中小企業の生産性を向上させる!テレワークの導入・実践法

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

中小企業の生産性を向上させる!テレワークの導入・実践法

  1. 新しい働き方への対応が必要な理由
  2. テレワークの導入・実践法
  3. 中小企業のテレワーク導入事例

 


この記事をPDFでダウンロードする。(企業経営情報)

1.新しい働き方への対応が必要な理由

1.働き方改革への対応

(1)新しい働き方として注目されている「テレワーク」

最近、「ワークスタイル変革」という言葉が急に世の中に普及してきています。2010年代に入り、企業を取り巻く経営環境が大きく変わってきました。
グローバル化が進展し、国際競走は激化、経営のスピードや多様性、イノベーションがこれまで以上に求められています。
一方で、日本社会は少子高齢化に向かっており、労働力人口が大幅に減少、人材の確保が難しくなりつつあります。
従来の男性管理職中心、同質な発想、長時間労働、固定的な勤務制度では、これらの課題への対応は困難です。
そこで、経営戦略としての「働き方の変革=ワークスタイル変革」が注目されるようになってきたのです。
では、ワークスタイル変革とは具体的にどのようなことなのでしょうか。
今回は事例にもとづき、新しい働き方として注目されている「テレワーク」について解説いたします。

(2)少子高齢化の特徴と課題

少子高齢化は、日本社会が抱える大きな構造問題です。少子高齢化は出生率の減少と長寿化により、総人口よりも労働力人口(15歳以上で、労働する能力と意思をもつ者の数)・労働力率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)の減り方が大きいことが特徴です。

労働力人口の減少

日本社会が豊かで住みやすいといわれる現在の水準を維持していくためには、労働力人口が減少していく中でも経済成長を続けることが欠かせません。
そのためには「労働力率を上げる」、「働き手を増やす」、「生産性を上げる」ことが必要です。
そこで、女性や高齢者、外国人などが新たな働き手として期待されています。
ところが、日本では、20代後半~30代の女性が結婚や出産を契機に一度仕事を離れ、子どもに手がかからなくなってから戻ってくる傾向が見られます。
この傾向は、女性の社会進出が進んだ欧米諸国ではすでに解消されています。
働き手の不足を解消するためには、女性が子育てをしながら仕事をしやすい環境を整えることで、潜在的な女性の労働力をいかに引き出すかが課題になっています。

2.ワークスタイル変革の効果

(1)全社で取り組むワークスタイル変革

ワークスタイル変革に期待される効果を整理すると、以下のようになります。

ワークスタイル変革の効果

これらを達成するために、企業として必要な項目は「組織風土の革新」「業務プロセスの革新」「労務管理制度・ルールの整備」、それからフレキシブルな働き方を実現させるためのベースとなる「情報通信環境の整備」の4分野にわたる取り組みです。

ワークスタイル変革のための4要素

ワークスタイル変革はすなわち、経営者・人事部・情報システムだけではなく、全社で連携しながら取り組むべき活動です。
実際にワークスタイル変革に取り組む企業では、総務・人事・情報システム部門が核となった全社組織横断的なプロジェクトチームが推進役となっている場合も多いのです。

(2)日本企業が変わるために

日本の社会や企業には、少子高齢化による働き手の不足、そして経済のグローバル化による国籍や地域、文化の違いを超えた人材の協働の機会の増加による多様性のマネジメントと活用が求められています。
働き手である現在の労働者達は、社会の少子高齢化によってこれから迎える大介護時代の担い手でもあり、育児・介護などのライフイベントと仕事を両立させていくことが男女を問わずさらに課題になってきます。
「多様な人材、多様な働き方」を実現することで限られた人数と時間であっても成果を上げることを目指すワークスタイル変革は、これらの課題に応える打ち手として期待されています。テレワークは、この多様な働き方を支えるための1つの手法となります。

3.テレワークの定義

テレワークとは、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。

テレワークとは

4.テレワークの課題

テレワークを導入するためには、企業経営者がそのメリットをしっかり理解する必要があります。
総務省の「平成28年通信利用動向調査の結果」における「テレワークを導入しない理由」を見てみると「テレワークに適した仕事がないから」が約7割を示しています。
しかし、テレワークの導入効果について「効果があった」と回答した企業の割合は86.2%と高い数値を示しています。

テレワークを導入しない理由・テレワークの導入効果

テレワーク導入前の企業は、「テレワークでできる仕事がない」と思い込み、導入をためらっています。
その反面、テレワークを導入した企業で、その取り組みについて効果があったと回答した企業の割合は非常に高い結果となっています。

2.テレワークの導入・実践法

1.テレワーク導入の手順・ポイント

(1)導入目的を明確にする

テレワークの導入を進める際、最初にしなくてはならないことが「当社では、どんな目的でテレワークを導入するのか」を明確にすることです。
そして、それを経営者から管理職、一般社員、パート社員も含め、全社員で共有することが重要です。
目的を明確にしないままテレワーク導入を進めると、「判断基準」が曖昧になってしまいます。
自社の事業の方向を明確にした上で、これから直面するであろう課題を洗い出し、それらを解決することをテレワークの目的として明確化します。

テレワーク導入の目的(例)

(2)業務の洗い出しから始める

次に、今の仕事をテレワークでするにはどうすればいいかを議論します。
そのためには、まず「今の仕事」を把握する必要があります。
その際のポイントは、「テレワークでできると思われる仕事」だけでなく、全ての仕事を洗い出してリスト化することが重要です。
手間のかかる作業ですが、今後テレワークを推進していく上で重要な作業になります。
まずは社員全員ではなく、テレワークを推進する担当者が自らの業務について洗い出しを実施し、テレワークの試行を実施する社員、対象となる社員について広げていくと良いでしょう。
その後、この洗い出しリストをもとに、どのようにして「仕事のやり方」を変えていくかを検討していきます。

