クリニックの成長を促す 若手職員の早期戦力化の進め方

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クリニックの成長を促す 若手職員の早期戦力化の進め方

  1. 若手職員の特性と定着率の実態
  2. 若手職員の早期戦力化を図るための育成方法
  3. 若手職員に自信をつけさせるための支援策
  4. 院長が実践する上手な褒め方、叱り方のポイント


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1.若手職員の特性と定着率の実態

1.現代の若者の特性

2000年以降に成人を迎える世代を「ミレニアル世代」といい、主に米国で使用されている世代区分になりますが、日本では「ゆとり世代」や「さとり世代」が該当します。
この世代の若者は、インターネットが普及した環境で育った最初の世代であるとともに、運動会の徒競走で手をつないでゴールするように、一芸に秀でた子供よりも無難な子供に育つような教育を受けています。
一方で、受験戦争に追われ偏差値により優劣が決められてしまう競争も経験しており、失敗が許されないというプレッシャーも受けてきています。
当時は、経済は長く停滞していた時代でもあり、これらの結果、リスクを避け、失敗しない無難な選択肢を選ぶ傾向が見られます。
これらの時代背景の中で育ってきた若手職員は、以下のような特性を持っています。

現代の若者の特性

その一方で、優れている面もあります。指示した仕事については確実に実行したり、積極的に発言することがなくとも、自分の考えはしっかり持っています。
さらには、ITツールの発達など情報化社会の中で過ごしてきており、情報収集面においては、ベテラン職員よりも優れている人が大勢いると思われます。
このように、今の若手職員は、一方では院長から見ると物足りない面も持ち合わせているかも知れませんが、優れた面も数多く持っています。

優れている面

2.雇用の流動化と3年未満退職者の実態

厚生労働省がまとめた「若年者雇用実態調査の概況」では、現在働いている15~34歳のうち、初めて勤務した職場をすでに辞めた人のうち、「3年未満」で辞めた人の割合は、男性62.8%、女性61.8%と、3年以上勤務した人の割合と比べると非常に高い割合となっています。
この結果から、今の若手職員は、勤めている職場を短い期間で辞めることに対してあまり抵抗感を持っていない傾向がみられます。
日本全体でみても事業者側としては、団塊世代の大量退職や業績回復などにより人材不足が顕著になっている現状では、若手の定着も重要な課題となっています。
若手職員の早期戦力化の前に、定着化への対策も急がれています。

また、クリニックにおいては、来年の診療報酬・介護報酬の同時改定を控え、外部環境の厳しさが予想される中、一日でも早く若手職員を戦力化し、患者サービスの向上や部下の育成などで貢献してもらえるような人材に育てていきたいところです。
本稿においては、自院の若手職員を一刻も早く戦力化するための具体的ポイントを解説していきます。

2.若手職員の早期戦力化を図るための育成方法

1.早期戦力化の手順と経営理念・行動基準の徹底

若手職員の早期戦力化を図るためには、下記の3つのステップで育成に取り組んでいくことが必要です。
以下、このステップに基づいて、ポイントを解説します。

早期戦力化の手順と経営理念・行動基準の徹底

はじめに、若手職員には自院の経営理念や行動基準を習得させることが重要です。
これが、職員育成の柱になります。
経営理念は、診療所にとっての根源的な考え方です。在籍している限り大事にする価値観や行動規範であり、緊急事態に遭遇した場合やマニュアルにない判断を求められたときの拠り所になるものですので、入職時のオリエンテーションでしっかりと伝え、理解させることが大切です。
また、自院で定めている基準行動を徹底的に教え込み、考えなくても自然と「言える」「行動できる」レベルまで叩き込む必要があります。
これが、若手職員育成の第一歩です。

入職時に徹底的に教え込むべき項目

3.課業一覧(キャリアマップ)、OJT計画にもとづく育成

若手育成で最も重要なのが、このステップです。
「早期に」「計画的に」育成を進めるには、成長のロードマップをしっかり作成し、本人に見せて、進捗チェックと指導を行うことがポイントとなります。
その役に立つものが、課業一覧(キャリアマップ)、OJT計画です。
課業一覧(キャリアマップ)とは、院内にある仕事の棚卸を行い、経験年数や等級と担当する職務や役割の関係を整理したものです。
そして、課業一覧(キャリアマップ)をベースとして、個人別のOJT計画を作成し、教育担当の先輩職員が、「教える」「やらせる」「チェックする」「追加指導する」「次のステップに進ませる」というサイクルを回していくことになります。
これが有効に機能すると、若手職員の育成スピードは飛躍的に早まります。入職間もない時期に「守破離」の「守」をしっかり身につけさせてやることが、後々の成長に大きく影響するのです。

