次期診療報酬改定を見据えて今後の医療政策の方向性

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次期診療報酬改定を見据えて今後の医療政策の方向性

  1. 医療提供体制の充実と次期改定に向けての施策
  2. かかりつけ医機能の強化とICTの利活用
  3. 入院医療機能の分化と強化のさらなる推進
  4. 働き方の検討と医療政策に対応する取り組み


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1.医療提供体制の充実と次期改定に向けての施策

1.医療提供体制の充実が課題

近年の医療提供体制における課題としては、急激な少子高齢化に伴う疾病構造の多様化、医療技術の進歩、国民の医療に対する意識の変化等、医療を取り巻く環境変化を背景に、将来を見据え、どのような医療提供体制を構築するか、また、地域やへき地等における深刻な医師不足問題等にどのような対策を講じるか等が挙げられます。
社会保障審議会医療部会では、平成29年9月に今後の主要な検討テーマのひとつとして、『医療提供体制のあるべき姿(地域医療構想等)の推進』を掲げています。

地域の医療提供体制のあるべき姿(地域医療構想等)の推進

2.医師不足地域解消に向けての取組み

地域における医師不足に対し、これまでも国は「地域枠」の推進や、都道府県における地域医療支援センターの設置、地域医療介護総合確保基金を通じた医師確保など、様々な取組みを行っていますが、未だ問題解決には至っていない現状があります。
このような事態を踏まえ、厚生労働省は、具体的な医師偏在対策としていくつかの案を示し早期解決を図ろうとしています。

具体的な医師偏在対策

3.次期診療報酬改定の基本方針からみる医療政策

平成29年12月、次期診療報酬改定の基本方針が公表されました。
このなかで改定の具体的方向性として示された医療政策としては、地域包括ケアシステムの推進や、医療と介護の役割分担と連携の推進、医療資源の効率的な配分等の取組みが提示されました。
外来医療では、かかりつけ医機能の充実と大病院と中小病院・診療所の機能分化の推進、医師不足地域や在宅医療需要増加に対応するためのICTの利活用が挙げられます。
また、入院医療では、入院医療における医療機能の分化・強化、連携の推進、入退院支援の促進等が今後の施策として示されています。

次期診療報酬改定の基本方針

2.かかりつけ医機能の強化とICTの利活用

1.外来医療はかかりつけ医機能の強化へ

(1)外来医療の方向性

外来医療は、さらなるかかりつけ医機能の強化と、外来医療の機能分化を推進していく方向性です。
かかりつけ医の普及と病院・診療所の機能分化を推進するため、これまでに200床以上の大病院において紹介状をもたない初診患者へ選定療養費を導入しました。
また、紹介率・逆紹介率の低い大病院における初診料等の減額、さらに、特定機能病院・一般病床500床以上の地域医療支援病院では、紹介状なしに外来を受診する患者から、初診時に5,000円以上、再診時に2,500円以上の定額負担料を徴収すること等様々な対策を行ってきましたが、今後は、上記の定額負担料を徴収する対象範囲を拡大する見通しです。
診療所や中小病院においては、かかりつけ医機能の充実がさらに求められるといえます。

(2)患者が期待するかかりつけ医機能

平成29年7月、日本医師会総合政策研究機構から「第6回日本の医療に関する意識調査」の結果が公表されました。
本調査の調査対象は満20歳以上の男女個人4,000人で、有効回収率は30.0%となっています。
調査の結果から、かかりつけ医に対する期待は多大かつ多様であり、今後の普及に向けて、医療機関側のさらなる対応や連携体制を検討する必要があることがわかりました。
外来医療経営にとっては、患者のニーズを的確に捉え、かかりつけ医として信頼されて選ばれる医療機関を目指していくことが今後の重要な要素となりそうです。

かかりつけ医に関する調査結果(一部抜粋)~「第6回日本の医療に関する意識調査」、かかりつけ医がいない人がかかりつけ医に期待すること

2.ICTの利活用推進に向けた新しい取り組み

(1)オンライン診療・医学管理を行う時代へ

遠隔診療は、対面診療の補完であるという考えを前提に、かかりつけ医と患者の双方向のコミュニケーションを可能とし、きめ細やかな医療の実現が期待されています。
オンライン診療を評価する場合の基本的な考え方や、診療報酬はどのように設定するべきか等について中央社会保険医療協議会では議論を重ねていましたが、平成29年12月に厚生労働省から新たな診療報酬を設定する考えが提示されました。

遠隔診療(情報通信機器を用いた診療)を評価する場合の基本的な考え方

(2)ICTを活用した関係機関連携とその他ICTを活用した取り組み

厚生労働省は、医療・介護連携の必要性や情報共有が不可欠である一方、医療・介護関係者が多忙で一堂に会することが難しいこと、地理的に地方での会議が困難であることなどを考慮し、対面でのカンファレンスなどが評価の要件となっている診療報酬について、ICTを用いた会議などを組み合わせて開催回数や対象者などの要件を弾力化する案を示しました。
これにより、退院支援加算1などの要件である対面での面会について、一部についてはICTを用いた会議に置き換えることができます。
ICTの利活用については、中央社会保険医療協議会総会で議論されており、以下のような内容となっています。

デジタル病理画像を用いた病理診断の評価要件、情報通信技術(ICT)を利用した死亡診断における医師と看護師の連携~診療報酬上の評価、在宅酸素療法を実施する患者の遠隔モニタリング

