社員の育成・定着を実現させる 社員ロイヤリティ向上のポイント

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

社員の育成・定着を実現させる 社員ロイヤリティ向上のポイント

  1. 社員ロイヤリティが企業にもたらす影響
  2. 社員の本音を掴む測定手法
  3. 社員ロイヤリティを向上させる施策
  4. 社員のモチベーション向上につなげた企業事例

 


この記事をPDFでダウンロードする。(企業経営情報)

目次

1.社員のモチベーション向上につなげた企業事例

中小企業は、人材確保が難しくなっている中で、社員の定着を図ることが課題となっています。
定着につながるキーワードとして「ロイヤリティ」が重要視されてきていますが、
「ロイヤリティ」とは、忠誠や忠義などと訳され、その意味では、日本の企業においてロイヤリティのある社員は少ないといわれています。
人材不足が課題となっている中小企業にとって、社員の定着につなげるためにもロイヤリティのある社員の育成を図ることが重要です。
今回は、社員のロイヤリティを高めるためのポイントについて解説します。

1.テレワークの普及による社員モチベーションへの影響

新型コロナウィルス感染拡大への対応を機にテレワークが普及してきましたが、その弊害として、コミュニケーション量の減少に伴うモチベーションの低下が挙げられます。
株式会社月刊総務による「モチベーションに関する調査」によると、テレワーク環境における深刻な課題が明らかになっています。
「新型コロナウィルスの感染拡大以降、社員同士が対面で会う機会に変化がありますか」との質問では、「とても減った」が60.5%、「やや減った」が34.0%、「変わらない」が5.5%という結果になっています。
具体的には、入社式、社員研修および社内懇親会などが相次いで中止されたり、オンラインでの実施となったりしていることが要因と考えられます。

テレワークの普及による社員モチベーションへの影響

また、「社員同士が顔を合わせる機会が減ることで、モチベーションに影響はあると思いますか」との質問では、「ある」が82.6%、「ない」が17.4%となっています。

テレワークの普及による社員モチベーションへの影響

これらのデータが示す通り、テレワークの普及により手軽にコミュニケーションを取ることが難しくなってきたことが明らかになりました。
その結果、社員間のつながりが希薄になったり、会社の方針を伝えにくくなったことなどが社員のモチベーション低下につながっていると考えられます。

2.社員ロイヤリティとは

(1)中小企業への浸透度が低い社員ロイヤリティ

労働人口の減少を背景に、日本においては「労働生産性」の向上が喫緊の課題となっています。
こうした中、政府が推進する働き方改革への対応が本格化していますが、労働時間の削減といった業務効率に偏りがちの面が見られます。
「働き方改革」の目指すところが、競争力を失わない企業経営を目指すこととすれば、限られた経営資源でいかに最大の効果を創出するかという点も、見落としてはなりません。
中小企業においては、「人」が最も重要な経営資源となっていますので、いかに人を育て上げていくのかが問われています。
そこで昨今注目が集まっているのが「社員ロイヤリティ」です。
しかし、中小企業で社員ロイヤリティの向上を経営の重点課題に掲げ、具体的な取り組みを行っている経営者はまだ少ないといわれています。
その主な原因は、社員ロイヤリティの向上がどの程度経営に影響するのか定量的な分析が不足していることが考えられます。

(2)社員ロイヤリティ向上につながるエンゲージメント

ロイヤリティは、社員が会社への忠誠心を持っている状態を指すのに対して、エンゲージメントとは、社員が会社に対して抱く思い入れのことを指します。
ロイヤリティは会社への愛情にもつながるため、エンゲージメントの高さにも連動します。
米国の大手コンサルティングファームであるウィリス・タワーズワトソン社が過去に行った調査では、このエンゲージメントと営業利益率、労働生産性には正の相関関係があることがわかっています。

持続可能なエンゲージメントがもたらす企業業績への効果

その調査では、「エンゲージメントが低い会社」に比べ、「エンゲージメントが高い会社」では1年後の業績が約1.4倍、「持続可能なエンゲージメントが高い会社」では約3倍という明確な違いが出ています。

3.社員ロイヤリティ向上によるメリット

(1)社員の士気が上がる

ロイヤリティが高い社員は、仕事に対してのモチベーションが高く、あらゆることへのチャレンジ意欲も高い傾向であり、社員全体の士気の向上にもつながります。

(2)作業効率や品質向上につながる

仕事や会社に対してロイヤリティが高い社員は、仕事そのものへの関心も高く、自分の役割や課題などを自発的に考えるようになります。
仕事を自発的に行うことで、会社全体の生産性・品質や精度の向上にも寄与します。

