TPP交渉で議論再燃!混合診療のあり方と今後の方向性

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

TPP交渉で議論再燃! 混合診療のあり方と今後の方向性

  1. 米国からの規制緩和要求と我が国のスタンス
  2. 歯科医院における混合診療解禁の影響
  3. 混合診療範囲拡大を想定した今後の対応策

 


この記事をPDFでダウンロードする。

 

1.米国からの規制緩和要求と我が国のスタンス

昨年10月、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉が妥結し、大筋合意に至りました。
今後はそれぞれの国内での承認手続きが必要となりますが、実現に向けて着実に進んでいます。
TPP交渉以前の小泉政権時代から、アメリカからは「混合診療の解禁」「株式会社の医療への参入」「医療機器医薬品等の市場開放」等、医療においての規制緩和が求められていました。
その後、TPPへの参加が検討され、今回参加条件の交渉が始まった時点から、医療・歯科業界では、「混合診療解禁」等になることへの議論が再燃しました。
最終的に、TPPでは、混合診療解禁は回避されましたが、今回は序章であり、今後アメリカからの医療市場の開放、規制緩和要求は強まるとの予測もあり、議論は続いています。

1.アメリカによる医療市場開放要求の経緯

アメリカ合衆国からの「混合診療解禁」「株式会社の医療参入」「医薬品医療機器の市場開放」等の要求は1990年代から始まっています。
2001年には「年次改革要望書」では、医療制度改革、医療分野の規制緩和等が要望されています。
2011年野田政権時にAPECでTPP参加方針を表明し、それ以降は米国通商代表(USTR)外国貿易障害報告書やTPP参加条件等により医療への市場開放、規制緩和が要望されてきました。

アメリカからの医療市場開放要求、規制緩和の経緯

2.USTR外国貿易障害報告による規制緩和要求

アメリカの通商代表部(USTR)は、毎年、「外国貿易障壁報告書」を発表し、米国側から見て貿易の妨げとなっている項目をあげて、各国に改善要求を行っています。
この報告書で、「混合診療の全面解禁」「株式会社による医療機関経営の参入」は、日本の医療への要求の定番として記載されていました。
しかし、2013年度版の外国貿易障壁報告書では、「混合診療の全面解禁」「株式会社による医療機関経営の参入」は除外され、「医薬品の価格の算定ルールの改定」に絞られていました。
これは混合診療等への要求を諦めたのではなく、面倒な手続きや法改正への取り組みをしなくてもできる「アメリカの医薬品・医療機器メーカーの利益を確保できる手段」として医薬品へのルール改定に絞って一点突破をし、ここを突破口として、混合診療の全面解禁、株式会社による医療機関経営の参入に展開する狙いが見えてきます。

2015年 USTR外国貿易障壁報告書より「医療機器及び医薬品」

3.先進国の混合診療解禁状況

反対意見が大勢を占めている日本の現状ですが、世界から日本を見ると状況は異なります。
アメリカをはじめとする医療先進国において、日本が医療の規制解禁を行うとなると、医療機器、医薬品、自由診療対象の民間保険等、様々な業種での参加と外資系会社の医療機関経営もできるようになり、非常に魅力的なマーケットが生まれると考えられています。
そこで、他の先進国では混合診療の解禁はどうなっているのか、日本と同様に公的保険料を財源としている国や、税を財源としている先進国を見てみます。
下記のとおり、法律で禁止規定があるのは、イギリスとカナダだけで、その他の国では特に禁止規定はありません。
ただし、これらの国は、ゲートキーパー制(かかりつけ医制)により、受診アクセスを制限しており、混合診療で懸念される医療リスクを防止する仕組みを構築しています。

公的保険料、勢を財源とする先進国の混合診療の状況

4.TPPで再燃した混合診療解禁に対する意見

(1)歯科医師会からは参加反対の表明

TPP参加交渉が始まる時期から医師会や歯科医師会、保団連等は反対を表明していました。
TPP参加によって日本の皆保険制度が崩壊するとの意見が多く有りました。
民間保険拡大を目的に混合診療の拡大さらには全面解禁を要求され、公的医療保険給付の縮小(患者負担増)、医薬品の特許権保護強化を理由とした薬価制度の改廃とそれに伴う薬価高騰─などが指摘されていました。
医療が「営利を目的としない」という大前提において、市場開放へは向かえないというのが多くの意見でした。

(2)参加賛成への意見

歯科医師の方からは、参加賛成という意見もありました。
「混合診療解禁」により、歯科診療行為として自由診療への拡大が図られるという思いからのようです。
また、患者負担の問題もあります。
現在は、混合診療が禁止されていますので、保険診療と自由診療の受診日を別々に設定し、複数回の受診を求めていますが、解禁されますと同日での診療が可能となります。

