安全で適切な医療提供の確保を推進 平成29年医療法改正の概要

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安全で適切な医療提供の確保を推進 平成29年医療法改正の概要

  1. 医療法等の一部を改正する法律の概要
  2. 医療に関する広告規制が強化
  3. 持分なし医療法人移行計画認定制度が要件緩和
  4. 監督規定の整備と検体検査の品質・精度管理


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1.医療法等の一部を改正する法律の概要

1.平成29年6月 参議院本会議にて可決

(1)医療法改正の主要項目

医療法等の一部を改正する法律(以下「改正法」)が、平成29年6月7日衆議院本会議において可決、6月14日付に公布され、順次施行されることとなりました。
今回の改正(以下「改正」)「安全で適切な医療提供の確保を推進するため、検体検査の精度の確保、特定機能病院の管理及び運営に関する体制の強化、医療に関する広告規制の見直し、持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度の延長等の措置を講ずること」を趣旨とするものです。
主な内容は下記のとおりで、「医療法」、「臨床検査技師等に関する法律」、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」の各法について、一部改正が行われました。

医療法等の一部を改正する法律の概要

(2)本改正の位置づけ

医療法は、昭和23年の制定以降、第1次医療法改正の病床総量規制から、第7次医療法改正の地域医療連携推進法人創設まで、7回の改正を重ねてきました。
いずれも、医療機関の経営を左右する重要な改正項目であり、多くの医療機関は改正に対応した経営を迫られてきました。
過去に実施された医療法改正の主な内容は下記のとおりです。

医療法改正の流れ

2.段階的に施行開始

今回の改正は、公布の日(平成29年6月14日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものと定められましたが、次に掲げる事項は、それぞれ施行日が決定しています。

項目別施行日

(1) と(2) については、具体的な施行日が定められていますが、これ以外は1年から1年6ヶ月の間に施行されます。

3.診療所経営に影響を与える項目

本改正で、特に診療所経営に影響を及ぼす改正点は、広告規制の見直しと良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律、いわゆる認定医療法人の改正です。
広告規制の見直しに関しては、新たにウェブサイト(ホームページ)が規制の対象となったことから、自院のホームページを再度点検する必要があります。
虚偽や誇大広告などの問題だけではなく、開業時に掲載した人員配置や施設基準が現状とは異なる場合は、患者の誤認を生むとして規制の対象となるため、注意が必要です。
一方、認定医療法人の改正は、同族要件や規模的要件など一部要件が緩和されます。
過去に申請を検討したものの、同族要件や施設規模の要件の厳しさから断念した医療法人においても、今回の改正により、新しい基準に当てはめて申請が可能かどうかを検討する余地が出てきたといえます。

診療所経営に影響を与える項目

2.医療に関する広告規制が強化

1.広告規制検討の経緯と改正前の規制状況

(1)医療情報の提供内容等に関する検討会で議論

広告規制にあっては、現在、長期・継続的な役務の提供を行う特定継続的役務において、エステティックサロン、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の6つの役務が規制の対象とされており、書面交付の義務付けや誇大広告等の禁止を規定しています。
そして近年、美容医療サービスに関する消費者トラブルの相談件数が増加していることを受けて、平成28年1月7日、消費者委員会が、特定継続的役務の規制対象に美容医療を加えることを総理大臣に答申しました。
これに基づき「医療情報の提供内容等に関する検討会」が設置され、4回にわたり議論(平成28年3月~9月)され、改正に至っています。

(2)本改正前の広告規制とは

医療は人の生命・身体に関わるサービスであり、また、極めて専門性の高いサービスであることから、医療広告ガイドラインに基づき、限定的に認められた事項以外は、原則として広告が禁止されていました。

本改正前の広告規制

ただし、インターネットが広く普及している状況において、医療機関のウェブサイト等については、当該医療機関等の情報を得ようとする者がURLを入力し、検索サイトで検索した上で閲覧するものであるため、当初より情報提供や広報として取り扱っており、医療に関する広告規制の対象とされていませんでした。

広告規制の対象外

2.広告規制が強化された医療法改正の概要

今回の改正法では、広告とはみなされていなかったホームページを医療法上の「広告」に含めて規制の対象とすることとされ、虚偽広告や誇大広告等が禁止されます。

新たな広告規制

ただし、患者が知りたい情報(自由診療等)が得られなくなるという懸念等を踏まえ、広告等可能事項の限定を一部解除できる措置が設けられました。
具体的には、患者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合において、省令で限定列挙規制の例外とすることを可能とするという取扱いが追加されています。
なお、これらの詳細については、今後医療関係者、消費者代表等を含む検討会において議論が続けられます。

本改正後の広告規制の考え方

※1 比較広告、誇大広告、客観的事実であることを証明できない内容の広告、公序良俗に反する内容の広告を禁止
※2 患者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合は、省令で限定列挙規制の例外とすることができる。

