2016年診療報酬改定に対応 診療科別改定影響の検証

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2016年診療報酬改定に対応 診療科別改定影響の検証

  1. 今次改定の基本的考え方と注目点
  2. 内整形科・小児科はかかりつけ機能の充実
  3. 整形・耳鼻科・皮膚科は減額予想で戦略再構築
  4. 在宅医療の評価変更と有床診の加算新設


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目次

1.今次改定の基本的考え方と注目点

1.今次改定の基本的視点

今次改定では、地域で暮らす国民を中心とした質が高く効率的な医療を実現するために「病床・外来の機能分化・連携」や「かかりつけ医機能」等の充実、「イノベーション」や「アウトカム」等の重視という基本的視点が示されました。
国が目指す2025年に向けた地域包括ケアシステムの実現に向けて、明確なメッセージが込められた改定といえます。

改定の基本的視点

2018年には介護報酬との同時改定が控えているため、今次改定はその前哨戦と位置づけて大きな影響はないとみている医療機関も多くありますが、今回の改定を軽視すると今後の方向性を見失う結果になりかねません。
そこで今次改定の注目点を以下に解説します。

2.外来の機能分化・連携の推進

外来の機能分化・連携の推進

外来においては、かかりつけ医の普及を図り、かかりつけ医が患者の状態や価値観も踏まえ地域医療をサポートする「ゲートオープナー」機能を確立すべく、新たな仕組みが導入されました。
具体的には、大病院に対し紹介状を持たずに受診した患者に対する5,000円以上の定額負担導入等により、診療所を中心とする「かかりつけ医機能」の充実が図られています。

3.小児医療は継続性のある小児科外来診療を評価

小児医療では、乳幼児期から学童期まで、継続性のある小児科外来診療を評価するとともに重症小児等の診療に積極的に取り組んでいる入院・在宅医療が評価されました。
小児かかりつけ医として幼児期までの継続的な診療を評価するため、小児かかりつけ診療料が新設されたことにより、小児患者を取り巻く地域の勢力図に大きな影響を与えることが予想されます。
今までは、小児外来診療料として算定が3歳未満に限られていましたが、新設により就学前まで延長して算定が可能となったためです。
このほか、重症小児の連携強化等について下記のような見直しが行われました。

重症小児の受入体制・連携強化を評価した項目

4.リハビリはアウトカム評価と早期機能回復

リハビリテーションは、質の高いリハビリテーションの評価と患者の早期の機能回復の推進がキーワードとなります。
回復期リハビリテーション病棟(脳血管疾患などの病気で急性期を脱しても、まだサポートが必要な患者に対して、集中的なリハビリテーションを実施する病棟)においてはアウトカム、つまりリハビリの成果に対する評価を行い、一定の水準に達しない保険医療機関については疾患別リハビリテーション料の評価を見直す措置が初めて導入されました。

疾患別リハビリテーションの単位見直し

また、要介護被保険者の維持期リハビリテーションについては平成30年4月以降に介護保険へ移行させることが決定し、今次改定では大幅な点数引き下げが行われました。
このことから、運動器リハ中心のクリニックは減収が予想されます。

運動器リハ中心のクリニックは減収が予想される

5.入院は在宅復帰機能を高評価

入院医療においては、患者が安心・納得して退院し、早期に住み慣れた地域で療養や生活を継続できることを目的として、積極的な退院支援に対する評価の充実や、在宅復帰機能が高い医療機関に対する評価の見直し等が実施されました。
今次改定では、高い在宅復帰機能を有する有床診療所に対する評価が新設され、急性期を脱した患者を在宅復帰させる受け皿として要求されていることが明確に示された形です。

入院は在宅復帰機能を高評価

2.内科・小児科はかかりつけ機能の充実

1.かかりつけ機能の評価に認知症追加

(1)認知症地域包括診療料(加算)の概要

前回改定では、複数の慢性疾患(高血圧症、糖尿病、脂質異常症及び認知症の4疾病)を有する患者を対象とした地域包括診療料が新設されました。
このうちの認知症を独立させたものが、今回新設された「認知症地域包括診療料(加算)」です。
認知症にかかる主治医機能強化をねらいとし、今次改定の重点課題である「重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点」における「認知症施策推進総合戦略を踏まえた認知症患者への適切な医療の評価」に対応しています。
主な要件は、下記のとおりです。

認知症地域包括診療料の施設基準等

(2)診療所に対する影響の検証

内科・胃腸科を標榜し「地域包括診療加算届出診療所」の届出を行っている当社クライアントで検証したところ、月間総レセプト件数1,120件のうち認知症患者は87件でした。
よって下記により、月の増収額は19,140円と大きなものではありませんが、内科診療所においてはかかりつけ医としての役割が高まっているため、認知症加算算定件数をいかに増やすかが、今後の経営の大きなカギになると思われます。