(3)離職率が低下する

ロイヤリティが高い社員は会社や仕事への愛着が強く、そのため状況が多少変化しても会社を離職しにくくなります。
反面、ロイヤリティが低くなればなるほど、会社への定着率は低下し、特に優秀な社員ほど会社を離れてしまいます。

2.社員の本音を掴む測定手法

1.従業員による自社の推奨度を測定する「eNPS℠」

(1)従業員の推奨度を測定する「eNPS℠」とは

eNPS℠とは、Employee Net Promoter Scoreの略で、従業員のロイヤリティを可視化する指標です。
この指標は、米国の大手コンサルティング会社であるベイン・アンド・カンパニーのF・ライクヘルド氏が提唱した、顧客ロイヤリティを可視化する指標であるNPS®(Net Promoter Score)をアップルが店舗で働く従業員のロイヤリティマネジメントに活用し始めたところから普及したものです。
eNPS℠は、仕事へのやりがい、自社への愛着、業務やコミュニケーションに対する満足度など、従業員の意識を定量的に把握でき、次の改善アクションプランを明確にできるといったメリットがあげられます。
一般的に、eNPS℠が高い企業ほど社員ロイヤリティが高く、業績や生産性も高くなる傾向があります。
北欧のあるリテール銀行の例では、eNPS℠が上位25%の指標の支店は下位25%の支店に比べて、顧客満足度が2.5倍ほど高いことがわかっており、eNPS℠が高い支店では従業員がより質のいいサービスを顧客に提供できていることが伺えます。
また、オランダの介護施設における調査では、eNPS℠が高いほど離職意思が低くなる傾向が確認されています。

(2)「eNPS℠」の計算方法

eNPS℠を算出するためには、「あなたは現在の職場で働くことをどの程度親しい友人や家族に勧めたいと思いますか?」と質問し、0〜10点で評価してもらいます。
その中で0〜6点を付けた人を「批判者」、7〜8点を付けた人を「中立者」、9〜10点を付けた人を「推奨者」と分類します。eNPS℠は「推奨者」の割合(仮に50%)から「批判者」の割合(仮に30%)を引いた数値(50%-30%=20%)となります。
つまり、推奨者が増えるほど、また批判者が減るほど数値が高くなるように設計されています。

eNPS℠の計算方法

この測定を活用した改善方法としては、まずは「何を改善すればeNPS℠が向上するのか」を特定する必要があります。
そのためには、高い点数をつけた人が満足している要因および不満に感じている要因を聞き出し、「何がロイヤリティに影響しているか」を分析していきます。
eNPS℠に影響を及ぼす要因例としては、以下の項目が挙げられます。

eNPS℠に影響を及ぼす要因例

2.社員の幸福度を表すQ12(キュー・トゥエルブ)

組織のエンゲージメントを測るツールとして、米国のギャラップ社が実施している「エンゲージメント・サーベイ」があります。
ギャラップ社は米国最大の調査会社ですが、その膨大な調査データの集計・分析をもとに組織開発のコンサルティングも行っています。
同社が全世界1,300万人のビジネスパーソンを調査し、導き出したエンゲージメントを測定する12の質問が「Q12(キュー・トゥエルブ)」です。
この調査によると、日本企業はエンゲージメントの高い「熱意あふれる社員」の割合が6%で、米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位レベルでした。
さらに言うと、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」はなんと70%に達しているという結果が明らかになっています。

Q12(キュー・トゥエルブ)の質問内容

同社によると、特に業績に直結する、管理職が注力するべき6つのポイントはQ1~6です。
この6つの質問に部下がすべて満点の5点をつけるのはとても困難とされています。
部下一人ひとりに深くコミットし、仕事を褒め、成長の機会を与える一方で、指導するべきは指導しなければなりません。
また、社員の退職にも管理職が関わっており、定着率を左右するポイントはQ1、Q2、Q3、Q5、Q7の5つです。
もし、離職率の高い現場なら、部下がこれらの質問に高い点をつけるように改善しなければなりません。

3.社員ロイヤリティを向上させる施策

1.ロイヤリティを高める6つの施策

(1)自分の考えをしっかりと述べる機会を創る

ロイヤリティの高い社員は、常に自分の考えを持って仕事に取り組んでいます。
例えば、会議で積極的に意見を述べたり、トラブルに対しても自発的に動き、解決を図ろうとします。
ポイントは、全社員の意見を述べる機会を積極的に設けることです。

(2)社員一人ひとりの役割を明確にする

ロイヤリティの高い社員は、常に自分の目標や役割を理解して仕事しています。
そのような社員は作業効率も高く、さらに周囲からの信頼も厚いことが多いです。
ポイントは、社員一人ひとりの経験、スキルに応じた達成目標や役割を明示することです。

