医歯薬すべての分野で評価導入「かかりつけ」機能 充実への対応策

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医歯薬すべての分野で評価導入「かかりつけ」機能 充実への対応策

  1. 多職種に拡大した「かかりつけ」機能の評価
  2. かかりつけ機能充実を目指す将来施策動向
  3. 今後も重点化と充実を図る認知症ケア対策
  4. 診療所は外来と在宅の連携強化が重要


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1.多職種に拡大した「かかりつけ」機能の評価

1.多職種協働を促す「かかりつけ」機能の充実

(1)2016年診療報酬改定にみる「かかりつけ」機能

2016年診療報酬改定は、基本的に「地域包括ケアシステム構築」を目指すものであって、急性期から回復期への移行、さらには在宅での療養支援に至るまで、2025年を見据え、地域における生活継続を念頭に置いた改定内容となりました。
また、地域医療構想策定も踏まえて、7:1看護配置要件の厳格化(重症度・看護必要度の計算式変更、25%への引き上げ)などをはじめとする急性期病床の絞り込みに関心が向きがちでしたが、一方は、次のような「かかりつけ」機能の充実に向けた様々な評価改定が行われています。

「かかりつけ」機能充実に向けた主な今次改定項目

かかりつけ医については、前回2014年改定において「主治医機能」として評価が新設されましたが、上記のようにその担い手の範囲が拡大され、医歯薬すべての分野で「かかりつけ」機能の評価が導入されたことになります。

(2)急性期病院とかかりつけ医療機関の関わり方

今次改定の焦点のひとつになったのは7:1看護配置要件の厳格化でしたが、これと併せて退院支援の強化が図られており、従前の「退院調整加算」から名称を変更した「退院支援加算1(600点)」の新設は、かかりつけ機能評価充実の方向性が示されたものといえます。
急性期病院にとっては、重症患者の入院を増やして早期の退院支援を強化するためには、地域医療連携の一層の活発化が不可欠となった一方、かかりつけ医となった診療所は、急性期病院の連携先との情報交換を密にすることで、在宅で療養を続ける患者の支援を引き受けるチャンスを得ることも可能です。
退院支援は、かかりつけ機能強化にとって、在宅復帰強化を目指す厚生労働省の意向が強く示された改定であり、メッセージが込められているものです。

(3)在宅医療との関わり方

在宅医療についても、重症度別評価が導入されるなどの改定が行われたほか、新たに「在宅専門診療所」の施設基準が設けられ、在宅医療の評価についてもかかりつけ医(医歯薬各分野)との連携が前提となっていることが読み取れます。

かかりつけ医の役割機能イメージの原点~主治医機能の評価

2.かかりつけ歯科医機能の評価導入

社会保障審議会医療部会報告書に示された方針を受け、外来診療の質の向上だけではなく、高齢化と地域包括ケアシステムを支える立場として、歯科診療所にもかかりつけ機能を担わせ、特に高齢者患者における口腔機能低下の重症化防止を念頭に、評価を導入しています。
新たな考え方のため、社会での認知度はまだ高くありませんが、近年の口腔内健康への関心の高さから、セルフケアに加えて定期的に歯科検診を受診している患者も多く、将来こうした患者自身が高齢となり、在宅医療が必要な状態となった場合には、現在受診しているかかりつけ歯科医院の役割がより大きいものとなるはずです。

今次診療報酬改定におけるかかりつけ歯科医機能の評価導入

2.かかりつけ機能充実を目指す将来施策動向

1.国が求めるかかりつけ医等に求める役割

前回2014年診療報酬改定で評価が導入された「主治医機能」ですが、評価に先立つかかりつけ医の役割としては、その検討経緯において次のように示されています。
かかりつけ医だけではなく、地域包括ケアシステムの構築推進を鑑み、多職種による協働が重視されていることがわかります。