認知症患者対象による増収額

2.小児科かかりつけ診療料で地域医療に変化

(1)小児かかりつけ診療料の概要

小児科における今次改定の目玉は「小児かかりつけ診療料」の新設です。従来は「小児科外来診療料」として算定が3歳未満に限られていましたが、3歳未満から当該診療料を算定したことのある患者については、3歳以降も就学する前までの算定が可能となりました。
また、1人の患者につき1か所の保険医療機関しか算定できないことから、当該診療料を算定しない小児科診療所は、算定している他の小児科診療所に患者を囲い込まれて減収に陥る可能性があります。
主な要件は、下記のとおりです。

小児かかりつけ診療料の施設基準等

(2)診療所に対する影響の検証

小児科外来診療料を算定している当社クライアントで検証したところ、月間総レセプト件数1,610件のうち、かかりつけ医の対象患者は440件で、そのうち初診患者は161件、また再診患者は279件でした。
具体的金額をみると1ヶ月あたり約30万円が増収になりますが、それ以上に患者囲い込みの効果は大きく、他の競合医療機関への流出を防ぐ意味において、算定の効果は大きいといえるでしょう。

小児かかりつけ診療料算定による増収額(処方せん交付の場合)

ただし、当該点数は再診料の時間外加算等一部を除いて、ほとんどの点数が包括となり ます。
このような効果を鑑み、現在、出来高を算定している小児科診療所においては、収入面 は当然のことながら、マーケティング的発想から算定を検討する必要があります。

3.整形・耳鼻科・皮膚科は減額予想で戦略再構築

1.維持期リハビリテーション料は減額に

(1)維持期リハビリテーションは「100分の60」へ見直し

今次改定により、運動器リハビリ中心の整形外科診療所は収入減となります。
要介護被保険者を対象とした維持期リハビリテーションについては、介護保険へ移行させることが決まっており、平成28年3月末までの経過措置となっていましたが平成30年3月末に延長されることが決まりました。
維持期リハビリテーションとは、急性期や集中的なリハビリ期を過ぎて、緩やかな回復時期に入った患者に対し、後遺症を抱えるなかで、機能の回復と生活の質を向上させるリハビリテーションです。
今回、脳血管疾患や廃用症候群(過度に安静にしたり、長期間動かさないでいることで生じる障害)、運動期リハビリテーション料については、一般患者の10%の減額でしたが40%の減額に引き下げられました。
さらに機能予後の見通しの説明、目標設定等支援管理料を算定しない場合は、さらに10%減額となりますので、今後アウトカム評価が重要になります。

運動器リハビリテーション料の点数見直し

(2)診療所への影響検証

要介護被保険者における維持期リハビリテーション料の影響を試算しました。
1日の患者数を50人と仮定した(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)それぞれの減収額は、次のとおりです。
(Ⅲ)は17,000円の減収ですが、(Ⅰ)(Ⅱ)を算定している診療所においては、改定幅が大きいことから1日当たり26,000円の減収、1ヶ月23日稼働と仮定すると、598千円の減収になります。
維持期リハビリテーション料の算定件数比重が高い診療所においては、戦略の見直しを図る必要があります。

維持期リハビリテーション料に関する減収額

2.CPAPの受診要件緩和で減収に

(1)CPAPの継続使用管理が3ヶ月に1回の受診可能に

耳鼻咽喉科診療所では、睡眠時無呼吸症候群の治療法として有効なCPAP(Continuous Positive Airway Pressure:経鼻的持続陽圧呼吸療法)の継続使用管理について、これまで毎月受診を原則としていましたが、今次改定により医師の判断に基づけば1回の受診で3ヶ月分まで使用機器を算定できるようになりました。
患者側からすると3ヶ月に1回の受診で済むことから負担は減りますが、医療機関側にとっては管理料が減収となります。
あくまでも医師の判断に基づくものであるため、自院方針として毎月受診を義務付けることは可能ですが、「当院は3ヶ月に1回の受診が可能」とする競合医療機関が増加すれば、通院中の患者を奪われる可能性もあります。

(2)診療所への影響検証

毎月受診と3ヶ月ごと受診の点数を比較すると、減収額は6,440円です。
これは、在宅持続陽圧呼吸療法用治療器加算と同材料加算については1回の受診で3ヶ月分請求できるため影響は生じない一方、再診料及び指導管理料の2か月分相当額が算定できないことによるものです。

