平成29年受療行動調査からみる患者満足度向上に向けた対応策

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平成29年受療行動調査からみる患者満足度向上に向けた対応策

  1. 平成29年受療行動調査の概要
  2. 受療行動調査からみる患者の動向
  3. 患者満足度向上に向けた取り組み


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1.平成29年受療行動調査の概要

1.患者満足度向上とニーズの把握

医療はサービス業であるという考え方によれば、患者の要望に応えることが重要であり、患者の最大の満足は、期待通りの治療を受けて充分な満足が得られることにあります。
また、高齢化や疾病構造の変化に伴い、慢性疾患などで継続的に医療機関に通院する必要のある方が増えてきています。
こうした理由により、長期にわたって適切な医療を提供できる関係性を維持することが求められ、患者と医療機関、医師など医療従事者との信頼関係および良好なコミュニケーション構築がより重要視されるようになってきました。

受療時の患者満足度イメージ図

また、患者が抱えている疾病、年代や性格、環境などによっても異なりますが、このような患者の世代や事情を問わず最適な医療サービスを提供することが求められています。
患者の意見や意向を受け止め、家庭環境や経済状況などの背景も踏まえて、患者個々に合わせた最適な医療サービスの提供が期待されています。
患者に寄り添ったサービスを提供した結果、患者が医療機関に期待する「納得・安心・満足」というキーワードを全て満たし、当該医療機関が提供する医療サービスは「良い」という評価を得られることになります。
高度で優秀な技術を提供したとしても、サービスが「良い」と評価されなければ、患者からの信頼も選択も得られず、医療機関として生き残ることは困難になるといえます。
患者の発信するメッセージをいかに誠実に受け止め、医療機関全体で苦情や不満を伝えやすい環境づくりに取り組むかが重要だといえます。

2.受療行動調査の概要

(1)受療行動調査の情報活用と目的

本年9月に厚生労働省から、全国の特定機能病院、一般病院、療養病床を有する病院を対象とした「平成29年受療行動調査(概数*)の概況」が公表されました。
この調査は、対象となる病院を受診された患者の満足度等を測るためのツールとして活用できるだけではなく、患者が医療機関に対する思い等を把握する機会となることや、自院の経営方針を決める参考材料としても役に立つ情報となります。
厚生労働省は受療行動調査の目的を、「全国の医療施設を利用する患者について、受療の状況や受けた医療に対する満足度等を調査することにより、患者の医療に対する認識や行動を明らかにし、今後の医療行政の基礎資料を得ること」としています。
(*)概数:病院報告(平成29年10月分概数)の外来患者延数と在院患者数を用いて全国推計を行ったもの。

(2)調査の対象と調査事項

全国の病院のうち無作為抽出した一般病院(490施設)を利用した患者(外来・入院)を対象として行われました。
ただし、往診・訪問診療等を受けている在宅患者は調査対象から除いており、外来患者については、通常の外来診療時間内に来院した患者に限っています。

平成29年受療行動調査の対象及び客体、調査事項

(3)平成29年受療行動調査の対象となる病院の区分

受療行動調査においては、対象施設の病院を病床規模や機能により下記のとおり区分して、定義しています。

受療行動調査の対象となる病院の区分

3.患者ニーズの把握と受療行動調査結果の情報活用

医療機関を受診しようとする場合、患者は症状や自身の希望に応じて関連する情報を入手し、自分や家族が最も適当だと考える病院や診療所に足を運ぶものです。
また、その入手方法は、家族・知人・友人からの紹介、広告や看板、インターネット、電話帳等と多岐にわたりますが、医療機関は自院に関する情報について、正確にわかりやすく伝えることが求められています。
そのため、来院動機や患者の期待、さらに患者が受診先を選択する際にはどのような点を重視しているのかを把握していると患者にとって有益な情報を自院から発信することができ、受診先として選ばれる可能性が高くなります。

