同一労働同一賃金を実現する賃金制度設計時のポイント

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同一労働同一賃金を実現する賃金制度設計時のポイント

  1. 同一労働同一賃金が求められる背景
  2. 法的根拠の確認と対応課題の整理
  3. 同一労働同一賃金の実現に向けた改定手順
  4. 賃金制度構築時の留意点と実例紹介

 


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1.同一労働同一賃金が求められる背景

労働力確保に向け働き方改革が求められている

我が国では出生率の低下、ライフスタイルの変化、高齢化が進行しています。
また産業界では、労働力人口の減少が問題となっています。
この問題に国をあげて改革に取り組んでおり、平成28年6月には「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定しました。
この実現に向けて、平成30年6月30日に、働き方改革関連法案が衆議院本会議で可決、成立しました。
この働き方改革関連法案は、長時間労働の解消、女性や高齢年齢者の就労促進、正規社員と非正規社員の格差是正などを目指すために法的根拠を整備したものになります。
今回は、主要テーマの一つである正規社員と非正規社員の格差是正を取り上げ、なかでも企業の人事制度施策に影響する同一労働同一賃金の実現に向けた内容を掘り下げます。

労働力人口の推移

『「労働力調査」統計局推計』(平成27年総務省)によると、労働力人口(15歳~65歳)が2015年から2025年の10年間で約300万人減少し、そのうち最も必要と言われている30歳以上59歳以下の労働力人口が約200万人減少する推計値を算出しています。

働き方改革関連法案の概要

働き方改革とは、労働力確保に向け多様な働き方を可能にし、労働生産性を向上することを目的とする一連の取組みを指します。
一つの法律ではなく、いくつかの法律により構成されることから、働き方改革関連法案という言い方になります。
法案成立の背景は、現在の日本が直面している雇用形態による待遇差、長時間労働等種々の課題を包括的に解決することです。
働き方改革関連法案は、3つの目的と8つの法律からなります。

働き方改革関連法案一覧、働き方改革関連法案3つの目的

同一労働同一賃金が求められた背景

非正規雇用労働者は、正規雇用労働者との間に不合理な待遇差があるなかで雇用契約を交わしています。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消し、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられるようにするため、同一労働同一賃金の実現が求められています。
下表の最下部「全体」でみると、正社員の平均賃金が321,100円なのに対して、非正規雇用の平均賃金は205,100円と賃金格差が約6割となっています。
2029歳の賃金格差は約8割ですが、年齢が上がり5054歳では賃金格差が約5割(半分)になっています。
欧米諸国では賃金格差は約8割となっており、国としても欧米諸国並みの数値になるよう取り組んでいます。

正規雇用と非正規雇用の待遇差、諸外国と比較したフルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金水準

2.法的根拠の確認と対応課題の整理

同一労働同一賃金の根拠法の確認

同一労働同一賃金の実効性を担保するためには、労働者が司法判断で救済を受けられるようにすることが必要なります。
その根拠を整備するため、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の3法が改正されました。
注意すべき点は、大企業と中小企業で施行日が異なるということです。

同一労働同一賃金を実現するための根拠法一覧

1 労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備

有期雇用労働者に対して均等待遇の規制がありませんでした。
また派遣労働者については、均等待遇に加え、均衡待遇についても規制がなかったことから、司法判断によって均衡待遇を求めることができるとする法改正が行われることとなりました。

2 労働者に対する待遇に関する説明の義務化

現行制度上、パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者のいずれに対しても、正規雇用労働者との待遇差に関する説明義務が企業に課されていません。
このため、法改正により、企業は有期雇用労働者の雇入れ時に、その労働者に適用される待遇の内容等についての説明義務が課されることになっています。

3 行政による裁判外紛争解決手続(ADR)の整備

不合理な待遇差の是正について裁判で争えることを保障する法整備をしたとしても、労働者が実際に裁判に訴えるとすると、経済的負担を伴います。
このため、裁判外紛争解決手段(行政ADR)を整備し、均等・均衡待遇を求める当事者が身近に、無料で利用できるようにすることとされました。