課業一覧(キャリアマップ)の例、OJT計画フォーマット

3.Off-JT(教育研修)による能力開発

OJTによる育成はとても重要で、若手育成の核となる部分ですが、OJTでは習得できないスキルもあります。それを補完するのがOff-JT(教育研修)です。
Off-JTは、診療所全体で計画を立てて取り組んでいくことが必要です。

Off-JT計画の例

3.若手職員に自信をつけさせるための支援策

1.内省を促し、仕事を確実に覚えさせる

人の記憶は曖昧なものです。
ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線にもあるように、そもそも脳は忘れるようにできているといわれています。
この理論は、一度覚えたことを放置しておくと時間の経過とともに忘れてしまいますが、反復継続することで、習得の度合いは維持、向上していくことを実証したものです。
この結果から、若手職員が仕事を覚えていく課程において、反復継続させることによって理解を確実なものとし、自信をつけさせることができます。

エビングハウスの忘却曲線と復習の関係、仕事を確実に身につけさせるためのポイント

2.院内でのスピーチやプレゼンを経験させる

アメリカ国立訓練研究所の研究によって導き出された、学習定着率を表す「ラーニングピラミッド」というモデルがあります。
これは、人の経験や学習の過程を分類したもので、まず体験して、次に自ら参加し観察して最終的に言葉やビジュアルで表すことができるようになるということを表しています。
いわゆる講義(聞くだけ)は5%、資料や書籍を読むことは10%、視聴覚が20%、実演によるデモンストレーションが30%、グループディスカッションが50%、実践による経験・体験・練習が75%、誰かに教えることが90%と、より能動的・主体性が必要なことになるほど学習定着率が高い、すなわち教育効果が高いといえる研究結果が出ています。

ラーニングピラミッド

人に何かを教える場合は、自分の中で学習してきたノウハウを言語化し、相手に伝える必要があります。
つまり、人に教えたり、伝える訓練を繰り返すことで自分の頭の中が整理され、話術も磨かれます。
また相手に教える際には、わかりやすく伝える能力も求められるため、プレゼンテーション力やコミュニケーション力も向上するはずです。
若手職員を成長させるためには、「教える場」を設定することも効果的といえます。

若手職員が「教える場」となる活用場面

3.ピグマリオン効果で情熱と挑戦意欲をかきたてる

ピグマリオン効果とは、アメリカの教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって提唱された「人間は期待された通りの成果を出す傾向がある」という概念です。
ある実験で、「成績の優秀な生徒達を集めたクラス」と「成績の悪い生徒達を集めたクラス」を作りました。
そこで、「成績の良い生徒のクラス」の担任は、「ここのクラスは、成績の悪い生徒のクラス」と生徒に告げ、「成績の悪い生徒のクラス」の担任は、「ここのクラスは、成績の良い生徒のクラス」と生徒に告げて、それぞれクラスを担当させるという実験です。
その結果、「もともと成績の良かった生徒達のクラス」の成績は下がり、「もともと成績の悪かった生徒達のクラス」の成績は上がりました。
以上の事から、期待と成果の相関関係について、「人は期待されれば期待された通りの成果を出す傾向がある」という結論が導かれました。生徒たちは自分にかけられる期待を敏感に感じて「やる気」を出して勉強に励んだり、「やる気」を失ったりしていたわけです。
反対に、期待されないで「君はダメだ」と言われ続けていると、その言葉通りに成績が下がったり、能力が落ちてしまうことがあります。
これを「ゴーレム効果」と呼びます。

ピグマリオン効果とゴーレム効果

つまり、ピグマリオン効果から生まれる心理的作用を上手く利用すると、若手職員の成長が促されます。
実際には、期待を寄せるだけでは、自己成長につながりません。院長や先輩がしっかりと若手職員と向き合い、定期的に評価・面談するとともに、何に困っていて、どうしていきたいのかを把握することも必要です。

4.院長が実践する上手な褒め方、叱り方のポイント

1.上手な褒め方のポイント

(1)何を褒めるのか

院長は、職員が診療所の理念・方針に沿った行動や考え方、患者対応をしたときに褒めることが重要です。
人は褒められることで「これで良いのだ」というフィードバックを受けたことになり、褒めた方向に職員を向かわせることができるからです。
診療所職員としてあるべき姿を描き、その姿に合った行動をした職員がいたら即座に褒めるべきなのです。

院長が率先して褒めるべき事

(2)いつ褒めるのか

院長はどのタイミングで褒めればよいのでしょうか。その場で褒めずに後で褒めたり、さらに人事評価の面談の時に、あの時は良かった等と言うケースは適切ではありません。
人の良い行動を促し、悪い行動を減らすという行動に着目した学問に、行動科学があり、その中で「60秒ルール」というものがあります。
行動を促したければ、その行動をみて「60秒以内」に関わりなさい、ということをいっています。
60秒を超えたら効果がないわけではなく、その場で褒める(叱る場合も同様)ことにより、褒められた行動は繰り返すことができ、叱られた行動は減少する傾向になるといわれています。

