自ら考え行動する社員を作る!クレド経営の進め方

1.なぜ今、企業経営に「クレド」が必要なのか

1.「クレド」とは何か?

企業理念や社是などに代えて、クレドを導入する企業が増えています。
クレドとは、「信条」を意味するラテン語で「企業の信条や行動指針を簡潔に記したもの」を意味します。

クレド

2.なぜ今、「クレド」なのか

現代は、インターネットショッピングに象徴されるように、安くて便利なモノが世の中にあふれています。デフレ環境のなか、価格競争が激しく、消費者ニーズも多様化している昨今では、消費者の要求も日毎に厳しくなり、商品や価格で差別化することが困難になってきました。
競争が激しくなる中、マンパワー・サービスでの差別化が重要視されてきました。
しかし、業務マニュアルによる社員教育や人事評価システムでは、細かな部分までの人材育成は難しいのが現状です。
モノがあふれ、物質に恵まれた時代だからこそ「こころ」に訴えかける何かが必要とされ、その「こころ」に訴えかける仕組みが「クレド経営」なのです。
最近では、業種・規模を問わず、多くの企業で導入されるようになり、企業とそこで働く社員によい影響を与えています。
クレドを導入する企業の多くは、企業理念を組織の内外に浸透させることを目的としています。
つまり、自社の存在意義や仕事への誇り、社会に貢献しているといった意識を盛り込み、会社の価値観を形にして社員に浸透させるツールとして「クレド」を活用し、また、そうした企業の多くが、クレドを名刺サイズのカードに印刷して常に社員が携帯できるようにするなど、朝礼や仕事中のあらゆる局面においてすぐに確認できるように工夫されています。

タクシー会社で活用されているクレドの事例
「クレド」については、意味や利用方法に諸説がありますが、本レポートでは社員満足度(ES)の切り口で展開していきます。
社員満足(ES)というと、給料等の処遇向上などであると誤解する方もいますが、それは違います。
人は、自分が仕事などを通して「役に立っている」「必要とされている」ということに最も喜びを感じます。
自分の仕事を通じて商品やサービスを提供した結果、喜んでいただく、すなわち『感謝される』ことの喜びであったり、世の中の役に立っているという実感、自分が必要とされているという実感、仕事を通じて自分自身の“成長”を実感しているなどといった本質的な価値観です。
お金以外の価値観に照準を合わせて展開していきます。
クレドには、全社一丸となって唱えるものと、社員個々人がもつ「マイクレド」があります。
本レポートでは、全社で取り組むクレド作成の進め方について解説いたします。

3.クレドは社員の主導で作成する

クレド=信条
会社の経営理念はトップが考えるものですが、クレドの内容は「社員の主導」で作成します。
この会社で成長し、成功するためにはどうすればよいのかを自分たちで考えることによって、社員は会社にいる意味や仕事ができることの喜びなどの「思い」を共有し、絆を深めていくことになります。
クレドができあがったら、クレドを上司と部下、社員同士のコミュニケーションツールとして活用できるようにします。
リーダーがクレドを使って意図的に対話を仕掛け、日ごろからものの価値観などについてまじめに『雑談』することで、社員間の共感を増やして 絆を深めるのです。
良い会社風土の構築に欠かせないのが「対話」です。
最近は成果主義制度の導入や業務連絡などもメールで行えることなどから、社員間の会話がほとんどない会社も増えています。
会社風土改革や社内組織の再構築をしようとする際に、まず人事制度や評価制度の導入を先行させようと考える経営者は多いですが、その前に社員同士の絆の強化が不可欠です。
それがなければ、どんな制度を導入してもうまくいきません。

