増収に向けた新たな取組み クリニックの介護事業参入ポイント

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増収に向けた新たな取組み クリニックの介護事業参入ポイント

  1. 訪問及び通所介護サービスへの参入メリット
  2. 保険外介護サービスの動向と展開事例
  3. 介護事業に対する指導・監査の概要と留意点
  4. 介護事業を展開しているクリニック事例


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1.訪問及び通所介護サービスへの参入メリット

1.2015年介護報酬改定でプラス評価となった訪問系サービス

昨年の介護報酬改定は、全体の改定率が▲2.27%でした。
特に在宅系でのマイナス幅が大きかったため、多くの施設で経営的な影響を受けました。
本改定は、重点化と効率化に焦点が絞られた内容となっており、介護事業者は、基本報酬引き下げをいかに加算でカバーするかが課題となっています。

2015年介護報酬改定率

医療機関においては、医師や看護師など有資格者がいることが強みであり、他の介護事業者と差別化を図ることが可能です。
長期投薬の影響による外来収入の減少をカバーする対策として、介護事業への参画は重要な選択肢の一つです。

(1)訪問看護

訪問看護は、地域差はあるものの医療ニーズの高まりが想定されるサービスで、特に認知症などの対応に大きな期待が集まっています。

主な訪問看護サービス内容

昨年の改定で、訪問看護ステーションにおける訪問看護が2.5%程度引き下げられたのに対して、診療所からの訪問看護はプラス改定となっています。

主なサービス内容

この背景には、訪問看護ステーションとの報酬格差を圧縮・是正することで、診療所の参入や本格的なサービス展開を後押しする目的があったものといえます。

(2)訪問リハビリテーション

訪問看護がプラス評価であったのに対して、訪問リハビリテーションの基本報酬は、1回当たり307単位から302単位へ引き下げられました。

一方で、適切な評価に基づいたゴール設定を徹底するため、リハビリテーション計画の策定から実施までのプロセス管理を強化するねらいとして、2009年度改定でいったん廃止された「リハビリテーションマネジメント加算」(60及び150単位)が新設され、基本報酬のマイナス分を十分にカバーできるものとなりました。

主な訪問リハビリサービス内容

2.通所介護サービスの動向

(1)通所介護(デイサービス)

通所介護サービス(デイサービス)とは、要支援・要介護の認定を受けた在宅の高齢者に施設へ通所してもらい、入浴・食事・マッサージ・リハビリテーション・レクリエーションなどのサービスを提供するものです。
近年では医療機関においても人員や提供施設を整備して、積極的に事業展開を行うところも出てきました。
昨年の介護報酬改定では、小規模系の基本報酬が10%程度の大きな引き下げとなりましたが、中重度者ケア体制加算及び認知症加算が新設され、一定程度マイナス分をカバーできる内容となっています。

(2)通所リハビリテーション(デイケア)

通所リハビリテーション(デイケア)とは、利用者の心身の機能維持回復を図るため、日帰りで施設に通いながら理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションや介護・看護を受ける介護保険上のサービスです。
医師の配置が要件となっているため、病院や診療所で実施している先が大多数を占めています。
訪問リハビリテーションとともに、通所リハビリテーションにおいても、リハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)が新設されました。
算定要件には、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネジャーなどが参加する「リハビリテーション会議」の開催が義務付けられているほか、次のような要件を満たす必要があることから、かかりつけ医として診療所が果たす役割は大きなものだといえます。

リハビリテーションマネジメント加算(Ⅱ)算定要件<抜粋>

医療政策の流れから、病院と診療所の機能分化・役割分担は今後も継続すると思われ、急性期及び回復期リハビリテーション機能を有する病院の後方支援として、診療所が地域包括ケアシステムのなかで担う役割を果たすべく、リハビリテーションの充実を図ることによって、収益向上の効果も期待されています。

