正しい知識がトラブルを防止 休暇付与の取扱いと留意点

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正しい知識がトラブルを防止 休暇付与の取扱いと留意点

  1. スタッフの満足度向上につながる休暇取得
  2. 産前産後休暇と育児休暇の取扱いと留意点
  3. 介護休業と介護休暇の取扱いと留意点
  4. 休暇取得のトラブル事例と解決法

 


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1.スタッフの満足度向上につながる休暇取得

歯科医院で勤務するスタッフからの要望は多々ありますが、その中でも有給休暇や産前産後の休暇の要望は大きな課題です。
余剰人員を抱えている歯科医院は多くないため、一人が休むと勤務しているスタッフに負担が生じるケースが多く、スタッフの休みが長期になると対策が取れないといった事例も出てきています。
労働基準法で認められている有給休暇や産前産後休暇、育児休暇、介護休暇といった休暇の取得を妨げることはできません。
スタッフの勤務への満足度向上を図るためにも、院長は休暇の法律と与え方を正しく認識することが必要です。
本稿では、スタッフの満足度向上につながる休暇の与え方や法的規制について解説します。

1.休暇の種類

スタッフが休暇として取ることができるものは多種多様です。
休暇とは法定休暇や特別休暇等、労働の義務がある日において各スタッフが個別に所得する休養日の意味です。

休暇の種類

2.年次有給休暇とは

(1)年次有給休暇とは

年次有給休暇とは、院長が雇入れ日から6か月間勤続勤務して全労働日の8割以上出勤したスタッフに対して、継続または分割した10労働日の有給休暇を与えなければならないというものです。
また院長は、雇入れ日1年6か月以上勤続勤務し全労働日の8割以上を出勤したスタッフに対しては、継続勤務年数1年ごとに10労働日に1労働日、2年6か月経過後は2労働日を加算した有給休暇を与えなければなりません(ただし、その総日数が20日を超えるときは、その超える日数については有給休暇を与える必要なし)。
年次有給休暇の取得には、スタッフの休暇取得時季の指定が必要であり、また、院長はこの時季指定に対して、事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更権を行使することが可能です。

休日と労働日の関係

(2)有給休暇の発生時間

有給休暇の申請は「事前申請」が求められ、当日に請求できるものではありません。
また発生時間は午前0時からとなっていますので、原則として当日の朝に有給休暇で休みます、は認められません。
ただし、労基法よりスタッフに有利になるような規則であれば差支えない、とされていることから、医院規則として認める場合は問題ありません。

(3)有給休暇を取得したスタッフへの不当な取り扱いの禁止

年次有給休暇を取得したスタッフに対して、院長が賃金の減額その他不利益な取扱いをすることは禁じられています(第136条)。
ただし、第136条に違反した院長に対する直接的な罰則は定められておらず、強制力がないと解されています。
すなわち、年次有給休暇を取得したスタッフに対して院長が各種の不利益な取扱いをすることは当然に違法ですが、違法であることをもって当該取扱いが無効になるとは限りません。
年次有給休暇を取得したスタッフに対して院長が各種の不利益な取扱いをすることは際限なく認められるものではなく、その程度によっては認められません。
年次有給休暇を取得したスタッフに対する不利益な取扱いが、第39条で保障されているスタッフの年次有給休暇の取得する権利の行使を抑制したり、その権利を保障した法の趣旨を実質的に害すると認められる場合は、その取扱いは公序良俗に反し無効となります(民法第90条)。

(4)有給休暇の付与日数

一般労働者、パートタイム労働者

2.産前産後休暇と育児休暇の取扱いと留意点

1.産前産後休暇とは

(1)産前産後休暇とは

産前休暇とは、6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間)に出産する予定の女性スタッフが休業の請求をした場合には、その女性スタッフに休暇を与えなければならないというものです。
この請求に対し、院長が与える休暇期間は、女性スタッフが請求した期間(最大6週間または14週間)でなければならず、女性スタッフの請求への拒否や休暇の短縮および変更は認められません。
ただし、女性スタッフが産前休暇を請求しない場合、院長が女性スタッフを就業させることは差し支えありません。
一方、産後休暇とは、女性スタッフから請求の有無によらず、産後8週間の休暇を与えなければいけない休暇です。
産後6週間経過時までは、女性スタッフが働きたいと申し出た場合でも、院長はその女性スタッフを働かせてはいけません。
また、産後6週間経過後に女性スタッフが働きたいと申し出た場合には、医師によって支障がないと認められた業務について働かせることは可能です。

