中小企業の人材定着、育成に つなげる!人材教育の ポイント

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中小企業の人材定着、育成に つなげる!人材教育の ポイント

  1. 社員の定着や育成に向けた課題
  2. 定着の効果がある「オン・ボーディング」
  3. 早期戦力化を図る社員教育の方法
  4. 社員の定着や育成につなげた取り組み事例

 


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目次

1.社員の育成や定着に向けた課題

人口減少等により労働力不足が顕著になっている中小企業の人材市場において、社員をいかに定着させ、早期戦力化することは中小企業にとって大きな課題となっています。
中小企業の中には、新入社員へのサポート体制や育成が不十分なために、短期間勤務しただけで退職してしまうなど、定着および育成につながっていない企業もみられます。
しかし、職場環境が十分に整っていれば、社員にとっては働きやすく、かつ働きがいのある職場となり、定着にもつながると考えられます。
今回は、新入社員の定着や育成への取り組みに着目し、自社における取り組みポイントについて解説しますので、自社の人材マネジメントの参考になれば幸いです。

1.新入社員の離職を招く要因

新入社員が早期離職してしまうことに悩んでいる企業の中には、採用担当者が一生懸命に採用活動をして社員が入社しても、配属後は現場任せにし、その現場では業務が忙しくて新入社員の受け入れに気を遣っていられないというケースがあります。
このようなケースでは、新入社員に対する教育研修もおろそかで、新入社員は「現場で自分は歓迎されていない」「受け入れられていない」と感じ、早期離職を招いてしまいます。

新入社員の離職を招く要因

自社でこのような事象が見られる場合には、早期に対応することが必要です。
次頁にて取り組むべき課題を紹介します。

2.定着につながる3つの課題

(1)社員が将来展望を持てるキャリアパスを設計する

社員自身は、会社の中で自分がこれだけ頑張れば、将来のポストや賃金等がこのように上がるだろうというキャリアパスをイメージし、それによって働きがいを感じ、やる気を出すことが多いです。
このため、全社員に対してキャリアパスを明確に提示して将来展望を与えることが、定着を促進する一つの決め手となります。
なお職種によっては、責任が増す「昇進」よりも、「毎日の仕事のやりがい」を求める社員が多い場合もありますので、社員の価値観・指向性をよく把握する必要があります。

(2)きめ細かい新人教育を行う

採用された新人は、前職で経験者であったとしても、仕事の進め方や考え方は会社によって異なるため、最初のうちは、一つひとつ先輩社員に聞いたり、研修を受けたりしないと仕事をすることができません。
十分な研修を行わずに放置したままになると、本人は「戦力として期待されていない」「自分はこの会社では役に立たないのでは」などと感じてしまい、早期離職に繋がる恐れがありますので、新卒、中途を問わず新人教育は十分に行わなければなりません。

(3)社員が育てられている・成長していると実感できる体制を構築する

社員自身は、「自分は会社によって育てられている」「自分は成長している」と感じられることによって、自社への愛着、忠誠心および帰属意識が高まります。
入社後の研修の場がそのような思いを実感できるものとなっていれば、定着を促進する一つの決め手となります。
また、業務に関係する資格取得や外部研修の受講等の自己研鑽に対して、研修費用助成など積極的に支援を行うことも効果的です。

3.定着率向上の鍵は「コミュニケーション強化」である

定着率を向上させる具体的な取り組みについて、企業側が取り組んでいる方策と、社員からみて効果的だと思う方策をアンケートで尋ねた結果が日本政策金融公庫より公表されています。
この結果から、企業側が取り組んでいる方策は、「労働時間短縮・残業削減」が 27.9%と最も多く、続いて「賃金水準の引き上げ」(18.9%)、「休暇の拡大・利用促進」(13.1%)など、近年の傾向である「働き方改革」に関連する方策や、賃上げを実施しているという回答が多くなっています。