(3)問題意識を醸成させて、全社レベルで問題解決に取り組む

ロイヤリティの高い社員は、常に仕事にやりがいを持って取り組んでいます。
さらに自分の仕事に全力で取り組むことに満足しているというだけではなく、常に問題意識を持ち、その解決に向けて積極的に取り組むことができています。
ポイントは、社員の問題意識を醸成するために、改善課題を全員から抽出してもらい、全員で改善活動に取り組むことです。

(4)適正な人事評価の実施

人事評価制度は、社員のロイヤリティを高めるために重要です。
どの社員も、自分は会社から認められているか、評価されているのかなどの承認欲求を持っており、その欲求を満たすことがロイヤリティの向上につながります。
そのために、社員に期待する成果や行動を評価基準として明確に示し、評価結果をフィードバックすることが必要です。
注意しなければならないのは、評価基準や評価結果の報酬への反映方法が曖昧だと不満の原因になります。
公正な評価に基づく適正処遇の実現は重要です。

(5)定期的なミーティングの実施

人事評価を実施している企業では、評価結果のフィードバック面談を行っているケースが多いですが、この面談は年に1~2回程度に限られ、話す内容も評価結果に関する内容になることが多く、コミュニケーションの機会が不足しているといえます。
社内コミュニケーションを深め、ロイヤリティを向上させるためには1on1ミーティングが有効です。
上司と部下が一対一で話し合い、日頃感じている疑問や不満、または将来のキャリア開発についての悩みなどを話し合い、ともに解決していくことで、部下の会社への信頼度が増します。

(6)社内コミュニケーションの改善

社内コミュニケーションが不足している職場では、仕事に関する情報共有ができずにミスやトラブル発生につながりやすく、社員は仕事へのやりがいを喪失してしまう恐れがあります。
このような職場環境にならないよう、日常的に意見交換ができたり、部下からの意見や提案を積極的に取り上げるような風通しの良い職場環境づくりが必要です。
リモートワークが普及している企業は増えていますが、コミュニケーションの機会を確保するために、対面だけでなくオンライン形式でのミーティングの場を設けることも良いでしょう。
また社員同士がお互いを賞賛し合う賞賛制度を導入することも、ロイヤリティ向上につながります。

2.ロイヤリティ向上につながる社内表彰制度

(1)社内表彰制度のメリット・デメリット

社員のやる気やモチベーションを向上させるための制度として、社内表彰制度を導入している企業は増えています。
この社内表彰制度は、企業の業績や生産性に大きく関わることから導入する企業が増えています。
しかし、導入するだけでは期待した効果は得られません。
社内表彰制度の目的を明確にし、正しく運用することが大切です。メリット、デメリットを理解した上で導入を検討してください。

社内表彰制度のメリット・デメリット

(2)社内表彰制度を導入するポイント

モチベーションアップという観点からは、対象を正社員に限定するのではなく、契約社員やパート社員などを含めた全社員を対象とすることが望ましいです。
表彰制度には社員の承認欲求を満たし、モチベーションを向上させるメリットがありますので、貢献度の大小に差があったとしても、できるだけ多くの社員に受賞チャンスがあるような制度を検討することがポイントです。

(3)社内表彰制度の種類

①永年勤続表彰

成果にかかわらず勤続年数のみを表彰対象とする永年勤続表彰制度は、8割近い企業が導入している最もスタンダードな表彰制度です。
報奨は、金品や記念品の贈呈のほか、特別休暇の付与が一般的です。勤続年数に応じた表彰制度には、旅行費用を補助するケースもあります。

②MⅤP表彰

年度で最も活躍した社員ないし部署を表彰する制度です。社長賞やアワードなど、名称はさまざまです。
ある大手インターネットグループでは、毎年、社員間でノミネートを行い、全社員が投票する形式でMVPを決定しています。
表彰式は、全社員が一堂に会する場で行うことで、受賞者をみんなで称え合うという効果も期待できます。
それが難しい場合は、社内報等で表彰者を紹介する方法でも効果はあります。

③新人賞

各企業とも新入社員の育成、定着が課題になっており、入社1年目の社員を対象とする新人賞を導入する企業も増えてきています。
また、入社3年目の壁があるといわれるように、短期間での離職を防ぐという目的で若手社員の成長過程に応じた表彰制度を取り入れている企業もあります。