産前休暇・産後休暇

(2)産前産後休暇取得のスムーズな申請手法

妊娠が判明し安定してきた頃には、院長や上司は当人から報告してもらい、産休や育休の打ち合わせをしておくことが重要です。
産休の申請については、社会保険料が関係することもあり、院長側が必要書類と併せ申請をすることが一般的です。
必要な書類は、母子健康手帳、印鑑、保険証、通帳(手当等の入金先)等があります。
出産予定日の6週間前からの休業を想定すると、歯科医院側は妊婦の健康に配慮する必要があるため、妊婦の体調管理のためにも早めに打ち合わせし、申請書を提出することが必要です。

(3)産前産後休暇時の給与

産休中においては、院長は女性スタッフに給料を支払う義務はありません。
産休中の女性スタッフに対しては、出産手当金や出産育児一時金が支給されます。
産休中に、給料の代わりに申請すると給付されるのが「出産手当金」です。事業所の健康保険組合等から出産手当金が支給されます。
国や自治体の制度ではないので、自営業などの国民健康保険の加入者は対象になりません(歯科医師国保の場合は出産手当金の支給なし)。
出産育児一時金とは、子供一人の出産につき決められた金額が支給される制度であり、子供一人ずつに対して支払われるため、双子や三つ子の場合は、その子供数にあった金額です。
分娩費用の負担軽減が主な目的であり、申請方法は勤務先による申請、もしくは産婦人科などの病院から申請する方法の2種類があります。

歯科医師国保の場合の注意点

2.育児休暇とは

(1)育児休暇とは

育児休暇とは、子供が1歳になるまでの期間で、1人の子供について1回(夫が妻の出産後8週間以内に育児休業を取得した場合には、再取得が可能)、育児休業を申し出ることができるというものであり、院長は申出がなされた場合には原則として休暇を与えなければなりません。
自身または配偶者が、その子の1歳到達日に育児休業中であり、かつ当該子の1歳以降の期間について、申し込んだ保育所に入れないなど一定の場合には、子が1歳6か月に達するまで育児休業の申出が可能です(平成29年10月施行予定の改正育児介護休業法では、1歳6か月後も保育園等に入れないなどの場合には、育児休業期間を2歳まで再延長が可能)。
また、父母ともに育児休業を取得する場合、育児休業取得可能期間は子の1歳2か月到達まで延長されます。
ただし、引き続き雇用された期間が1年未満の者、休業申出の日から1年以内に雇用契約が終了することが明らかな者、1週間の所定労働日数が2日以下の者等のいずれかのものであって、過半数代表との協定で育児休業を認めないとした場合には、申出を拒否することが可能です(育児・介護休業法6条1項ただし書、育児・介護休業法施行規則7条)。

育児休暇

(2)育児休暇時の給与

育児休暇の間についても、診療所には給料支払いの義務がありません。産前・産後休暇と同じように、休んでいる間の扱いはそれぞれの診療所の判断に任されているのです。
しかし、給料が支払われない場合や大幅に減給されてしまう場合は、雇用保険から給料の日額67%(6ヶ月経過後は50%)程度に相当する育児休業給付金を受け取ることができます。

3.介護休業と介護休暇の取扱いと留意点

家族の介護を行うスタッフの「仕事と介護の両立」を支援する法律として、「育児・介護休業法」があります。
この法律では、スタッフが介護休業などを取得する権利を定めるとともに、院長に短時間勤務制度などの措置を講じるよう義務付けています。
介護を行いながら仕事を続けるためには、こうした制度を上手に利用していくことが重要です。

1.介護休業と介護休暇

(1)介護休業と介護休暇

介護休業とは、スタッフが、要介護状態にある対象家族の介護のために、要介護者1人につき通算93日まで、3回を上限として、休暇を取得することができるというものです。
院長が原則として介護休業の申出を拒否することができないこと、および一定の場合に過半数代表者との協定を締結して申出を拒否することができること(育児・介護休業法 第12条)は、育児休業の場合と同様です。
介護休暇とは、スタッフは、要介護状態にある家族の世話を行うため、年5労働日(要介護対象家族が2人以上の場合は年10労働日)を限度として、介護休暇を取得することができるというものです。院長が原則として介護休暇の申出を拒否することができないこと、および一定の場合に過半数代表者との協定を締結して申出を拒否することができること(育児・介護休業法 第16条の6第2項)は、看護休暇の場合と同様です。
休業と休暇の違いは、目的とその取得の日数です。

介護休業と介護休暇

(2)介護休業等の対象家族の範囲

介護休業等の対象家族の範囲は、配偶者(事実婚の場合を含む)、父母(養父母)を含む)、子(養子を含む)、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹及び孫、と規定されています。

(3)介護休業等の取得時の給与

スタッフは介護休業期間中に労務を提供しないので、院長は給与を支払う義務はなく、原則として無給です。
ただし、事業所によっては支給される場合もありますので、就業規則を確認しましょう。
雇用保険の被保険者の方が介護休業を取得した場合、一定の要件を満たすと介護休業給付の支給が受けられます。

