外来医療需要減少時代の到来 将来を予測した 経営対応策

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  1. 外来医療需要減少時代の到来
  2. 医療・介護制度改革の今後の検討課題
  3. 平成30年度診療報酬改定への対応
  4. 外来医療需要減少時代に対応した経営事例


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1.外来医療需要減少時代の到来

1.少子高齢化の進展

日本の高齢化率は、1950年時点で5%に満たなかったものが、2015年には26.7%へと急激に上昇しました。
高齢化は世界に類を見ないスピードで進展し、2060年には39.9%になり、65歳以上人口(高齢者人口)が約2.5人に1人という社会になる見通しです。
この高齢者人口は、今後大規模な都市圏で急激に増加する一方で、人口5万人未満の都市では2020年をピークに減少していくと予測されます。

こうした少子高齢社会の進展に伴い、通院困難な高齢者の増加、若年層の人口減少により、外来患者の減少が予想されています。

2.2025年をピークに外来医療需要減少

2015年3月に公表された経済産業省の「将来の地域医療における保険者と企業の在り方に関する研究会報告書」で、外来医療需要は2025年にピークを迎え、その後減少に転ずるという見通しが示されました。
一方、入院医療需要は2040年にピークを迎え、その後はおおむね横ばいで推移する見込みです。

3.外来医療需要減少・入院医療需要増加の要因

これらの要因としては、高齢化率の上昇と人口減少が考えられます。
入院医療需要は加齢に伴い増加しますが、外来医療需要については若年層の割合が大きいものの、80歳を超えると減少に転じる傾向があります。
そのため、団塊の世代全てが後期高齢者となる2025年にかけて、外来・入院医療需要の双方が増加していき、その中でも入院に関する医療需要の伸びが大きくなるものと考えられます。
2025年以降は、高齢化が引き続き進行する中で、入院医療需要はさらに増加することが予想されます。
他方、外来医療需要は、若年層の人口減少が進行すること、および団塊の世代が80歳以上になることにより減少に転じます。
こうした入院と外来の医療需要の推計から、将来的に多くの地域において、診療所をはじめとする外来医療需要へ対応するための医療資源を、在宅による訪問診療・看護に活用し、入院では回復期・慢性期機能病床の医療需要の増加へ対応することが求められます。

4.増加を続ける診療所開設数

外来医療需要がピークを迎え、減少に差し掛かりつつある一方で、診療所は増加を続けています。
厚生労働省「医療施設動態調査」によると、平成27年(2015年)10月の診療所数は前年比534件増の100,995施設となっています。
次のグラフのとおり、有床診療所は減少を続け、無床診療所は増加し続けています。
診療所数が増加すると、1施設当たりの外来患者数は減少することとなります。
診療所開設数の増加は、外来医療需要の減少と相まって、今後診療所経営を脅かす要因となります。

5.競争激化が進む診療所経営

診療所数は、外来医療需要が減少する中でも増加を続けており、有床・無床ともに診療所の競合は今後激化すると予想されます。
生き残りのポイントは、これらの状況を予測し、いかに患者から選ばれる診療所になるかという点です。
キーワードは、下記の2点について、いかにその体制を強化するかという具体的な取り組みのあり方だといえます。

2.医療・介護制度改革の今後の検討課題

1.社会保障費の圧縮

政府は、社会保障費の自然増分6,400億円について、高額療養費制度の見直しなどにより1,400億円を圧縮し、5,000億円に抑える方針を閣議決定しました。
これによって平成29年度の予算案のうち、社会保障関係費については、28年度当初予算と比較して4,997億円増の32兆4,735億円と過去最大を更新したものの、高齢化等に伴う自然増は5,000億円に圧縮された形になりました。

