歯科医院の自費率アップ 院内ミーティングとスタッフ教育

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歯科医院の自費率アップ 院内ミーティングとスタッフ教育

  1. スタッフ教育から始まる自費率向上
  2. スタッフの意思統一を図る院内ミーティング
  3. 自費率を高めるスタッフ研修の進め方
  4. 場面を設定したスタッフ研修のポイント

 


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1.スタッフ教育から始まる自費率向上

少子化や大都市部以外の人口減少による患者数自体の減少や、都市部では歯科医院の増加による平均患者数の減少は続いています。
診療においては、治療の高度化・多様化が進み、高い専門性を求める患者層が増加し、院長は歯科医師として、そして経営者として要求される水準が上がってきています。
その中でも特に、自由診療による自費率アップを、歯科医院経営の最優先課題に挙げている院長が増加しています。
自費率アップを図るために「患者意識を変えましょう」というコンサルティングがありますが、その前にスタッフの意識改革と質の向上を図る教育体制構築や院内ミーティングによる医院全体の意思統一を図る必要があります。

1.自費率アップの必要性

競合医院の増加と差別化による1件当たりの患者単価減少が進むなか、保険診療の他、自由診療の比率アップを図ることが歯科医院の将来を左右するといっても過言ではありません。

医業収入=患者数×診療単価

上記の公式通り、患者数か診療単価のアップ、もしくはその双方のアップが医業収入の増加につながります。
平均患者数の減少が予測され、診療単価でも、診療報酬の抑制による患者単価も下がる方向にあることは明白です。そのために、保険診療の他に自由診療への取り組みを行い、医業収入を増加させることは必須となります。
当社調査でも、医業収入上位の歯科診療所では、自由診療収入が大幅に増加しています。(調査対象229件の歯科医院 内訳 個人172件 医療法人57件)

医業収入当社調査 上位20%45件、医業収入当社調査229件

自費率アップを図るためには、下記3要素への取り組みとなります。

自費率アップの3要素

自費率アップは(1) 既存患者への自由診療アプローチ件数を増加し、(2) 正確で判りやすい情報提供を行い、保険診療から自由診療への移行率を高め、(3) 総合的な医療サービスの充実による診療単価の引き上げを図る、というスタッフ全員の意思統一による行動が、結果として表れます。

2.自費率アップはスタッフ教育から

院長一人では自由診療の受注は増加できません。
まずはスタッフ全員が自由診療のメリットを理解していないと、患者には伝わりません。
歯科医師の次に歯科治療に従事しているはずの歯科衛生士ですら、「自由診療は利益を得るための手法であり、通常の診療は保険診療で充分だ」と思っている方が多くいます。
患者からの聞き取りや説明するスタッフ自身が、より良い診療の選択肢に自由診療がある、と認識するよう院内で教育する必要が有ります。
スタッフの意識改革が進んでこそ自費率アップにつながります。

3.院内ミーティングの重要性

自費率アップの研修を強制的に行っても、スタッフの意識が自由診療の良さ、重要性を認識していないと自費率アップにはつながりません。
院長の診療方針の浸透と、自由診療への取り組みと自費率アップの必要性を十分認識してもらうためにも、院内ミーティングが必須となります。
但し、歯科医院は、土日診療や夜間診療のため、中々全員でのミーティングが行えません。
診療後に全員が揃うということが無く、また、夜間診療実施の為、診療終了が遅くなり、それからのミーティングは出来ない、という歯科医院は多く有ります。
ですが、歯科医院経営の改善と将来を決める大事なきっかけとなるミーティングと理解し、休日出勤や時間外手当等を支払ってでも、診療後や休日に全員でミーティングを行う必要が有ります。

ミーティング開催の阻害要因

4.自費率アップは患者要望の認識から

普段接している患者の考えていることを知り、歯科医療に対する意識の変革を促すことにより自費率アップを図ります。
歯科医院に患者が希望することとしては、「夜間診療」「保険範囲の拡大」「待ち時間の短縮」「診療回数の短縮」「治療内容の説明」などがあります。
その中でも特に以下に示す3つの要望が強くなってきています。

主な3つの患者側の要望と医院側の考え方

(1) は別として、残り2つの要望に対し、どう対応するかで自費率アップが図れます。
院内ミーティングでスタッフの意識改革を図り、研修によりスタッフが患者に対して、自由診療への移行を自信を持って進めることで結果が出ます。