4.クレド作成の4ステップ

クレド作成に決まった手順はありません。
しかし、良いクレド・成功できるクレド作成 のステップは、およそ4つに分けられます。

クレド作成の4つのステップ
次章からは、具体的なステップにもとづいてクレド作成の手順を解説いたします。

2.クレド作成の進め方・ゴールの設定法

1.クレド作成のプロジェクトチームの編成

(1)キックオフ

企業理念や社是・社訓というものは、創業経営者がつくったものがほとんどですが、クレドはこれとは少し違った視点で取り組みます。
つまり、経営者を含む全社員が一緒になってつくるのです。
これには、クレドは完成した後に社員一人ひとりに浸透させることを念頭においているという理由があります。
もし、クレドが経営者や経営幹部など、現場の社員が普段は顔さえも合わせない雲の上の存在から、ある日突然配付されるようなものだったら、社員たちに当事者意識はなかなか芽生えないでしょう。
よって、クレドをつくる過程では「自分たちもクレドづくりに参加した」「この文章には、 私たちの意見も含まれているんだ」という思いを社員に抱かせることが大事なのです。
クレド作成は、企業によっては3ヶ月~1年かけてじっくりと全社員を巻き込んで行ないますが、その最初の作業としてもキックオフには特に時間をかけるべきなのです。
「なぜ、いま理念を再度見直すのか?」「クレドが必要な理由とは?」など語り合い、共感を得る作業をします。
なぜなら、このときほど社員が理念を正面から考え、向き合う濃密な時間はないからです。

(2)クレド作成プロジェクトチームの発足

クレドを作成する際は、経営者特命のプロジェクトチームを発足させ、スタートするのが一般的です。
そのプロジェクトメンバーは各部署から選抜されます。
できれば、次代の幹部になるような若手がいいでしょう。

クレド作成プロジェクトのチーム分け

2.クレド作成のゴール設定法

(1)クレド作成のゴールを設定する

クレド作成プロジェクトチームを組織したあとに大事なのは、「基本方針づくり」です。
つまり、このプロジェクトチームの目指すべき目的やゴールはいったいどこなのか、明確にしておく必要があります。
プロジェクトには、人件費や会議費用などの目に見えにくいコストや時間が多くかかっています。
当然、相応の成果が求められます。
よって、最初に基本方針を規定し、経営トップと共有したほうが、これから先のプロジェクトをスムーズに進めることができます。
クレド作成のゴールの内容は、次のようなものです。

クレド作成のゴール

(2)経営者インタビュー

次に取り組むのが、経営者インタビューです。ここで実施することは、次の二つです。

経営者インタビュー
(1)については、今回クレドを作成しようと思い至った動機ですから、比較的引き出しやすいでしょう。
そして、(2)の作業が非常に大事になります。
「クレドは従来からある企業理念を簡潔に具体的にする活動」ですから、創業の理念や現在の経営者が考えている理念が非常に大事になります。
これを明文化するとともに、その背景については、クレド作成プロジェクトチームが十分に押さえておく必要があります。

(3)利害関係者を特定する

こうして作った基本方針はプロジェクト活動の羅針盤になり、またクレド文章をつくるうえでの強力な資料にもなります。
そして、最後に大事なことが「利害関係者」を明確にすることです。
利害関係者がだれなのかを明らかにすることは重要です。
なぜならクレドは利害関係者との責任を果たし、満足を与えることを社員に強く求めているからです。

利害関係者の特定アンケート(例)

3.利害関係者のニーズ把握とクレドの具体化

会社の利害関係者が何を求めているかをここで把握します。
理想的には利害関係者に対してアンケート調査を行い、ニーズを明らかにします。
しかし、アンケート調査が難しければ、営業担当者など顧客と接する機会が多い社員の意見を収集して、クレド作成の材料 にしていきます。

1.利害関係者のニーズ把握

(1)社員インタビュー

社員が数百人でも全員参加でつくるというのが、クレド作成では非常に重要な考え方になります。
その手段として、全社員を対象とするアンケートを実施して意見の聴取を行います。

社員アンケート(例)お客様アンケート
社員へのインタビューが終われば、次はお客様が普段から、自社にどのような要望を持ってくださっているのかを調査し、それをクレドに反映させていかなければなりません。
おそらく多くの企業では、顧客満足 (CS)アンケートを実施していると思います。
そのアンケートを、クレド作成に盛り込むのです。
その際に重要なのは、アンケートに書かれた内容の中で「良い点に目をつけること」だといえます。
例えば、飲食店のアンケートに、「小さな子供連れで来店したが、スタッフが非常に子供に気をつかってくれた」と書いてあったり、住宅販売会社の場合、「モデルルームから帰るときに急に雨が降り出し、傘を持っていなかったが、営業マンが傘を貸してくれ、タクシーまで呼んでくれて助かった」などのポジティブな部分に着目します。

