補助金・優遇税制を活用「サービス付き高齢者向け住宅」の手引き

1.「サービス付高齢者向け住宅」の現状と概要

サービス付き高齢者向け住宅制度の現状

(1)補助金が追い風に ~順調に推移する整備状況

「サービス付き高齢者向け住宅」は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正(2011年10月20日施行)により、2011年10月より登録制度が創設、開始されました。
サービス付き高齢者住宅の供給促進については、政府の新成長戦略にも盛り込まれており、国土交通省は今後10年間で60万戸の整備を目指しています。
年間あた り平均6万戸の整備が必要ですが、2012年7月現在60,949戸と目標を上回るペースで整備が進んでいます。
整備の追い風となっているサービス付き高齢者向け住宅事業者に対する補助金は、国交省の「高齢者等居住安定化推進事業」に盛り込まれ、昨年度予算325億円、今年度予算で355億円が計上されています。
このように、供給を促すために国が建築費などを補助する予算措置は、2015年度まで継続される見通しとなっています。
今年度は4月10日から補助金の申請受付が始まっており(2012年11月末まで)、整備を検討している事業者は、早期の対応が求められます。

国土交通省 サービス付き高齢者向け住宅整備予算

(2)都道府県別整備状況

全国の登録状況は、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」(運用主体:一般社団法人すまいづくりまちづくりセンター連合会)というサイトで閲覧が可能です。
7月28日現在、全国で1,900件(60,949戸)が登録されています。
各都道府県の登録件数は次のとおりですが、すべての都道府県で登録がなされており、登録件数のトップ3は順に、大阪府、北海道、東京都となっており、都市部(北海道は札幌市)を中心として整備が進んでいます。
また政令指定都市を抱える県など、人口の集中した地域から登録件数が拡大していることが見てとれます。

都道府県別整備状況

「サービス付き高齢者向け住宅」とは

(1)登録しなければならない事項とその基準

サービス付き高齢者向け住宅の事業者は、都道府県(または政令市・中核市)に登録しなければなりません。
また、登録は建物ごとに行い5年ごとの更新制となっています。
登録された情報は、都道府県等での登録簿の閲覧のほか、登録情報を統一的にホームページ で公開し、複数の住宅間で比較検討しやすい仕組みを作っています。
また、登録された事 業者は、都道府県・政令市・中核市の指導・監督を受けます。

サービス付き高齢者向け住宅の概要

(2)検査をめぐる査定事例~縦覧点検の対象となりやすい

算定回数に制限がある検査項目については、減点査定となりやすいものが多くなっており、主なものに次のような検査が挙げられます。

サービス付き高齢者向け住宅の登録事項

2.補助金・税制優遇等の支援制度

国による制度推進の支援策

国は、サービス付き高齢者向け住宅の供給促進のため、次のような支援措置を講じています。
具体的には、予算面では国が直接補助を行うこと、また税制面では不動産取得税を軽減すること、さらに融資面では住宅金融支援機構がバックアップし、別担保の設定が不要であること、などが挙げられます。

国による支援措置

主要な支援策の概要

(1)整備費の10 分の1を国が直接補助

サービス付き高齢者向け住宅は、国土交通省の「高齢者等居住安定化推進事業」の対象となっています。
登録により、新築の場合は建築費の10分の1(1戸当たり100万円が上限)、改修の場合で3分の1(同)を国が直接補助するものです。
冒頭で紹介したように、国交省は、高齢者等居住安定化推進事業2012年度予算で355億円を計上し、4月10日より申請を受け付けています。
具体的な要件と補助率は、次のとおりです。

主な要件及び補助額

(2)税制優遇による推進

税制面は、国などの補助金を受けていることを条件に、所得税、法人税、固定資産税、不動産取得税が優遇されます。
所得税・法人税はともに建物の割増償却が可能となり、固定資産税、不動産取得税は減額措置となります。

税制による支援措置の概要

(3)融資に関連する支援措置

サービス付き高齢者向け住宅に対する融資については、独立行政法人住宅金融支援機構の融資要件が緩和されます。
ただし、融資に関する優遇措置は、国などの補助金を受けていることが要件となっているため、交付金対象となっていない場合は優遇を受けられません。

融資の対象となる賃貸住宅の主な条件

主な融資条件等
このほか、入居者に対する支援として、民間金融機関が実施するサービス付き高齢者向け住宅の入居一時金に係るリバースモーゲージ(死亡時一括償還型融資)に対し、住宅融資保険の対象とする支援が行われています。

3.申請から事業着手までの流れと運用上の留意点

補助金申請から事業着手の流れ

(1)平成24 年度補助金申請の流れ

平成24年度のサービス付き高齢者向け住宅整備事業(補助金申請)は、4月10日から始まっています。
実際には、登録通知の確認後、補助事業の審査を受け、補助交付決定の発出をもって事業着手となります。
注意すべき点は、交付決定を受けた後、速やかに着工したうえで、原則として2012年度中(2013年2月15日まで)に竣工しなければなりません。
ただし、登録が100戸以上となる大規模事業の場合には、1年間の延長が認められています。

申請から事業着手までの流れ

(2)申請様式

申請様式は、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」よりダウンロードが可能です。
サービス付き高齢者向け住宅整備事業に、補助金申請の詳細が記載されています。
申請書の添付資料は、下記の一覧のとおりです。提出書類は2部とし、これらのデータを保存したCD-R(申請書のファイル形式はエクセル、その他の添付資料はワード、エクセル、PDFファイルのいずれか)1枚を提出となっています。