企業が取り組む人材定着への方策

しかし、中小企業にとって賃金改善には限度があります。
したがって、離職を防ぐためには他の何らかの方策も合わせて検討する必要があります。
同公庫では、過去に転職経験のある方に対して、どのような仕組みがあれば、前勤務先を離職しなかったかについてインタビューを行っていますが、「本当の気持ちを伝えられる人がいなかった」「将来的に育てていくビジョンやキャリアパスが明確に示されていれば」などというコミュニケーションや育成支援を望んでいたということがわかっています。
つまり、社員の定着を図るためには、賃上げ以外の対応でも十分に効果があることを示しています。
これらの回答からわかることは、「納得するまで説明する」、「話をよく聞く」、「社員一人ひとりの育成方針を明確に示す」などのコミュニケーションが鍵になっていることが分かります。

前勤務先がどのような取り組みを行っていれば離職しなかったのか

2.定着の効果がある「オン・ボーディング」

1.人材育成における「オン・ボード」(on-board)の意味

人材確保が厳しくなっている環境において、新たに採用した社員の定着と戦力化を図るプロセスとして「オン・ボーディング」(on-boarding)が注目されています。
語源の「オン・ボード」(on-board)とは、船や飛行機に乗っているという意味で使われています。
会社という乗り物に加わった新しい乗組員を、組織の文化やルール、仕事の進め方などにいち早くなじませ、パフォーマンスを引き出すための教育・訓練プログラムをオン・ボーディング・プログラムといいます。
このプログラムは、新卒社員だけでなく、中途入社した社員を含めて、新メンバーと既存メンバーとの統合を図るというのが特徴です。
雇用の流動性が高く、新入社員を通年採用している外資系企業で取り入れられている人材開発手法ですが、近年では日本の企業も通年採用しているところが増えており、最近ではメルカリなどのベンチャー企業でも採用されています。

2.採用した社員が辞めてしまう5つのハードル

新入社員が十分なパフォーマンスを発揮できるようになるためには概ね6か月程度かかると言われています。
また、入社後3か月程度で適切な研修を行わなければ、その後の定着にも影響を及ぼすとも言われています。
これらの期間を乗り越え、新入社員の定着につなげるためには5つのハードルがあります。

新入社員の定着につなげる5つのハードル

①受け入れ準備を整える

入社初日までに新たなメンバーの受け入れ体制を整えて迎え入れると、新入社員の3か月以内のパフォーマンスが30%上がるというデータがあります。
新入社員を受け入れる組織、プリセプターなどの指導者、およびリーダーがしっかりと準備をしていることが必要です。

②サポート体制を構築

新しいメンバーを受け入れた際に、社員全体でサポートしようという姿勢が重要です。
自分の部署だけでなく、他部署のメンバーも新入社員に関心を持ち、どのような性格の持ち主なのか、どのようなことに興味があるのかなど気軽に話せる話題で話しかけるのが有効です。

③期待値とのギャップをなくす

中途採用者の場合、前職での経験を活かした即戦力としての期待値が高い社員もいますが、この会社ではどのような業務を行って欲しいのか、どのレベルまで期待しているのかなど、本人と期待値のすり合わせを行い、相互理解することが必要です。
逆に期待値の確認が十分になされないと、採用した側も採用された側も双方とも不幸になってしまいます。

④学びの機会(OJT、off-JT)を提供

業務に必要な専門知識はもちろんですが、新入社員にとっては、社風や自社における価値観などを理解できたほうが会社に馴染みやすくなります。
OJT、off-JTなどの機会を通じて、自社におけるものの考え方や価値観を理解させることが重要です。

⑤成功体験の機会をつくる

入社してきた社員のレベルや経験年数に応じて、指導されたことや関わった業務について、発表の場やレポート提出などでその成果をアウトプットできる機会をつくると、自社で働き続けることができるかもしれないという自信や安心感につながり、やる気も一段高まります。