(3)取引先・協力会社へのアンケート

お取引先様の声をお聞かせください
クレド作成に欠かせないのがこの項目です。
社外の利害関係者である取引先・協力会社へのインタビュ ーを実施します。
これらは大変な作業ですが、自社に材料や部品を納入してくれる協力会社などにも、インタビューを行 ないます。
この作業の目的は、利害関係者にクレドに参加してもらうことで自社の姿勢をアピールし、やがてはそんなクレドヘの思いを彼らとも共有し、自社のクレドを守っていただくことにあります。

2.クレドの具体化

(1)クレドの文章化

こうして集まった膨大な量の「声」を整理する作業に取りかかります。
まずは、クレドの全体構成を考えてみます。何より読み手である社員にとって、わかりやすいものでなければいけません。
そのためには、「既存の企業理念および社是・社訓」「グランドクレド」「アクションクレド」という構成を基本にするとよいでしょう。
「既存の企業理念および社是・社訓」は、従来からある理念は否定しないという姿勢の表れですから、そのままの文面をクレドカードに掲載しても問題はありません。
また、「グランドクレド」は理念をわかりやすくした3項目程度の文言です。
経営者の思いをたった3項目にまとめられるのか、という疑問もあるかもしれませんが、逆に言うと、3項目にまとまらないようならば社員には伝わらないと考えたほうがよいでしょう。
最後の「アクションクレド」については、次の3つの観点から文章化します。
一番目は、グランドクレドの文面と、利害関係者アンケートをマトリクスにして文章化するということです。

アクションクレドの文章化マトリクス
例えば、お客様との約束の中では、「名前を覚えられたり、覚えたりする関係というのは気持ちがいい」というアンケート回答があったとします。
これは、(1)の部分に当てはまる と考えるなら、残しておきたいアクションになります。
二番目は、そのアクションを実施すれば、利害関係者から感謝され、役に立ったと言われる文言かどうかということです。
さらに、三番目として、利害関係者とともに成長するという視点を盛り込む必要があります。
こうして、文章化はマトリクスを埋めていくことで完成し、「企業理念 → グランドクレド → アクションクレド」という落とし込みが実現します。
現場の社員からみると、アクションを確実に実施することで企業の目的である企業理念の実現に近づくことが理解できるのです。

(2)クレドカード作成と完成

断定的な説明回避

クレドカードの作成段階において大事なのは、できあがった文章をたった一枚のカードにレイアウトすることです。
なぜなら、カード1枚にすべてを盛り込めるくらいの内容でなければ、忙しい毎日の仕事のなかでは、残念ながら活用されることはないのです。
日々の業務で使われることを一番重要なポイントにして、クレドカードを作成しましょう。
すぐに傷んでしまうコピー用紙のようなものではいけません。
たかが一枚のカードですが、クレドに対して前向きになるためのものでなければいけません。
こうしてクレドカードが完成し、一人ひとりに配布されたときから、新たなステージに入ります。
クレドに基づいて業務が推進され、利害関係者満足のために社員が行動し、そして社員一人ひとりが人間的にも素晴らしく成長していく、というゴールに向かって動き出すステージに入るのです。

4.クレド活用により組織風土を改革した事例紹介

クレドを実践している企業では、クレドの文言をベースにどのような行動がとられているのでしょうか。
この章では、クレドを作成して組織風土を改革した企業の様々な事例をご紹介します。

1.地方で店舗を展開するスーパーマーケットの事例

 

自分がして欲しいことを、いま目の前にいるお客様にしてあげましょう
あるスーパーマーケットで、小さな子供を連れたお母さんが、買い物をしてレジで会計を済ませました。
その日の買い物の中には豆腐がありました。
お店の外に出て、駐車場に停めた自分の車に向かう途中で、子供が落としたおもちゃを拾おうとした瞬間に、買い物袋に入っていた豆腐のパックを落としてしまったため、中の豆腐が崩れてしまいました。
子供は自分の責任だと感じて泣いています。
そこに通りがかった仕事を終えて帰る私服の店員が、その光景を見かけました。
その店員はそのお客様に駆け寄り、「私はこのお店の店員です。交換させていただきますね」と崩れた豆腐を持ってお店に戻り、新しい豆腐を持ってその親子のもとに帰ってきました。
つまり、無料で崩れた豆腐を交換して差し上げたのです。
会計を終えた商品ですから、店側には責任はなく、また高額な商品ならば、どうするのか? という問題も残ります。
しかし、このスーパーマーケットは、短期的な損得を考えるより、その後のお客様との関係を考え、繰り返しお客様に利用していただいたほうが良い、という考え方を大事にしています。
ちなみに、このお店では日本酒の一升瓶で同様のケースが起きたときにも交換の対応をしました。
このケースに対応したのは、入社間もないパート社員でしたが「クレドに書いてあるので、当然の行動をしました」と答えています。
クレドが常に社員の行動の価値基準になり、クレドの内容が行動に現われることを、この会社では何よりも大事にしています。
このパート社員だけでなく、同社ではクレド実施のおかげで、このような気持ちで仕事に取り組む社員が増えてきました。