2.保険外介護サービスの動向と展開事例

1.地域医療構想に向け推進される保険外介護サービス

(1)保険外サービス活用ガイドブック策定の経緯

平成28年3月に「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)」(以下、ガイドブック)が、厚生労働省および農林水産省、ならびに経済産業省により策定、公表されました。
保険外事業に関し、行政がガイドラインを策定・公開して事業展開事例を紹介する例は、極めて珍しいケースです。
本ガイドブックは、経済産業省「次世代ヘルスケア産業協議会」による「アクションプラン2015(平成27年5月)」に基づき、公的サービスの産業化計画のプログラムとして今年度までに策定することになっていたものです。
うち介護分野においては、「地域包括ケアシステムと連携した民間サービスの活用」の具体策の一つとして、事業者および自治体に対して公的介護保険外サービスを創出する上での基本的な考え方、留意点、想定されるビジネスイメージ等を示すガイドブックが策定されました。

ガイドライン策定の背景

(2)サービス事例の抽出について

ガイドラインでは、全ての高齢者向けの保険外サービスの事例を調査したものではないとしながらも、サービス分野として、見守り、食、買い物といった基本的な生活を支える分野だけではなく、旅行・外出や趣味なども含め、幅広い領域の事例を取り扱うよう留意されています。
例えば、「加齢によってできなくなったことをカバーする」すなわち、「マイナス状態をゼロに戻す」サービスに限らず、介護予防や介護状態の改善につながるものや、「ゼロからプラス」の喜びや楽しみにつながるといった、QOLの向上に寄与するサービスを積極的に取り上げています
ガイドライン掲載の事例は、次のような観点から抽出されました。

事例抽出の際の着目点

2.保険外サービスの優良事例

(1)「顧客参画型」モデルでの家事代行サービス

クラブツーリズム株式会社が行っている家事代行サービス「ぐっと楽」は、家事代行から、家具の移動や病院の付き添いまで、シニアの生活を幅広くサポートするとともに、元気シニアにとっての「働く場」や「活躍の場」も提供しています。

商品・サービス概要

(2)安否確認にとどまらない会話型見守りサービス

株式会社こころみが展開している見守サービスは、高齢者に担当コミュニケーターが毎週2回電話をし、電話の内容をその都度ご家族にメールでレポートするというサービスです。
高齢者が安心して打ち解けられるように工夫するなど、コーチングを学んだコミュニケーターが初回申込時に直接訪問を行い、元気でいられる期間を少しでも伸ばすことに寄与するものです。

商品・サービス概要

3.介護事業に対する指導・監査の概要と留意点

1.介護事業に対する指導・監査の概要

介護事業における指導・監査は、医療機関に対して行われている「個別指導」や「適時調査」のように、主に療養担当規則違反や不正請求に関係するもの以外に、虐待や身体拘束といった日常的な対応を重視していることを十分に認識する必要があります。

指導と監査の区分

(1)指導

指導には、集団指導と実地指導があり、高齢者虐待防止法が施行された平成18年より強化されました。

実地指導の主な内容

(2)監査

監査は、入手した以下に示す情報等によって、人員、設備及び運営基準等の指定基準違反や不正請求が認められる場合、又はその疑いがあると認められる場合に実施されます。

監査

2.厳しさを増す指導・監査の状況

(1)行政処分事例

近年増加する高齢者虐待などの悪質な人格尊重義務違反などに対応するために、本年4月より抜き打ちの実地指導がスタートしました。
介護サービスへの参入には、日常的なコンプライアンスの確保に向けた取り組みの重要性が一層増したといえます。
実地指導に基づく最近の行政処分の状況は、次のとおりです。

実地指導による行政処分状況(2014年~2016年分:抜粋)

(2)実地指導の実施状況

実地指導の実施率は、全体で16.6%と低い印象をうけますが、これは指定更新のサイクルが6年であることが起因しているものです。
また、総じて入所系の施設で高い傾向が窺えます。

実地指導の実施状況(2014年)

以上のように、実地指導では訪問介護と通所介護を中心として、医療分野における指導・監査以上に厳しいチェックが実施され、不適切な行為については厳格な処分がなされていることを認識したうえで、適切な運営に取り組む必要があります。