2.スタッフの意思統一を図る院内ミーティング

1.院内ミーティングの目的

(1)自費率アップのためのミーティング

ミーティング開催の理由は様々あります。医療安全に関するミーティング、院内感染防止対策、個人情報保護対策、医療ミス、連絡事項、シフトや体制の打合せ等、目的に合わせてミーティングは開催されます。
その中で自費率アップを目的とするミーティングには、段階があります。
前章でも触れましたが、長い時間を取ってのミーティングがしづらい歯科医院では、数回に別けて行うことになります。
数回開催するにあたり、それぞれの会での目的を明確にし、スタッフ全員に伝え、認識してもらうことが重要です。
開催するだけではスタッフの意識は変わりません。

自費率アップのミーティング項目

(2)ミーティング開催前の準備

ミーティングでは、院長が司会をし、一方的に院長1人が話をして終わり、という形が一番多くみられます。
この形態ではスタッフの意識は変わりませんし、当然自費率アップにはつながりません。
事前にミーティングの目的を伝え、役割分担し、各人に発表する準備を取らせます。
第1回ミーティング開催時は、院長が自由診療への取り組み理由や診療理念等、歯科医院経営の実態、数字上の自由診療目標等の発表がありますが、必ずスタッフの意見や考え方、疑問等の聞取りを行うことが大事になります。
2回目以降は、事前に課題を課した発表者からの説明と発表における質疑応答や感想等の意見交換を行うことになります。

第1回ミーティングの役割と開催時前の準備ポイント、院長の発表時における留意ポイント

2.院内ミーティングの役割分担

(1)自費率アップミーティングの役割分担

院内ミーティングは、院長の発表の場ではありません。
司会や進行役を作り、また、事前に課題を与えた発表者を選択し、自分で調べた内容を発表させることが重要です。
自由診療に関しては、否定的な考え方を持っているスタッフがいるかもしれません。
何が患者にとってメリットとなり、デメリットには何があるかについても発表させることが必要です。

自費率アップミーティングの役割分担

院長は、調査に費やす時間が短くなるように、参考文献やインターネットサイトを用意し、スタッフの負担を軽減してあげることです。
また、スタッフ自身が調査し発表することで、自由診療に対する考え方が変化したり、理解が深まります。

(2)自費率アップミーティングの開催

全員参加のミーティングの成功ポイントは、事前通知と各人の調査、レジュメ作成です。
段取りよく進めるため、スタッフの意識改革には、患者への説明にも似た、判りやすい言葉と資料で発表を行い、スタッフに抱く疑問や不安を抱かせないで話すことのできる雰囲気作りが必要です。

ミーティングのレジュメ

3.自費率アップミーティング後の院内観察

自費率アップのミーティングの後、スタッフがどのように取り組んでいるか、その結果、どのように経営上の数字に反映しているかを観察する必要があります。
ミーティングや研修を受けたからと言ってすぐに実行できるかどうかは別であるからです。
来院、カウンセリング、検査、自由診療か保険診療の選択、診療、という流れを決め、どの場面で自由診療を勧めるかの取り決めしておきます。

自由診療を勧める準備

3.自費率を高めるスタッフ研修の進め方

1.スタッフ研修の目的

自費率アップのためのスタッフ研修には、自由診療の治療行為の研修だけではありません。
ミーティングで芽生えた自由診療への取り組み意欲をより具体的な形にし、どう患者へ情報提供を行って自由診療を選択してもらうか、までが含まれます。
自由診療の知識、患者のメリットデメリット、患者へ勧めるトークの練習、カウンセリング技術、患者の視覚へ訴える自由診療の説明書や料金表等の作成等、準備を含め、多々行うことがあります。

自費率アップの研修項目

2.スタッフ研修の項目

歯科医療の世界は文字通り日進月歩です。
また、患者から求められる接遇マナーも年々変化・向上してきています。
入社して教えられていた基準が、今では足りず、もっと上の対応が求められてきています。
基本の接遇や診療技術が向上していないと、より高度な自由診療への取り組みはおろか、患者への情報提供や自由診療選択の勧めも出来ません。

(1)スタッフの意識を変える研修

いきなりスタッフの研修を始めるといっても、スタッフ自身の自覚がなければ、拒否する気持ちがほとんどを占めてしまいます。
イヤイヤながらの研修では身に付くはずもなく、とりあえず受講しただけで、患者への満足度向上にはつながりません。
院内ミーティングを行い、スタッフの共感を得られるように進めます。

