2019年決算データからみる医科診療所経営実績分析

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2019年決算データからみる医科診療所経営実績分析

  1. 2019年 経営実績とその傾向
  2. 2019年 収入上位診療所の経営実績
  3. 2019年 診療科目別経営実績
  4. 2019年 医療法人経営指標分析結果
  5. 優良クリニックの増収取り組み事例


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1.2019年 経営実績とその傾向

1.2019年経営実績の概要

経営実数分析は、2019年の決算書に基づいて実数値から経営状況を把握することを目的としています。
その上で、連続して調査を実施している2018年との比較を通じ、前年実績との改善または悪化の状況を分析しています。
抽出したデータは、2020年3月までに決算を終えた無床診療所356件(医療法人244件、個人開業112件)の主要科目について、平均値を算出しています。
なお本分析では人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。

2019年 比較要約変動損益計算書

2.全体動向と利益の傾向

(1)全体動向

2019年における医科診療所の経営実績は、2018年と比較して増収減益となりました。
今回の調査では、黒字診療所は全体の72.1%を占めています。
医業収入は0.3%、うち保険診療収入は1.0%の増加で、変動費はほぼ横ばいとなりました。
限界利益は0.3%の増加となりましたが、医業費用が2.3%の増加となり、医業利益は▲1.4%となりました。

医業収入・費用等全体の傾向

(2)利益状況

限界利益は前年対比0.3%の増加、医業利益は同▲1.4%となりました。

限界利益・医業利益

3.医業収入の傾向

医業収入の実績は、下記のとおりです。
医業収入合計では前年対比100.3%で、僅かながら増加しました。
うち保険診療収入は同1.0%の増加、保険外診療収入は同▲3.5%、その他医業収入は同▲8.3%となりました。

医業収入、医業収入分析

4.医業費用の傾向

(1)医業費用前年対比較

医業費用の実績は、下記のとおりです。
変動費合計は前年とほぼ横ばいとなり、人件費は前年対比6.6%の増加、その他固定費は0.4%の増加となりました。

変動費(医薬品・診療材料費・検査委託費)、人件費・役員報酬、その他固定費

(2)医業費用の傾向

医業費用の傾向

2.2019年 収入上位診療所の経営実績

1.収入上位診療所の経営実績の概要

第1章で分析した無床診療所356件(医療法人244件、個人開業112件)の決算書より、収入上位20%を抽出し、経営データを集計しました。
分析の分母は71件で、その内訳は医療法人64件、個人開業7件です。

2019年 収入上位診療所比較要約変動損益計算書

2.収益性の傾向

収入上位診療所の2019年経営実績は、診療所全体と同じく増収減益でした。
収入上位診療所の黒字診療所の割合は77.5%で、全体での72.1%という数値と比べ、黒字割合が高い結果となりました。
医業収入は全診療所データでは前年対比0.3%の増収でしたが、収入上位診療所では同1.0%の増加となっています。
内訳を見ると、保険診療収入が同2.2%の増加、保険外診療収入、その他の医業収入は前年対比で減少しています。
変動費は前年対比0.5%の増加、限界利益は同1.2%の増加となりました。
医業費用は、人件費が同4.1%の増加となっており、その他固定費は同0.6%の増加でした。

限界利益・医業利益

3.医業収入の傾向

(1)医業収入前年対比較

医業収入前年対比較

(2)医業収入分析(医業収入上位20%)

医業収入分析

4.医業費用の傾向

(1)医業費用前年対比較

医業費用の実績は下記のとおりです。
変動費合計は前年対比0.5%の増加となり、人件費は同4.1%増加しました。
その他固定費は同0.6%の増加となっています。

変動費(医薬品・診療材料費・検査委託費)、人件費・役員報酬、その他医業費用

(2)医業費用の傾向

医業費用の傾向

3.2019年 診療科目別経営実績

1.診療科目別経営実績の概要

本分析で抽出したデータは、無床診療所356件(医療法人244件、個人開業112件)の決算データから診療科目別に抽出し、各診療科目別の平均値を算出しています。
なお、抽出した診療科目は、内科、小児科、心療内科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科、産婦人科で、第1章のデータ同様、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
また、参考として、各診療科目上位20%のデータを記載しています。