2.高額療養費制度の改正

医療費は、高額療養費制度によって、収入に応じて毎月の自己負担額の上限が定められています。
上限を超えた分は公的医療保険などが負担する仕組みで、70歳以上は69歳以下より低く設定されており、外来だけの場合は、さらに上限が低くなる「外来特例」もあります。
平成28年12月、政府・与党は70歳以上が支払う医療費の自己負担上限について、年収約370万円未満の住民税納付者に対しては、外来医療費分を段階的に引き上げることで合意しました。
現行の月1万2,000円から月1万8,000円まで段階的に引き上げられます。
しかし、月額上限の引き上げは高齢者の負担増加につながることから、毎月通院する必用のある慢性疾患の患者の場合は年額14万4,000円とし、月額1万2,000円に据え置かれることとなります。

3.医療・介護制度改革の今後の検討課題

閣議決定では、医療・介護の制度改正で今年実施を見送った課題について、今後の検討工程も作成されました。
まず、平成29年度までに紹介状のない大病院を受診した場合に5,000円以上を徴収している対象の拡大()を検討します。
その上で、受診時定額負担の導入及び湿布などの市販品類似薬の自己負担の引き上げを平成30年度までに検討し、結論を出す方向です。
介護分野においては、平成31年度までに自宅での掃除や調理などの生活援助について、要介護度1や2といった軽度利用者向けのサービスを介護保険から外し、市区町村の事業への移行を検討することとしました。

4.年金制度改革法案が成立

平成28年12月、賃金の下落に合わせて年金支給額を引き下げる新たなルールを盛り込んだ年金制度改革関連法案が成立しました。
本法案は年金額の抑制を柱とし、賃金・物価に合わせてスライドさせる毎年の年金額改定について、2021年度から新ルールを導入するものです。
物価上昇により現役世代の手取り賃金が下がった場合、現在は高齢者が受け取る年金額を据え置いていますが、新ルール適用以降は賃金に合わせて減額されます。
しかしながら、年金給付水準が長期的に低くなっていくことに変わりはないため、政府は、消費税率を10%に引き上げた段階で、年金受給資格期間を25年から10年に短縮する方針を打ち出しています。

これら社会保障費抑制のための制度改正は、高齢者の受診抑制につながる可能性があるため、今までどおりの外来診療を継続しているだけでは、患者数が減少することは明らかです。
現状の診療体制が、2025年以降外来医療需要減少時代に生き残って行けるのか、将来を見据えて、経営戦略を再構築する必要があります。

3.平成30年度診療報酬改定への対応

1.平成30年度診療報酬改定の検討に向けた考え方

平成28年12月14日開催の中央社会保険医療審議会総会において、平成30年度診療報酬改定に向けての検討がスタートしました。
次期改定は、6年に1度の介護報酬との同時改定になるとともに、医療介護総合確保方針、医療計画、介護保険事業(支援)計画、医療保険制度改革などの医療と介護に関わる関連制度の一体改革にとって大きな節目であることから、今後の医療及び介護サービスの提供体制の確保に向け様々な視点からの検討が重要となります。

(1)改定に向けての基本認識

平成30年度診療報酬改定に向けた検討においては、医療と介護を取り巻く環境等を共有するとともに、診療報酬制度が医療と介護の提供体制の確保に多大な影響を及ぼす仕組みであることから、基本認識として以下の点が示されました。

(2)重点検討項目

同総会においては、平成30年度の同時改定に向けて、「医療と介護の連携に関する主な検討事項」として、(1) 療養病床・施設系サービスにおける医療、(2) 居宅等における医療、(3) 維持期のリハビリテーション、の3点が特に重要との考えが示されました。
この背景には、近年の診療報酬改定で、地域包括ケアシステムの構築の推進や医療と介護の連携に関する検討が行われてきたという経緯があります。

2.平成30年度診療報酬改定に向けた主な検討項目

平成28年12月21日の中央社会保険医療審議会総会では、平成30年度診療報酬改定に向けた主な検討項目が示されました。
これまでの診療報酬改定での検討、医療と介護の連携に関する検討、また平成28年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見、さらに他の審議会等の議論等を踏まえ、以下のような内容が主な検討項目として挙げられています

