歯科診療環境の変化に対応 予防歯科強化のポイント

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歯科診療環境の変化に対応 予防歯科強化のポイント

  1. 予防歯科への取組みの重要性
  2. かかりつけ歯科医機能の評価と重症化予防
  3. 予防歯科を患者に浸透させる方法
  4. 歯科衛生士の養成方法

 


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1.予防歯科への取組みの重要性

近年、歯科診療を取り巻く環境が変化してきています。
今までは治療が必要な新患を獲得するかがポイントで、広告等の宣伝を行い、夜間診療や土日診療、最新医療機器の導入など、他院と患者受け入れ態勢や診療技術の差別化を図ることを目的としていました。
現在は歯磨きの習慣化や乳幼児からフッ素塗布等が浸透し、子どもの虫歯が減少しています。
一方で、ネットやSNSの普及によって特に最近の若い人は歯を健康に保つための知識を取り入れ、予防やホワイトニングなどに対する興味など、歯に対する美意識が高まっています。
また、高齢化の進展により、口腔機能の維持・回復の視点も、その重要性が高まっています。

1.歯科診療における環境変化

(1)う蝕有病率の減少

厚生労働省の調査では、小児のう蝕有病率は年々減少しています。
下記の推移のとおり、平成元年と平成27年の1人平均う蝕歯数を比較すると、3歳児が2.9本から0.6本、12歳児が4.3本から0.9本に減少しており、3歳児、12歳児ともにう蝕有病率は年々減少しています。

3歳児、12歳児の一人平均う蝕歯数の年次推移

(2)高齢患者の増加

推計患者数の年齢階級別の推移は、64歳以下で減少傾向にある一方で、65歳以上(特に75歳以上)で患者の増加が著しく、平成26年で4割に達しています。
この傾向は、今後も増加すると予想されています。

推計患者数の年齢階級別割合

3.予防歯科の重要性

(1)予防歯科の強化

歯は削るとどんなに補綴しても、元に戻りません。
できるだけ歯を削らず、自然的な再生を行うことができれば自分の歯で長く生活できます。
政府では、「8020運動」という80歳で20本以上の自分の歯を持っているような取り組みを行っています。
高度な治療も大切ですが予防歯科への取組みは、より重要になってきています。
そのために、きちんとしたブラッシング指導や、歯科衛生士による定期的な歯石除去などの管理を行う予防処置が不可欠です。
歯周病菌は、歯茎の出血部位から咀嚼するたびに血管のなかに圧入されます。
その結果、菌血症を起こして、糖尿病や早産、心疾患のほか、最近では認知症の原因の一つとなっていることも分かってきました。
予防歯科は大きな患者利益であり、予防歯科の延長上に治療があるという院長の意識改革が重要です。

(2)予防と治療の利益比較

むし歯や歯周病で通院し、長期の日数をかけて治療が終わった患者は、今後は何とかむし歯や歯周病になりたくないと考えるものです。
既存患者の一定数を定期予防による来院患者として囲い込めると、再初診患者が増え、医業利益も確保できて経営が安定化します。
また予防歯科は、歯科衛生士の領域であり、レセプト1枚当たりの単価は低くても、治療よりも高い粗利益を確保できます。

予防と治療の利益比較(レセプト1枚当たり)

4.予防歯科を保険適用とするポイント

現在、オンラインでのレセプトデータ送信により、レセプト審査において縦覧点検が可能となり、6ヶ月間の保険請求が連続してチェックされています。
3ヶ月毎でリコールによる定期健診を行っていると、4カ月ごとにその月に歯の疾患で治療を繰り返していることになります。
そのことが診療報酬を傾向的に算定しているのではないかと扱われると、返戻や査定、個別指導になることも考えられます。
これを回避するために予防歯科では、単純な検診ではなく、下記のように検査、診断、処置、再評価という手順を踏む必要があります。

予防歯科受診時の保険対応例

2.かかりつけ歯科医機能の評価と重症化予防

1.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所と予防歯科

う蝕が減少する一方で、高齢化の進展や疾病構造の変化等に伴い、患者の病態像に応じた歯科医療ニーズの高まりを受けて、平成28年度の診療報酬改定において、「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」が新設されました。
歯の形態回復に加え、口腔機能の維持・回復の視点も含めた地域包括ケア(地域完結型医療)における歯科医療提供体制の構築を目指し、特に歯科疾患の重症化予防が評価されています。
平成30年度の診療報酬改定では、さらに施設基準の見直しが実施され、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所と予防歯科への取組みが強化されています。

かかりつけ歯科医機能評価の充実

高齢者が増加する中、「健康長寿社会」を具現化するために求められる歯科医療は、従来のう蝕治療、補綴治療等の歯の形態回復だけでなく、摂食・嚥下に係る口腔機能回復も担うべく、「治す医療」から「治し支える医療」に、「診療所完結型」から「地域完結型」にパラダイムシフトを図ることです。
具体的には、歯科診療所から在宅歯科医療、看取りまでの過程で、病院内外を含めた多職種連携に基づき、死亡と要介護状態の原因である生活習慣病の予防・重症化防止を図り、歯の喪失防止・口腔機能の保持・回復に努めることで自立期間を長くし、健康寿命の延伸に寄与するのです。
予防歯科への取組みから、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所を選択し、治療や新たな体制を構築することで、診療報酬の増収も見込めます。

2.かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の評価等の見直し

平成30年度診療報酬改定では、地域連携及び継続的な口腔機能管理を推進する観点から、かかりつけ歯科医の機能評価及びかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所について、施設基準の見直しがなされています。
同時に、かかりつけ歯科医機能強化型診療所加算や歯科訪問診療補助加算、歯科訪問診療移行加算など各加算の点数が改定されました。