社会保障審議会医療部会の意見書<抜粋>~かかりつけ医等の役割

上記のとおり、主治医機能に加えて歯科医と薬剤師についても「かかりつけ」機能を求める方針が提示され、これに基づき歯科診療所と薬剤師・薬局に関する新たな評価の導入が進められました。
これを受けて、今次診療報酬改定で「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」が新設され、医歯薬における各かかりつけ機能について明示されたことから、様々な職種が機能を発揮し、患者に対して適切で必要な医療を提供することで、地域で患者をサポートする体制づくりを図る基盤が固まったといえます。

2.外来医療需要の減少に対応できる「かかりつけ」機能

経済産業省の報告によると、人口減少と高齢化に伴い、外来受診は2025年にピークを迎え、その後2020年代後半には減少となることが予測されています。
そのため、かかりつけ医としては、在宅医療への取り組みが必須となっていくと考えられます。

全国の入院医療需要と外来医療需要

今次診療報酬改定に合わせて、日本医師会ではかかりつけ医研修制度がスタートし、総合診療専門医制度に関しても、当初予定を1年延期し、2018年度の開始が公表されました。
次期診療報酬改定におけるかかりつけ医機能に関する評価アップや要件緩和も想定されるなかで、診療所としては早期にかかりつけ機能の充実に取り組む必要があります。

3.認知症施策推進総合戦略にもとづくかかりつけ機能の展開

今次診療報酬改定では認知症ケア評価が注目点のひとつでしたが、新たな認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を踏まえ、地域包括ケアシステムを基盤とし、主治医たるかかりつけ医機能を中心とした医療提供体制の構築に向けて、2025年には700万人水準と予測されている認知症患者(*)に対するケアの充実に向け、多職種の協働によるかかりつけ機能の充実を図る方向です。

(*)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業:九州大学二宮教授)による速報値

新オレンジプランに基づく認知症ケアに対する考え方

次章では、認知症ケアに焦点を当ててかかりつけ機能に関する動向や、連携のあり方を解説します。

3.今後も重点化と充実を図る認知症ケア施策

1.かかりつけ機能で充実を図る認知症ケア施策

(1)外来医療における認知症ケアの重点化が継続

外来医療においては、2014年度改定において主治医機能の評価(地域包括診療料および同加算)が新設されましたが、その算定件数は診療料(病院が主対象)93施設、同加算(診療所が主対象)4,713施設(2015年7月現在)にとどまっており、今次診療報酬改定での要件緩和が図られたという背景があります。
かかりつけ医機能は、その目的が認知症ケアと小児医療の充実にあるものです。
しかし、2025年問題への対応を念頭とし、今後認知症患者数が増加の一途をたどると懸念されていることから、近年の課題として指摘され、国の重点政策に位置づけられている認知症ケアについては、特に評価を充実することで地域が認知症患者を支える体制づくりが重視されました。
これを受けて、認知症治療に関する評価については、かかりつけ医(主治医)機能の推進と併せて、重複投薬等の減少を図る包括評価を導入するなどの重点化が行われたといえます。

認知症ケアをめぐる外来医療の主要な今次改定点

新たな評価が導入されたとはいえ、診療所が主な算定対象である上記加算は30点にとどまり、算定への大きなインセンティブになっているとはいい難い状況です。
一方で、今後の診療報酬改定においても認知症ケアの重点化を通じ、かかりつけ医の役割は大きいといえるため、地域医療を担うかかりつけ医としての診療所は、かかりつけ機能充実を重視する必要があります。

(2)かかりつけ薬剤師との連携への期待

前述のように、かかりつけ医機能のなかでも焦点となっている認知症ケア評価では、薬剤を多種類併用する患者を対象外とし、減薬への取り組みが明確にされました。
そのため、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師との連携を通じて、医療費抑制策の一つとして位置づけられる多剤併用問題の解消を図るため、特にかかりつけ薬剤師との連携に期待が寄せられています。
かかりつけ薬剤師は、今次診療報酬改定において、その行う業務が次のように示されています。

かかりつけ医とかかりつけ薬剤師との連携イメージ

かかりつけ薬剤師・薬局に関する社会の認知度はそれほど広がっておらず、一般化にはまだ時間がかかる見込みですが、特に在宅での減薬の取り組みでは、介護等を含め多くの職種による連携が必要であり、在宅で療養する認知症患者に対する成果が期待されています。

