析

(3)定期予防管理と自費率の関係についての分析

定期予防管理を実施していない歯科医院では、自費率が0%~5%が46件と大部分を占めています。
定期予防管理を実施している歯科医院でも、自費率が0%~5%が最上位で、次いで5%~10%、10%~15%と自費率が高い歯科医院が続き、30%を超える歯科医院も多くあります。
この結果から、定期予防管理が自費率を押し上げていることが推測できます。

定期予防管理と自費率の関係についての分析

(4)カウンセリングコーナーと自費率の関係についての分析

カウンセリングコーナーは、患者への説明ができるスペースです。
このスペースがある歯科医院と、設けていない歯科医院では自費率が大きく違っています。
カウンセリングコーナーを設置していない歯科医院では、自費率が0%~5%が126件と大部分でしたが、同スペースのある歯科医院では、10%~15%が最大で、30%以上の歯科医院も多くなっています。

カウンセリングコーナーと自費率の関係についての分析

3.自費率の高い歯科診療所の特徴

(1)自費率の高い診療所での設備の特徴

自費率の高い診療所の特徴として、自由診療を行う専用ユニットの設置や、当該ユニット設置場所が個室であったり、歯科診断用のCT装置の導入、CAD/CAM装置の導入もしくはCAD/CAM装置のある技工所と提携しているほか、カウンセリングコーナーを設置しています。

自費率の高い診療所での設備の特徴

(2)自費率の高い診療所での広報活動の特徴

自費率の高い診療所では、広報活動にも特徴があります。
メールやホームページ等のSNS利用のほか、パンフや情報誌等による情報提供に力を注いでいます。

自費率の高い診療所での広報活動の特徴

2.自由診療増加につながるマーケティング戦略

自由診療の増加には、認知活動を含めたマーケティング戦略を策定する必要があります。
特に、自由診療は患者が納得したうえで自院が選ばれる必要があるため、患者視点に立ったマーケティング戦略が重要なポイントになります。

1.歯科医院に必要なマーケティング

歯科医院に行きたくない、という患者は多くいます。
子供のころに通院した際に感じた、「怖い、痛い」という記憶や、成人後も不愉快な思い(治療期間、価格、乱暴・痛い治療、思いやりのない接遇等)をされた記憶によるイメージが強く残っていることがあるからです。

歯科医院に必要なマーケティングとは

2.歯科医院の本質機能と表層機能とは

歯科医院に望まれるのは、期待されている本質機能として「確かな診療技術」「痛くない治療」「適切な説明」「高度な清潔管理」「新しい医療機器」等の他に、「感じが良い接遇」「通いやすい」「きれいな待合室」「待たされない」といった表層機能があります。
これらにより、患者の感性や感情に訴え、気持ちよく受診してもらうことが求められています。
ただし、本質機能である診療行為自体が適切なものであることが前提であり、患者満足には、本質機能だけでなく、表層機能のうちで何かを他の医院が真似できないレベルまで高めることが重要だといえます。

歯科医院の本質機能と表層機能とは

3.自由診療を増やすマーケティング

(1)マーケティングコンセプトを明確化

自由診療のマーケティングでは、コンセプトを作り、これをスタッフ全員に理解してもらうとともに、スタッフ全員の協力で患者へ認知を広げる必要があります。
一方的に患者へ押し付けるのではなく、十分な情報を提供したうえで、自ら「よい治療」を選択できるようにすることが重要です。

マーケティングコンセプトを明確化

(2)ウォンツを作り出す

自由診療の増加には、患者ニーズを掘り起こし、ウォンツを作り出すことが必要です。
具体的な情報を提供し、ウォンツを喚起することが求められており、情報が与えられることで、患者が自分で治療方法を選べるようになります。

ウォンツを作り出す

(3)ニーズが作られる心理の流れ

消費者の購買行動を表す理論としてAIDMA(アイドマ)理論があります。
自由診療へのプロモ―ションについても、このAIDMA(アイドマ)理論を基に検討することが必要です。

消費者の購買行動:AIDMA(アイドマ)理論

4.自費率向上の考え方

自由診療は、患者にとって「最良の治療を提供されること」であることを十分に理解してもらうためにも、治療技術の向上、医療サービスの充実を図るとともに、自由治療に関する情報提供の量と質を増やし、患者の選択肢を広げることが重要です。

自費率向上の3要素

5.自費率を高めるポイント

(1)マニュアルの整備とデータ管理

自費率向上には、患者が自由診療への理解を深め、納得して受診事がしてもらうことが必要です。
カウンセリングや検査から患者の状況を詳細に把握し、その状況にあった治療計画を策定し、コミュニケーションを取ってわかりやすい説明を行うことです。
効率的にカウンセリングを行うためには、スタッフにはマニュアル、患者にはビジュアル化されたツール類を使います。
そのため、説明の準備としてカウンセリングマニュアルを、説明ツールとしてデータを整備します。

説明ツールの整備ポイント

勤務歯科医やスタッフがカウンセリングを行う場合は、標準的なカウンセリングの説明ができるようにマニュアルを整備します。
トークの訓練では、一方的に話すのではなく、患者の聞取りの状態を観察し、理解が進んでいるか、飽きてきていないか等を判断できるスキルを身につけてもらいます。
自由診療の効果測定では、収入ではなく、自由診療移行率によって判定します。
患者のうち、どの程度が自由診療を選択したか、自由診療のどんなメニューが選択され、または選択されなかったか等、成功例と失敗例を集めて管理し、次に活かします。
また、治療前と後の写真等を保険診療と自由診療別にデータ化し、管理します。

