歯科診療所に関わる改定予測 2016年診療報酬改定の行方

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歯科診療所に関わる改定予測 2016年診療報酬改定の行方

  1. 次期診療報酬改定の全体的動向
  2. かかりつけ歯科医・在宅医療に関する改定の予測
  3. 口腔疾患の重症化予防等に関する改定の予測

 


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1.次期診療報酬改定の全体的動向

1.「骨太の方針」と次期改定に向けた考え方

(1)社会保障関係費は抑制の方向性

昨年6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の方針2015)」において、政府は、2016年度からの3年間で高齢化に伴う社会保障費の伸びを約1兆5000億円(年平均:約5000億円)に抑制する方向性を示しています。
昨年12月2日の中医協総会における支払い側の意見として28年度改定においては、効果的かつ効率的な財源配分を前提とするとしています。
歯科における診療報酬本体の改定率は、プラス0.61%とされました。その他、医薬品等への費用対効果評価の導入、いわゆる「かかりつけ薬剤師」の機能の発揮などによる残薬解消や多剤投与の是正、調剤報酬の適正化、新たな目標を踏まえた後発医薬品の使用促進などの方向性を示しました。

2016年診療報酬改定~改定率

(2)2025年に向けて「地域包括ケアシステム」がカギに

全体改定率の引き下げが濃厚ではあるものの、2016年診療報酬改定は、過去2回の改定で新たに導入した評価の考え方や項目が多かったことから、その検証を行う必要もあるため、前回および前々回に比べると小幅な見直しにとどまると予想されています。
また、「2025年モデル」の実現に向けて、医療機能の分化・強化、連携を進め、在宅医療・訪問看護などの整備を含め、効果的・効率的で質の高い医療提供体制を構築するとともに、地域包括ケアシステムを構築していくことが必要だとしています。

2025年に向けた地域包括ケアシステムの姿

地域包括ケアシステムの構築を進めていくためには、地域の課題や現在活動している支援の担い手を洗い出し、その連携を強化し、新たな担い手を養成するなど必要とされる地域資源を生み出していくという一連の「仕組みをつくる」ことが重要です。

地域包括ケアシステム構築の仕組みづくり概念図

2.次期改定の基本的視点は前回改定を踏襲

次期診療報酬改定の方向性は、基本的に前回改定を踏襲しています。
大きなポイントは、2015年度から各地域で策定がスタートした地域医療構想(ビジョン)との整合性で、改定を通じて病院・病床機能再編を促す仕組みです。

 

地域包括ケアシステムの推進と医療機能の文化・強化、連携に関する視点、患者にとって安心・安全で納得できる効果的・効率的で質が高い医療を実現する視点、重点的な対応が求められる医療分野を充実する視点、効率化・適正化を通じて制度の持続可能性を高める視点

3.さらなる将来を見据えた課題について

地域医療構想と第7次医療計画、平成30年度の医療・介護の同時改定、2035年(平成47年)に向けて保険医療への価値を高めるための目標を掲げた「保険医療2035」を踏まえ、患者の立場と状況、価値を考えた診療報酬の体系を目指すことが課題となっています。
2025年(平成37年)の地域包括ケアシステムの実施が大きな節目となっていますが、その先を見据えた将来ビジョンは存在しませんでした。
団塊ジュニアの世代が65歳に到達し始める2035年頃までには、保険医療の一つの「発展形」が求められることになります。
平成30年の同時改定及び2035年(平成47年)を見据えた課題は次の4点です。

将来を見据えた課題

2.かかりつけ歯科医・在宅医療に関する改定の予測

1.かかりつけ歯科医について

歯科医療サービスの今後の展望として厚生労働省は、より一層の高齢化が進展する中で、住民のニーズに応えるために、医科医療機関や地域包括支援センター等との連携を含めた地域完結型医療の中での歯科医療の提供体制の構築が推進されるとみられます。
具体的には、下記の「2025年のイメージ図」のとおりです。

00歯科医療サービスの提供体制の変化と今後の展望

地域包括ケアは、地域完結型の歯科医療提供を構築することから、かかりつけ歯科医は重要な役割を担います。
平成26年度東京都福祉保健基礎調査『都民の健康と医療に関する実態と意識』の結果(速報)をみると、20歳以上において、「かかりつけ歯科医」を「決めている」人の割合は70.2%、「特に決めていない」人は28.8%と、約7割の人が「かかりつけ歯科医」を決めていました。
また、かかりつけ歯科医機能の定義についても議論がなされてきた経緯があり、平成8年厚生省(当時)で、歯科保健・福祉のあり方に関する検討委員会で示された6つの「かかりつけ歯科医機能」をベースに、改定議論が進められています。