CPAPの毎月受診と3ヶ月毎受診の比較

3.皮膚科は小児かかりつけ診療料の影響大

(1)小児かかりつけ診療料の影響で減収の可能性

皮膚科は、小児かかりつけ診療料新設の影響を大きく受ける可能性があります。
従来、水ぼうそうや湿疹、アトピー性皮膚炎等を発症した3歳未満の乳幼児は皮膚科を受診するケースが多かったものの、「緊急時や明らかに専門外の場合等を除き最初に受診する」かかりつけ医であることを理由として、かかりつけ登録を行った小児科を受診するケースが想定されるためです。

(2)診療所における影響の検証

アレルギー性皮膚炎で乳幼児(3歳未満)が来院し、検査及び処置をした場合の診療報酬は合計391点を算定できますが、この乳幼児が小児かかりつけ診療料を算定する小児科を登録した場合、当該小児科を受診することになり3,910円が減収となります。
よって、乳幼児や未就学児の割合が高い診療所は大きな打撃を受ける可能性があります。

アレルギー性皮膚炎で乳幼児が来院したケース

今後は患者に選ばれる診療所づくりに向け、専門性に特化した診療メニューの拡充や自院の強みに対する情報発信などの取り組みが重要です。
例えば美容皮膚科に特化した診療所では、下記のようなメニューをホームページやパンフレットに掲載しています。

専門性に特化した診療メニュー例~美容皮膚科

4.在宅医療の評価変更と有床診の加算新設

1.在宅医療は「患者数」「重症度」「回数」で細分化

今次改定のポイントは、在宅時医学総合管理料(在医総管)の算定が「入居患者数」「患者の状態」「訪問回数」の組み合わせで細分化され、訪問パターンによって評価が変わった点です。
また個人宅と同様に見なされ在宅時医学総合管理料(在医総管)を算定できていた有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、認知症グループホームが「施設」というカテゴリーになり、特定施設入居時等医学総合管理料(施設総管)に変更されました。

施設の範囲の見直し

(2)診療所への影響検証

戸建の患家で重症以外の患者を月2回診療しているケースと、サービス付き高齢者向け住宅の重症以外の患者6人を月2回、毎回複数人を診療しているケースで比較すると、次のような結果となりました。
ケース1(戸建)では、改定前と同様に在宅時医学総合管理料(在医総管)を算定できますが、入居患者数によって点数が区分されました。
戸建の場合は一律42,000円でしたが重症患者の場合は46,000円と4,000円引き上げた一方、重症患者以外は3,800円と引き下げられたため4,000円減収となります。
ケース2(サービス付き高齢者向け住宅)は、算定する診療報酬が在医総管から施設総管となりました。
従前は在医総管の同一建物で10,000円を算定していましたが、施設総管になり点数が見直されたことから15,000円を算定でき、5,000円の増収と試算されます。

機能強化型ではない在宅療養支援診療所、戸建で重症以外の患者を月2回訪問しているケース、サービス付き高齢者向け住宅で重症以外の患者6人を月2回訪問しているケース

2.有床診療所は病床機能の再編を

(1)在宅復帰機能に対する評価の新設

入院医療に関しては急性期医療の絞り込みが行われ、重症度・医療・看護必要度が厳格化されるとともに、在宅復帰率の基準も引き上げられました。
今次改定では、有床診療所についても在宅復帰機能に新たな加算が設けられましたが、在宅復帰率で一般病床では70%以上、療養病床においては50%以上が求められます。

有床診療所在宅復帰機能に対する評価

なお、在宅復帰率は、算定している病棟によって多少異なりますが、以下の算式で求めます。

在宅復帰率の計算

(2)診療所における影響検証

有床診療所が在宅復帰率を満たし、在宅復帰機能強化加算を算定する場合には次のように増収が見込めます。
それぞれ5点、10点の算定につき、病床稼働率を80%に設定した場合、1か月あたり一般病床で22,500円、療養病床では45,000円が加算されます。

:一般病床19 床を有している有床診療所、許可病床19 床で15 床(約80%)稼働、許可病床19床で15床(約80%)稼働

上記の結果を見る限り、実際の影響は大きくはないものの、有床診療所は在宅医療における後方支援病床としての役割を担う機能と位置づけられており、そのための地域医療連携の一層の強化が求められているほか、在宅復帰率は今後の病床活性化のカギになるといえます。
有床診療所は、今次改定のキーワードになっている「かかりつけ医」の担い手として様々な役割を期待されています。
自ら在宅医療を展開するという選択肢の他、急性期病院と連携して急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態(ポストアキュート)や、重装備な急性期入院医療までは必要としないが在宅や介護施設等において症状の急性増悪した状態(サブアキュート)の患者に対し、必要な医療を提供する機能などが求められるようになっています。

■参考文献
2016年5月号 CLINIC BAMBOO
特集 「2016年度診療報酬改定 診療科・機能別の打つべき一手はこれだ」
平成28年3月4日版 平成28年度診療報酬改定の概要
厚生労働省 保険局 医療課長 宮嵜 雅則氏資料

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