申請書 添付資料一覧

運用上の留意点

(1)「参考契約書」の活用ポイント

国土交通省と厚生労働省は、「サービス付き高齢者向け住宅事業の登録制度に係る参考とすべき入居契約書」(参考契約書)を公表しています。
入居者の安否確認および生活相談サービスの契約と建物の賃貸契約が一体化しているのが特徴です。
次に掲げた「入居契約の登録基準適合性チェックリスト」の各項目をみると、建物の賃貸契約について、きめ細かい対応が求められています。

サービス付き高齢者向け住宅の入居契約の登録基準適合性に関するチェックリスト

(2)指導監督と罰則の強化

「高齢者住まい法」の2011年改正においては、新たに「サービス付き高齢者向け住宅」制度が創設されたことと併せ、行政による指導監督と罰則が強化されました。
改正前の同法では、「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」「高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)」の3つの類型がありましたが、新制度では立入検査や質問を可能としたほか罰則を強化し、高専賃の場合は、都道府県の報告などに応じない事業者に対する過料が10万円以下だったのに対して、現行の改正法は30万円以下の罰金が科せられることと定められています。
また、同法ではサービス付き高齢者向け住宅に類似した呼称の使用を禁じる、いわゆる名称独占権を定めています。
これら強化の意味するところは、入居する高齢者の保護重点化という点は当然のことながら、一方で登録業者に国のお墨付きを与え、登録していない事業者との差別化を図ることにあります。

罰則強化の項目

4.医療機関が運営する「サ高住」 開設事例

医療法人が母体のサービス付き高齢者向け住宅

(1)医療法人における「サ高住」の位置づけ

事例となる医療法人は、病院を母体医療機関としており、併設の介護老人保健施設を開設しています。
サービス付き高齢者向け住宅(以下、「サ高住」)は、病院と介護老人保健施設の中間に位置づけられ、病院では入居者の緊急時の対応と入退院のサポートを行い、介護老人保健施設では附帯サービスである通所リハビリテーション、訪問介護事業、介護予防センターと連携します。
サ高住に併設するデイサービス、小規模多機能型介護事業所と協働して、法人グループでトータルケアを提供しています。

事例法人が提供するトータルケアネットワーク

(2)入居募集から3ヶ月でほぼ満室の状況

市の郊外、中心部から車で約40 分の閑静な住宅街に建設されたサービス付き高齢者向け住宅の母体は、病院及び介護老人保健施設を経営する医療法人です。
2012年7月にオ ープンし、入所定員53名で市の定める終身賃貸契約となっています。
入居者の募集を開始してから3ヶ月で入居予約は51名にのぼり、順調な滑り出しとなっています。
入居者の希望により介護サービスが利用可能となっており、小規模多機能型介護事業所とデイサービスを併設しています。

建物概要

(3)居室は全室個室で2タイプ

居室は、家賃65,000円のAタイプ(約13疊)と家賃50,000円のBタイプ(約11疊)の2種類で、入居一時金は0円ながら、敷金として家賃の3ヶ月分を徴収します。
全室個室のため、ご夫婦で入居される場合は近い部屋を2室借りる取扱いとなり、現在1組のご夫婦が入居されています。
主な設備は、車椅子対応トイレ、洗面設備、収納、連絡用インターホン、自動火災報知設備、スプリンクラー設備、テレビ配線等です。
ベッド や家具、テレビや電話機は、入居者が持ち込んで利用します。
高齢者が入居するため、火気厳禁となっており、ろうそく・線香・石油ストーブなどの持ち込みはできません。
居室を含む建物内は原則禁煙で、指定の喫煙スペースが用意されています。

居室概要

(4)利用料金

利用料金は、Bタイプでは家賃50,000円に下記の利用料を加えると、夏期132,000円、冬期は142,000円となります。
月額の利用料金詳細は、下記のとおりです。
冬期(11月から4月)は、暖房費として10,000円を別途徴収します。
管理費(30,000円)には、洗濯サービス費5,000円が含まれており、洗濯は洗濯室にてスタッフが行います。

利用料金(月額)

(5)浴室は5ヶ所、食事提供はシェフが監修

共同利用設備は、下記のとおりです。
各居室に浴室はありませんが、1階に大浴場、2階・3階に各2カ所、共用トイレ付きの浴室を完備しています。
また、居住スペースの2階と3階には、台所(調理コーナー)、ラウンジ(デイルーム)、洗濯室(ランドリー)を整備しています。
最大の特徴は食事の提供です。
入居者にとっては、食事が一番の楽しみです。
そこで、ホテル出身の洋食と和食のシェフを各1名採用し、シェフが監修した季節ごとの旬の味覚を取り入れた食事を提供しています。
約100㎡の広さがある食堂兼居間には、入居者分の テーブルと椅子、大型TVスクリーンおよびパソコンを設置し、自由にインターネットを楽しめるスペースも設けています。
入居条件として、身の回りのことをある程度自立してできることが挙げられているため、掃除は入居者が各自で実施することとなります。

共同設備

(6)コンシェルジュを日中常時2名配置

状況把握及び生活相談サービスを行うスタッフは、安否確認及び夜間のコールに対応する管 理員が3名、生活相談を行うスタッフが日中2名が常時配置されています。
夜間は警備会社に外部委託しており、1名が配置されます。厨房は自前で、シェフ2名を含む7名で調理しています。

人員配置
入居者は順調に確保できた一方で、苦労したのはスタッフの採用です。
オープニングスタッフ募集により、ある程度人材確保はできましたが、現在はギリギリの人数で運営しています。
スタッフ採用については、早い段階から計画的に進める必要があります。

■ 参考文献
「サービス付き高齢者住宅の手引き」
サービス付き高齢者向け住宅研究会 編著(大成出版社)
「2012 制度改正完全対応 サービス付き高齢者向け住宅徹底攻略ガイド(改訂版)」
日経ヘルスケア 編 (日経BB社)

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