答申決定で変わる医療・介護業界!業界別規制改革の 概要と影響予測

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答申決定で変わる医療・介護業界!業界別規制改革の 概要と影響予測

  1. 分野別規制改革の検討項目と今後の実施計画
  2. 薬局業界は「かかりつけ薬局」を軸に再編
  3. 医薬品業界は薬の給付見直しで残薬削減へ
  4. 医療・介護業界は経営資源の有効活用で負担軽減

 


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目次

1.分野別規制改革の検討項目と今後の実施計画

1.規制改革会議が規制緩和に対する答申提出

内閣総理大臣の諮問機関として発足した規制改革会議は6月16日、保険薬局と保険医療機関の一体的な構造規制の緩和など、医薬分業に関する規制改革などを盛り込んだ答申を安倍首相に提出しました。
規制改革会議は、平成25年1月に設置され、平成25年および26年の2次に亘り、「規制改革に関する答申(第1次及び第2次答申)」を提出しています。
今回提出された答申は、これまでの検討結果を取りまとめ、「第3次答申」として提出されたものです。
この「第3次答申」は、健康・医療分野のほか、重点分野の規制改革について提言しています。
具体的には、下記の分野が対象となっています。

規制改革の対象分野

2.健康・医療分野における規制改革

(1)規制改革の目的と検討の視点

規制改革会議では改革の目的を、少子高齢化の進展により社会保障に係る負担は毎年増加しており、限られた財源の中で必要な医療・介護サービス等を確保するためには、国民の健康増進や疾病予防などの取組みのほか、給付の効率化や費用の最適化の取組みなどが求められていると位置づけました。
規制改革会議に設置された健康・医療ワーキング・グループでは、これらの課題に対処するため、国民の安心・安全の確保を前提に、「国民の利便性向上」、「医療や福祉サービスの発展による経済の活性化」、「保険財政の健全化」の3つを基本的な考えと位置づけ、さらに第3次答申の検討に当たって、以下の6つの検討項目について個別具体的な規制改革項目を整理しました。

医療・介護分野 6つの検討項目

3.規制改革実施計画を閣議決定

平成27年6月30日、政府は、この「規制改革に関する第3次答申」を踏まえ、対象となった規制や制度、その運用について、直ちに改革に着手すべく規制改革実施計画を閣議決定しました。
今後、各規制改革の項目ごとに定められた実施時期に基づき、所轄官庁が具体的改革に取り組むことになります。

規制改革実施計画の目的と基本的性格

前述の規制改革については、平成27年度に検討され、当年度中に結論の出るものから、次期診療報酬改定にて措置されるもの等、それぞれ実施時期を定めています。

医薬分業規制の見直し計画

2.薬局業界は「かかりつけ薬局」を軸に再編

1.医薬分業の現状と課題

(1)薬局の機能を再構築

従来、薬局の薬剤師が専門性を発揮して、患者の服用薬について一元的・継続的に把握して薬学的管理を行うことにより処方内容をチェックし、多剤・重複投薬の防止や残薬削減などにつながることを目指して、長年にわたり医薬分業が推進されてきました。
しかしながら、現状では医薬分業についての政策評価が十分に実施されておらず、薬局に求められる機能が必ずしも発揮できていないなど、患者本位の医薬分業になっていないとの指摘がありました。

(2)薬局の一体的構造規制

保険薬局は、医薬分業の観点から、同一建物内や、同一敷地内などといった“一体的な構造”が禁止され、医療機関との間に公道を挟むことが求められており、高齢者や車いすの患者などに不便を強いているとの指摘がありました。
こうした規制を改めるとともに、保険薬局と保険医療機関間の経営上の独立性を確保するために実効ある方策が講じられることとされています。

規制改革の内容、今後の医薬分業イメージ

(2)一体的構造禁止から敷地内薬局認可へ

薬局の構造基準については、医療機関と薬局に公道等が必要とされ、フェンスの設置などで独立性を担保する薬局もありました。
規制改革では、高齢者や車いすを使用する方に配慮する観点から、これらの規制が見直されます。

