要介護者増加で高まる訪問ニーズ 歯科訪問診療の 推進強化策

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  1. 中医協調査にみる歯科訪問診療の実態
  2. 厚生労働省による在宅歯科医療の推進
  3. 変わる在宅歯科医療の診療体制
  4. 歯科訪問診療を行っている歯科医院事例

 


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1.中医協調査にみる歯科訪問診療の実態

少子高齢化社会を受けて、厚生労働省は在宅医療への推進を強化する方針を打ち出しています。
若年層の減少、通院困難な高齢者の増加による外来患者の減少が予想されるなかで、医療保険および介護保険、診療報酬点数や施設基準を理解し、歯科訪問診療に取組む準備が必要です。

1.年齢別歯科推計患者数

(1)要介護者の増加

高齢化による要支援・要介護者は年々増加しており、平成24年には約540万人弱となっています。
要介護者の多くは、在宅歯科診療の潜在患者と考えられ、介護施設への入居者のほか、自宅で在宅医療を受けている方が同じように在宅歯科医療を受けているかというとそうではありません。
潜在的に在宅歯科診療を必要としている患者は多く存在しています。

(2)潜在的な訪問歯科患者数の現状

中医協が在宅医療推進会議で示された資料によると、調査した要介護者の約9割が歯科治療または専門的な口腔ケアが必要なのに対し、実際に歯科受診した要介護者はそのうちの約27%しかいないと報告されています。
訪問歯科の潜在患者数はまだまだ多くいますし、今後も増加すると予想されます。

2.歯科訪問診療の実施状況

(1)在宅療養支援歯科診療所の届出状況

在宅療養支援歯科診療所とは、在宅又は社会福祉施設等における療養を歯科医療面から支援する歯科診療所であり、平成20年度の診療報酬改定時に創設されました。
在宅療養支援歯科診療所の届出数は、平成21年から3年程度は横ばい状況でしたが、施設基準に必要な研修の充実もあり、平成24年から増加しています。
平成26年では全国で6,054施設の歯科診療所が届出をしていますが、中医協によると、その届出数は全歯科診療所の約9%にとどまっていると報告されています。

(2)診療体制別の歯科訪問診療等患者数

中医協の調査では、平成27年6月に歯科訪問診療を実施した患者総の平均は一診療所当り約80人でした。
そのうち歯科訪問診療を積極的に行っている(歯科訪問診療を中心に、外来歯科診療と歯科訪問診療を同時に行っている)診療所では300人弱、それ以外の外来を中心に行っている診療所では100人以下という結果でした。
平成25年6月と比較すると患者数は増加している状態がわかります。

2.厚生労働省による在宅歯科医療の推進

1.内閣府の介護・在宅医療への取り組み方針

内閣府では高齢社会対策として、「健康・介護・医療等分野に係る基本的施策」を発表し、介護や在宅医療に対し、様々な施策を打ち出しています。
高齢化社会への対策が必須な状況と医療費介護費の増大から医療保険・介護保険制度の持続のために、様々な政策に取り組んでいます。

2.診療報酬改定による強化と見直し

平成28年度診療報酬改定において、「在宅歯科医療の推進」の方針から、歯科訪問診療を行っている実態に合わせて、診療報酬算定条件の新設や、在宅歯科診療の実態に合わせるような要件の見直しが行われました。

(1)診療報酬改定の算定要件の新設と強化(加算)と条件緩和

平成28年診療報酬改定では、口腔機能の管理等に関し、算定要件が新設されました。
また、歯科訪問診療の重要性と困難性を加味し、処置等に対して診療報酬の加算と在宅患者の症状によっての診療要件も緩和されています。

(2)診療点数の見直し

歯科訪問診療の実態に合わせ、診療点数の見直し(マイナス改定)もありました。

3.変わる在宅歯科医療の診療体制

1.在宅歯科医療の診療体制の構築

少子高齢化は今後も進展するため、在宅歯科医療の需要は年々増加していきます。
在宅歯科医療への取り組みは歯科診療所としても重要な課題となっていますが、実際には進んでいない状況があります。
今後の歯科診療所の経営安定や地域の医療貢献のためには、「在宅歯科医療」「歯科訪問診療」への取り組みが重要となります。「訪問歯科診療を行う」だけではなく、しっかりとした診療体制を構築しなければ患者側からも選ばれることはありません。
患者のニーズに合わせた診療体制の構築が必要です。