(3)どのように褒めるのか

褒める際のポイントを具体的に確認します。

褒める機会を多く持つポイント

(1) 達成感を味わわせる

褒めの鮮度が重要であるとすると、より多くの褒める機会があれば良いということになります。
褒める機会は、院長が幾らでも作ることができます。
次のレベルも院長が様子を見ながら日々の目標を設定し、徐々に高い課題へと引き上げていきましょう。

達成感を味わわせる

(2) 積極的に職員に関わる

褒める機会を多く持つための2つ目のポイントは、院長が積極的に職員に関わることです。
職員に目標を達成させ、達成感を味わわせるためには、職員が本来自分の力で行わなければならないところにまで手を出してしまったのでは、本末転倒です。
手を出さずに、職員に積極的に関わっていく方法の一つとして挙げられるのは、状況を尋ねることです。
しかし、あまり細かく聞くと、職員からすれば「信用していないのか?」という気持ちになり、やる気を削ぐ結果になりかねないため、聞き方は非常に重要です。

注意が必要な院長の聞き方

2.職員に真意を伝える「叱り方」

(1)職員への叱り方

職員を褒めることは、その気になればそれほど難しいことではなく、本当に難しいのは、適切に叱ることです。
とくに近年は、家庭でも、学校でも厳しく叱る人が少なくなってきているため、叱られることに慣れていない若者が、当然の叱責を理解できず、逆恨みする例も少なくありません。
なぜ叱るのか、その真意を理解させて、職員を組織人として成長させることが大切です。
それでは、どのような場合に職員を叱るのでしょうか。
遅刻や無断欠勤、報告を怠ったり、事業所内の約束事を守らない、または仕事の仕方がいい加減、うっかりミスが多い、あるいはリーダーや先輩に対して失礼な口をきく、患者や家族、取引先に対して誠意が足りない…など、様々ありますが、いずれも業務を遂行していく上で障害になる事柄です。
よい仕事していくためには矯正していかなければなりません。
中には「遅刻はしていても、時間通り来ている職員より一生懸命仕事をしている」という具合に開き直る職員もいますが、組織の一員であることを理解させることが必要です。
一生懸命に仕事をすれば、他の約束事はどうでもよい、というわがままが横行すれば、いずれ院内のコミュニケーションも取れなくなり、クリニックの評判も落ちてしまいます。
また、日常の小さな誤りやミスを放っておくと、いつかは取り返しのつかない大きなミスにつながることになります。
そうした損失を事前に防ぐためにも、院長はひとつずつ叱って改めさせることが必要です。

適切な叱り方

(2)「怒る」と「叱る」の違い

人材育成にとって重要な要素である「叱る」がリーダーはなぜできないのでしょうか。
それは、多くの場合、「怒る」と「叱る」を混同しているからです。
違いを明確にし、職員 の育成につながる「叱り方」を身に付ける必要があります。

 

怒ると叱るの違い

言葉で書くと簡単ですが、実際の育成指導の現場だと、なかなかうまくいきません。
ついつい「また、同じことをして!」と声をあげることもあるはずです。
単純に自分の怒りを感情的にぶつけるだけでは、かえって相手の反発を招いたり、不要に委縮させることにもなりかねません。
職員の育成を考えると「叱る」ことは必要です。
注意するという意味では同じ事ですが、「怒る」ではなく「叱る」ことで厳しさを表現しなければなりません。

(3)職員を叱る時の3つのステップ

次の3ステップに従えば適切な叱り方になります。

 

職員を叱る時の3つのステップ

(4)叱った後のフォローアップが重要

叱った後、職員の態度が改善された場合には、さりげなく褒めて、努力を評価します。
また、その成長を認めて、もう一段高度な仕事を任せてあげれば、職員自身も自己成長を喜び、さらに意欲を持つことになります。
逆に一向に改まらない場合は、再度叱って改めさせなければなりません。
就業規則に従って罰則を科したり、あるいは場所を変えて、本人とじっくり話し合う必要も出てくるでしょう。
いずれにしても、叱ったことは必ず改めさせることが重要であり、さじを投げて放っておく状態は他の職員の士気にも影響することを認識することが必要です。

 

■参考文献
「できない部下をデキる部下に変える7つのこと」(明日香出版社)
「困った部下の指導法が面白いほどわかる本」(中経出版)
「中小企業白書2015」(中小企業庁)
「中央職業能力開発協会」

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