④ピアボーナス制度

ピアボーナス制度とは、仲間(Peer)からの報酬(Bonus)という意味の造語で、社員間で表彰を行う制度です。
サンクスカードをお互いに交換し合うような制度もこれにあたります。ある企業では、賞賛される行動を言語化し、浸透させることを目的として、称賛された行動に対してポイントを付与するピアボーナス制度を導入しました。
ポイントは全社員に公開され、たまったポイントは会社グッズや社員間交流を促す機会に交換できるようになっています。

4.社員のモチベーション向上につなげた企業事例

1.社員コミュニケーションとモチベーション向上につなげた事例

社員コミュニケーションとモチベーション向上につなげた事例

(1)取り組みのきっかけ

業界の恒常的な問題である技能工(大工職等)の高齢化は、同社でも避けて通れない状況になっており、対応に迫られていました。
また、残業と休日出勤が慢性的になっており、社員にとっては心身面で大きな負担となっていました。

(2)具体的な取り組み

人材確保が重要課題となっており、新卒技能工を獲得するため、「お仕事見学会」「インターンシップ」を実施。
伝統的な工具と現在の工具の違い等、学生目線でわかり易い研修を行っていきました。
また、社員の主体性を伸ばすべく、「組織活性化プロジェクト」を立ち上げ、メンバーに研修旅行の行き先や会社イベントを一任し、部署を超えた社内コミュニケーションが向上する機会をつくりました。
さらに、社員のモチベーション向上につながる取り組みとして、就業規則には「グッド○○制度」を明記し、表彰や手当を支給する制度を導入しています。

取り組みの成果

2.業務効率化で時間外労働の削減と不良率の低下につなげた事例

業務効率化で時間外労働の削減と不良率の低下につなげた事例

(1)取り組みのきっかけ

同社は、納入先の求める基準に満たない不良品発生率が高くなっていましたが、社員自らが意見を発信する風土になく、さらに現場で発生している問題が共有されていないという状態でした。
不良品が発生するとその対応に追われて残業時間が増加し、有給休暇取得も困難な状況になっていたために、社員のモチベーションは下がっていました。

(2)具体的な取り組み

社員が積極的に自らの考えを発信しやすくなるよう、社員のコミュニケーションを増やすことを目的に、少人数での「委員会活動」を導入しました。
社員は必ず、「緑化」「挨拶」等の7つの委員会のいずれかに所属して活動しています。
また、「やりづらい(Y)」「気を遣う(K)」「イライラする(I)」作業や気づきを、現場に設置してあるノートやホワイトボードに無記名で記入し、社内で共有する「YKI活動」を展開しました。
開始した当初は参加しない社員もいましたが、全ての提案に対して、毎朝、工場長が行う職制会議で改善案を検討し、その内容を掲示することで、会社全体が改善提案を積極的に行う風土に変わっていきました。

取り組みの成果

3.生涯現役制度の導入でモチベーション向上につなげた事例

生涯現役制度の導入でモチベーション向上につなげた事例

(1)取り組みのきっかけ

県内企業は、30代を中心に女性の就業率が低いという問題意識があり、同社はこれを変えていくために女性が働きやすい職場をつくる必要があると考えました。
パート社員は労働者全体の65%を占めるため、労働時間は3種類(①全日8時間勤務、②午前または午後の半日勤務、③7.5時間勤務)から選択できるようにした他、正社員への登用制度を設けるなどの取り組みを行ってきましたが、より一層働きやすく、長く勤められる職場づくりの実現を目指していました。

(2)具体的な取り組み

担当している仕事以外に、他部門の応援が可能なレベルの能力を2つ以上習得することを推進する制度(「一人三役制度」)を導入。この制度の導入により、助け合い、お互い様の職場風土を醸成し、休みやすい環境の構築と業務の効率化を図っていきました。
また、すべての従業員が使える手厚い制度を構築するために、子育て中の女性従業員の要望を取入れ、ノー残業デーの実施や、法定を上回る育休の設定、短時間勤務、在宅勤務、フレックスタイム制、サテライトオフィスなどを導入しました。
また、高年齢者の活用も積極的に行い、定年後77歳まで働くことができる「生涯現役制度」を導入し、若手社員の技術面・精神面のサポート役も担ってもらうようにしました。

取り組みの成果

中小企業にとって重要な経営資源である人材の定着、育成は今後ますます重要な課題になると考えられます。
貴社にとって参考となれば幸いです。

 

■参考資料
「エンゲージメント カンパニー」(広瀬 元義著、㈱アックスコンサルティング)
「ワークエンゲージメントの実践法則」(柴田 郁夫著、大学教育出版)
「会社を変える最強のモチベーション戦略 表彰制度」(太田 肇著、東洋経済)
「中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集」(経済産業省)
Emotion Tech ホームページ
月間総務オンライン

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。