医療機関の情報発信ツール例、医療機関の主な広告可能事項~「医療広告ガイドライン」で定めるもの

厚生労働省は、「医療広告ガイドライン」で医療機関側が発信できる情報を定めている一方で、受診に際する患者の行動や想いを把握することにより、患者中心の医療の実現に向けて適切な医療政策を打ち立てていく方針のもと、患者自身を対象とする調査を実施しています。
この調査の結果は、受診に際する患者の心情やニーズを明らかにするものだといえます。
そのため医療機関は、この結果を自院のマーケティングに活用して、患者が求めている情報の提供や、患者が満足、あるいは不満を感じる項目を積極的に強化・改善する取り組みへと具体化することが可能になります。

患者の期待に応える医療機関になるための取り組み項目

2.受療行動調査からみる患者の動向

1.患者が受診先を選ぶ選考要因

(1)受診した医療機関を選んだ理由

「病院を選んだ理由がある」という回答のうち、その選んだ理由をみると、外来(37.3%)入院(51.0%)、ともに「医師による紹介」が最も高く、次いで、外来では「交通の便がよい」が27.6%、入院は「専門性が高い医療を提供している」が25.2%となっています。
この結果は、前回(平成26年受療行動調査の概況)の結果と比較して大きな変化はありませんが、「他の医療機関との連携体制がある」、「地域に認められた医療機関である」ことが患者から選ばれる重要な要素であるといえます。
注:「病院を選んだ理由がある」者を100とした割合である。

外来・入院別にみた病院を選んだ理由(複数回答)

(2)医療機関にかかる時の情報入手先

患者がふだん医療機関にかかる時「情報を入手している」と回答されたのは、外来が77.7%、入院が82.6%で、「特に情報は入手していない」は、外来が17.2%、入院が14.1%となっています。
「情報を入手している」という回答のうち、情報の入手先をみると、外来・入院ともに「家族・知人・友人の口コミ」が最も高く(外来70.6%、入院71.9%)、次いで外来では「医療機関が発信するインターネットの情報」が21.1%、入院では「医療機関の相談窓口」が23.9%となっています。
この結果を踏まえると、7割の患者は身近な人の口コミを頼りに受診先を選んでいると考えられます。
来院された患者の期待に応え続け、患者が患者を呼び込んでくれることが増患につながる有効な手段といえるでしょう。
また、平成19年4月からスタートした「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」を確認することで、診療科目、診療日、診療時間や対応可能な疾患治療内容等の医療機関の詳細がわかりますが、患者側は実際の受診時に、それ以外の情報を求めているといえるため、これらニーズに応える情報提供が増患に重要な要素だと捉えることができます。

◆外来・入院別 ふだん医療機関にかかる時の情報入手先(複数回答)

(3)外来患者の最初の受診場所

外来患者が、病気や症状について最初に受診した場所をみると、「最初から今日来院した病院を受診」が54.2%と最も多く、次に「最初は他の病院を受診」が27.3%、「最初は診療所・クリニック・医院を受診」が15.1%となっています。
病院の種類別にみると、特定機能病院では「最初は他の病院を受診」が42.1%と最も多く、それ以外の病院では「最初から今日来院した病院を受診」が最も多くなっています。
また、前回と比べると、特定機能病院、大病院及び中病院において、「最初から今日来院した病院を受診」の割合が低下し、「最初は他の病院を受診」と「最初は診療所・クリニック・医院を受診」が上昇しています。
大病院の初期受診をコントロールする国の政策誘導により、最初に診療所を受診する流れが浸透しているといえます。
診療所としては、連携先となる医療機関のネットワーク構築が受診患者増加へのキーワードであると改めて確認できる結果となっています。

病院の種類別にみた外来患者の最初の受診場所

2.患者と連携先を引きつける情報発信とコミュニケーションを目指す

今回の受療行動調査で把握できたのは、患者が受診先を選ぶ際には、自分が信頼できる身近な人の口コミや医師からの紹介を重視する傾向があることです。
また、利用交通機関を含む通院の利便性、自分が希望する治療が提供されているか等の情報は依然として重要であり、こうした情報は医療機関の相談窓口のほか、医療機関が発信するインターネット情報で提供されている内容を検索し、入手しているケースが多いのが現状です。
つまり、患者にとってより有益な情報をインターネットで発信できれば、自院の診療圏内の患者が外来受診先を検討する際に、他院に比べて優位性が増すことが期待できます。

