中小企業への支援策が鮮明になった!2014年版中小企業白書の要点解説

1.2014年版中小企業白書の概要

1.多くの中小企業経営者に活用されている中小企業白書

中小企業白書とは、毎年5月に中小企業庁から発表される、中小企業の動向を詳細に調 査・分析した報告書であり、今回で51回目の発行となりました。
この白書は、中小企業の現状や問題点をつかみ、将来を展望するために利用度の高いも のとなっています。中小企業の経営者にとって、業界動向や行政施策動向を知り、自社の相対的位置づけを知る上でも適した資料です。
2014年版の白書では、個人事業主・零細企業などの小規模事業者や、起業・創業の課題に焦点を当てているのが特徴です。
国の成長戦略の実現には、中小企業の発展が不可欠であり、中小企業に対する支援強化を図ろうとする国の決意が読み取れます。
国は、2014年が中小企業政策における重要な年と位置づけており、全国の小規模事業者にとっても大きな転換期になると思われます。
本レポートは、2014年度版の中小企業白書のうち、経営者にとって有意義となり得るポイントを整理しています。
今後の中小企業への具体的な支援策や支援窓口なども紹介しておりますので、今後の自社の経営改善に役立てていただきたいと思います。

2.全国の事業者のうち大半を占める小規模事業者

企業は全国に約400万社ありますが、そのうち約97%の385万社が中小企業です。
さらに、小規模事業者数は84%を占めていることから、日本が今後の成長戦略を実現させるためには、小規模事業者の育成、および支援が急務であると考えており、今回の中小企業白書において、具体的な支援策などが盛り込まれています。

全国の企業数内訳

3.2014年版中小企業白書の概要

2014年版中小企業白書は、4部で構成されており、それぞれのポイントは下記のとおりです。
現状分析を踏まえつつ、今後の中小企業が進むべき方向性や、具体的な支援策についてまとめた内容となっています。
特に、第3部では「五つの柱」を掲げて、現状分析と課題抽出を行うと共に、各項目に ついて具体的な政策提言を行っています。

具体的な政策提言

2.構造変化への対応が求められる中小企業者

1.依然として厳しい中小企業の経営実態

ポイント
下図のとおり、中小企業の景況に改善の兆しは見られたものの、小規模事業者において はまだ低い水準であるといえます。
そのため、今後こうした小規模事業者にも景気回復の実感を届けていくことが必要としています。
つまり、中小企業の収益力向上のためには、価格転嫁力の向上と労働生産性の向上が必 要であることを示唆しています。

規模別の中小企業の景況感

2.中小企業・小規模事業者が直面する経済の変化

ポイント

(1)国内への経済波及効果が大きい観光ビジネスの拡大

日本の国際競争力は低下してきていますが、観光ビジネスが国内経済に与える影響は大 きく、観光消費額22.4兆円に対して生産波及効果は46.4 兆円、さらに雇用誘発効果は397万人となっています。
このように、観光ビジネスにおける経済波及効果は大きく、2008年には国土交通省の外局として観光庁が設置されています。
また2010年には、新成長戦略において、「観光立国・地域活性化戦略」が戦略分野の一つに選定されたほか「訪日外国人3,000万人プログラム」と「休暇取得の分散化」が国家戦略プロジェクトとなりました。
さらに2013年6月には、「日本再興戦略」において、「訪日プロモーションに関する、省庁、関係機関の横断的計画策定と実行」、「査証発給要件緩和、入国審査手続き迅速化等の訪日環境改善」、「外国人観光客の滞在環境改善」、「新たなツーリズムの創出」、「産業資源の活用・結集・ブランド化」、「国際会議等(MICE)誘致体制の構築・強化」、「国際的な大規模イベントの招致・開催」が盛り込まれています。

訪日外客数の推移

(2)中小企業・小規模事業者は情報化への対応が急がれる

情報化の進展により、企業の経営環境は大きく変わっていますが、大企業と中小企業・ 小規模事業者の間の情報格差は未だに大きく、中小企業・小規模事業者は情報化の進展によるビジネスチャンスを十分に活かせていない状況であるのが現状です。
情報技術は、利便性を向上させる方向でますます進歩し、流通構造の変化や情報技術の 革新によって、経営環境は今後とも変わっていくことが予想されています。
中小企業・小規模事業者においては、このような情報技術の進展にも十分に目を向けつつ、中長期的な経営戦略を考えていく必要があるといえます。

規模別・利用形態別のITの導入の状況

3.中小企業・小規模事業者が直面する社会構造の変化

ポイント

(1)小規模事業者の経営者の高齢化が進行

人口減少・高齢化が進む中、経営者も高齢化し、これまでと比較しても70 歳以上の年齢階級が最も多くなっています。
このような結果から、事業承継に向けた早期の準備が必要となっていることが分かりま す。
中小企業・小規模事業者の企業数も減少が続いており、直近では35 万社減少しています。
特に、小規模事業者は、近年、休廃業・解散件数が増加傾向にあり、その主たる要因も経営者の高齢化にあります。
事業承継・廃業に関する最大の課題は、家族や親族以外に相談できる相手がいないとい うものであり、専門家からの支援を受ける必要性を示唆しています。