混合診療の拡大による診療の要望

(3)医療市場の解禁は医療費抑制とはならないという意見

医療は高度化・最新化するほど、医療費は高騰します。
命が対象となると多くの方が高額でも治療を望むため、医療を市場に任せると医療費上昇を招きます。
その高額な医療行為を補助するのは民間保険となりますが、公的医療保険の活用しかない低所得層や高齢者には難しい選択となります。
結果的に、民間保険の利用に引っ張られる形で、公的支出も上昇してしまうことが予想されます。
医薬品メーカーや民間保険会社など一部の企業の利益はとともに、医療費の総額も上昇する可能性があります。
医療格差が生まれ、低所得層の医療費を税金で賄うことが求められるようになり、医療費が抑制とならないという意見です。

我が国の医療保険制度の基本的考え方

現在は、医療は教育などと同様に「社会的共通資本」であり、すべての国民が公平・平等により良い医療を受けられる環境でなければならないという考え方を持つ日本医師会をはじめとする意見が多数を占めています。

5.混合診療の議論から波及する課題

混合診療から波及する課題としては、「民間保険の拡大」「株式会社の医療への進出」等が考えられます。
先進医療について、厚生労働省が認可をするのに時間がかかり、保険診療対象となるのはほんの一部と言われています。
患者の病状はそれを待っていられないことが多々あり、全国民への平等と公平が望まれるのか、今必要な患者に対してのみ行うという「不平等となっても」命を救うことを優先するのかという課題があります。民間保険の拡大は、今後の課題として議論されることが予想されます。
また、患者にとっての医療サービスに関する選択肢の拡大、あるいは資金調達の多様化などの観点から、医療分野における株式会社参入を早急に解禁すべきであるという意見があります。
一方で、株式会社は営利を追求し、医療分野に参入すると必ず過剰診療・患者選別を引き起こし、ひいては医療費を浪費するという意見もあります。
いずれにしましても、患者の選択肢拡大やサービス向上等患者目線で考えなければならない課題です。

2.歯科医院における混合診療解禁の影響

1.混合診療全面解禁を想定した影響

本年4月より開始する「患者申出療養費制度」は、一部認められている混合診療を拡大するものですが、以前より「混合診療の全面解禁」が議論されています。
全面解禁とは、公的医療の対象でない全ての自由診療についても公的医療の対象部分は自己負担で受診できるということを意味します。
では、どのような影響があるのか、そのメリット・デメリットを整理します。
メリットとしては、下記の項目が挙げられます。特に歯科医院では自費診療を行った日と保険診療を同日に行えるなど、歯科医院、患者双方の負担が軽減するなどのメリットがあります。

混合診療全面解禁のメリット

また、デメリットとしては下記の項目が挙げられます。
誰でも一定の負担で安心して医療が受けられることが医療の原則であり、混合診療を導入すると、患者のリスクや自己負担が増加し、また医療機関の質の評価の問題があるとしています。

混合診療全面解禁のデメリット

2.保険外併用療養費制度 範囲拡大の可能性

厚生労働省では、混合診療として例外的に認められるケースがあります。
これを保険外併用療養費制度と言い、7種類の「評価療養」と10種類の「選定療養」に分かれます。
その内、「選定療養」は患者の選択を広げる意味合いで、歯科の分野では前歯の金合金等、金属床総義歯、時間外診療、小児う触の指導管理などが該当します。
また、一部負担金以外で患者に請求できる費用を次のとおりとしています。
訪問診療に係る交通費や入院時の食事代、診断書料などが該当します。
これらの項目に該当すれば、事実上混合診療は可能ということになり、範囲が拡大されれば解禁と同様の意を持ちます。

 

一部負担金以外での費用、「評価療養」と「選定療養」

3.混合診療解禁で治療技術の競争に

混合診療の解禁については、過去様々な審議会や規制改革委員会等で議論されてきました。
解禁推進の意見としては、下記の項目に集約されます。

混合診療推進理由

混合診療の解禁は、国民ニーズの多様化への対応の他に医療機関の差別化を生むと言われています。
医療技術・サービスにおいて医療機関間で競争をせざる負えない状況を創り出し、先進医療の分野で新しい治療法や薬を開発して提供するケースの「評価療養」では、歯科医師の治療技術が求められます。
また、「選定療養」に関する項目では、「サービスの競争」が予想されます。
今後医科医院においても、診療技術の向上とアメニティ等患者サービスの強化が重要なテーマになると予想されます。

