社員の自己管理に役立つ 成果に結びつくマインドフルネス活用法

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社員の自己管理に役立つ 成果に結びつくマインドフルネス活用法

  1. マインドフルネスとは
  2. マインドフルネスの基本的なトレーニング
  3. マインドフルネスの実践術
  4. 職場における活用法

 


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1.マインドフルネスとは

1.今、なぜ「マインドフルネス」が注目されているのか

近年、「マインドフルネス」という方法論が注目を浴びています。
その語源は仏教における瞑想法に基づいていますが、その方法論は現代において日常生活からビジネスシーンまで、幅広く活用できるものです。
グーグルやアップルコンピュータなど、世界のリーディングカンパニーでも、その方法論を取り入れたトレーニングやエクササイズにより、社員一人ひとりの自己管理能力を高め、組織全体のパフォーマンス向上に役立てていると言われています。
今回は、近年注目を浴びているマインドフルネスという方法論について解説し、職場において社員一人ひとりが自己管理を行って精神・身体いずれも良好な状態を維持し、組織全体の活性化に結び付けるためのノウハウについてご紹介します。

2.「マインドフルネス」とは

「マインドフルネス」という言葉を日本語に直訳すると、「気を配っている状態、意識している状態」という意味になります。
その語源は、パーリ語のサティ(sati)を英訳したものであり、日本語では「気づき」、仏教的には「念」という解釈にもなります。
「マインドフルネス」とは、「今、この瞬間の体験に意識を向けている状態」である、という説明が一般的に使われることが多いようです。

「マインドフルネス」という状態

2013年に日本国内で発足した「日本マインドフルネス学会」では、マインドフルネスという状態を次のように定義しています。

今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること

これを言い換えると、現状、目の前に問題や課題が山積している状態に対し、自己の置かれている状況を冷静に、客観的に、俯瞰して視ることで、今ある状況をあるがままに受け入れるとともに、目の前のタスク(=やらなければいけないこと)に集中する、という状態を表しています。
これは、仕事の場面を想定して考えると、自らの作業や業務の状況を客観的にとらえ、仕事の優先順位を的確にとらえて効率よく作業を進められるよう、自己を律する状態になれること、と言えます。

3.「マインドフルネス」という方法論

仏教では「苦」を滅して幸せになるためには、自分自身のみならず周辺環境も含め客観視することが必要である、と説いており、そのトレーニングの方法として「瞑想」をあげています。
仏教の瞑想の一種では、「今、ここ」で起こっている(呼吸や身体感覚や感情など)瞬間の事実のみに集中して観察する、というものがあります。
このトレーニング法を中心にその効用をプログラムとして活用しようとするのが、「マインドフルネス」という方法論です。
マインドフルネスの効用としては、第一にストレスの低減・集中力の向上・感情をコントロールする力の向上・認識力の向上・免疫機能の改善といった、個人に向けたものがあげられます。
しかしそれにとどまらず、企業組織としての効率性の向上など、さまざまな効用にスポットを当てて説明されたり、脳科学との対比で説明されることが多々あります。

4.マインドフルネスという方法論が確立してきた経緯

「マインドフルネス」という言葉自体は状態を指す言葉とされ、20世紀終盤にマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン氏が認知療法に瞑想を組み入れた「マインドフルネスストレス低減法」を始めたことにより、米国で定着し始めたと言われています。
本格的にポピュラーになったのは、2007年にグーグルが「マインドフルネス」に基づいたリーダーシップ研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ」を導入し注目を浴びたことによります。
その後、アップルやジェネラル・エレクトロニック、スターバックス、ゴールドマン・サックスといった、世界規模の大企業でビジネスの活性化や社員の健康維持などで取り入れられるようになりました。
日本でも2010年頃からワークショップが行われたりするなど、ブームになり、2013年には「日本マインドフルネス学会」が設立されました。

5.マインドフルネスによる効能

これまでの多くの研究から、マインドフルネスな状態のトレーニングやその方法論に基づく治療方法が、抑うつ状態の軽減に効果的であることが臨床的に示されてきましたが,そのメカニズムはまだ明らかになっていません。
しかし、それらの研究から派生した様々なトレーニング方法から、個人の心身両面から健康をコントロールすることに主眼をおき、日常生活の多様な場面でその効果を発揮することができると考えられています。
これをビジネスシーンにも応用することで、職場における社員一人ひとりの自己管理に役立て、ひいては組織全体の活性化に良い影響を及ぼすことができると考えられます。

「マインドフルネス」に基づくトレーニングの効能

2.マインドフルネスの基本的なトレーニング

1.マインドフルネスな状態を目指す

本章では、「マインドフルネスな状態」を目指すためのトレーニング方法をご紹介します。
まずは日常の中で繰り返し実践できる基本的なトレーニング方法として、(1)思考法と(2)瞑想法があります。
なお、ここでいう「マインドフルネスな状態」とは、前掲した日本マインドフルネス学会の定義であるところの、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」をいい、自身の感覚や思考、感情をまるごとすべて観察の対象とします。

