- 2019年 経営実績とその傾向
- 2019年 収入上位診療所の経営実績
- 2019年 収入ランク別経営実績
- 2019年 医療法人経営指標分析結果
- 優良クリニックの増収取り組み事例
1.2019年 経営実績とその傾向
1.2019年経営実績の概要
本調査は2019年の決算書に基づいて、実数値から経営状況を把握することを目的としています。
その上で、連続して調査を実施している2018年との比較を通して、改善または悪化の状況を分析しています。
抽出したデータは、2019年に決算を終えた歯科診療所332件(医療法人91件、個人開設241件)の数値を抽出し、平均値を算出しています。
なお、本分析では、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
2.全体動向と利益の傾向
(1)全体動向
2019年における歯科診療所の経営実績は、2018年と比較して増収増益となりました。
過去の本調査データでは、2012年から増加に転じており8期連続での増加となっています。
保険診療収入は2.2%増、自由診療収入は0.9%増加しています。
(2)利益状況
限界利益、医業利益ともに増加し、限界利益が対前年比101.9%、医業利益は同104.9%という結果となりました。
3.医業収入の傾向
医業収入の実績は、下記のとおりです。
医業収入合計では、対前年比102.2%を示し、保険診療収入が2.2%、自由診療収入が0.9%の伸びとなっています。
4.医業費用の傾向
(1)医業費用対前年比較
医業費用の実績は、次のとおりです。
変動費は3.5%増加し、人件費は3.3%の増加、その他医業費用は1.6%の減少でした。
(2)医業費用の傾向
(3)参考 役員報酬・専従者給与
個人開設と医療法人を合算して集計したため、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
別途集計した専従者給与と役員報酬を合算した平均値は、以下のとおりです。
2.2019年 収入上位診療所の経営実績
1.収入上位診療所の経営実績の概要
第1章で分析した歯科診療所332件(医療法人91件、個人開設241件)の決算書より、医業収入上位20%を抽出し、経営データを集計しました。
対象は67件で、内訳は医療法人46件、個人開設21件となっています。
2.収入上位診療所の動向と利益の傾向
(1)経営動向と利益状況
2019年歯科診療所全体の経営実績は、収入上位診療所では増収減益となりました。
保険診療収入は増加し、自由診療収入は減少しています。
(2)利益動向
限界利益が増加、医業利益が減少となりました。
限界利益が対前年比102.2%、医業利益は同97.9%という結果となりました。
3.医業収入の傾向
収入上位診療所の医業収入の実績は下記のとおりです。
医業収入合計では、対前年比104.9%となっています。
保険診療収入、自由診療収入ともに伸びを示しています。
(1)医業収入 対前年比較
(2)医業収入分析結果
4.医業費用の傾向
(1)医業費用対前年比較
医業費用では、変動費は3.2%、人件費2.6%、その他医業費用は5.9%、それぞれ増加しています。
(2)医業費用分析結果
(3)参考 役員報酬・専従者給与
第2章と同じく、参考として役員報酬と専従者給与を合算した平均値は、以下のとおりです。
3.2019年 収入ランク別経営実績
1.収入ランク別経営実績の概要
本分析で抽出したデータは、2019年に決算を終えた歯科診療所332件(医療法人91件、個人開設241件)から、医業収入が年間5千万円未満、5千万円以上1億円未満、1億円以上に分けて、分析しました。
第2章のデータ同様、個人開設に統合したため、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
医業収入別の個別データは、次ページ以降に掲載しました。
収入ランク別に集計した主要データは、下記のとおりです。
2.収入ランク別診療所経営実績分析結果
(1)医業収入5千万円未満の診療所の平均データ
医業収入50,000千円未満診療所の歯科診療所は、増収増益となりました。
医業収入は176千円増(対前年比0.6%増)、また医業利益は507千円増(同4.5%増)となり、減価償却費や研究研修補は増加していますが、他の経費を節約した結果だと思われます。
(2)医業収入5千万円~1億円の診療所の平均データ
医業収入5千万円~1億円の歯科診療所は増収増益となりました。
医業収入は2,783千円増加(対前年比4.1%増)、医業利益は、2,235千円増加(同9.8%増)となりました。
(3)医業収入1億円以上の診療所の平均データ
医業収入1億円以上の歯科診療所は、増収減益の結果となりました。
医業収入は、1,321千円増加(対前年比0.9%増)、医業利益は1,892千円減(同4.9%減)となりました。
4.2019年 医療法人経営指標分析結果
1.医療法人経営指標分析結果
本章では、医療法人歯科診療所81件の貸借対照表の数値から経営指標を算出し、収益性、生産性、安全性、成長性の4つの視点で分析を行いました。
第3章までの分析は、医療法人・個人開設のデータを合算しましたが、経営指標分析においては医療法人歯科診療所を対象としています。
■2019年 比較損益計算書 医療法人無床診療所平均
経営分析に必要となる主要損益数値は、次のとおりです。
役員及び職員数についてはその平均値から、役員3名および、職員数7名の計10名で計算しています。