混合診療解禁で技術とサービスの競争に

4.インフォームド・コンセントのさらなる徹底

海外で使われている新薬や治療法に保険が適用されないのは、安全性や効果が確認されていないためで、混合診療の範囲を安易に広げれば、薬害などの健康被害を引き起こす恐れがあります。
よって、混合診療に関して、医療機関及び提供される医療サービスについて徹底した情報の開示を進めるとともに、説明と同意のプロセスを徹底し、医療提供側である医療機関と患者とのコミュニケーション体系のあり方が問われることになります。
また、患者と対等なインフォームドコンセント(十分な説明と同意)がどの程度担保できるかが重要となります。
今後は、医師が診療計画書を作り、必要性やリスクを患者に情報提供して書面で合意するなどのルールを設けるとともに、安全性や有効性に欠ける診療を除外するとされています。

患者に配慮した対応のポイント

5.患者の責務が増加

患者として歯科医師あるいは医療機関からの説明(診療の内容、料金、効果、リスク、セカンドオピニオン等)に対し、十分に理解し、その上で自己責任による決定を迫られる場面が増加することが考えられます。
患者側はできれば家族等による複数で説明を聞くことが望ましく、理解できるまで質問し、選択していくことが必要となります。

患者の責務

3.混合診療範囲拡大を想定した今後の対応策

医療技術や医療機器、材料等は進化しており、その医療技術や最新医療等の一部を保険適用し、前回の診療報酬改定から導入できるようになりました。
また、保険適用と共に、改めて自由診療への活用も見直されています。
また、厚労省では先進医療技術の指定がなされています。
歯科医院の経営改善においても、自由診療への取り組みが重要視されており、混合診療枠が広がらなくても、最新医療・先進医療への取り組みが必須となることは予想できます。

1.先進医療(歯科)への対応

(1)最新医療機器の導入

歯科では先進医療としては、歯科用の最新医療機器で、有効性と効率性が認められた物として、「CAD/CAMシステム」と「歯科用レーザー」、「3D撮影装置」「マイクロスコープ」があります。
それぞれ保険適用の対象となり、最新医療機器として各歯科医院に導入されつつあります。

有効性と効率性

■3D・CT撮影装置の「正確性」「快適性」

今までのX線装置では平面的な画像であり、細部や歯肉内の立体的な構造までは把握できませんでした。
CT撮影装置や3Dの画像によって「正確性」がより増して、診断できることとなりました。
その「正確性」によって、手術・処置がより「正確性」を向上しました。
結果、術後の「快適性」も提供できるようになったと言えます。
問題になっているインプラントの医療事故に関しても、十分な診断が出来ず、口腔内の状況把握が甘いまま行った結果で起こった術例が多く、その解決策としても3D・CT撮影装置が活用されています。

■マイクロスコープの「正確性」

マイクロスコープは肉眼では見ることのできない歯の細かい凹凸や、隠れた根管、補綴物のフィットの状態など、様々なことが判るので、診断能力が大幅に向上し、より精密な治療を行う事ができます。
手術時での活用だけでなく、通常の検査、処置にも活用されています。
ルーペの使用と比べても情報量の差は大きく、見落としが少なく、使用する歯科医師の疲れ方も大きく違うと言われています。

(2)最新医療技術の習得

歯科では、現在、新規保険収載等の評価から、優先度が高い技術として11件が対象となっています。
また、他に難度の高い手術や難度の高い部位等におけるX線装置を利用した撮影に、保険点数の評価がされています。

新規保険収載等の優先度が高い技術他、CT撮影装置等に関する診療報酬の改定項目

2.厚生労働省で認められた先進医療技術(歯科)

厚生労働省では、先進医療技術AとB計108種類を認めています。
その内、歯科関連が3項目あります。

先進医療技術

3.先進医療(歯科)の保険導入

先進医療に関して、前回改定で保険導入が新設されたもの、改正となったものがあります。
患者からみて分かりやすく納得でき、安心・安全で、生活の質に配慮した医療を実現する視点からという理由も有ります。

先進医療(歯科)の保険導入

4.先進医療としてのインプラント義歯治療

先進医療の内の義歯補綴治療における総合的咬合・咀嚼機能検査」の中で、「インプラント義歯」による治療が厚生労働省により適応が認められています。

先進医療としてのインプラント義歯による治療の適応条項

この状態の場合、インプラント治療も先進医療としての適応となります。

先進医療への取り組みは、最新の医療機器導入と最新の医療技術習得ということから始まります。
「自由診療」に対し、患者からの信頼と関心を得るためにも「技術」「医療機器」両面を備え、患者から要望される診療を提供する体制構築が一番の対応策と思われます。

■参考文献及び参考資料
・ダイヤモンド社HP 「TPPの妥結目前!医療はどうなる?それでも混合診療の全面解禁はありえない」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメント

コメントは停止中です。