4.介護事業を展開しているクリニック事例

1.Aクリニックの展開事例

(1)業績回復策として訪問リハビリテーションを選択

中核市にある医療法人Aクリニックは、昭和63年に有床診療所(19床)として開業し、その後無床診療所に転換したことから、従来の病棟スペースを活用する目的で、平成12年に通所リハビリテーション(デイケア)を開設しました。
経営は順調に推移していましたが、長期投薬による受診回数の減少や競合医院の進出により外来収入の減少が続き、打開策を検討していたところ、院長が訪問診療を通じて在宅でのリハビリニーズを実感したことから訪問リハビリテーション実施の構想を持ち、平成26年11月より居宅介護支援事業所、さらに翌27年1月より訪問リハビリテーションをスタートさせました。

Aクリニック 概要

(2)Aクリニックの業績推移

平成24年に1億4千万円を超えていた外来収入は、平成28年には1億2千800万円と1千400万円の減少となりました。
こうした事態を受けて、平成26年7月から役員報酬と法人に対する家賃引き下げに合わせて新事業の検討を開始し、平成27年1月から訪問リハビリテーションをスタートしました。
平成28年6月期は、1年半を経過した訪問リハビリテーションが軌道に乗り、かつ介護事業を支援する目的で先行して立ち上げた居宅介護支援事業所も採算ベースに乗ったことから、医業収入が約2億円に、さらに経常利益は約700万円に回復しました。

過去5年間の業績推移

2.新事業の概要と利用者推移

(1)居宅介護支援事業所の開設

ケアマネジャーの資格を有していた看護部長が定年を迎えたことを契機に、同人の継続雇用と居宅介護支援事業所の所長就任を打診し、開設に至りました。
デイケア利用者の増加を図ることと、訪問リハビリテーションを開設するにあたり、ケアプランにメニューを加えるという2つの目的がありました。
初年度は90万円の収入にとどまりましたが、徐々に利用者が増え、平成28年6月期では400万円の収入となりました。

(2)訪問リハビリテーションの開始

訪問リハビリテーション事業の開設は、同事業を実施したいという理学療法士との出会いがきっかけでした。
当時理学療法士が在籍していた病院では訪問リハ実施の計画がなかったため、訪問診療を実施しているAクリニック院長に相談がありました。
事業の採算性を検討し、20名の利用者が確保できれば収支は見合うと判断しました。
立ち上げ時は、理学療法士1名でスタートしましたが、現在は理学療法士2名、作業療法士1名の3名体制で運営しており、平成28年8月の利用者は介護保険対象者32名、医療保険対象者3名の計35名が利用しています。
訪問リハビリテーションの単価は下記のとおりですが、平均単価は介護保険利用者で1人当たり月額46,400円、1回あたり約7,040円となっています。

訪問リハビリテーションの単価

(3)訪問リハビリテーションの収入推移と相乗効果

平成28年6月からは3名体制となり、月約180万円の収入が確保できるペースとなりました。
院長は訪問リハビリテーションについて、投資コストがかからない点、また利用者の情報により、訪問診療やデイケアの利用者紹介などの相乗効果がある点が大きなメリットだと認識しています。
実際の投資額は、軽車両2台と備品が60万円程度と高いものではありませんでした。
一方で、市や介護施設で実施しているデイサービスに利用者を奪われた時期がありましたが、リハビリテーションに特化しているという評判が生まれ、デイケアとデイサービスの違いを理解した利用者が戻ってきています。
現在、さらにスタッフの増員を図り、拠点を増やすことも検討しています。

訪問リハビリテーションの収入推移

 

■参考文献
厚生労働省、農林水産省、経済産業省「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集(保険外サービス活用ガイドブック)」(平成28年3月)
厚生労働省老健局「介護保険施設等実地指導マニュアル(改定版)」(平成22年3月)
日経ヘルスケア「介護『指導・監査』の最新動向2016」(平成28年9月)

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