4 派遣労働者に関する法整備

派遣元事業者は、派遣先労働者の賃金水準等の情報がなければ、派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇の確保義務を履行できません。
このため、派遣先事業者に対し、派遣先労働者の賃金等の待遇に関する情報を派遣元事業者に提供する義務などの規定が整備されることとなりました。

賃金制度整備に必要なガイドライン案の概要

同一労働同一賃金を実現するためには、何が不合理な待遇差なのかについて、具体的に定めていくことが重要です。
そこで政府は、働き方改革実行計画の策定に先駆けて、同一労働同一賃金ガイドラン案を作成しています。
ガイドライン案では、雇用形態に関わらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金を実現するため3つの項目について、具体的なケースを取り上げ判定を示しています。

同一労働同一賃金ガイドライン案の主要3項目

(1) 基本給の均等・均衡待遇の確保

基本給について、労働者の職務や職業能力、勤続年数などの実態に違いがなければ同一の、また違いがあれば違いに応じた賃金を支給します。
また、以下の場合には、正規雇用労働者(無期限フルタイム)と同一の条件の有期雇用労働者またはパートタイム労働者に対し、その部分について同一の支給をしなければならないとされています。

同一賃金支給が必要な場合

(2) 各種手当の均等・均衡待遇の確保

ボーナスや役職手当、通勤手当といった各種手当について、労働者の勤務等の実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給をすることが求められています。
以下のような手当については、正規雇用労働者と同一の条件の有期雇用労働者またはパートタイム労働者に対して、同一の支給をしなければならないとされています。

各種手当の均等・均衡待遇の確保

(3) 福利厚生や教育訓練の均等・均衡待遇の確保

食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用や慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障について、同一の利用・付与をすることが必要です。
また、教育訓練について、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施をすることも求められます。

福利厚生や教育訓練の均等・均衡待遇の確保

実現に向けた企業の取り組み課題

非正規社員の待遇を改善していくためには、各企業において賃金等の待遇の決定方法を客観化し、透明性のある形で提示できるようにしていくことが重要です。
賃金表を整備し、社員に説明を果たすなどにより、待遇決定の納得性を高めていくことが求められます。

同一労働同一賃金の実現に向けた企業の取り組み課題

3.同一労働同一賃金の実現に向けた改定手順

賃金制度改定の導入ステップ

同一労働同一賃金ガイドライン案は、同一企業/団体の中で正規雇用労働者と非正規雇用労働者両方の賃金決定基準・ルールを明確にし、両者の間に不合理な待遇差を生じさせないために対応例を示しています。
その待遇差を生じさせないための賃金制度改定ステップは次の通りです。

同一労働同一賃金に対応する賃金制度改定ステップ

1 現状分析

賃金制度改定や諸待遇の変更を行う前に現状を洗い出し、改定の方向付けを行います。その際、雇用形態の違いによる労働条件や職務内容の洗い出しを行います。
また賃金の支給根拠が、職務、成果、あるいは役割なのか等、何に基づいているかを明確にします。
Point ⇒ 労働条件や職務内容の洗い出し

2 制度改定

賃金制度の改定は、現状分析で把握した内容に加えて見直された組織階層をもとに、諸手当体系の見直し、基本給の設計の順で行います。また教育制度も同時に見直しを行います。
教育制度を整備するだけでなく、一つひとつの教育制度が均等・均衡待遇になっているか確認していく必要があります。
Point ⇒ 諸手当/各制度の均等待遇・均衡待遇の確認

3 制度説明

改定後は社員向けに制度説明会を行います。
これまでも制度改定毎に説明会を行っていますが、その対象は正規雇用労働者が中心でした。
今後は、正規雇用労働者だけでなく、非正規雇用労働者にも説明する機会を設けて下さい。
Point ⇒ 非正規雇用労働者向けにも説明会を実施

制度改定の方向付けとなる現状分析

同一労働同一賃金の実現に向けた制度改定は、現状分析から始まります。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の労働条件や職務内容がどのようになっているかを把握し、均等待遇・均衡待遇を考慮したうえで改定の方向性を決めていきます。

