保険診療の質的向上を図る厚生局による指導・監査対策

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保険診療の質的向上を図る厚生局による指導・監査対策

  1. 厚生局による指導・監査の実態
  2. 指導・監査の概要と事後の措置
  3. 返還金の実態と取消事例の検証
  4. 指導・監査を意識した事前対応策

 


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1.厚生局による指導・監査の実態

厚生局は、医療機関の指導・監査を強化する傾向にあります。
指導は、保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを目的としており、また監査は、保険医療機関等の診療内容又は診療報酬の請求について、不正又は著しい不当が疑われる場合等において、診療録や帳簿書類を検査する措置です。
今回は、指導・監査の実態とその対策について解説します。

1.歯科医院、保険医に対する個別指導の状況

(1)保険医療機関に対する個別指導の状況

平成28年度の個別指導件数は、医科1,601件、歯科1,324件ですが、診療所数に対する比率としては、医科が約10万件のうち約1.6%に比べ、歯科は約6万8千件のうち約2.0%であり、個別指導が入る確率は歯科の方が高くなっています。

(2)保険医等に対する個別指導の状況

平成28年度の保険医等に対する個別指導件数は、医科では4,986人で、医師数に対する割合は約30万人に対し約1.7%、一方歯科は1,979人で、歯科医師数に対する割合は、約10万人に対し約2.0%です。
こちらも個別指導数としては、歯科の方が高い割合を示しています。

保険医療機関等 個別指導件数、保険医等に対する個別指導件数

2.歯科医院に対する集団的個別指導の状況

集団的個別指導件数

集団的個別指導は、レセプト1枚あたりの平均点数が高い保険医療機関を対象として、集団で受講する講習等と、個別に面接・懇談による指導の双方が行われます。
平均点数が各都道府県平均の1.2倍以上、かつ上位8%が対象となっています。

3.保険医療機関の監査件数

診療内容やレセプトに不正や著しい不当があったとみられたり、度重なる個別指導によっても改善が見られなかったりすると、監査が行われます(正当な理由がなく個別指導を拒否した場合も監査となることがあります)。
監査件数としては、平成28年度で歯科医院では39件、保険歯科医では120人でした。

監査件数、保険医に対する監査件数

4.保険医療機関の取消及び保険医の停止件数

(1)保険医療機関の取消状況

保険医療機関の指定取消処分は平成28年度では18件で、そのうち監査から取消になった比率は約46%にのぼります。
監査が入ると、ほぼ半分近くが保険指定医療機関の取消になっています。

保険医療機関取消件数推移、監査から取消になった比率推移

(2)保険歯科医の停止処分

保険歯科医の取消件数は、平成28年度で14人、うち監査から取消になった比率は約11.7%となっています。

保険医取消件数、監査から保険医取消になった件数

(3)取消に至った端緒

保険歯科医の取消処分に至った端緒としては、保険者等からの情報提供が多くなっていますが、患者やスタッフからの内部通報もあります。
また、勤務歯科医が歩合制のため、高い報酬を得ようと不正請求を行う事例がみられます。
不正請求によって歯科医院が保険医療機関を取消(停止)となっても、自分には処分は及ばない、と考えている勤務歯科医がいるようです。
実際には、管理者が責任を負うと共に、勤務歯科医に対しても処分が及ぶことも多々あります。
開設者・管理者は、勤務歯科医に対しても適正な診療報酬の請求方法を習得させ、レセプトチェックをしっかり行うことが大切です。

2.指導・監査の概要と事後の措置

1.保険医療機関が受ける「指導」とは

保険診療を行うためには、健康保険法、療養担当規則、診療報酬点数表の告示・通知等を遵守すると決められています。
「指導」とは、厚生労働省が保険医療機関と保険医に対して行う行政指導のことであり、「保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う」ことを目的としています。

指導の種類

厚生局による指導はあくまで行政指導であるため、不利益処分は科せられません。
しかし個別指導の場合、指導の結果、行政側が「不当な請求」と判断した場合は、自主的に診療報酬を返還するよう求められます。

2.個別指導の流れ

個別指導が選択されるケースは、保険者や患者、スタッフ等からの情報提供、前回の個別指導が再指導だった場合、前回の個別指導から経過観察になり、改善が見られない場合、その他特に個別指導が必要と認められる場合です。
個別指導の対象として選択されると、次のような流れに従って準備を進める必要があります。