3.「オン・ボーディング・プログラム」による施策例「オン・ボーディング・プログラム」による施策例

3.これからの社員教育のありかた

実際の経営の場面では、経営判断が必要なときに前例のない事例は多々あります。
しかし、経営者は十分な情報が手に入らない中でも、これまでの経験を通じて得た実践力や直観をもとに判断を下さなければなりません。
社会の変化を捉えることのできる即戦力となる社員を育成するためには、知識を身につけるための勉強だけでなく、実践力を養うための学習プログラムも必要です。
社員の力量アップを図るための学習として、以下の5つのキーワードが挙げられます。

これからの社員の教育の5つのキーワード

3.早期戦力化を図る社員教育の方法

1.自身でテーマを見つける

特定の分野を極めようとする場合には、相当な時間がかかります。
ただし、単に時間を費やせばよいというわけでもありません。
効果的に学習効果を上げるためには、以下の要件を満たす必要があります。
これらの項目が示すように、その道の一流になるために努力するのは本人ですが、自社における教育面(OJT体制の整備など)のバックアップが必要です。

学習効果を上げる方法

イノベーションを生み出すためには、社員自身がキャリアアップテーマを決める場を設定することも必要です。

2.自由な発想を持てる場をつくる

企業が革新するためには、これまでの既成概念を取り払うことも必要です。
そのためには新しいアイデアを考えることが出発点となります。
社員に新しいアイデアを求めるためには、自分がやりたいと思ったことをできる土壌をつくることです。
主体性はイノベーションに向けた創意工夫を生み出します。
社員が仕事の楽しさを味わうためには、達成の見通しが立つ活動にチャレンジさせることが欠かせません。
目標が明確になり、達成状況に関するフィードバックや反応が適宜得られることも大切です。
新しい商品やサービスを生み出したり、コスト削減などの生産性を高めるためには、挑戦しがいのある目標達成に向けて社員が没頭できる職場づくりが必要です。
ある社員研修で、業務改善効果を競い合うロールプレイを行ったという例があります。
このロールプレイでは、参加者が競合会社の社員役に分かれて、担当業務を無作為に割り振り、いかに受注した商品を納期どおりに、ミス無く顧客へ届けることができるかを競い合います。日頃、あまり会議では自分の意見を言わない社員もロールプレイを通じて意見を積極的に出していたというケースがあります。
このように自由な発想で意見を言いやすい場をつくることで、社員自身も仕事に対する意欲が高まり、仕事の質が高まることが期待できます。

3.実体験できる場を増やす

アメリカのリーダーシップ研究機関ロミンガー社は、ビジネスリーダー対象の調査で「自身の成功に役立った」学習機会を尋ね、「7:2:1」という成人の学習機会の比率を発見しました。
仕事上有用な学習機会の割合は、仕事上の実務経験が7割、上司や顧客といった他者との交流・薫陶が2割、読書、研修、講演といった勉強が1割という構成です。
ロミンガー社が唱えるこの比率は、多くの企業で、人材開発プログラムの企画設計にて採用されています。
学習効果を高める鍵は、実務、他社との交流、勉強をばらばらに実施するのではなく、この3つを連動させることです。
特に、社会や顧客に向けた価値を生み出すイノベーションを起こすための創造的学習には、「成果につなげるには何が足りないのか」「どうすればうまくいくのか」などについて実践を通じて失敗を繰り返しながら学ぶことが有効です。
社員の変革にもつながる場面としては以下のようなものが挙げられます。

社員の変革につながる場面

4.社員の成長を促進させるために研修機会は十分確保する

社員の成長を促すために、研修の機会を十分に与えることは重要です。
研修を行った成果として自身の業務、業績目標の達成やスキルアップにつながることができれば、仕事への自信がつき、さらに成長意欲が湧いてくることも期待できます。
その延長として定着にもつながることが期待できます。
研修の実施については、階層ごとに求められる役割がありますので、まずは階層別の研修体系を整備し、その役割遂行に役立つ研修の機会を提供することが必要です。

