部下のやる気を引き出し成長させる 「叱り方・ほめ方・教え方」

1.「叱る」上司のもとで部下は成長する

はじめに

近年、「叱らない上司」が増加しています。
「叱る」ことによりパワハラとして捉えられたり、叱られたことを原因として、部下が簡単に退職する場合もあり、叱れないのです。
また、「チームの雰囲気を良くしたい」「上司として嫌われたくない」といった意識が働いていることも一要因です。
しかし、「叱る」という行動なくして部下の成長は望めません。
そもそも「叱る」という行為は、社内ルールや、基準から逸脱したマイナス思考や行動を戒めるときや、業務上のミスがあったり、取り組み不足があったときに行います。
部下のマイナス状態をゼロに持っていくためには「叱る」しかありませんが、そこからプラスにするためには「ほめる」ことも必要です。
現在の管理職は、「叱られて」育ち、上司や先輩の背中をみて仕事を覚えた世代です。
上司から「ほめられる」「教えられる」といった経験が非常に少ないため、「ほめる」ことや「教える」といったことが苦手な上司が多いのが実態です。
もし、上司が「叱る」「ほめる」「教える」を実践することができれば、部下とのコミュニケーションは改善され、尊敬される上司となり、部下だけでなく組織として成長します。
今回は、「叱る」「ほめる」「教える」といった視点から、部下に対する接し方を解説します。

叱る目的は何か

前述の通り「叱る」目的は2つあります。
一つは、社会的常識や基準から逸脱した行動を戒めるためです。
ルール違反やマナー違反をしている者を一人でも放置していると、組織が崩壊してしまいます。
したがって、マナー違反や逸脱行為については、しっかりと叱り、正さなければなりません。
もう一つの目的は、業務上のミスやあるべき水準に達していないことを部下に自覚させるためです。
この場合は、本人の問題もありますが、上司にも責任はあります。
きちんとやり方を教えないでその業務をさせたり、部下のレベルを確認していなかったり、低いのがわかっていながらそのまま放置していた場合は、上司の責任といえます。

中途半端な叱り方は逆効果

叱る人がいない場合、組織は緊張感がなくなり生産性が下がってきます。
叱ることで、いい意味での緊張感が生まれ、部下のやる気も出てきます。
但し、その日の気分で叱ったり叱らなかったりと、基準のない中途半端な叱り方をしていると、さまざまな弊害が生じます。

中途半端な叱り方が生み出す弊害

「叱り方」のコツ

叱り方にもコツがあります。
下手な叱り方をすると、部下が反抗的になり人間関係が悪くなることもあります。
以下に紹介するように、部下の行動や結果によって叱り方も使い分けをする必要があります。

(1)ルール・基準を逸脱した場合

社内ルールや基準を逸脱した行動を取ったときや、指示命令を無視した場合などは、組織の規律を守るためにも、徹底して叱らなければなりません。
この場合、冷静に対応することはむしろ逆効果で、「怒る」イメージでエネルギーを爆発させるべきです。
しかし、なぜそうなったのか、部下はどう考えているのか、理解できているのかを確認し、部下にルールや基準、指示命令の意味を理解させなければなりません。
この段階では、あくまでも冷静に対処すべきです。

(2)業務上のミスや、取り組み不足があった場合

この場合は、上司が業務の進め方やポイントをきちんと教えているかがポイントです。
もし、きちんと教えているのであれば、部下が本当にできるレベルにあるかを確認すべきです。
どちらもできていないのであれば、部下を頭ごなしに「叱る」のは問題があり、むしろ上司としてきちんと教えていなかった、関わりが少なかったことを反省し、上司としての対応を変えるべきです。
また、指示をしているのにも関わらず、明らかに取り組み不足と判断できる場合は、遠慮なく叱るべきです。

タイプ別叱り方

部下は10人いれば10人とも個性、知識やスキルが異なるため、本来はそれぞれに応じた叱り方が必要ですが、大きく2つに分類することでほとんどの場合対応できます。
まず分かりやすいのが「外向型タイプ」と「内向型タイプ」に分類する方法です。
「外向型タイプ」は、外的事実を基準に持ち、関心は自分の外側に向かい、他人に認められることに存在意義を持つタイプです。
一方「内向型タイプ」は、内的要因(主観)を基準に物を考え、どちらかというと自分だけの世界を好むタイプです。
このように部下を2つのタイプに分けて、そのタイプに応じた論点構成と話法を採用することによって、部下の納得性は向上し、コミュニケーションを通じた共感の度合いは大きく高まります。
タイプを分類するのに有効なもうひとつの方法としては、その人がコミュニケーションを通じて感情のやり取りを重視する「感情型」の部下か、論理のやり取りを重視する「論理型」の部下かに分ける方法です。