在宅歯科診療を行っている歯科診療所でも、在宅患者を多く集めている歯科診療所には大きく2つの特徴があります。
複数の歯科医師で外来も訪問歯科診療も常時行っている歯科診療所や、訪問歯科診療を中心とする歯科診療所に在宅患者が集まっています。
昼休みに訪問歯科医療を行う、あるいは週に1回午後のみ訪問歯科医療を行う、または患者からの要望に対し、外来状況をみながらその時々に応じるという歯科診療所には、在宅患者は集まりません。
常時訪問歯科診療を行っている歯科診療所が患者を集め、良い診療所運営ができています。
在宅患者のニーズに合わせた診療体制の構築が重要です。

2.医療連携による訪問歯科医療

厚生労働省では「在宅医療・介護連携推進事業」を進めています。
実際にも医療機関や介護施設との連携から訪問歯科医療を伸ばしている歯科診療所があります。
口腔内ケアにより医科の疾病防止となる症例は多く報告されています。実情と患者の知識のズレが口腔内ケアの後回しにつながっています。
口腔内ケアの重要性は、医療機関や介護施設との連携から、医療・介護側から積極的に周知を図ることで理解が深まり、在宅患者のニーズも増加していきます。

3.在宅歯科医療専門の医療機関の新設

従来、在宅医療専門の歯科診療所を開設する場合、保健所の開設要件では、外来患者に対応できるように放射線防護を施したX線室の造作や、治療ユニットの設置など、実際には来院しない患者用として設備投資を余儀なくされていました。
新たな基準である「在宅歯科医療専門の医療機関」として認められれば、多額で余計な設備投資や経費は必要ありません。
開設する諸条件を確認し、保健所との相談を重ねて準備する必要があります。

(1)在宅歯科医療専門の医療機関の指定条件

歯科診療所は、全ての被保険者に対して療養の給付を行う開放性を有する観点から、外来応需の体制を有することが必要とされています。
しかし、在宅歯科医療専門の医療機関では、以下の要件を全て満たすことが確認できる場合は、保険医療機関としての指定が認められます。

(2)在宅歯科医療を専門に行う医療機関のメリット

在宅歯科医療を専門に行う医療機関が認められることにより、診療所面積の縮小や外来患者用の診療台・X線装置の設置が求められない、イニシャルコスト・ランニングコストの削減というメリットが生まれました。

4.歯科訪問診療を行っている歯科医院事例

1.通史型カルテシステムの導入で効率化を図っているS歯科

S歯科は、大都市副都心にあるメディカルビル内の歯科診療所です。
外来と歯科訪問診療を年中無休で診療し、土日祝日の訪問診療を行うことにより、訪問診療の依頼増加だけでなく、在宅患者の身内や友人知人が外来へと相乗効果が表れています。
また、新たなカルテシステムを導入しています。
モバイルPCにより、訪問診療の現場で診療内容を入力や以前のカルテ閲覧もできます。
ケアマネージャーに対する提供文書作成や一般保険と介護請求が同時に入力できます。
訪問診療後の手間の削減ができ、診療の効率化、情報の共有化が図れています。

◆特徴:常時通信されているカルテシステムの導入

訪問歯科診療時に、診療所と繋がっているカルテシステムにより、カルテの確認と入力ができ、効率化のほか、患者からの信頼もアップしています。

2.病院との連携で在宅患者を確保しているFデンタルクリニック

Fデンタルクリニックは、地方都市にあるテナントで開業している訪問診療専門の歯科診療所であり、小回りの利く訪問歯科診療所として在宅患者と病院の入院患者を主に対象としています。
歯科を標榜していない病院と連携して、歯科訪問診療が必要な退院患者の紹介と入院患者への口腔機能ケアを行っています。

◆特徴:医療機関との連携

病院との連携により、入院患者、退院患者への訪問診療を行っています。

また、退院前カンファレンスには歯科医師が参加し、看護師、地域連携室、病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)等との連携を取り、訪問歯科診療計画を病院の協力のもと策定しています。
退院時ケアでは口腔機能の回復や定期管理を主たる目的としています。

 

■参考文献及び参考資料
厚生労働省ホームページ「平成28年度診療報酬改定の概要 在宅歯科医療の推進」
厚生労働省ホームページ「平成27年11月 中医協」議事録
JP-DENTAL「歯科保険請求情報
平成28年改定後の在宅療養支援歯科診療所の施設基準について」
アポロニア21 2016年12月号「在宅専門歯科医院はなぜ普及しないのか?」
株式会社 オプテックホームページ「介護保険対応 歯科訪問医療システム」
内閣府ホームページ「平成28年度の高齢社会対策」
財団法人8020推進財団「地域医療の新たなる展開」

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