2.収益性分析結果
3.生産性分析結果
4.安全性分析結果
5.成長性分析結果
5.優良クリニックの増収取り組み事例
1.前年対比で増収となった歯科診療所の割合
本章では、前年対比で増収となった歯科診療所の取組事例を紹介します。
2019年に決算を終えた歯科診療所332件のうち、前年対比で増収となったのは205件で、全体の61.7%でした。
法人・個人別の割合を見ると、法人開設91件のうち、増収となった法人は46件で、法人全体の50.5%でした。
個人開設241件のうち、増収となった個人は159件で、個人全体の66.0%でした。
前年対比の伸び率の平均は、法人開設が108.0%、個人開設が109.8%となりました。
2.増収施策の取組事例
(1)徹底したスタッフ教育で患者の定着化に成功した事例
スタッフに対するホスピタリティ研修を実施し、スタッフの接遇レベルを向上させることで、医療機関に抱かれがちな冷たいイメージを払拭。
地域の歯科医院として、患者から絶大な信頼を得ているH歯科クリニックの事例をご紹介します。
開業から25年が経つH歯科クリニックは、都市の中心部から離れた郊外にある歯科診療所です。
開業から25年、現在もなお地域住民から厚い信頼を獲得し続けているのは、院長の確かな医療技術もさることながら、スタッフの患者への対応が丁寧であることが一番の理由です。
H歯科クリニックでは、クリニック内に研修室を設け、定期的にスタッフ教育を行っています。
下表のとおり、階層別にテーマを設け、各スタッフのレベルに応じた研修を実施することで、スタッフの総合力を高めています。
H歯科クリニックのHPには、患者アンケート結果が掲載されており、実際の回答用紙が画像で添付されています。
そこには、完治を喜ぶ声とともに、スタッフの対応の温かさを称賛する声が寄せられています。
「単なる歯の治療ではなく、患者の幸せについて探求していきたい」と語る院長の姿勢が、しっかり患者に伝わっている事例だと言えます。
(2)保育士・管理栄養士を採用し子どもの患者を獲得した事例
子どもの歯科診療にターゲットを絞り込み、お母さんが通いやすい院内環境を整備することで、多くの子ども患者を獲得したS歯科医院の事例をご紹介します。
開院から60年以上経つS歯科医院に、現在の院長が就任したのは3年前のことです。
S歯科医院は、街の中心部から離れた住宅街に位置しており、前代の院長時代からの患者も高齢化に伴い年々減り続け、現在の院長が就任した頃は、患者数が減少傾向にありました。
この状況を打破すべく、院長が着目したのは小児歯科でした。
S歯科医院の周辺には集合住宅やマンションが立ち並び、子育て世代が多く住んでいたことから子どもにターゲットを絞ったのです。
S歯科医院では、子ども達の健康な成長につながるための発育サポートに取り組み、スタッフに歯科助手だけではなく、保育士と管理栄養士を採用し、お母さんの子育てを総合的にサポートしました。
保育士による託児サービスや管理栄養士による食育指導はすぐに評判になり、患者数は再び増え始めました。
スタッフだけではなく施設も見直し、スペースを広く取った「親子診療ルーム」を作るとともに、キッズスペース・授乳室をキレイに改装しました。
また、管理栄養士が主体となったお料理教室や保育士によるレクリエーションなど、定期的に親子向けのイベントも開催しています。
こういった取り組みが地域に認められ、今や「子どもの歯医者はS歯科医院」と言われるほど、地域の信頼を得ています。
院長は今後のS歯科医院のあり方について次のように語ってくださいました。
「当医院を訪れる高齢の患者様の中には、先々代の院長の頃からの患者様も多くいる。子どもの頃から当院に通院してくださっている患者様なんです。私も長く頼りにしていただけるような歯科医院を作っていきたい。現在通院していただいている子どもたちが大人になり、子どもができたら今度は親として来院してもらいたい。」
まだ30代後半の院長の思いが、今後も地域の子どもたちの健康につながっていってほしいと思える好事例でした。
(3)SEO対策を活用して増患につなげた事例
普段、医療機関にかかるときの情報の入手手段として、インターネット検索が多く使われることに着目し、自院のホームページにSEO対策を施すことで、検索時に自院が上位表示されることに成功した事例をご紹介します。
開院してから26年目を迎えるK歯科医院は、都市部から離れた郊外に立地しています。
地元では知名度もあり、患者数は相応に確保していました。
しかし近年、新患が殆ど増えていないことに、院長は焦りを感じていました。
院長が着目したのは、平成29年度の厚労省による「受療動向調査」の結果です。
当調査によると、患者が普段、医療機関にかかるときの情報の入手先として、インターネットが多く使われていることが明らかになりました。
「当調査は一般病院が対象の調査でしたが、歯科医院についても同様のことが当てはまると考えた」と、院長は振り返ります。
院長が取った対策は、インターネット検索した際に、自院のHPが上位表示されるようにするSEO対策でした。
例えば、これから歯科医院にかかろうとしている人が、「○○市 歯科」と検索ワードを入れた場合、検索結果に○○市にある歯科が無数に表示されますが、HPの設計を工夫することで、K歯科医院が検索結果の一番上に表示されるように仕込むことができます。
以降、新患が増え、当期は増収増益を達成することができました。
※本文中、各表の金額は表示単位未満を四捨五入しており、端数処理の関係上合計が一致しない場合があります。