3.入院医療機能の分化と強化のさらなる推進

1.入院医療を取り巻く環境の変化

現在最も多い病床種別は一般病棟7:1ですが、今後さらに高齢化の進展が予測されているなかで疾病構造が変化していくことを考慮すると、入院医療ニーズは、より高い医療資源の投入が必要な医療ニーズが減少し、代わりに中程度の医療資源の投入が必要な医療ニーズが増加するとみられています。
しかし、現在の評価体系では収入面や人員配置等を考慮すると簡単に7:1から10:1に移行することは難しい状況であり、入院医療の評価の基本的な考え方としては、医療ニーズに応じて適切に医療資源を投入することが、効果的・効率的な入院医療の提供にとって重要だと考えられています。
また、患者の状態や医療内容に応じた医療資源の投入がなされないと、非効率な医療となるおそれがあります。
こうした背景や考え方があり、次期診療報酬改定において入院医療の評価については見直しが行われることとなりました。

病床種別ごとの病床数の年次推移

2.入院医療の評価体系は「基本部分」と「段階的評価部分」へ

新たな入院料は、(1) 急性期入院医療を提供する機能、(2) 集中的なリハビリテーションの提供や自宅等への退院支援機能、(3) 長期療養を要する患者への入院医療を提供する機能、という3つの異なる機能を軸として新たに再編・統合される案が示されています。
そして、上記3つの機能に対応できるように、看護配置などに応じた「基本部分」と、重症患者割合などの実績に応じた「段階的評価部分」を組み合わせた入院料を新たに創設することを検討しています。
これにより、地域の医療ニーズと自院の患者像に沿って看護配置を弾力的に運用することができ、入院医療の整備に寄与することが期待されます。
また、現在経過措置となっている病棟群単位の届出や200床未満の医療機関における重症度、医療・看護必要度の基準値の取り扱いに配慮し、中間的な評価部分の設定も検討されています。

新たな入院医療の評価体系~次期診療報酬改定における考え方

3.入院医療評価手法の考え方

次期診療報酬改定における入院医療の評価手法については、厚生労働省から基本的な考え方が示されています。

基本部分の評価と診療実績に応じた段階的な評価~入院医療、機能別の評価~入院医療をめぐる次期診療報酬改定の考え方

4.働き方の検討と医療政策に対応する取り組み

1.医師の働き方についての議論

労働環境の改善は、企業だけではなく国全体の課題となり、現在の日本は、生産年齢人口(15~64歳)が総人口を上回るペースで減少しています。
こうした状況を踏まえ、平成28年に内閣総理大臣は働き方改革の取り組みを提唱し、同29年3月には内閣総理大臣が議長を務める「働き方改革実行会議」において、「働き方改革実行計画」を決定しました。
計画では労働基準法を改正し、罰則付きの時間外労働の上限規制を設けるとして、医師も5年後を目途に規制の対象となることが明らかとなりました。
一方で医師には医師法第19条に規定されている応召義務があり、これら論点を踏まえつつ議論が進められる見通しですが、将来的には医師にも労働時間の上限規制が設けられると、救急などでは医師数の確保が困難となることが想定されるため、この点に関する影響も考慮される方向が示されています。

働き方改革実行計画、働き方改革実行計画

2.医師の勤務環境改善に向けた対策

平成29年9月21日開催の「医師の働き方改革に関する検討会」で提示された資料によると、常勤医師の平均労働時間は約57時間でした。
また、週当たりの勤務時間が60時間以上の常勤医師は、全体の約39%という結果が出ています。
こうした医師の勤務実態を受けて、医師の働き方改革に関する検討会では、医師の労働時間削減に向けた他職種へのスムーズな業務移管等について議論されています。

医師の勤務環境改善策

また、次期診療報酬改定に向けた議論の中では、常勤医師の配置を要件としている診療報酬項目を見直し、常勤を要件としている一部の項目について、週一定時間の勤務を行っている複数の医師の組み合わせにより、常勤の医師が配置されているものとみなす案が示されています。

3.医師の働き方改革を踏まえた今後の展開

医師の勤務状況の変化は、医療を受ける側にとって影響が大きいものと考えられています。
医療提供体制が十分な状態を維持しつつ、労働時間削減に努めていかなければなりません。
そうした国の政策を考慮すると、他の医療機関と連携し、複数の医師が患者を協働して診療にあたる体制が作られていくことが考えられます。
今後、外来・在宅医療及び入院医療が目指すべき方向としては、これまで以上に他医療機関・介護サービス提供施設とのネットワーク構築や、連携先の確保と情報の共有が重要だといえます。

4.地域ニーズと政策動向を見据えた取り組み

外来医療は、これまでも推進している機能分化と連携強化のため、次期診療報酬改定などを通じ、診療所や中小病院には慢性疾患をもつ患者への対応や他の医療機関等への紹介機能等を促進し、一方で大病院には、一般外来を縮小して専門的な診療に注力する施策が引き続き実施される見通しです。
診療所や中小病院の今後の対応としては、かかりつけ医機能充実に向けた患者との信頼関係構築と、連携先の確保が重要になります。
一方で入院医療においては、患者の状態に合った効率的な医療の提供と、病床機能の分化および強化を図ろうとしています。
効率的な医療の提供を目指す医療政策の推進により、全体的に平均在院日数の短縮は進んでいるものの、患者数の減少から病床稼働率が上がらずに、経営面で影響を受けている医療機関も少なくない状況です。
地域密着型の病院であれば、地域の医療ニーズが高く自院が提供できるサービスを組み合わせ、連携ネットワークの医療機関・施設において、患者の円滑な移行に取り組む必要があります。
とりわけ人口減少が進む地域では、医療機関の統廃合や撤退、介護サービス提供施設への転換など、自院の診療圏における地域医療構想に合致する再編が進むと予想される中で、医療機関としては、地域の医療ニーズや国の政策動向を注視しつつ、自院の役割と機能を見極め、そのあり方を判断することが求められています。

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