1.ローパフォーマー社員とは
近年企業では「ローパフォーマー社員」や「ぶら下がり社員」、「ゆとり社員」と言われる社員への対応が問題になっています。
以前のように日本経済が右肩上がりの成長にあり、終身雇用が当たり前の時代であればこのような社員はそれほど問題にされませんでした。
しかし現在は企業の給料に対するコスト意識の高まりにより、このような社員への対策が求められています。
このレポートではローパフォーマー社員に焦点をあて、正しい指導と解雇をするに至った場合の注意点について解説します。
指導や解雇が適正に行われなければ、社員との労働紛争に発展し、多額の金銭を要求される場合があります。
1.ローパフォーマー社員とは
あなたの会社ではこのような従業員はいませんか。
採用する前に採用担当者は履歴書を確認したり面接を行ったり、資格の確認をして従業員が期待通りの働きをしてくれるかどうか確認してから、雇用契約を結んでいるはずです。
しかし実際にはその期待通りの能力を有していない場合があります。
そのような社員を「ローパフォーマー社員」といいます。
ローパフォーマー社員はいわゆる問題社員と違い直接会社に損害を与えることはありませんが、会社の利益に貢献することも少ないです。
しっかり準備をせずに解雇した場合には解雇濫用理論により、企業としての責任を負わされることとなります。
2.社員が解雇の不当を申し出た場合
ローパフォーマー社員の能力不足を理由として解雇することは非常に難しいのが現状です。
判例では単に能力が低いというだけでは解雇は認められず、指導や配置転換などを行ってもなお改善がみられない場合に初めて解雇が認められます。
■社員が解雇の不当を申し出た場合
解雇に不満がある従業員は以下の方法により、外部の機関に申し出を行う場合があります。
その場合には企業は申し出に応じた対応を取らなければならず、その結果によって多額の支払いを要求される場合があります。
(1)労働局の紛争調整委員会によるあっせんの申し立て
社員が労働基準監督署に申出を行ったとしても労働基準監督署では解雇については管轄外であるため解決することができません。
解雇そのものは労働基準法の範囲外であるため、解雇予告手当の不払いを除いては解決することができないのです。
そのため労働基準監督署では解雇の事案については労働相談や紛争調整委員会を紹介することになります。
紛争調整委員会のあっせんは紛争当事者の話し合いを促進することで、紛争の解決を促すことが目的です。
公平・中立の第三者である労働問題の専門家が間に入り、双方の主張を確認したうえで、両者が取るべき具体的なあっせん案を提示します。
しかしこのあっせんの制度は満足のいく内容でなければ応じる義務がないことが大きな特徴です。
紛争に要する費用の面を考えると、企業側は労働審判に及ぶ前のこの段階で解決金を払って紛争を解決するのが良いとも言えます。
(2)労働審判への申し立て
労働審判は,労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が行います。
個別労働紛争を原則として3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合には事案の実情に即した柔軟な解決を図るための労働審判を行うという紛争解決手続です。
労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば,労働審判はその効力を失い,労働審判事件は訴訟に移行します。
会社を辞めることを前提で金銭での解決を求める場合には労働審判制度を利 用しますが、職場での地位の復帰を求める場合には次の仮処分の申し出が利用されます。
(3)仮処分の申し出
従業員が社員としての地位への復帰を求めている場合には、訴訟と併せて地位保全の仮処分の申請をすることがあります。
これは訴訟が長引いた場合に社員の生活が不安定になることを防ぐために認められた制度です。
もし月給30万円の社員が仮処分の申し出をして仮処分命令を受けた場合、1年間訴訟が続けば360万円の支払いが生じることになります。
企業は敗訴した場合には、働いていない社員の訴訟期間の給料を払わなければならず、解決金と併せると非常に高額な支払いが生じます。
このように労働紛争は未然に防いでいれば費用の負担が少なく済むものであっても、紛争調整委員会のあっせん、労働審判、訴訟と段階が進むにつれて、企業の金銭面において大きな痛手となることは間違いありません。