各データのサンプル数

個別データは、次ページ以降に紹介しています。
診療科目別に集計した主要科目別数値は下記のとおりです。

2019年 診療科目別主要データ

2.診療科目別経営実績結果

(1)内科診療所

内科等を標榜している診療所の集計データの内訳は、一般内科126件、循環器内科13件、消化器内科6件、呼吸器内科1件、その他12件の計158件です。
内科診療所は増収減益を示し、医業収入は前年とほぼ同水準となっています。
変動費は前年対比▲2.6%、医業費用は同2.9%増加となりました。
結果として医業利益は53,979千円で同▲1.1%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で38,871千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(2)小児科診療所

小児科診療所は減収減益を示し、医業収入は107,945千円で、前年対比▲3.6%となっています。
変動費は同▲4.5%、医業費用は同1.4%増加となりました。
結果として医業利益は51,819千円で同▲5.9%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で41,487千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(3)心療内科診療所

心療内科診療所は減収減益を示し、医業収入は113,524千円で、前年対比▲1.7%となっています。
変動費は同▲2.2%、医業費用は同0.1%増加となりました。
結果として医業利益は52,634千円で同▲3.6%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で40,339千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(4)整形外科診療所

整形外科診療所は増収減益を示し、医業収入は161,637千円で、前年対比0.2%の増加となっています。
変動費は同▲0.4%、医業費用は同1.0%増加となりました。
結果として医業利益は55,585千円で同▲0.6%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で41,147千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(5)皮膚科診療所

皮膚科診療所は増収減益を示し、医業収入は120,704千円で、前年対比2.5%の増加となっています。
変動費は同10.0%、医業費用は同3.6%増加となりました。
結果として医業利益は52,537千円で同▲0.8%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で40,098千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(6)耳鼻咽喉科診療所

耳鼻咽喉科診療所は増収減益を示し、医業収入は86,097千円で、前年対比0.3%の増加となっています。
変動費は同3.6%、医業費用は同0.5%増加となりました。結果として医業利益は48,616千円で同▲0.3%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で31,387千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(7)眼科診療所

眼科診療所は増収増益を示し、医業収入は181,247千円で、前年対比4.4%の増加となっています。
変動費は同3.3%、医業費用は同8.7%増加となりました。
結果として医業利益は101,297千円で同2.8%の増加となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で63,122千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

(8)産婦人科診療所

産婦人科診療所は減収減益を示し、医業収入は164,835千円で、前年対比▲1.1%となっています。
変動費は同4.2%の増加、医業費用は同▲0.4%となりました。
結果として医業利益は51,893千円で同▲5.6%となりました。
なお、役員報酬は、2019年平均で41,158千円となっています。

2019年 比較要約変動損益計算書

4.2019年 医療法人経営指標分析結果

1.2019年医療法人経営指標分析結果

本章では、医療法人立無床診療所の244件を対象として、貸借対照表の数値を抽出し、経営指標を算出しました。
分析は、収益性、生産性、安全性、成長性の4つの視点で行っています。

2019年 比較貸借対照表 医療法人立無床診療所平均

経営分析に必要となる主要損益数値は次のとおりです。
なお職員数については平均値を算出し、9名で計算しています。

2019年比較損益計算書 医療法人立無床診療所平均

2.収益性分析 前年対比

指標計算式、収益性分析コメント

3.生産性分析 前年対比

指標計算式、生産性分析コメント

4.安全性分析 前年対比

指標計算式、安全性分析コメント

5.成長性分析 前年対比

成長性分析コメント

5.優良クリニックの増収取り組み事例

1.前年対比で増収となった診療所の割合

356件の診療所のうち、前年対比で増収となったのは174件で、全体の48.9%でした。
診療科目別に見ると、増収となった診療所の割合が最も多かったのは眼科で62.5%、次いで皮膚科の57.5%でした。
前年対比の伸び率が最も高かったのは、皮膚科の110.1%、次いで産婦人科の107.4%でした。
その他各診療科別の数値は下記のとおりです。