自院から発信するインターネット情報と患者の心情~イメージ

さらに、外来・入院ともに「医師からの紹介」という項目が多く挙げられていたことから、「地域医療のゲートキーパー」としての役割を果たす診療所としては、その役割強化に向けて、地域の医療機関・医師との「顔を合わせるコミュニケーション」を図る時間をできるだけ持ち、連携先からの紹介患者を獲得する機会を確保することが必要です。

顔を合わせるコミュニケーション

3.患者満足度向上に向けた取り組み

1.待ち時間と診察時間の長さ

(1)診察等までの待ち時間

外来患者の診察等までの待ち時間をみると、「15分未満」が26.1%と最も多く、1時間未満の待ち時間の割合が約7割となっています。
病院の種類別にみると、特定機能病院の「30分~1時間未満」が21.9%と最も多く、それ以外の病院では「15分未満」が最も多くなっています。
また、前回の調査結果と比較すると、小病院の待ち時間の長さが短くなっており、15分未満の待ち時間の割合が10%増加しています。

病院の種類別にみた外来患者の診察等までの待ち時間

(2)診察時間

外来患者の診察時間をみると、「5分~10分未満」が38.1%と最も多く、続いて「5分未満」が28.5%、「10分~20分未満」が12.7%となっています。

病院の種類別にみた外来患者の診察時間

待ち時間には、受付から診察までの待ち時間のほか、診察・治療が終わってから会計までの時間、また院内処方で薬剤が渡されるまでの時間なども含まれますが、外来患者が最も長く感じるのは診察までの待ち時間だといわれます。
一方で診察時間については、業務多忙のために患者にとって十分な時間を確保できず、待ち時間の長さと併せて不満要因となる傾向があります。待ち時間の苦痛を軽減することによって、患者の不満を軽減させることが重要となります。

2.外来患者ニーズに応える取り組み

(1)患者の6割が全体的に満足している

外来患者のうち、受診した病院を全体として「満足」しているという回答は59.1%(前回58.3%)一方「不満」と回答した患者は4.3%(同4.8%)を示しました。
本調査が始まった平成8年以降の推移をみると、その6割程度が「満足」と回答しています。
今回の調査では、第1回の調査開始以来、最も多い割合で「満足」という回答を示す結果となりました。
また、「不満」と感じている外来患者についても過去最も少ない結果(平成23年も同じ数値)となっており、患者の満足度は緩やかな増加傾向にあることがうかがえます。

病院に対する全体的な満足度の年次推移、項目別にみた満足度

外来患者全体における項目別の満足度のうち、「満足」の割合をみていくと、最も満足度が高かったのは「医師以外のスタッフによる対応」で58.8%、次に「医師との対話」が57.0%で前回調査と大きな変化はありませんでした。
この上位2つの項目はいずれも人を介してのコミュニケーションの部分であり、医療サービスが人の手により提供されていることからも、期待に応える対応内容であることが重視されているといえます。
一方で、「診察までの待ち時間」や「診察時間」については、前回調査と同様にいずれも「不満」とする回答が多い結果となりました。

(2)患者満足度向上に向けた取り組み

受療行動調査の結果は、前回の調査結果と比較すると大きな変化はありませんでした。
患者のニーズに応えていくためには、満足を得ている分野を強化するとともに、不満を示している項目を改善する必要があります。
今回の調査結果等を踏まえ、自院で患者アンケート調査を実施するなど、多くの患者や潜在的患者が抱いている期待や懸念される不満を把握し、必要な情報を提供する取り組みを含め、増患につなげる改善を工夫することが求められています。
対策を検討する際は、収集した情報を基にして、自院の強みは何か、あるいは改善が求められていることはどのようなことであるか等を客観的に評価することが重要です。

患者満足度向上のプロセス

 

■参考文献
厚生労働省ホームページ「平成29年受療行動調査(概数)の概況」

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