かかりつけ歯科医機能の評価

3.経過措置期間2年以内の施設基準取得を準備

「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」は、今後の地域歯科医療を担う存在であり、診療報酬上もSPTⅡや初期う蝕管理加算が算定できるなどのメリットがあります。
厚生労働省は地域包括ケアを推進しており、今後も強化する方針を打ち出しているため、他院との差別化に有効です。
尚、平成30年3月31日において現にかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所に係る届出を行っている診療所については、平成23年3月31日までの間に限り、改定後のかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準に該当しているものとみなされるため、経過措置の2年間のうちに、取りやすい項目から段階的に基準を満たしても構いません。
ここで特にポイントとなるのが、地域連携に関する会議への参加実績です。
地域ケア会議や在宅医療に関するサービス担当者会議や病院・介護保険施設等で実施される多職種連携に係る会議等などは、地域包括ケアセンターに確認してみましょう。

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準

3.予防歯科を患者に浸透させる方法

予防歯科への取組みには、患者を予防歯科へ誘導するしくみを構築する必要があります。
患者が興味を持って見聞きするタイミングの認識とツールを準備します。

1.患者への働きかけのタイミング

予防歯科を患者へ呼びかける時期が重要です。
病状が発生し、痛みを無くすため治療して欲しい、と思っている状況下では聞いてもらえません。
患者は、治療に長期間にわたる通院を行い、完治までに要した痛みや時間に対して、二度とこんな思いはしたくない、と強く思っている瞬間があります。

予防歯科を患者へ働きかけるタイミング

2.予防歯科の説明ツールの作成

患者を予防歯科へ促すには、口頭での説明だけでは若干印象に残る程度です。
耳で聞くほかに、目で確認してもらうための準備が必要です。

患者に対する予防歯科の説明の工夫

3.予防歯科アポイントを取るシステムづくり

予防歯科のアポイントを確実に取るためのシステムをつくることがポイントです。

アポイントを取るポイント

1週間程度前にリコールハガキを出したり、確認の電話をかけるとより効果的です。

アポイントを取るシステム

4.予防歯科を導入する工夫

(1)保険で行う予防歯科の導入方法

保険で行う予防歯科のメニューは、カリエスチェック(むし歯の発見)、歯周基本検査、年1回程度のパントモ撮影、貼薬、そして歯石除去です。
保険では、歯肉炎やP急発の治療であり定期的に初診を起こすことは不適当とされていますが、28年度改定で「重症化予防」の考え方が導入されました。
このため、4㎜以上の歯周ポケットがある場合は、再SRPの段階からSPT1に移行し、再診で2ヶ月おきに治療を行うことができます。

(2)自費で行う予防歯科の導入方法

位相差顕微鏡をきっかけにする方法があります。

位相差顕微鏡をきっかけにする方法

(3)唾液検査をきっかけにする方法

むし歯治療が終わった患者に再発防止のために提案します。

唾液検査をきっかけにする方法

(4)保険の定期健診の合間のメンテナンスをきっかけにする方法

保険の定期健診は長期で行う歯科医院が多いため、真剣に予防を考えている患者には、短期間での検診をお勧めします。

保険の定期健診の合間のメンテナンスをきっかけにする方法

その他として、成人や子供の予防クラブ等という患者が集まりやすい環境をつくることもありますし、予約専用の診察室や予防メニューの多様化を図ることも、予防歯科への移行を進める強化策になります。

4.歯科衛生士の養成方法

1.歯科衛生士養成の必要性と担当にする際の留意点

予防歯科を開始しようとするとき、ネックになるのが“優秀な歯科衛生士”の確保です。
新卒の歯科衛生士にいきなり予防歯科を任せるわけにいきません。
最低でも2年から3年の経験を持つ歯科衛生士を選任する必要があります。
また、いきなり予防歯科を任せることはできません。歯周病についての研修を行ったうえで、スケーリングやSRPなどの手技を磨かせる必要があります。
さらに、担当患者制にするためには、患者との会話や接遇のスキルも身につけてもらいます。
予防歯科担当の歯科衛生士を任命する際には、次のような点に留意すべきです。

予防歯科担当 歯科衛生士任命の留意点

2.院内研修の実施

歯科衛生士の養成方法には、OJT(オンザジョブトレーニング)で院内の先輩歯科衛生士から若手歯科衛生士に教育する方法が多いようです。
しかし、先輩衛生士の技量や知識が本当に高いかどうかが分からないほか、日常のなかで教育研修の時間の確保が難しい現実があります。

(1)院内OJTによる養成時の注意点

教育ができるレベルの歯科衛生士の養成が前提になることから、診療中だけでなく、診療終了後に若手歯科衛生士を集めた研修を開催するなどの補完的な研修が求められます。
院長及び勤務歯科医師は、この研修の内容や各人の技量の状況を見るため、必ず出席する必要があります。

(2)症例検討会、症例発表会の開催

メンテナンスを行うには多くの経験があると有利です。
実例による経験も必要ですが、症例検討会で、他のスタッフの経験を聞くことも効果です。

症例検討会、症例発表会の開催

3.外部研修への参加

歯科衛生士のスキル向上には、外部研修を受講させるのが早道です。
様々なコースがありますが、スタッフの実力に合った研修会を選択します。
また、研修成果を報告させることで他の歯科衛生士の刺激にもなり、より高度な知識を習得したいというモチベーションアップにもつながります。

外部研修に参加させる方法

 

■参考資料
「ビズアップ総研 予防歯科の導入対策講座」講師 株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村泰久 氏

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