2019年 診療科別前年対比増収先の割合と平均伸び率、分析コメント

実際に増収となったクリニックの院長に、インタビューを行い、どのような取り組みを行って増収となったのか、ノウハウの一部をお聞きし、その概要を次にまとめました。

2.増収施策の取組事例

(1)広告の拡大により集患に成功した事例

一度は競合のクリニックに患者が流出してしまいましたが、広告の見直しで再び患者数を伸ばしたTクリニックの事例を紹介します。

Tクリニックの実績

開業して5年が経つTクリニックは、地方都市の中心部から地下鉄で3駅の街に構える循環器科です。
開業当初から評判が良く、順調に患者数を伸ばしてきました。
しかし近年、患者数の伸びが頭打ちになり、ついには一昨年、減少に転じてしまいました。
要因としては、中心部に競合するクリニックが開院されたことを考えると、そちらに患者が流れている可能性がありました。
Tクリニックの院長は、再び患者数を伸ばすため、どのような施策を打てばよいか頭を悩ます中、着目したのは自院の立地でした。
競合は街の中心部にありますが、地下鉄の駅からは徒歩で10分ほどの距離がありました。
一方、Tクリニックは地下鉄に直結しているため、交通の便は明らかにTクリニックの方が良かったのです。
実際、患者に来院方法を尋ねると、地下鉄を利用してくる患者が多かったと言います。
そこで、地下鉄を利用する患者を一層囲い込むため、沿線の駅に広告を拡大することを決めました。
それと同時に広告のデザインを更新しました。
周辺の壁の色と被らないよう、広告の色は白や薄いグリーンを基調とし、文字のフォントも「○番出口直結」の表記を診療所名と同じくらい大きくしました。

広告に掛かった費用

各月で1週間の掲載を継続した結果、徐々に患者数が増え始め、当期は増収増益となりました。
Tクリニックの院長は、「今後は広告を出さずとも、患者の口コミで集患が図れるよう院内の教育にも力を入れていきたい」と、将来の展望を語ってくださいました。

(2)オンライン予約システムの導入で集患に成功した事例

待ち時間の長さを解消し、患者の満足度を向上させ、患者数の増加に成功したS皮膚科の事例を紹介します。

S皮膚科の実績

開業3期目を迎えるS皮膚科は、郊外に構える診療所です。
交通機関の便はあまりよくなく、患者の多くが車で通院しています。
開業当初、「患者がストレスなく快適に過ごせるように」との院長の思いから、待合室を広く取り、キッズスペースやパウダールームを充実させました。
その点に関して患者の満足度は高いようでしたが、問題となってきたのは待ち時間の長さでした。
口コミサイトで院長が目にしたのは、待ち時間に対する患者の不満の声でした。
院内の受付クラークに話を聞いても、患者が待ち時間に不満を感じているのは確かなようでした。
加えて問題となったのは駐車場の狭さでした。
ある日、患者から言われたのは「駐車場がもう少し広くならないか」「近隣に駐車場を契約したらいいのでは」ということでした。
開業当初の思いで、施設の面積を規準いっぱいに広くしたため、患者数の増加に伴い駐車スペースが不足してきたのです。
そこでS皮膚科の院長が着目したのは、他のクリニックが導入していたオンラインでの受診予約システムでした。
S皮膚科が導入したシステムは、このオンライン受診予約システムを改良したもので、WEB順番予約と称しています。
患者はオンラインで空き状況を確認し、都合の良い時間帯で予約を入れます。
すると予約番号(8番目、10番目といった単純なもの)が発行されます。
あとは、適宜WEB上で診療の進捗状況を確認し、自分の番が近づいてきたら診療所へ向かうというものです。

システム導入に掛かった費用

このWEB順番予約システムを導入した結果、今まで長ければ1時間ほど掛っていた待ち時間が、長くても30分程度に短縮することができました。
また、自身の順番になってから診療所に向かうので、駐車場の混雑も解消されました。
「今後も患者の声に耳を傾け、患者から選ばれる皮膚科にしていきたい」と、院長が語ってくださいました。
そういった院長の情熱が増収増益に繋がった好事例と言えます。

(3)アンチエイジングを極め増収を実現した事例

アンチエイジング・ドック(抗加齢ドック)の患者数増加により、自由診療で増収となったH循環器内科の事例を紹介します。

H循環器内科の実績

開業20年となるH循環器内科は、中核都市の市街地に位置する診療所です。
開業当初は、新興住宅地も近く、患者数を確保していましたが、高齢化により、周辺人口が減少、ここ数年は、収入が減少を続けていました。
打開策として、5年前よりアンチエイジング・ドック(抗加齢ドック)を開始し、当初は物珍しさと地元紙に掲載されるなど、患者が来ていましたが、ここ数年は、年間10名程度の患者となっていました。
そこで、料金体系や広報戦略を見直し、患者を増加させました。

改善取り組み

特に効果的だったのは、フランス料理店やホテルと提携したセミナーです。
主婦層を取り込み、口コミで評判が広がりました。
「コラボしたフランス料理店では、今まで来店されなかった方が、足を運んでいただくようになり、喜ばれている」と、WINWINの関係を院長は強調されていました。
アンチエイジングの効果は、外来患者にも広がり、外来患者の増加にもつながっています。

※本文中、各表の金額は表示単位未満を四捨五入しており、端数処理の関係上合計が一致しない場合があります。

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