かかりつけ歯科医機能とは

かかりつけ歯科医については、これら6つの機能を基本とした予防管理機能が期待されるとして、下記のような条件(案)が提示されました。
具備すべき条件案には11の要件が示されています。

具備すべき条件(案)

中医協資料によれば、歯科訪問診療を行っている医療機関は全体の約20%、歯科外来環境体制加算の届出医療機関は約12%、在宅療養支援歯科診療所は約9%となっており、複数の常勤歯科医師あるいは常勤の歯科衛生士の配置などの条件も考慮すると、そのハードルは高いといえます。
また、これらの条件を満たした場合に算定する新たな点数が設定されることになると思われますが、新設点数が要件に見合う点数となるのか、厳しい算定制限が設けられるのかなども注視すべき点です。

2.在宅医療訪問歯科について

(1)歯科訪問診療の20分要件、在宅かかりつけ歯科診療所の施設基準を見直し

11月11日の中医協では、在宅歯科医療について課題と論点が示されました。
歯科訪問診療の現状(進渉)に関する課題では、施設基準の歯科訪問診療2または3のみ選択している医療機関が約1割と報告されています。
そのため、複数の患者に行われる歯科訪問診療の質を確保する観点から、歯科訪問診療3の評価や取り扱い等についての対応を論点として挙げています。
また、前回改定で新設された在宅かかりつけ歯科診療所の届出が約1.5%であることが報告され、その施設基準を見直しも提案されました。
歯科訪問診療料の20分以上の算定要件や、歯科訪問診療で行う処置、歯冠修復・欠損補綴及び手術の一部関連、病院等で開催されるカンファレンス等へ参加して歯科訪問診療で口腔機能管理等を行った場合の評価についても、見直しの論点として挙げられています。

訪問歯科診療の課題

2014年度改正において在宅歯科診療については、歯科訪問診療料の細分化や在宅患者等急性歯科疾患対応加算の見直し、在宅かかりつけ歯科診療所加算の新設、医科点数表における歯科医療機関連携加算の新設などが行われました。
また在宅療養支援歯科診療所は、在宅又は社会福祉施設等における療養を歯科医療面から支援する歯科診療所であり、2008年度改定時に創設されていますが、その数は増加傾向にあるものの、未だ全歯科診療所の約8%にとどまっています。

在宅療養支援歯科診療所の状況

3.歯科診療所の連携と地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムとは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を確保するために医療や介護のみならず、福祉サービスも含めた様々な生活サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」とされています。
つまり、これから構築しようとする地域包括ケアシステムとは、できる限り住み慣れた自宅や地域で暮らし続けながら、必要に応じて医療や介護等のサービスを用いて、最期を迎えられるような体制ということができ、下図に示すように「本人・家族の選択と心構え」を基盤に「すまいとすまい方」がまずあり、その上でしっかりとした「生活支援・福祉サービス」に基づいて「医療・看護」、「介護・リハビリテーション」、「保健・予防」が提供されるといった姿が想定されています。

地域包括ケアにおける様々な連携

3.口腔疾患の重症化予防等に関する改定の予測

1.周術期口腔機能管理

(1)周術期口腔機能管理は病院との連携をさらに推進

周術期口腔機能管理の条件や周術期口腔機能管理料手術加算、周術期口腔機能管理料Ⅲの諸条件、歯科外来環境体制加算の施設基準、歯科治療総合医療管理料等、見直しや検討項目が挙げられています。

在宅療養支援歯科診療所の状況

2.口腔疾患、口腔機能低下への対応

「口腔疾患、口腔機能低下への対応」の(1)口腔機能に着目した評価では、先進医療に導入されている有床義歯補綴治療における総合的咬合・咀嚼機能検査、舌圧測定などが資料で出され、咀嚼機能を含む口腔機能の検査方法、管理の在り方の評価が十分ではないとし、「口腔機能の評価、および口腔機能の獲得・成長発育、維持・向上(回復)に着目した歯科治療についてどのような対応が考えられるか」との論点があがっています。
また、(2)う蝕や歯周疾患の重症化予防の推進について、歯周病の重症化予防の観点で、現在は中等度以上の歯周病患者に限定されている歯周病安定期治療(SPT)、う蝕の重症化予防の観点では、初期う蝕において適切な早期診断と管理のもとで健全な状態に回復する可能性があるとの新たな考え方も示されています。