さらに労働基準監督署での解雇に付随する手当の調査や合同労組への駆け込みがあると、費用面だけではなく解決に大きな労力を要することになります。
ローパフォーマー社員への対応は解雇も含めて慎重に行うことが大切です。
3.採用した従業員がローパフォーマー社員だと思ったら
採用した社員がローパフォーマー社員だと思ってもすぐに解雇するのは危険です。
もし解雇をするのであれば社員は上記のような手段をとり、企業に大きな損害を与えることが予想されます。
そのため企業はたとえ雇い入れた社員がローパフォーマー社員であると思っても、まずは戦力化することを考えなければなりません。
戦力化に向けて行動し、場合によっては配置転換をするなどの措置を講じることが必要です。
その戦力化に向けた行動が、後々戦力化がうまく行かず退職してもらうことになった場合に企業の身を守ることになります。
2.ローパフォーマー社員を戦力化する
一つは、経営者が自ら先頭に立ち、システム、諸規則を変革させることです。
ローパフォーマー社員とは単に仕事の能力が低く、業務内容に耐えられない社員であるとは限りません。
ローパフォーマー社員には以下のような特徴が挙げられます。
一言にローパフォーマー社員と言っても問題点は個々で違います。
ローパフォーマー社員の特徴を見極めて適切に指導を行うことが大切です。
1.業務の目標設定を行うこと
ローパフォーマー社員を戦力化するには業務に対する目標の設定を行うことが大切です。
ローパフォーマー社員の中には現状に満足し、目標を失っている可能性もあります。
そのような社員については具体的な目標を設定し、その目標に対するヒアリングを行うことが重要です。
(1)具体的な目標を掲げること
具体的に目標を設定することでローパフォーマー社員は何をすべきかはっきりと認識できるようになります。
さらに目標にはいつまでに何をすべきか日付や数値をはっきりと示すことが大切です。
(2)目標を設定するにあたり、社員の意見を聞くこと
目標を設定する際には上司はローパフォーマー社員と話し合い、意見を聞くことが大切です。
意見を聞くことでパフォーマンスが上がらない原因がわかる事もあります。
設定した目標が会社側の一方的なものではなく、ローパフォーマー社員の能力の向上や会社の利益につながる目標であることが大切です。
(3)目標が実現可能であること
目標は実現可能なものであることが必要です。
実現が不可能な目標を設定した場合には退職に誘導していると判断されパワハラと認定されてしまう可能性があります。
目標はあくまでも戦力化につながるものである必要があります。
2.注意・指導を行うこと
(1)注意・指導を相当期間行うこと
注意・指導は相当期間行うことが大切です。
一度の注意や指導で解決すればよいですが、解決しない場合には複数回の指導や相当の期間を設定した指導が必要です。
もし注意や指導が単発で継続していない場合には、のちに解雇に至ることになった場合でも注意・指導を行ったものと判断されない可能性があります。
(2)注意・指導を行った証拠を残すこと
注意・指導を行った場合には証拠を残すことが大切です。
どのような点について注意・指導を行ったのか、その注意・指導に対するローパフォーマー社員の意見など詳細に記録しておきましょう。
書面で残すことでのちに解雇に至ることになった際の証拠になります。
(3)注意・指導がパワハラにならないよう気を配ること
注意・指導を行うこと自体はパワハラにはなりません。
しかしその注意・指導が他の社員のいる前で行われたり、大声で怒鳴ったり、誹謗中傷と取れる発言がある場合にはパワハラと認定される可能性があります。
注意・指導を行う場合には他の社員がいないところで行うなどの配慮をすることも大切です。
3.配置転換・業務異動を行うこと
ローパフォーマー社員に対して具体的な目標を設定し、注意・指導を繰り返しても効果が表れないことがあります。
その場合であってもすぐに解雇することは危険です。
配置転換や業務異動を行うことも検討しなければなりません。
ローパフォーマー社員の中には本当はパフォーマンスが低いのではなく、その業務に対する適正に問題があることもあります。
注意・指導を継続しても効果が表れない場合であっても上司はローパフォーマー社員の意見を聞き、配置転換や業務異動によりパフォーマンスを発揮できる可能性を探ることが大切です。
(1)配置転換・業務異動を行う根拠があること
配置転換や業務異動を行う場合には労働契約上の根拠があることが必要です。
就業規則で業務上の必要がある場合には配置転換を命ずることができることを明記しておくことが大切です。