年齢階層別 自営業主の分布(年別)

(2)事業承継が円滑に進まない理由

事業承継の課題としては後継者不足が挙げられることが多いですが、最終的に「廃業や むなし」という考えに至ったケースについては、「事業の将来に明るい見通しを持てなかったこと」が事業承継を断念した最大の要因となっています。
また、約1割が「事業承継に関して誰にも相談しなかった」ことを、事業承継が円滑に 進まなかった理由として挙げています。
そのうち、事業承継について誰にも相談しなかった理由として、「相談しても解決するとは思えなかった」という回答が約8割を占めています。
近年、事業承継に関しては、官民の様々な機関がその支援に取り組んでいますが、そう した取組がまだ十分に認識されていないあるいは、認識されていても十分な解決策は示してもらえないと思われている実態が浮かび上がってきます。
事業承継は、引き続き重要な政策課題となっていますが、同時に自らの代で事業を終了 すること、すなわち「廃業」を考えている経営者に、行政や中小企業支援機関としても正面から向き合うことの必要性も示唆しています。

事業承継が円滑に進まなかった理由

(3)事業承継を促すための税制の拡充(2015年1月から本格施行)

親族に事業を引き継ぐ際には、相続税・贈与税の負担の問題がありますが、スムーズな 事業承継を実現するため、2009年度に相続税・贈与税の納税を猶予する特例制度が創設されました。
制度創設時には、納税猶予の適用を受けることができる後継者は、「現経営者の親族」に限られており、猶予を受け続けるためには「雇用の8割以上を5年間毎年維持する」等の要件が課せられていましたが、2013年度税制改正において各種要件が緩和される等の制度の拡充が図られています。
具体的には「親族外承継」も対象となるなど、現状の事業承継の課題に対応した改正が 行われており、制度の使い勝手は改善されたと評価できます。

事業承継税制拡充のポイント

3.成長戦略の実現に不可欠な中小企業支援策

1.中小企業・小規模事業者に託された日本経済の成長

ポイント

(1)地域経済の発展には「地域型」と「広域型」企業のバランスが重要

小規模事業者の最大の課題は「需要・販路開拓」と位置づけ、地域需要志向である小規 模事業者はニッチな需要の掘り起こし、また広域需要志向型の小規模事業者は、インターネット販売の活用や大企業とのマッチングを通じた需要開拓を目指すべきことを提言しています。
地域経済は、「地域型」企業と地域外から「外貨」を獲得する「広域型」企業が、バランスよく存在することで成り立つとしています。

「広域型」企業・「地域型」企業の資金循環イメージ

(2)起業家を育てるために提示された対応策

近年では、起業を希望する「起業希望者」が急激に減少(ピークの半減以下)している ものの、起業家数は大きく変化しておらず、毎年20~30万人の起業家が誕生しています。

起業率が低い理由としては、次の3点を挙げています。

起業の「担い手」の推移起業率が低い理由

起業の「担い手」の推移起業率が低い理由
今後、日本経済を活性化させるためには、まず地域活性につながる起業家を増やすこと が必要であるとし、そのための具体的対応策を次のように提示しています。

起業家を増加させるための3つの課題と対応策

2.中小企業・小規模事業者への支援策

起業家を増加させるための3つの課題と対応策

(1)「よろず支援拠点」にて各地域の中小企業を支援

中小企業の支援においては、行政のみならず、金融機関、専門家、商工会・商工会議所 等の支援機関等との相互連携が不可欠としています。
さらに、各都道府県設置を予定する「よろず支援拠点」などにより、今後の中小企業・ 小規模事業者支援体制の構築が必要であると提言しています。
「よろず支援拠点」には、次のような機能が期待されています。

よろず支援拠点の3つの機能、よろず支援拠点のイメージ

(2)「施策マップ」で中小企業支援策の情報収集および検索が容易になる

さらには、中小企業の支援においては、各種情報提供の必要性を示唆しています。
グルメサイトの「ぐるなび」を例に挙げ、目的や分野、必要金額等に応じて、希望条件 などを入力し、検索すれば、比較・一覧できるようなシステム(施策マップ)の構築を提言しています。
すでに一部省庁では作成されていますが、今後は中小企業庁の施策のみならず、総務省、厚生労働省、農林水産省、観光庁など他省庁の中小企業向け施策の閲覧も可能となり、有意義な情報収集も可能となります。

施策マップ例
今回は、2014年版の中小企業白書について、要点を絞って解説しましたが、こ の白書は例年と比べて3倍(約900ページ)のボリュームがあります。
他にも今後中小企業が進むべき方向性や、具体的な支援策など経営に役立つ情報が数多 く含まれていますので、自社の経営改善に役立てられることをお勧めします。

■参考文献
「2014年版中小企業白書」(中小企業庁)

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