個別指導の流れ

3.個別指導時の注意点

個別指導当日の進行としては、指導医療官により、レセプトとカルテを照合しながら質問や注意点の指導等が行われます。
歯科医院側はレセプト請求の勉強にもなるため、多数で参加すると良いでしょう。

個別指導時の注意点、個別指導の内容

個別指導の結果には、おおむね妥当から要監査まで4つの段階があります。

個別指導の結果

4.監査の対象と事後の措置

監査の対象となるのは、以下の3つのケースです。

監査と事後の措置

3.返還金の実態と取消事例の検証

1.指導・監査による返還金の実態

平成28年度における医科歯科調剤薬局の返還金は、88億9,535万円でした。
そのうち、指導によるものが41億円弱、適時調査によるものが43億5千万円、監査による返還分が4億5千万円となっています。

返還金の内訳と年次推移

2.歯科診療所の取消状況と返還金

平成28年度の取消には、付増請求、振替請求、二重請求等が多くみられます。

歯科診療所の取消状況と返還金

3.取消に至る事例検証

上記に挙げた医)K会E歯科室の指定取消は、不正請求を理由とするものでした。
その内訳は、架空請求、付増請求、振替請求、その他の請求で、44,771千円の返還命令が出ています。

(1)監査に至った経緯

個別指導の実施によりレセプト請求で画像診断の請求があったにもかかわらずX線フィルムがないことから不正を認めましたが、具体的な不正事実の確認ができなかったことで、個別指導を中断後、再開した際に再度不正請求を認めたため、監査を実施しました。

監査に至った経緯

(2)監査結果

監査では、様々な不正請求が認められたため、取消処分が下されました。

監査結果

(3)処分

監査結果により、平成28年7月保険医療機関の指定取消と開設者代表兼管理者の保険医の登録取消処分が下されました。

4.保険診療は公法上の契約

保険指定医療機関が保険診療を行うということは、医療保険各法に基づく保険者と保険医療機関との間の公法上の契約です。
保険指定医療機関となっていることと保険歯科医として登録しているということは、前提として保険診療のルールを熟知していることになっています。

保険診療の主なルール

4.指導・監査を意識した事前対応策

厚生局の指導・監査対策は、日頃からカルテの記入や歯周治療の算定方法、歯科衛生士業務記録の作成のほか、技工指示書を正確に作成してカルテ記載やレセプト記載の内容が一致していること等に気を配りながら、確実にチェックを実行することが重要です。

1.カルテ記入の注意点

カルテ記入を適切に行うのは当然ながら、勤務歯科医がいる場合には診療した担当医が内容を確認し、プリントアウトして署名捺印しておくようにします。

カルテ記入のポイント

2.歯周治療の注意点

歯周治療においては、「歯周病診断の治療とガイドライン」を参考にし、記載ミスのないように注意することが必要です。

歯周治療時のポイント

3.各種記録・指示書・補綴物に関する注意点

(1)歯科衛生士記録作成時の注意点

歯科衛生士の業務記録を作成し、管理しておくことが重要です。

歯科衛生士業務記録作成時のポイント

(2)技工指示書、X線写真、口腔内写真の管理時の注意点

技工指示書を作成したら、内容をチェックし管理しておくことや、X線写真や口腔内写真等の管理が重要です。

技工指示書、X線写真、口腔内写真等の管理のポイント

(3)模型・未来院補綴物の管理時の注意点

模型や未来院補綴物の管理もしなければなりません。
特に未来院補綴物は、5年間保管しておくべきです。

模型や未来院補綴物の管理のポイント

4.保健所等へ変更届等提出の注意点

勤務歯科医や歯科衛生士、診療所、X線装置等の変更があれば、各厚生局や保健所へ必ず変更届を提出しておきます。
変更に際しては、医療法人と個人開設では届出事項が違うほか、内容によっては締切期日もあるので注意が必要です。

保健所・厚生局への届出

 

■参考資料
ビズアップ総研 指導監査の知識 講座 より
講師 ㈱M&D医業経営研究所 代表取締役木村泰久氏
厚生労働省HP 平成28年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況 より
京都府保険医会HP 指導監査の実態 より

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