タイプ別叱り方

(1)外向型の叱り方

外向型のタイプは、関心が自分の外に向いており、基準も外に求める傾向があります。
したがって、このタイプを叱る時には、部下のミスによる組織やチームに与える影響を考慮した視点で叱ると効果的です。
また、周囲の意見に合わせる一面もありますので、「チームの皆が思っている」ことを伝えるだけでも、行動を改善しようとします。

(2)内向型の叱り方

内向型のタイプは、基準を自分自身に置く傾向があり、自分の考えを防衛しようとします。
したがって、部下の考えを完全否定するような叱り方をしてはいけません。
また、冷静に感情を押さえて叱っているとしても、相手を追い詰めて逃げ場をなくしてしまうようなやり方は避けるべきです。

(3)感情型の叱り方

感情型のタイプは理論理屈よりも、上司の言葉に直感的に反応します。
したがって、長々と叱ると部下の感情が高まってきますので効果的とはいえません。
できるだけ短い言葉で、インパクトのある表現を用いた方が部下には理解しやすく、かつ、印象に残ります。
余計な言葉は邪魔になる場合があるため注意が必要です。
簡潔な言葉でルール違反を叱り、改善を求めなければなりません。

(4)論理型の叱り方

論理型のタイプは、理屈に合わない叱り方をすると反論を招きます。
反論されると上司もつい感情的になってしまうこともあります。
このタイプに対しては、決して感情的にならず、「なぜダメなのか」「なぜそうしなければならないのか」などについて、筋道立てながら論理的に叱らなくてはいけません。

2.ほめ方ひとつで部下が変わる

ほめることの目的は、良い行動を習慣化させることです。
部下の良い行動や取り組みを評価し、やる気を出させ、いつでもその行動や取り組みができるようにさせます。
うまくほめることで、部下の自発的行動を促し、部下の成長、ひいては組織の成長へとつながっていきます。

部下を伸ばしたければ長所を探す

普段、部下の方をどれだけほめているでしょうか。
ほめ上手になることは、人間関係を円滑にする有効な手段です。
特に部下を指導する場面では、適切にほめることが意欲を引き出し、成長を促します。
適切にほめるためにも、部下の長所を的確に把握していなければなりません。
部下をほめることが苦手な上司には、「ほめるべきところがうまく見つけられない」という人がいるようです。
上司の視点で部下を見た場合、長所より未熟さや欠点が目につきやすいことは確かです。
しかし、誰にでも必ず長所や得意分野はあります。
長所を見つけて積極的にほめることで、部下の成長を促すためには長所に気付くことは大変重要です。

(1)プロセスをほめる

部下から仕事の経過報告を受けた際や、途中の様子を見てほめることは、仕事の進め方を承認することになります。
これにより部下は安心して作業を続けることができます。
また、苦労して悩んでいる場合には、技術的な助言を与えながら、それまでの良かった点や努力を認め、ほめることが大切です。
上司の評価は、部下の安心につながり、部下の 仕事への意欲を引き出します。

(2)仕事の結果をほめる

仕事に区切りがついたら、部下とやり取りしながら結果を適切に評価して、具体的にほめましょう。
この時、部下の報告には熱心に耳を傾け、提出された書類にはくまなく目を通します。
計画や目標を達成した部下は、上司に仕事の成果をよく理解してほしいものです。
成果を十分理解し、納得することが、ほめるために必要な条件です。

(3)いつほめれば良いか

部下が仕事で成果を出した場合は、その場で具体的にほめることが重要です。成果の確認に時間を要する場合は、その確認が出来た時点で能力や努力を評価し、ほめます。
その場に他の社員がいるのであれば、他の社員にも目標達成を知らせ、拍手などをする、朝礼や会議の場で成果発表することも良い方法です。