現状把握が必要な項目

(1) 労働条件

制度改定に向けて、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間にどのような労働条件の違いがあるのかを把握することが重要です。
把握する際は、整理・比較できるように表にまとめると見やすくなります。

労働条件一覧表

雇用区分ごとに雇用期間や退職金の有無などの労働条件を一覧すると比較しやすくなります。
また諸手当等もまとめ、どの雇用区分までが対象になっているのかを明示することにより改定の方向性が明確化されます。

(2) 人材活用の仕組み

人材活用の仕組みとは、転勤・シフト参加への有無、休日出勤要請への対応等を整理したものです。

人材活用の仕組み一覧表

多様な雇用形態を採用する企業が増加する中で人材活用の仕組みの明確化は、制度改定に向けた一覧作成だけでなく副次的な効果を得ることができます。
それは担当分野を任されている社員にとって、対象の社員に対して何をどこまで指示できるのかが明確になるためです。

(3) 職務内容

職務内容とは、業務の内容および業務に伴う責任の程度のことになります。

職務内容

正規雇用社員と有期雇用社員ともに接客を行いますが、クレーム対応と発注作業については職務内容が違うことが確認できます。

職務内容を明確にする職務分析

厚生労働省では、パートタイム労働者の担う職務内容を正確に把握し、パートタイム労働者と正社員の間の均等・均衡待遇の状況を確認することや、パートタイム労働者の人事制度を見直す上で参考となる職務評価に力を入れています。
パートタイム労働者の待遇が働きや貢献に見合ったものとなるよう、職務分析・職務評価の導入支援サイトを立上げ、セミナーやツールの提供また、職務評価コンサルタントの無料派遣を行っています(参考

職務分析・職務評価導入サイト活用メリット

4.賃金制度構築時の留意点と実例紹介

多様な働き方に対応した組織における階層の整理

賃金制度整備に入る前に、組織階層や雇用形態の整理を行うことが同一労働同一賃金の実現に向けたポイントです。
これまで確認してきた、労働条件や職務内容の比較対象に加え、組織階層の整理とどのような雇用形態があるのを一目で確認することができます。
これがあると賃金制度を設計する際に支給根拠などが明確になります。
さらに教育体系整備、福利厚生、諸手当体系等を検討する際にも役立てることができます。

組織階層整理図、組織階層整理のメリット

支給根拠を明確した賃金制度設計

同一労働同一賃金の実現に向けて賃金制度を見直す際は、支給根拠を明確にすることが重要です。
同一労働同一賃金ガイドライン案の中にも、均等待遇・均衡待遇を実現し不合理と判定されないようにすることが、事例を交えて記載されています。
支給根拠を明確にすることで、不合理と判定されないことに近づきます。

支給根拠を明確した賃金制度設計

等級制度を活用したパートタイム労働者の時間給設計法

職務内容が明確になった等級制度をもとに、パートタイム労働者も正規社員の等級制度に合わせ階層化し、同じ階層の月額給を時間給へ対応させた事例の概要を紹介します。

事例企業Aの概要、組織階層、時間給設定ステップ、設定後の等級表抜粋

組織階層を再整理した際に、正規社員だけでなく、パートタイムの方の階層を再度見直しました。
これにより、対応する時間給を明確に算定することができ、設計後は金額の明確さだけでなく、以下のような改定効果につながりました。

賃金制度改定後の効果(副次的な効果含む)

同一労働同一賃金の実現は、多様な人材を活用していく上で重要なテーマです。
企業によって置かれている状況、抱えている課題は様々ですが、今回の内容が自社の賃金制度構築時に参考になれば幸いです。

 

■参考文献
『平成27年労働力調査』総務省
『平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査』厚生労働省
『平成28年同一労働同一賃金に向けた検討会資料』厚生労働省
『同一労働同一賃金ガイドライン案に沿った待遇基準・賃金制度の作り方』第一法規
『同一労働同一賃金はやわかり』日本経済新聞社

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