3.自由診療患者を増やす準備と具体策

1.自由診療患者を増やす事前準備

自由診療患者を増やすには、様々な準備が必要です。
自由診療のメニューの整備や多様化、情報提供ツールの整備、自由診療の説明ツール、カウンセリング方法の確立、カウンセリングコーナーの設置等、取り組む項目は多々あります。

自由診療患者を増やす事前準備

2.自由診療メニューの多様化

自由診療メニューは、数多く用意する必要があります。
基本的には、患者が選べるメニューを準備することが前提です。
現在ではインターネットで様々な歯科医療を比較してから来院する患者が増えており、希望する治療メニューがなければ他医院へ行ってしまいます。
メニューに患者が求めるものがあれば来院してもらえますし、自院が得意にする方法を選んでもらうことも可能です。

(1)インプラントの取り組み

インプラント市場はゆるやかに回復しつつあります。
数年前のインプラントに対するマイナス報道や、不況の影響から脱して、ようやく本格的に回復してきたと考えられます。
しかし、麻酔による死亡事故や、器具の使いまわし事件などによって、激安医院や経験の浅い医療従事者が担当する治療への不信感も根強く残っています。
その結果、需要構造が変化してきており、ホームページや低価格の訴求など、「狩猟型」のマーケティング対策でインプラント患者を集めるのは困難になってきているため、例えば、自院の患者の抜歯症例からインプラントを増やすなどという「農耕型」の取組が重要です。

インプラントへの需要変化

(2)審美歯科、ホワイトニングの取り組み

大都市圏を中心に若い女性がホワイトニング等の治療を受けることが増加しており、低価格で様々な技法が出ているので、今後も一層普及すると考えられます。
自宅でのホワイトニングより、適切で安心できるオフィスホワイトニングを希望する患者も増えていますが、歯科医院にとって一人当たりの治療時間が1時間以上かかり、ユニットと歯科衛生士を占有することから、価格設定には十分注意しなければいけません。

(3)セラミック修復のメニューを揃える

金属アレルギーの心配がないセラミック修復の需要が増大する傾向があることから、これに関するメニューを検討することも必要です。

セラミック修復のメニュー

(4)自然な情報提供ツールの整備

患者が「自由診療は良い治療である」ことを自然に認知できるような説明書を整備しておくことも求められます。

自然な情報提供ツールの整備

また、説明書だけでなく、治療計画書や費用の見積書、もしくは費用が記載されているメニュー表等を用意する工夫も必要です。

3.カウンセリングの充実

(1)歯科医師やカウンセラーのカウンセリング技法の習得

患者が自由診療を選択するには、より優れた治療であることを説明し、患者自身に選択してもらう必要があります。
ジルコニアボンド、Eマックス、メタルボンド等と言われても患者は理解できず、耐久性や審美性についても知識は持っていません。
そうなると、「歯科医師から高い治療を押し付けられた」という感情を持ってしまう可能性があります。
自由診療を選択してもらうには、心理学に裏付けされた話し方や話す位置関係、説明の順序、ツールの使い方など、患者自身が決断できるようにするテクニックを学ぶ必要があります。
また、自由診療を増加するための説明と、患者の希望を聞き出すためのカウンセリングが重要です。
歯科医師自身が行うだけではなく、歯科カウンセラーを養成し、説明をさせることで患者が「質問したい気持ち」になることもあります。
患者に寄り添って、丁寧に、優しく不安や疑問に応え、契約手続きまで進めます。

(2)カウンセリングコーナーの設置

患者には「診療行為」だけではなく、「健康維持」への取組みという意識を向上してもらい、その一環として自由診療が位置づけられていると認識してもらうことが重要です。
患者の心理的不安を取り除くために同じ視線の高さで話すことは重要であり、カウンセリングコーナーなど、患者の不安を解消する場を設ける必要があります。

カウンセリングコーナーのポイント

4.自費患者への気配りを工夫する

受付スタッフは、特に自費の患者の名前と顔を優先して覚えるなど、自費患者への気配りに配慮することも重要です。
また、メンテナンスの際に、メタルボンドやオールセラミックが入っている患者に、歯科衛生士が「きれいな歯が入っていますね」と誉めることも、患者の気持ちを和らげる効果があります。
自院に通院する患者は、いつかは自由診療を選択する可能性があると考え、笑顔で、心をこめて保険治療を行うことが大切です。

自由診療患者への気配り項目

5.定期予防によるリピーターの確保

予防歯科への取組みはどの歯科医院でも行っていますが、実際に定期健診に来ている患者数は少なく、また積極的に定期健診をアピールしている歯科医院も多くありません。
しかし、定期予防の患者ほど歯科医院側の説明を聞き、デンタルIQが高いという事実があり、患者自身も、より長持ちをする治療を選択する気持ちを持っています。
その結果、定期的に予防に通院してくる患者に、自由診療を選択する人が多いという現状があります。
定期予防への取組みがリピーター患者を増加させ、その上で自由診療も増加するという効果も期待できることから、歯科医院の経営安定にもつながるといえます。

 

■参考文献
日本ビズアップ株式会社 歯科経営コンサルタント40時間養成講座「自費増大対策の進め方と指導方法」株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久氏 講義より 抜粋

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。