(4)上司の喜びが何よりの報酬

業績目標を達成したり、担当業務を期待通りに遂行することは、会社の利益のためであり、ひいては自分のためでもあります。
けっして上司を喜ばせるために仕事をしているわけではないでしょう。
しかし、部下にとって最大の理解者は上司ですから、「上司の喜ぶ顔が見たい」「上司がほめてくれる」という意識がどこかにあります。
勇んで報告に来た部下にとって、まずはどんな評価より、上司の喜ぶ顔が何よりの報酬なのです。
大いに喜んで、それから具体的にほめてあげることです。

上手なほめ方

ほめる基準

ほめるということは、部下の行動を認めて肯定的に評価するということです。
部下が以前と比べて成長した時は、「よくできた」という気持ちでほめることが重要です。
また、ほめる基準を上司自身に置いてはいけません。
基準はあくまでも部下に対する期待度ですので、「自分の意のままに行動してくれたから」といったことを基準にほめると、 部下は上司の顔色をうかがい、上司の気に入りそうなことだけ優先してしまうケースが多発してしまいます。

企業内でのレベルアップへの取り組み方

成果に対する最高のインセンティブは「ほめること」

管理職の使命は、部下が成果を上げられるように導くことです。
そのためには様々な努力が必要ですが、成果のご褒美=インセンティブを与えることで、部下のやる気は高まります。
成果へのインセンティブは、お金とは限りません。
称賛、表彰、さらに上のレベルの仕事をまかせる、プロジェクトチームのメンバーに入れる、昇格などの推薦を行うなど、インセンティブにはいろいろなものがあります。
うまくほめることで、部下のやる気を高めることは重要ですが、注意すべきことは、目立つ成果、派手な貢献をした部下にインセンティブを示すだけでなく、部下の些細な成果にも気づいてほめることです。

3.教えることで部下も自分も成長する

教え方のステップ

部下に対する教え方にはセオリーがあります。
それは、以下のステップを踏んで、継続的に行うことです。
重要なことは、下図のポイントで示している通り、「部下のレベルに合わせて期限設定する」「具体的な教材を指導する」「試験やロールプレイングを実施する」「面を広げるか深堀 りするかを決定する」ことです。

教え方のステップ

(1)ゴールと期限を明示

最初に行うことは、部下に対して到達すべきゴールと期限を示すことです。
そのためには、社員をいくつかの階層に分け、等級基準や職務基準書を作成し、それぞれどのような知識、技能、技術が必要かを明確にする必要があります。
その上で、部下に対して習得すべき知識・技能・技術を示し、習得までの期限を設けます。
期限を設けないと、真剣度が半減し、いつまで経っても習得できないということになりかねません。

POINT 部下のレベルに合わせた期限設定

部下のレベルもさまざまです。 ゴールは同じでも、現状のレベルの違い、習得能力の違いなどがあるため、期限設定も一律というわけにはいきません。
部下のレベルに合わせた期限設定が必要になります。

(2)研修メニューを立案

レベルの確認ができたら、知識や技能の不足項目を埋めるための研修メニューを立案します。
ひとつのゴールに向かって、いつまでにどの段階まで進めばよいかについても、部下にきちんと明示します。
できれば結果を点数で示せるようにして、その点数の基準も明確にしておきます。

POINT 具体的な教材の指導

習得のためにはどのようなマニュアル、書籍、DVDを使えばよいかについて、部下に指導することが重要です。
ただ単に「本を読んで勉強して」と部下に丸投げするのではなく、「○○という書籍や○○マニュアルがあるから、それを読んで勉強して」と具体的に指導します。

(3)習得状況の確認

取り組みテーマが決まり、習得のためのツールも準備できたら、後は部下にひたすら取り組ませるだけです。
その後、取り組んだ結果は、上司がきちんと確認しなければなりません。
部下が「きちんと取り組みました」といっても、あるべき水準に到達していなければ、その水準に到達できるようにさせなければなりません。

POINT 試験やロールプレイングの実施

その手法として有効なのは、試験やアウトプット、実技、ロールプレイングなどです。
重要なことは、常に同じ基準で点数をつけることです。
ここがブレてしまうと、部下はどこまでやれば合格なのかがわからなくなります。
また、「どこがよくて」「どこが悪かったのか」についても、部下にきちんと伝えます。
習得状況を確認した結果、不足している項目があれば穴埋めをしなければなりません。