3.診療所においてチェックすべき事項

ホームページ等のウェブサイトが医療法上の「広告」と定義されたことから、自院のサイトを再度チェックする必要があります。
チェックポイントは下記のとおりです。

診療所においてチェックすべき事項

3.持分なし医療法人移行計画認定制度が要件緩和

1.持分なし医療法人への移行数と移行への課題

(1)持分なし医療法人への移行法人は513法人

平成19年施行の第5次医療法改正において、新設の医療法人は「持分なし医療法人」のみを認めることとしました。
一方で、法人財産を持分割合に応じて出資者へ分配できる、いわゆる「持分あり医療法人」については、当分の間存続する旨の経過措置がとられており、現在に至っています。
持分あり医療法人は、出資者に相続が発生すると相続税支払いのため払戻請求が行われるなど、法人経営の安定について課題があるため、「持分あり医療法人」から「持分なし医療法人」への移行計画を国が認定する制度を設け、相続税猶予等の税制措置を実施するなど、移行促進策を講じてきました。
しかし、実際にはほとんど移行が図られず、4万件を超える医療法人は、未だ持分ありの医療法人となっています。
また、移行促進策として平成26年10月から始まった認定制度による移行完了件数は、わずか13件(平成28年9月現在)にとどまり、持ち分なしへの移行は進んでいません。

持ち分なし医療法人への移行数

(2)持分なし医療法人への移行が進まない要因

移行が進まない要因の一つが、現状では相続税法により相続税等が「不当に減少」する場合、医療法人を個人とみなして贈与税が課税される扱いとなっている点です(相続税法第66条第4項)。

相続税法第66条第4項の規定の趣旨(抜粋)

よって、安易に出資持ち分を放棄して持分なし医療法人に移行した後に、税務署の調査を受けた結果、相続税又は贈与税を「不当に減少」させたと判断された場合、医療法人を個人として、出資持ち分の時価相当額が贈与税課税されるリスクがありました。
また、この課税を回避する方法としては、下記の要件が規定されていますが、診療所等小規模な医療法人には、ハードルの高いものとなっています。

医療法人への贈与課税を回避するための主な要件

これらの要因により、認定医療法人制度を創設した後も、持分なしへの移行が進まない状況にありました。

2.今回の改正ポイント

(1)非課税基準の判断は厚生労働省に移管

今回の改正は、移行が進まない要因となっている各案件を改めたもので、規模に関係なく持分なし医療法人への移行を促進する内容となっています。
具体的には、平成29年9月30日が期限であった持分なし医療法人への移行計画の認定制度を、同10月1日以降3年間延長すると共に、相続税法第66条第4項の規定は認定された医療法人については適用しないことになりました。
ただし、無制限に移行を認めるというものではなく、これまで非課税基準による税務署の個別判断にゆだねられていた非課税の取扱いの可否について、厚生労働省が判断することとなっています。

(2)厚生労働大臣の認定要件が緩和

今回の改正で大きく変わるのは、理事、監事数及び役員の非同族基準が、撤廃された点です。
また、社会・特定医療法人を想定した社会的存在として認識される程度の規模的要件も撤廃されました。
ただし、主な運営の適正性要件として、(1) 法人関係者に利益供与しないこと、(2) 役員報酬について不当に高額にならないよう定めていること、(3) 社会保険診療に係る収入が全体の80%以上等を厚生労働省が審査するとともに、認定以後6年間は当該要件を維持することを求めています。
なお、6年間の間に要件が維持されないときは、当然のことながら非課税要件に該当しなくなったとして、贈与税又は相続税が課されることとなります。

持分なし医療法人への移行計画の認定制度 改正イメージ

本改正により、理事長の出資金の時価が大きく膨らみ経営リスクを抱えている医療法人や、同族以外の出資持ち分所有者との間で払戻請求リスクを抱えている医療法人にとっては、改めて移行を検討する時期に来たといえます。
なお、改正後の認定制度の申請時期は平成29年10月1日以降であり、その前に申請を行うと、改正前の基準が適用となってしまうので注意が必要です。

4.監督規定の整備と検体検査の品質・精度管理

1.医療機関を開設する者に対する監督規定の整備

(1)医療機関への指導・監督をめぐる課題

病院等(病院、診療所又は助産所)の開設主体は様々ですが、医療法人に対しては、医療法の規定により、開設者への立入検査等を通じて法人の運営に対する監督を行うことができました。
一方、医療法人以外の病院等を開設する法人の運営に対しては、医療法による規制が及ばず、各法人の根拠法によって監督の内容が異なるため、指導・監督が行き届かない部分がありました。

医療法における病院等の開設者に対する監督規定の比較

(2)医療機関への指導・監督 対応方針

このような実態を踏まえて、医療法を改正し、すべての医療機関への指導・監督が可能とされました。

対応方針

この対応方針に基づき、医療機関の開設者に対する監督のあり方が、次のように改正されます。

医療機関の開設者への医療法における監督規定

2.検体検査の品質・精度管理について

(1)検体検査をめぐる法的規制

従来、医療機関内における検体検査の精度の確保に関しては、法律上の規定がありませんでした。
安全で適切な医療提供の確保を推進するため、本改正によって、品質・精度の基準が医療法上に明記されることとなりました。

現状の検体検査の精度管理の課題

(2)検体検査に関する対応方針

検体検査に関する対応については、医療法に根拠規定を新設すること、及び検査委託業者の適合基準の明確化が方針として示されています。

対応方針

(3)検体検査に関する改正内容

具体的には、下記項目が医療法に追加されました。具体的な基準については、現在厚生労働科学研究の研究班で検討されており、その成果を踏まえ、別途検討会で議論する予定となっています。

医療法に追加された改正条文

 

■参考文献
平成29年6月14日 厚生労働省医政局長通知
厚生労働省 「医療法における広告規制の現状について」
第51回社会保障審議会医療部会資料

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