3.根幹治療、難抜歯、床裏装などの評価の見直し

口腔機能に着目した評価では、現在先進医療に位置づけられている有床義歯補綴治療における総合的咬合・咀嚼機能検査の保険導入、舌接触補助床装着後の舌圧測定の評価、ホッツ床等を含む口蓋補綴、顎補綴を装着した際の管理や指導の評価が検討されています。
また歯科固有の技術の評価では、根管治療について上顎第1大臼歯の約5割に4根管、下顎第2大臼歯の約3割に樋状根が認められること、マイクロスコープを用いて通常では見つけられにくい歯の内部を拡大して調べることができることが示されており、「4根管」「樋状根」「マイクロスコープ」の評価も論点として挙げられています。

環境配慮・管理料・診断料に関する検討事項

その他、有床義歯内面適合法(床裏装)について、義歯を製作してから6カ月以内の算定が100分の50となる有床義歯修理の取扱いと一致していないことが指摘され、これらの整合をとる見直しも項目に挙げられています。

4.保険導入、既存技術の評価の検討

次期改定に向けて、各学会から提案された医療技術の評価についても、検討が行われています。
10月30日の中医協診療報酬調査専門組織の医療技術評価分科会には、厚労省から医科歯科合わせて737件が「幅広い観点から評価が必要な技術」として提案されました。
歯科では、保険導入されていない新規技術として、前述の有床義歯機能検査、舌圧検査などの他、抜歯手術・埋伏歯(複雑・著しく複雑なもの)、閉塞性睡眠時無呼吸に対する口腔内装置の診断・調整のための内視鏡検査、小児の口唇閉鎖力検査、1月から保険適用となるファイバーポスト(間接法)とコンポジットレジンコア併用による支台築造などが含まれています。
また既存技術では、根管治療の4根管加算や歯周病安定期治療などに加え、閉塞性睡眠時無呼吸に対する口腔内装置の修理(総義歯に準ずる)、大臼歯の歯冠修復4/5冠、大臼歯のCAD/CAM冠なども挙げられています。
医療技術評価分科会では、評価対象を確定し委員による事前評価を受け、1月下旬には評価結果をまとめて、中協総会に報告されます。
これらのうちどのような技術が保険導入され、点数の見直しが行われるのか注目されています。

平成28年1月1日より新たに保険適用される医療機器や材料、技術等

5.歯科医師の栄養サポートチーム配置

中医協総会において、2016年度次期診療報酬改定で病院内で構築された栄養サポートチームに院内の歯科医師を配置した場合の評価や、院外から歯科医師を招き自院職員と共同して栄養サポートを行った場合の評価を行うという医科・歯科連携推進方策が、中央社会保険医療協議会の総会に厚労省から提案されました。
「栄養サポートチーム(NST)加算」は、2010年度改定で創設されました。
この加算は、専任医師・看護師・薬剤師・管理栄養士等のメンバーによる栄養サポ―トチーム(NST)を構築し、回診・カンファレンス、栄養治療実施計画の作成、退院時指導等を行うことを評価するとしたものです。医科歯科連携の一つの形として、その施設基準に歯科医師も配置が望ましい職員として明示されています。
次期改定ではこれをさらに強化しようという意向です。

歯科医師の栄養サポートチーム配置

この加算で歯科医師の参加は絶対要件ではありませんが、栄養サポートチームに歯科医師の参加から、「口腔内環境の改善から食事の経口摂取が出来る」「栄養摂取量の増加」「退院への可能性の広がり」等の効果面での有効性がみられました。

病棟での歯科医師による栄養サポート

また栄養食事指導料の対象に「がん、摂食・嚥下困難、低栄養の患者」を加えるほか、入院・外来・在宅を通じた栄養食事指導料の整合性を図ることなども提案されています。

■参考文献及び参考資料
厚生労働省HP「中医協 社会保障医療審議会」各審議会資料

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