(2)権利濫用に該当しないこと
就業規則で配置転換の可能性について記載があったとしても、その配置転換が権利の濫用に該当する場合には無効になります。
業務上の必要性があること、配置転換の基準・人選に合理性があること、配置転換の手続きが妥当であることに注意をして配置転換や業務異動を行うことが大切です。
3.戦力化できない場合の企業の対応
これまで説明してきた戦力化の方法を取った場合であってもローパフォーマー社員を戦力化できない場合があります。
戦力化に向けた指導が功を奏して組織の一員として機能した場合には良いですが、戦力化できなかった場合には退職も含めて検討する必要が生じます。
ただし解雇については、ローパフォーマー社員が解雇の無効を訴える可能性がありますので慎重な対応が求められます。
1.解雇を行う前には退職勧奨を行うこと
解雇は社員との雇用関係を一方的に解除する方法ですが、退職勧奨は社員と話し合いにより退職を勧める方法です。
一方的に雇用関係を終了する解雇よりも退職勧奨の方が退職に関してもめることは少なくなります。
これまで目標設定を行って注意・指導を繰り返しているのであればなお話し合いは行いやすくなります。
目標設定の際に数値目標をたてていれば達成できていないことを理由に話を進めることができますし、署名を取っていればその署名も話し合いの中で有効な資料になります。
これまで行ってきた指導について織り交ぜながらローパフォーマー社員が納得できるように退職の話を行いましょう。
2.解雇を行う場合
ローパフォーマー社員が退職勧奨に応じない場合には、解雇を行うことも考えなければなりません。
ただし解雇を行うには注意しなければならないことがいくつかあります。
この解雇のルールを守らなければ解雇権の濫用と判断され、解雇が無効になります。
決められた人だけが参画している5S活動では成果は限られてしまいます。
活動に参加していない人がいると、「あの人はやらなくていいのに、私たちだけがやらされている」という気持ちを持つようになります。
つまり、不公平感を持ちやすく、それが活動への参画意欲を低下させます。
一方、全員参画の5S活動では、不公平感を覚えることはありません。
「みんながやっているのだから、私もやらなければ」という気持ちを持つようになります。
人間には、集団や人間関係において自分が所属したい、受け入れられたいという「所属の欲求」があると言われています。
全員参加により一体感を持ち、所属の欲求を満たすことができます。
(1)解雇制限期間に該当しないこと
労働基準法第19 条では社員の解雇について制限を設けています。
次の2つの事由に該当する場合には解雇を行うことができません。
解雇制限期間とは
これらの解雇制限期間に該当する場合については、たとえ就業規則に定める解雇事由に該当したとしても解雇を行うことはできません。
もしローパフォーマー社員を解雇しようとする場合であってもこの解雇制限期間は避けて解雇を行わなければなりません。
(2)解雇予告を経ていること
解雇する場合には解雇予告が必要です。
少なくとも30日前に解雇予告を行うか平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
しかし労働基準監督署から解雇予告除外認定を受ける事で解雇予告や解雇予告手当が除外されます。
ローパフォーマー社員の解雇については解雇予告除外認定基準の(5)に該当する可能性がありますが、労働者の保護と除外認定を申請した理由のバランスを考慮して労働基準監督署が認定することになりますので、必ずしも除外認定が通るとは限らないことに注意が必要です。
(3)就業規則の解雇事由に該当すること
解雇を行うには合理的な理由が必要であり、合理的な理由を欠くことがあれば解雇権の濫用であるとされ解雇が無効になります。
もし10人以上社員がいる企業であれば就業規則の作成は義務ですから、解雇事由を列挙することが必要です。
解雇は就業規則がなくても行うことができますが、就業規則がなければ解雇の基準が明確にならないため労働者保護が優先されることが多くなります。
社員が10人未満の事業所であっても解雇や服務規律を明確にするためにも就業規則を作成する方が良いと言えます。
■参考文献
『続「問題社員」対応の法律実務』(日本経団連出版)
『これだけは知っておきたい 小さな会社の労働契約と解雇のルール』(日本実業出版社)
『就業規則モデル条文 上手なつくり方、運用の仕方』(日本経団連出版)
『労働裁判における解雇事件判例集』(厚生労働省労働基準局監督課編集)