2.社員数100 名 商社A社の事例

クレーム対応とは、そのお客様が再度利用してくださったときに終了します
クレドを実施している商社Aに、お客様から冷静なクレームが届きました。
そのお客様は、電子メールにて、実名と住所を明かしたうえで、提供する商品、営業マンのサービスや仕事に対する姿勢について、明解にA社の“不適”を指摘されたのです。
そのメールは、「これまで貴社の商品を購入して愛用してきたが、今回をもって購入することはないだろう。」と結ばれていました。
このクレームを重く見たA社の社長は、社内にこのクレームを公表するとともに、改善の指示を出しました。
現場はそれに基づいて、改善プランを立て、実際に何が原因で、どう改めれば良いのかを議論しました。
本来は、ここで対応を終わらせることが多いのですが、A社の社長はさらに次の行動として、クレームを出されたお客様に対して、メールを通じて自らお詫びをしたのです。
しかも、お詫びメールだけでなく、その1ヶ月後に、「実際にこの部分を改善しました」 という報告メールも送ったのです。
もちろん、その間に先方からは、何の返事もありません。
2ヶ月後にも社長は、「2ヶ月間でここまで改善しました」という報告をメールで送りました。
すると、先方からこんな内容のメールが届きました。
「私が最初のクレームを出して以来、真剣に改善をされたようですね。実は先週、御社の商品をひそかに購入してみて、変化しようという姿勢が嘘ではなかったことを感じました。
これからも厳しい客として付き合わせてもらいます」というものです。
A社とその社長の取り組みが認められたのです。
たった一人のお客様、たった一社の取引先にここまでするのか?という疑問を持つ方もいるでしょう。
しかし、たった一人の顧客にも誠実に対応する姿勢が、これからは特に重要です。
お客様と企業とのほど良い緊張関係を保ち続けるという経営姿勢をクレドによって全社員に浸透させることが、この競争激化の時代を生き抜くための「企業の存在価値」を高めるのです。

3.全国にショールームを持つ中古車販売会社B社の事例

私たちは、地域社会、コミュニティーに貢献することを通じて、自らを磨き続けます。
中古車販売会社B社では、ショールームにお客様を招いて、商品である中古車の説明と商談を行うスタイルで販売活動を展開しています。
社員は、本社には出社せず、直接自分の担当しているショールームに毎日出勤するため、B社の社員にとってショールームがある街は、本社や自宅がある地域と同じくらい大切な場所なのです。
社員は街の行事に参加したり、清掃活動に出かけたりして住民と同じか、それ以上の熱意で地域に貢献しています。
そういう日頃からの行動があるからこそ、お客様には自信を持って中古車を勧めることができ、地元の情報を盛り込んだセールストークも説得力が増します。
地域社会があっての自分たちであることは、クレドに表現すべき大切な要素です。

まとめ

明確な経営理念があっても、社員の仕事のスタンスに至るまでの細かい点について、経営者の思いを伝えていくことは非常に困難です。
会社の価値観と個人の価値観を合わせることができないまま業務を遂行している社員は、常に違和感を覚えながら仕事をすることになってしまい、行動に前向きさがなくなってしまいます。
今回紹介した「クレド」は、会社と社員の価値観を共有するものです。
価値観の共有が図れれば、自ら考えて行動できる社員に生まれ変わります。
そのためには、会社の方から、一皮むけることができる“仕組み”を作ることが必要です。
クレドの浸透は、自我に目覚め、自ら会社のベクトルを理解し、そして行動することができるという、実にシンプルで力強い考え方なのです。

■参考文献
「ESクレドを使った組織改革」(税務経理協会) 中筋 宣貴・石川 勲・小宮山 靖行・金野 美香・日本ES開発協会 著
「クレドが『考えて動く』社員を育てる!」(日本実業出版社)吉田 誠一郎 著

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