(3)テレワーク視点で業務を仕分けする

業務の洗い出しリストから、一つひとつの業務内容を確認しつつ「テレワークが可能かどうか」という視点で分類すると良いでしょう。

テレワーク視点で業務を仕分けする

Aの業務は、これまで述べてきた「テレワークでできる仕事」に該当します。
最初はここからスタートするとスムーズに進むでしょう。
しかしながら、重要なことはAの業務のテレワークに挑戦しつつ、B・C・Dへと少しずつ広げていくことです。

テレワークのための業務の仕分け例

一度に実施することは、時間面でもコスト面でも難しいですが、できることから一つひとつステップを踏んで進めていきましょう。

(4)無料、低価格のツールを活用する

中小企業にとって、テレワークのためのシステム導入コストは非常に大きな「壁」であり、大きな支出を伴うと思われています。
確かに数年前は初期費用で数百万円かかり、毎月数十万円のメンテナンス費用がかかっていました。
そのため、従業員数が少ない中小企業にとって、システム導入は負担が大きいというのが常識でした。
しかし最近は「クラウド型」のサービスが主流になり、低コストでも導入できるようになりました。

クラウド型サービスの特徴

たとえば、マイクロソフトのoffice365は、エクセル、ワード、パワーポイントなどの最新版とクラウド上の保存場所を含めて、月900円/1人から利用できます。
従業員数が少ない中小企業だからこそ、コストメリットが出せる最新のサービスを活用することをお勧めします。

office365を活用したクラウド型サービス例

2.テレワーク運用における時間管理の留意点

テレワークを活用した在宅勤務は、労使双方にメリットのある制度ですが、時間管理についてはいくつかの留意点があります。
在宅勤務の場合、住居での勤務であるため、どうしても労働時間とプライベートの時間が混在するという問題が発生してきます。
在宅で勤務させる場合は、まず、労働時間についてしっかりと分けて勤務させるのか、勤務時間とプライベートを混在させたまま労働時間を「みなす」ことにするのかについて検討する必要があります。

テレワーク運用における時間管理の留意点、テレワーク(在宅勤務)導入企業の労務管理における具体的事例

3.中小企業のテレワーク導入事例

1.離職防止のためにテレワークを導入したA社

(1)Google Appsを活用してテレワークを導入

A社では、家庭の事情などで転居、退職せざるを得ない技術社員の離職防止を目的にテレワークを導入しました。
テレワークの実施にあたっては、サテライトオフィスとして戸建て住宅を借り上げて光回線を導入し、テレワークツールとして社内クラウドであるGoogle Appsをそのまま活用しました。

Google Appsの概要

当該技術者の生産性を高めるために、客先での打ち合わせにビデオ会議を利用して同席させています。
支店(遠隔拠点)にスキルを持った社員を配置できない場合は、本社から訪問することなくテレワークで技術支援を行っています。

(2)実施状況

テレワークによって、場所や時間に縛られない雇用体系や社員の生産性アップを目指すことが可能になりました。
また、自社が活用した本事例を顧客に示すことで提案力の増強にも繋がっています。

(3)導入効果

サテライトオフィス勤務者の移動時間においては、週1回の定例会議への出席に関わる 移動時間・人件費が削減されました。
当該技術者の営業同行をテレワークに切り替えたことによる削減効果もあります。
たと えば月に2回、遠方での提案に同行するとして、12 時間の移動時間から技術者を解放し、 その分の生産性を確保できるようになりました。
テレワーク導入にあたっては、情報共有・ディスカッションの目的でクラウド上のドキ ュメントツールを利用するように切り替えました。
過去の打ち合わせ履歴などが共通の場 所に保管されていることから振り返りがしやすくなり、関連資料を探す時間の削減にもな りました。

2.自宅とサテライトセンターの組み合わせでテレワークを導入したB社

(1)在宅とサテライトセンターによるコールセンター

B社では、在宅ビジネスを社会に貢献する事業として成長させることを目的に、2010 年 度からテレワークによる「在宅コールセンター業務」として、雇用創出や人材育成の取り 組みを行っています。
単に、コンタクトセンター業務の簡単な作業を切り出して、短期間・短時間で行うとい った業務ではなく、コールセンターと全く同じ業務を在宅で実施しています。
また、サテライトセンターを開設し、在宅オペレーターとコール管理者がリアルタイム にコミュニケーションを図れる環境を整備することで、在宅オペレーター特有の孤独感の減少を実現しました。

実施状況、導入効果

今後は、地方において語学やICTといった専門スキルを持った女性、高齢者など、幅広い人材に在宅オペレーターとして活躍の場を広げ、雇用確保や人材育成に向けてさらなる社会的貢献を目指すとしています。

3.従業員の特性を重視したC社のテレワーク導入事例

(1)経営効率の向上を目的としてテレワークを導入

C社は、電気設備の会社で、2008年1月に経営効率の向上および改善を目的にテレワークを導入しました。
工事部門を含む全従業員25名が自宅・会社・現場事務所で業務内容に合わせてフレキシブルにテレワークを活用しており、全員が公平・公正になるよう、きめ細かなマネジメントにより、お客様・従業員・その家族の満足度を高めています。

実施状況、導入効果

 

■参考文献
「あなたのいるところが仕事場になる」(大和書房)
「テレワークで生き残る!中小企業のためのテレワーク導入・活用術」(商工中金経済研究所)
「テレワークで働き方が変わる!テレワーク白書2016」(株式会社インプレスR&D)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。