研修の手順(実践研修の他、理論や明確な効果、スタッフの意識への訴え掛け)

患者満足度向上は、職場満足度の向上から始まる好循環となり、結果スタッフ自身に帰結するということを理解してもらい、いつまでに行うという目標を設定します。

(2)キャリアアップの段階

キャリアアップは、各個人に求めるのではなく、歯科診療所としての組織としてバックアップすることが必要です。

キャリアアップ

キャリアアップ体制は、医院が目標を与え、当人が自覚して取組み、その行動を管理し、結果の評価まで、一貫して行うことが重要です。
当人に任せっぱなし、又は医院から強制でやらせるでは、満足度向上にはつながりません。
スタッフのためにも患者のためにも、コミュニケーションを取りながら進めることがポイントです。

3.コーチング技法の活用による研修の実施

研修を行うに当たっては、指示中心の指導ではスタッフの納得度が低いため、「コーチング」の技法を活用し、研修を改善してスタッフの意識を高めることも重要です。
また、目標管理制度を導入することにより、業務遂行上不足している項目を明確にし、コーチングをしながら目標達成に向けて取り組ませることも必要となります。

課題克服へのコーチングの活用

4.場面を設定したスタッフ研修のポイント

スタッフ研修では、患者の気持ちを理解した上でどう対処するかを練習します。
患者意識は場面ごとに変ります。
来院前、医院の玄関を入る時、受付時、待合室での待っている時間、治療ユニットへ誘導されているとき、治療ユニットで待っている時間、X線等の検査時、歯科医師やスタッフによる説明を聞いている間など、治療中はもちろん、治療後や会計時、医院から出ての帰り道、自宅、とそれぞれに気持ちは変化しています。
患者が、この歯科医院で治療してもらい良かった、と感じてもらうことが(患者満足度の向上)できるような場面を想定した研修を行うことです。

1.受付時の応対研修

患者が一番不安に感じているのは、受付時と診療を待っている時間と言われます。
来院し、受付をしてから待合室で待っている時間を有効に活用し、不安を解消できるような研修を行うことがポイントです。

受付・待合室での応対研修項目

2.誘導時の応対研修

治療ユニットやX線撮影の誘導時にも気配りは必要です。
他の患者の治療をみて、また、診察室内や消毒コーナー等をみて、患者は不安を募ります。
この間にしっかりとした対応ができるよう研修が必要です。

誘導時の応対研修項目

3.治療ユニットサイドでの応対研修

治療ユニットに着いた時が、患者が一番不安であり、緊張している時です。
治療ユニットサイドでの応対は、今まで受付やカウンセリング等で行った情報提供が活かされるか、ダメにするか、という重大な場面です。
自由診療を勧めて受け入れてもらうためにも細心の注意を払い、節度ある応対が身につくような研修が必要です。

治療ユニットでの応対研修項目

4.院内カウンセリングの研修

(1)初診カウンセリング

初診カウンセリングは、基本的にすべてのスタッフが出来るように研修します。
初診カウンセリングはすべての来院者に実施するため、必要以上に時間をかけるのではなく、15分程度で終るようにします。

初診カウンセリングの流れ

(2)治療ユニットサイドでの再診カウンセリング時の情報提供研修

セカンドカウンセリングでは、初回来院時の検査結果を伝えながら、治療部位はどのくらいあり、どんな治療方法があるか?
治療期間はどれくらい必要か?どれくらいの治療費用がかかるか?を説明していきます。
保険適用範囲内で治療を進めていくのか、必要に応じて自費診療も取り入れていくのかを決定できるようにする必要があります。

セカンドカウンセリング時の流れ

自費率アップは、これらの研修がより具体的であるほど効果が出ます。
患者役になる方も、とりあえずという気持ちではなく、実際に自分が患者になった気持ちで応対すると、患者の本当の気持ちや感情を理解できるようになります。
これらの研修は、繰り返し行っていくことが重要です。

 

■参考文献
「今すぐ医院に貢献できる 歯科衛生士の育て方」(クインテッセンス出版株式会社 加藤久子 著)
「歯科医院経営を成功させる50の心理法則」(クインテッセンス出版株式会社 妹尾榮聖 著)
セミナー「歯科医院を活性化させるエクセレントな歯科スタッフ育成講座」より抜粋」(講師 DBMコンサルティング取締役 向 玲子)

 

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