(4)介護休業給付金

平成28年8月1日より、スタッフが介護休業を取得した際の介護休業給付金の支給率や上限額が変更になりました。

介護休業給付金

2.その他の休暇

その他の休暇として、慶弔休暇、リフレッシュ休暇、夏季休暇、年末年始休暇、子の看護休暇、生理日の休暇等があります。

(1)慶弔休暇

結婚や出産、また近親者の中で亡くなった人がいる時に取得することができる休暇です。
法律で定められている休暇ではないため、事業所が任意に導入するものであるため、取得可能日数は各事業所で違います。

慶弔休暇の事例

(2)慶弔休暇の有給休暇か無給かの取り扱い

慶弔休暇は任意の休暇なので、有給休暇か無給かの取扱いは事業所の取り決めによります。どういう基準にするかについては、院長の判断が必要です。

(3)リフレッシュ休暇

勤続年数の節目になる時に事業所から与えられるもので、事業所が任意で導入する休暇です。
そのため、日数も有給休暇か無給かの取扱いも事業所が決める基準次第となります。

(4)子の看護休暇

子の看護休暇とは、小学校入学前の子を養育する従業員は、子の負傷、疾病または疾病予防に必要な世話を行うために各年度に5労働日(小学校就学前の子が2人以上いる場合には10労働日)を限度に看護休暇を取得することができるというもので、院長は、かかる申出を原則として拒否することができません(育児・介護休業法 第16条の3第1項)。
もっとも、勤続6か月未満のスタッフ及び週あたりの所定労働日数が2日以下のスタッフについては、過半数代表者との協定を締結した場合、看護休暇の申出を拒否することができます。

4.休暇取得のトラブル事例と解決法

スタッフに余裕があり、様々な休暇を十分に取らせることができる歯科医院は多くはありません。
また、休暇について法律上の知識が不十分なため、休暇取得の規則が法に抵触する内容となっている歯科医院も見られます。
この章では、休暇についてトラブルとなった事例を紹介します。

産前産後休暇中の賞与不払い事例

この裁判において、結果として賞与を支払うという決定が出ただけでなく、90%以上の出勤が基準としている規則があることで、産前産後休暇や育児休業、時間短縮措置等のスタッフの権利行使について抑制にもつながるとしています。
就業規則作成の上で、休暇取得に関する権利と給与・賞与・退職金・昇給等の基準を併せて考慮しないと、スタッフが持つ権利を阻害もしくは抑制するということになる可能性があり、十分注意する必要があります。

2.育児休業付与を拒否が不法行為となった事例

育児休業取得拒否に係る慰謝料請求事例

院長側が多大な負担を強いられることになっても、スタッフが持つ権利を阻害することはできないという法的理由があります。
スタッフと院長間でより良いコミュニケーションを取り、一方的な義務だけを課すのではなく、スタッフの権利と義務を重ね合わせた自覚を持って勤務に従事してもらうことが重要です。
権利を阻害しないということが前提でも、院長を含めた他のスタッフとの人間関係のもとで歯科医院という組織があるという自覚を持ってもらうことが、より良い職場環境の整備につながります。

3.有給休暇申請と時季変更に関する事例

有給休暇申請とその対処に関する事例

原則として、スタッフは有給休暇の使用時期を決めることができ、院長はそれを拒否することはできません。
例外的に、その日が多忙であることが判っていて、そのスタッフでないと処理できない、もしくは代替できるスタッフの手配ができないため客観的に(第三者が見ても納得)事業の運営が厳しくなるような場合であれば「時季変更権」の行使が可能とされています。
例外的な措置であり、有給休暇取得の拒否は慎重に行わなくてはなりません。

4.有給休暇と子の看護休暇の取得と皆勤手当ての不払いについて

有給休暇取得時及び子の看護休暇の取得時の皆勤手当不払いの事例

有給休暇はその字のとおり、給与を支給する休暇として取り扱われます。
そのため、皆勤手当や精勤手当はすべて実出勤した時だけ支給する、ということは認められていません。
また、小学校に上がるまでの子供が発病した際は、「子の看護休暇」が認められています。
その権利を行使した際に、院長はスタッフに対して不利益な扱いをすることが禁じられています。
遅刻早退や欠勤を防ぐための皆勤手当等ですが、スタッフに認められている休暇取得の権利を阻害したり、不利益な扱いをするということは認められていません。

 

■参考文献及び参考資料
独立行政法人 労働政策研究・研修機構ホームページより
厚生労働省ホームページ 育児休暇(「育児休業」とは)より
アポロニア21 「物語で学ぶ労務管理」 より

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