一体的構造禁止の緩和

3.かかりつけ薬局転換が生き残りのカギに

大手薬局チェーンでは、既に「かかりつけ薬局」への転換が進められています。
例えば、点滴用薬剤を調合できる店舗の増加により全店舗を在宅医療対応にする、また、全店で専門的な相談などに応える体制をつくるなど、「かかりつけ薬局」への転換を促す国の方針への対応を進めています。
厚生労働省が策定した国民健康づくり運動「健康日本21」第2次では、「健康を支え、守るための社会環境の整備」のための拠点の一つに、「地域住民の健康支援・相談対応等を行い、その旨を積極的に地域住民に周知している薬局」があげられており、日本薬剤師会ではこうした「かかりつけ薬局」の数を現在の2倍の1万4,000局に増やすことを目標に掲げています。

「かかりつけ薬局」の基準(案)

4.重複投薬の削減で減収の可能性

医薬分業における規制改革により、かかりつけ薬局の推進を通じて、患者自身と薬局が服薬情報の管理を行い、他の薬局及び医療機関等と情報連携が効率的に行うことが可能になります。
重複投薬削減の流れに伴い、医師同士が連絡を取り、1ヶ所に集約された場合、7種類以上の薬剤数となった場合は、減収の可能性があります。
処方せん料の点数は、下記のとおり、処方する薬剤の種類によって算定されます。

処方せん料の取り扱い

3.医薬品業界は薬の給付見直しで残薬削減へ

1.医薬品の取り扱いに関する現状と課題

(1)重複投薬と残薬の実態

規制改革で重点的に議論されたのは、患者本位の医薬分業の実現です。
長期投薬の増加などにより、飲み忘れや飲み残し、症状の変化によって生じたと思われる多量の残薬が生じていることから、特にかかりつけ薬局の機能明確化が議論されました。
平成27年4月中央社会医療審議会の総会では、東京理科大学薬学部の鹿村恵明教授が日本薬剤師会からの委託事業で541薬局を対象に行った「2013年度全国薬局疑義照会調査」の結果が示されました。
それによると、残薬の調整を全国の年間の処方せん枚数に換算すると、医療費をおよそ29億円抑制できたというデータが報告されています。

薬局での残薬確認による医療費削減効果

(2)新医薬品の処方日数制限

現在、医薬品のうち保険給付の対象になってから1年間の新医薬品は、処方日数の上限が14日間とされています。
そのため、患者は医薬品の処方を受けるために月2回は通院しなければなりませんが、働きながら治療を受ける場合や遠方から医療機関に通う場合には通院の負担が大きく、高い効果が期待できても新医薬品の使用をあきらめるケースがあるとの指摘があります。
このため、新医薬品の処方日数制限について、新医薬品を利用しやすい環境を整備するよう検討が行われます。

(3)市販品類似薬の保険給付のあり方を見直し

医薬品のうち市販の一般用医薬品と同じ成分を含む医療用医薬品(市販品類似薬)は、保険給付によって患者の自己負担が少なく済むため、同じ成分を含む市販品を購入するよりも低い負担額で入手が可能です。
一方、セルフメディケーションとして一般用医薬品を購入する場合は全額自己負担であるため、安易な医療機関の受診などのモラルハザードが生じやすく、負担の不公平や、過剰な保険給付につながり得るとの指摘があります。
このため、市販品類似薬を含めた医療用医薬品の給付及び使用について、残薬削減等による保険給付の適正化の観点から、次期診療報酬改定に向けて方策が検討されます。

2.医薬品の取り扱いに関する規制改革の概要

医薬品の現状を踏まえた規制改革は、新医薬品の処方制限見直しと、市販品類似薬の保険給付のあり方を柱に実施されます。

規制改革の内容

3.診療報酬改定で市販品類似薬の保険適用除外が拡大

(1)診療報酬改定における保険適用除外

市販品類似薬の一つとされるビタミン剤は、平成24年度診療報酬改定において「単なる栄養補給目的」での投与は保険適用除外とされており、また、うがい薬に関しては、平成26年度診療報酬改定において、治療目的の場合を除き、うがい薬のみの投与は保険適用除外とされています。