(1)医療機能の分化・連携の強化、地域包括ケアシステムの構築の推進

医療機能の分化・連携の強化、地域包括ケアシステムの構築の推進において検討される項目は下記のとおりです。

(2)患者の価値中心の医療と重点分野、個別分野に係る医療提供の推進

患者の価値中心の医療や重点分野、個別分野に係る質の高い医療提供の推進で検討される項目は、下記のとおりです。

(3)持続可能性を高める効果的・効率的な医療への対応

持続可能性を高めるための効果的・効率的な医療への対応で検討される項目(抜粋)は下記のとおりです。

次期診療報酬改定においては、介護報酬との同時改定という機会でもあり、これまで進められてきた地域包括ケアシステムのモデル完成を図ろうとする厚生労働省の意図が読み取れます。
また、地域全体で高齢者に対するケアを完結する仕組みを目指すため、一部の医療機関・施設等による患者や利用者の囲い込みを難しくする施策誘導や、介護を含む地域連携に関する加算の増加などが予想されます。
次期改定に向けて、診療所は需要減少が懸念される外来医療の中心的担い手「かかりつけ医」としての機能強化を図るとともに、介護に関する十分な知識と情報を蓄え、在宅・訪問医療提供への資源投下を目指して、連携の強化を図ることが求められます。

4.外来医療需要減少時代に対応した経営事例

1.救急往診に特化したクリニックの事例

(1)救急往診・訪問に機能特化

平成28年4月に都市部で開業したAクリニックは、医療保険や介護保険による訪問診療が高齢者を対象に定着している状況を踏まえて、0歳から64歳の方に対する救急往診や通常往診を核とした診療事業を構築できないかという考えから、診療所の開設を検討しました。
市で運営している救急安心センター(*)や在宅医療を実施している医療機関と連携し、常駐している在宅チームが往診という形で各家庭を訪問し初期対応、その後地域の医療機関に患者を紹介しフォローしてもらうというモデルを展開しています。

(2)現状の収益状況

開業後8か月を経過した現在の収入は約1,380万円、うち90%は往診関係による収入が占めています。
医業費用は約1,220万円で、そのうち76%は人件費、医業利益は約150万円となっています。
個人開業であり、この収益から借入金の返済や院長の生活費を支出していますので、収支はほぼ均衡している状況ですが、当初計画通りに推移しています。

2.患者送迎サービスを実施しているクリニックの事例

(1)高齢化が進展する地域で送迎サービスを展開

中核都市で開業して15年になるBクリニックは、診療圏における高齢化が進み、高齢患者から通院の困難さについて訴えがあったのと同時に、クリニックに連れていくのは問題ないが、診療が終わるまで待つことができないという家族の声が多くありました。
そこで、週2回事前予約制とする無料送迎サービスを開始しました。

現在は運転手1名、福祉車両1台で対応しており、車両リース料とガソリン代等で月額コスト約25万円の負担があるものの、利用者の満足度は高く、患者紹介も増えている状況です。
10から15名の利用患者に対応していますが、20名を超える日も出てきています。
Bクリニックでは介護事業も展開しており、高まる送迎ニーズに対応するため、車両数増や運転要員の増員を検討しています。

(2)送迎を行う場合の留意点

利用者から料金を受け取るのであれば、自家使用の範囲を超え運送業務を「業として」行っているとみなされるため、旅客運送事業(バス・タクシー)として運輸局への申請が必要になります。
しかし、利用者から料金を収受していない場合は、自家送迎と判断されることから、道路運送法上において問題はありません。
また、普通免許で運転できるのは定員10人以下(*)であるため、定員が11人以上であれば中型免許(限定条件なし)以上が必要です。例えば、職員に送迎を担当させる場合、限定条件のない中型免許、もしくは大型免許を持っている職員であれば、小型マイクロバス(定員11~29名)を運転することが可能ですが、それ以外の場合には保持している自動車免許の種類に注意が必要です。

(*)免許制度区分の改正(2017年3月12日施行)以前の定員数

 

■参考文献
「日経ヘルスケア」2016年11月号 特集「10年後を見据えた診療所生き残り策」

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