2.認知症患者に対するかかりつけ機能による地域ケアのあり方

薬剤師だけではなく、今次診療報酬改定では歯科診療所にかかるかかりつけ機能の評価が導入されたことにより、仮に歯科通院患者が認知症や脳卒中等を発症したことで在宅医療に移行した場合でも、医歯薬各分野がかかりつけ機能を発揮し、地域全体で患者のケアに取り組む体制づくりが求められています。
かかりつけ医としての診療所は、これら対象となる患者の情報の共有や退院支援に関わり、国が目指す地域全体でのケア実現に加わっていくことで、今後評価の重点化が見込まれる在宅医療における役割発揮も可能になります。

地域における急性期から在宅医療に至るかかりつけ機能のイメージ

4.診療所は外来と在宅の連携強化が重要

1.かかりつけ医が行う在宅医療への転換

(1)新設された在宅医療専門診療所との連携

在宅療養支援診療所のうち、現行の機能強化型の施設基準に加えて一定の要件を満たしている診療所については、外来診療を行わなくても診療報酬上で評価するという新たな施設基準が設けられました。
そのため、在宅療養患者については、従来は自院の外来患者が退院後に在宅移行するケースが多くを占めていたものの、今後はかかりつけ医の普及に従い、在宅医療専門診療所とかかりつけ医の連携により、在宅支援を行うパターンが増えることが予想されます。

在宅医療専門診療所の施設基準

(2)かかりつけ医による外来と在宅のシームレスケア

また、前述の要件では、在宅時医学総合管理料等の算定対象から、要介護1および2の患者を除外していることから、今後の介護保険制度改革などで、訪問診療の対象から要介護1・2の高齢者が対象外となり、かかりつけ医である診療所がこうした高齢者を患者として療養支援と健康管理等を行うパターンが想定されるため、かかりつけ医としては、在宅医療専門診療所との連携強化、密接な情報交換を積極的に推進することが重要です。

2.かかりつけ医としての在宅の取り組みポイント

(1)地域におけるかかりつけ医を目指す

かかりつけ医は今後、在宅医療までをフォローする役割が期待されており、その入り口としては、地域におけるかかりつけ医として信頼を得ることが必要です。

将来期待される「かかりつけ医」としての診療所~施策の方向性より

(2)「かかりつけ」機能充実への対応策

今次診療報酬改定で医歯薬3分野におけるかかりつけ機能の評価が導入されたことで、連携先の対象は診療所・病院だけではなく、多職種に広がったといえます。
かかりつけ機能は連携によって充実し、精度を向上させるものであるため、今後は一層の連携強化等に取り組むことが求められています。

「かかりつけ」機能充実への対応策

3.かかりつけ医との連携強化を推進する病院の事例

昭和大学病院・昭和大学病院附属東病院では、地域医療機関の相互協力の下で、「ふたり主治医制度」という地域医療連携を推進しています。

「ふたり主治医制度」とは~かかりつけ医との連携で継続的に治療が可能

同病院では、紹介患者の受診・診療後、症状が安定した患者については、再びかかりつけ医の元で治療を継続してもらうことを基本としながら、症状悪化や入院医療を要する状況になった場合には対応する旨を説明しており、患者からは安心を、かかりつけ医からは信頼を得ています。
かかりつけ医である「地域連携協力機関」は、582医療機関(平成28年5月現在)の登録を数え、活発な地域医療連携ネットワークの要として機能しており、またかかりつけ医としても入院の受け皿確保だけでなく、高い専門性のバックアップが約束されます。
同様の地域医療連携推進は公立能登総合病院でも展開されており、診療所はこうした連携先を選定し、積極的にネットワークに参加することで「かかりつけ」機能の充実を図ることを可能にしています。

ふたり主治医制度

 

■参考文献
厚生労働省「平成26年度診療報酬改定の概要」
厚生労働省「平成28年度診療報酬改定の概要」
昭和大学病院ホームページ「ふたり主治医制度」について

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