保険適用外の改定項目

(2)次期改定でさらなる保険適用除外拡大の可能性も

厚生労働省はこれまでの診療報酬改定で対応したビタミン剤とうがい薬の医療費適正化の検証として、例えば医療機関別、地域別等の観点から給付額の増減について調査を行い、結果を公表するとしています。
これは、次期改定における保険給付適用除外拡大の事前調査といえます。
今後、市販品類似薬を含めた医療用医薬品の給付及び使用について、残薬削減等による保険給付の適正化の観点から次期診療報酬改定に向けて、さらなる適用除外が予測されます。

4.医療・介護業界は経営資源の有効活用で負担軽減

1.医療情報の有効活用で事務負担軽減

(1)医療情報のデータ共有化

現在、医療機関の機能に関するデータが、厚生労働省の地方厚生局や、本省内の複数の部局を横断して管理されており、相互利用が十分に行われていないという指摘があります。
そのため、各種医療データのデータベース化の進捗管理や、省全体でのデータ利用を可能とする方策の検討、調査の見直し、第三者提供への在り方の検討が行われます。

医療情報の有効活用に向けた規制の見直し

(2)各種調査の重複見直しで事務作業負担軽減

医療情報の有効活用にかかる改革会議検討を受けて、医療機関の機能に関するデータ等が厚生労働省内で相互利用されることになることから、医療機関における事務作業の負担軽減につながります。
今後、厚生労働省内で部局横断的なワーキング・グループを設置し、各種医療データについて省全体での利用を可能とする方策が検討されます。

相互利用が想定される既存主要調査データ

2.遠隔診療の明確化で患者・医師双方の負担軽減へ

(1)遠隔モニタリングの推進

現在、遠隔診療においては、医療機器における遠隔モニタリングの技術が十分評価されておらず、遠隔で生体情報や使用状況が把握できる場合も医療機関への受診が求められるなど、その便益性が活かされていないとの指摘があります。
患者の利便性向上や医療従事者の負担軽減の観点から対面診療を行うべき間隔を延長することも含めて、遠隔でのモニタリングに係る評価について、中央社会保険医療協議会において検討がなされます。

遠隔モニタリングの推進

(2)遠隔モニタリングの推進で患者・医師双方の負担軽減

今回の規制改革は、局長通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」における遠隔診療の取扱いを分かりやすくする狙いがあります。
これにより、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものであれば、患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、医師の判断により、遠隔診療を行うことが可能になります。
この遠隔モニタリングの普及により、通院が不要となる患者と医師の負担軽減はもちろんのこと、新たな産業分野の育成などが期待できます。

3.空床利用のショートステイ活用で利用者家族の負担軽減

(1)介護付き有料老人ホームにおける規制の現状

介護報酬算定基準である「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準」において、指定特定施設(特定施設入居者生活介護の指定を受けた「介護付有料老人ホーム」等)が空室を利用したショートステイサービスを提供することにより介護報酬を算定するには、主に以下の要件を満たす必要があります。
しかし、これらの要件は、特定施設入居者生活介護事業者による空室を利用したショートステイサービスの提供を抑制する要因になっているのではないかとの指摘があります。

ショートステイ算定の要件

(2)空室を利用したショートステイ要件の見直し

特定施設(介護付有料老人ホーム等)の事業経験年数に関する要件の他、各要件を見直し、空室を利用したショートステイサービスを提供しやすくする改革が実施されます。
これにより、家族の介護負担の軽減などのため、要介護者が一時的に施設に入所して日常生活上の介護を受けるショートステイサービスのニーズが多いにも関わらず、そのサービスを提供する施設が不足している地域の課題解消を図るねらいがあります。

ショートステイ算定要件の緩和

(3)ショートステイの有効活用で介護保険収入増加

今回の改革により、介護付有料老人ホーム等が、空室を利用した介護保険によるショートステイサービスを提供する際の要件を緩和することで、ショートステイサービスの提供が容易になります。
空床をショートステイサービスに利用できることになれば、要介護3・ユニット型で8,540円の増収が見込めます。

介護報酬(1日)の比較

■参考文献
平成27年6月16日 規制改革会議 規制改革に関する第3次答申
平成27年6月30日閣議決定 規制改革実施計画

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