2.マインドフルな思考法

マインドフルな思考法は、概ね次のような3段階のステップに分解することができます。
この中で特に重要なのは、最初のステップにおける「気づき」です。

マインドフルな思考法 3つのステップ

重要なのは、まず自身に対し客観的に目を向けて、現状を受け入れることです。
自分が今、「怒っている」とか「焦っている」といった状態であることを冷静に認知することができれば、他者を批判したり、逃避したりせず、自己を脅かしている要因に対し客観的に向き合い、それを取り除く合理的な解決策を見出すことができるようになります。
自動思考に陥ると、特にネガティブなものは「認知の歪み」と呼ばれており、代表的な分類を次の表に示します。

認知の歪み 代表的な10パターン

こうした分類は、心の治療法である認知療法(認知行動療法)に役立てられていますが、マインドフルな思考法においても、上記のようなこだわった考え方を軟化させていくことが重要です。
ふとしたときに、自分自身の考え方が「認知の歪み」にとらわれていないか、思い込みや決めつけによって判断していないか、を振り返ると良いでしょう。

3.呼吸瞑想と歩行瞑想

マインドフルネスにおいてはトレーニングの一種として瞑想が頻繁にとりあげられますが、日常生活の中で手軽にできる、基本の型とでもいうべき瞑想法があります。
ここでは、代表的なふたつの手法として、(1) 呼吸瞑想と (2) 歩行瞑想をご紹介します。

呼吸瞑想と歩行瞑想

4.発想の転換と心身のコントロール

これらの思考法や瞑想法を行う目的は、第一義的には、日々のストレスからくる不安や苛立ちを和らげ、心身ともに健康な生活を送ることです。
以下にご紹介する方法は、ネガティブな出来事を発想の転換から前向きなこととしてとらえたり、新たな気づきによって心身の良好な状態を維持するためのものです。
これらは、後述するビジネスシーンにおける効率性の向上などにも寄与します。

日常的な問題に直面した際の発想の転換方法

3.マインドフルネスの実践術

1.マインドフルネスの具体的な実践方法

本章では、個人の自己管理に役立てるためのマインドフルネスのより具体的な実践方法(プラクティスやエクササイズと呼ばれるもの)について解説していきます。
マインドフルネスな状態でのトレーニングによって得られる効能と、それぞれの目的ごとに重点的に意識すべきキーワードは、次のように整理できます。

目的別の主なトレーニング方法

2.脳の状態を整え、注意力を高める方法

呼吸を整え、身体感覚に注意を向けることで、瞑想などを通じ、脳の状態を整えます。
また、目の前の物事に集中し「焦点を絞る」エクササイズと、目の前に広がる状況をあるがままに受け入れる「開かれた観察眼を持つ」エクササイズを繰り返すことで、注意力を高めることができます。
目の前の物事に集中し「焦点を絞る」ことを「焦点化する力(focused attenstion)」と呼びます。
これは、周囲の雑音や雑念にとらわれず、注意を焦点化することで今取り組んでいる物事に対する集中力の維持を図るものです。
一方、目の前の状況をあるがままに迎え入れる「開かれた観察力(open monitoring)」は、ひとつの物事にとらわれ過ぎず、全体を俯瞰できる広い視野を持つことを言います。
脳の状態を整えることでインプットやアウトプットの能率が向上し、また、注意力を高めることで気づきが増し、効率よく仕事を進めることができるようになります。

「焦点化する力」と「開かれた観察力」

3.怒りを鎮め、ネガティブな感情を抑える方法

仕事をはじめとした日々の出来事によって蓄積されたストレスや、突発的な事象により生じる怒りに対し、マインドフルネスを用いたエクササイズによって精神を整え、ネガティブな感情に対処することができます。
マインドフルネスにおいては、感情は天気のように移り変わっていくものととらえます。
また、マインドフルネスは「今、この瞬間にある状態に対し、意図的に注意を向けることで現れる気づき」を活用します。このことによって、「怒りを感じている自分」を客観的に見つめ、自身を俯瞰することで怒り(感情)を落ち着かせます。
ゆっくりと深呼吸をしながら感覚をもって身体を巡らせ、感情の流れを探索します。
自分の身体のどこにその感情の根源があるのかを探ることで、自身の感情を客観視することができます。

4.身体の痛みを和らげる方法

マインドフルネスの瞑想法は、脳神経科学の研究によっても効用があることが実証されており、ストレスにより脳内にもたらされる痛みの興奮を鎮め、和らげる効果があります。
ストレスによる慢性的な不安や恐怖により、脳内の痛みによる興奮を鎮めるはたらきをする部位であるDLPFC(背外側前頭前野)の機能が低下することがあります。
慢性的な体の痛みがいつまでも治らず、苦痛を感じる状態が続いてしまいます。
これに対し、呼吸瞑想のエクササイズを行うことで、DLPFCの機能を回復させ、脳内の痛みによる興奮を鎮め、痛みを和らげる効果が発揮されます。
また、マインドフルネスの考え方では、「痛みを感じる自分」を客観視することで、痛みそのものよりも、痛みにより与えられる苦しみ=苦痛を取り除くことをより重視します。