(4)次の取り組みテーマの設定

習得すべきテーマをクリアできたら、さらなるステップアップのために次の取り組みテーマを設定します。
テーマ設定については、上司が関わった上で決めるべきです。
新入社員や入社して日が浅い社員は何を習得すべきかわかりませんし、ベテラン社員は、本来であれば習得していなければならない項目であっても、日常業務に大きな支障がなければ、力量不足であっても取り組もうとしないからです。

POINT 面を広げるか深掘りするかの決定

次の取り組みテーマを考えるときには、面を広げるのか、特定のテーマを深堀りするのか、といった方針を決めなければなりません。
会社の方針や部下の立場によって異なりますが、一般的にはまず面を拡げて、「広く浅く」 知識を身に付け、その後で一つひとつのテーマについて深堀りしていきます。

部下のレベルによって教え方は違う

「教え方」のセオリーについては前述の通りですが、実際に教える段階においては、部下のレベルに応じて教え方を変えなければなりません。
新入社員や入社後の日が浅い社員については、このセオリーどおりで進めば良いのですが、中堅社員やベテラン社員となると、もうひと工夫必要です。

(1)依存レベル

依存レベルは知識がなく、上司からの指示がなければ行動ができない者が対象となります。
このレベルでは、仕事の進め方はもちろんですが、仕事に対する取り組み姿勢やルールを徹底させることも重要です。
業務であれば、まず上司がやってみせ、ポイントを説明します。
業務に必要な知識であれば、知識習得のために何を勉強すべきか、そのためにはどのような書籍、資料が必要かを教え、取り組みをさせます。
次に実際にアウトプットさせて、何ができて何ができないかを自覚させます。
できていない点については、改めて指導をしたり実演したりして、できるようにさせます。

「話し上手」よりも「聞き上手」を目指す

(2)半自立レベル

半自立レベルとは、ある程度の知識や技能はあるものの、そのレベルで満足し自らを高めようとしないレベルです。
このレベルの部下に対しては、到達目標を設定し、継続的な取り組みをさせる必要があります。
そこには、ある程度の強制力も必要です。
なぜなら、このレベルの部下の多くは、自分で勝手に基準を作ってしまい、取り組みをやめてしまうからです。

(3)自立レベル

知識も充分で自発的に行動が出来る者が対象となります。
部下への教育において最終目標はこのレベルに達することです。
このレベルの部下は、なにか悩みがある時においても答えは自分の中に持っており、上司はその答えを導き出す支援をすればよいのです。

教えることで成長するのは部下だけではない

部下を持つ上司の多くは、現在の部署における業務を高いレベルで遂行できるからこそ、現在のポジションにいます。
部下にとってはお手本が身近にあるので、知識や技術を習得しやすい環境にあります。
しかし、高い業務遂行力を持った上司の下でなら優秀な部下が育つかというと、必ずしもそうではありません。
なぜなら、「覚える」ことよりも「人に教える」行為の方が数倍難しいからです。
部下に「教えること」ができれば、自然と「人に正しく伝える」「物事を体系的に考えられる」「部下だけでなく自分の課題を発見できる」力が身につき、部下はもちろんのこと、上司も成長することができるのです。

最後に

企業の成長のためには、人材の育成が不可欠です。
そして人材育成には、部下のやる気を出させ、効率を上げるために、「ほめる」「叱る」「教える」という指導法が必須です。
部下育成は、部下個人のためだけではなく、組織のためにも行わなければならないのは周知の事実です。
上司は部下の育成責任を持ち、真剣に取り組まなければなりません。
また、部下の指導において、必ず部下の到達レベルを示した上で指導していかなければなりません。
さらに、到達レベルに達するため、やる気を出させ、弱点を改善していく必要もあります。
上司に必要なことは「教える」ことを省略しないこと、できたらきちんと「ほめる」こと、ルールや指示を無視したり、やらない部下に対しては真剣に「叱る」ことに尽きます。
これらのバランスを取れる上司が、本当の意味での「よい上司」といえるのです。

■参考文献
『管理者の基本 60の仕事術(ぱる出版)』吉田 孝男 著
『管理職のルール(ダイヤモンド社)』高城 孝司・仁木 一彦 著
『ひるむな上司(祥伝社)』弘兼 憲史 著
『上手は叱り方が面白いほど身につく本(中経出版)』見山 敏 著
『部下を動かす教え方(日本実業出版)』松尾 昭仁 著

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