5.他人への共感力を高める方法

職場に限らず、相手(上司、同僚、部下、顧客)に対し共感力を高めることができれば、円滑なコミュニケーションを育むことができます。
マインドフルネスにおいては、自身に対する俯瞰的な視点から相手の視点を理解することで、共感力を高めることができます。
近年の研究においては、「共感」は大きく二つに分けて理解する必要性が指摘されています。
相手の視点に立ち、相手の立場や経験を頭で理解しようと努めることを「認知的共感」と呼びます。
一方、相手の感情や痛みを身体的な感覚として共感することを「情緒的共感」と呼んでいます。
「認知的共感」のみならず「情緒的共感」を肯定することで、相手の意図や感情を自動的に察知する「ミラーニューロン」の状態となります。
これは我々の脳に元々備わっており、この共感力を高めることで、相手とのコミュニケーションをより円滑に図るものです。

ミラーニューロンのイメージ図

6.他人を慈しみ、思いやる方法

共感力を高めるトレーニングをさらに深く掘り下げ、「相手(他人)の苦しみを和らげたい」という静かな熱意をもって人間関係を構築していきます。
これを「コンパッション」と呼び、「他人の苦悩を取り除きたいと願うこと」(=慈しみの思い)と定義されています。近年の研究では、人類に限らず多様な動物たちにこの感情が備わっていることが解明されています。
自己を俯瞰することによる気づきが、他者と互いに支え合いたいという情動を呼び覚まし、これを「コンパッション」と呼びます。
前述した共感のトレーニングを積み重ねることで、他者に対しポジティブな感情を抱くことができます。
同時に、「セルフ・コンパッション」という自身に対する慈しみの感情をも育むことが重要視されています。

4.職場における活用術

1.仕事のパフォーマンスを向上させる効能

これまで述べてきたマインドフルネスのトレーニングによる効能によって、ビジネスシーンにおいて様々なパフォーマンスの向上が見込まれます。
基礎的なトレーニングによって集中力や注意力が強化されることは勿論、脳を休めたり情動のコントロールによる切替えができるようになるなど、ストレス耐性の向上やモチベーション管理など、自己管理に役立つ効能は多岐にわたります。
その他、ビジネスシーンで役立つであろう、下記のような効能も期待されています。

ビジネスシーンで役立つ効能

2.リーダーシップの育成

上記でも述べた通り、マインドフルネスのトレーニングによって、下記のような理想的なリーダーシップが育まれることになります。
これは、世界規模でビジネスを展開する大企業においても実際に導入されている、マインドフルネスの活用法なのです。

マインドフルネスが育むリーダーシップ

これらの姿勢が、メンバーから信頼されるリーダー像を作り上げていくことになります。

3.パフォーマンスの向上による費用対効果の事例

最後に、知的障害者の介護施設でのマインドフルネスの導入事例をご紹介します。
この事例では、施設の職員や利用者だけでなく、利用者の家族にもマインドフルネスを導入し、その有効性を研究してきました。
この施設では発達障害児の攻撃性や行動予測が困難なことから、施設の職員や家族が問題意識を抱え、疲弊している状態が続いていたことが問題視されていました。
この施設の職員を対象とした研究では、職員を2つのグループに分け、通常の介護研修を行ったグループと、マインドフルネスによる積極的な行動支援を行ったグループとで比較したところ、7日間の集中プログラムの前後でストレスレベルの減少幅に大きな違いが見られました。
また、費用対効果の面でも効果を発揮しており、職員の負傷による代替職員の配置にかかる費用や治療費、リハビリ費用など、マインドフルネスを導入したグループは、通常の研修を行ったグループに比べ、約40週間のフォローアップ期間をふまえて試算したところ、約1,000万円の経費削減が見込まれることがわかりました。

研修期間中のストレス度合の推移

上のグラフは、研修期間(7日間)中の職員のストレス度合を点数として記録し、その推移を比較したものです。
マインドフルネスを導入したグループのほうが、如実にストレス度合の点数が減少していっているのがわかります。

研修期間後の概算事業費の推移

下のグラフは、研修期間後約40週間の事業費用の概算を算出したものです。
マインドフルネスを導入したグループは、人件費や医療費等の削減に成功し、通常の研修を行ったグループに比べ、40週目の時点で約1,000万円の費用削減が見込まれます。
以上のように、マインドフルネスを用いた手軽なトレーニングや思考の転換法によって、個人のパフォーマンスを向上させ、心身の良好な状態を維持することができるようになります。これらは中小企業においても取組可能なものであり、リーダーシップの育成や組織全体の活性化にもつながります。

 

■参考文献
「働く人のためのマインドフルネス」菱田 哲也・牧野 宗永 著(PHP研究所)
「脳がクリアになるマインドフルネス仕事術」川野 泰周 著(クロスメディア・パブリッシング)
「超一流のマインドフルネス」千田 琢哉 著(徳間書店)
「福祉職・介護職のためのマインドフルネス」池埜 聡 著(中央法規出版)

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