研修体系モデル

研修体系を構築するための成功ポイントは、まずは自社における研修ニーズの把握です。
研修ニーズを把握するには、経営者、上司、現場のニーズの他、自社の戦略をにらんだ長期的、短期的ニーズなど多角的に見る必要があります。
自社の経営課題を的確に捉え、その課題に対して誰にどのような教育をしていくか、また、その教育は誰(内部、外部)が担うのかを明らかにします。
外部研修の開催が延期もしくは中止が相次いでいる昨今においても、研修は継続的に実施することが望まれますので、e-ラーニングやWEBセミナーの受講も積極的に活用するべきです。

4.社員の定着や育成につなげた取り組み事例

1.教育研修体系や働きやすい環境を整備し定着率が向上したA社

独立系ITサービス会社であるA社(創業1971年、職員数約900名)は、多くの社員が顧客企業に常駐してシステム開発を担っています。
IT技術の進歩が早いことや、社員の勤務先がばらばらになっているために、全社一体となった教育研修体制の整備や定着に向けた労務管理面の改善が必要となっていました。
これらの課題への対応策によって、若手社員の定着率が向上し、例年40~50名程度を採用していますが、入社後3年以内の離職は3~4名程度に収まっています。
また、職場環境改善への取り組みも行った結果、メンタルヘルスを要因とした休職も大幅に減少しました。

A社の取り組み内容

2.中途社員の早期戦力化を目指したメルペイ社の「オン・ボーティング」

フリマアプリの大手であるメルカリ社の金融事業を担っているメルペイ社には、自社のミッションやバリューへ共感し、伝統的な金融業界で活躍していた中途入社の社員が多く在籍しています。
同じ金融業界に勤めていた社員ですが、いち早く新興企業文化に馴染むことが課題となっていました。
そこで同社では、各種研修を用意するほか、「オープンドア」や「ウェルカムランチ」といった役員とのコミュニケーションの機会を設けるなどのオン・ボーディングの取り組みを行っています。
その結果、中途入社の社員が、自社に早く馴染むことができるようになり、それまでのノウハウや経験を活かした早期戦力化を可能にしています。

メルペイ社におけるオン・ボーディング内容

3.入社3か月目までをサポートするGMOペパボの「ペパボカクテル」

ネットショップ作成やネットコミュニケーションなどのITサービスを提供しているGMOペパボ社では、従業員約350人の1/3弱を占める約100人で構成されるエンジニア組織を対象とした研修プログラム「ペパボカクテル」があります。
「ペパボカクテル」のはじまりは、中途パートナーの「成長支援」を目的としたものですが、きっかけは社長から、「中途で入社した人の成長につながる取り組みをしよう」という話があったことです。
同社では中途入社後の3ヶ月間は試用期間ですが、そのパートナー(社員)に対して、成長を促す取り組みを十分に実施できていないことが課題となっていました。
そこで、チャットツールの社内チャンネル「カクテルチャンネル」を立ち上げ、そのチャンネルに入ってもらっています。
このチャンネルではどのような些細なことでも聞くことができ、例えば「備品の保管場所」などの中途入社のパートナーからの質問に対して、既存パートナーがすぐに返信するなど、中途入社のパートナーが「これ聞いていいのかな?」と不安を感じさせないような雰囲気づくりをしています。
また、エンジニア組織全体では「ペパボテックフライデー」という社内勉強会を行っており、毎月第2金曜日に約2時間かけて、外部の勉強会で発表する内容や、社内で起こった事象を持ち回りでアウトプットしています。
また、「ペパボカクテル」は試用期間3ヶ月が経つと卒業とされており、カクテルチャンネルからも退出しても良いことになっていますが、3ヶ月が経ってもチャンネルに残るパートナーが多く、コミュニケーションツールとして役立っています。

GMOペパボ社の「カクテルチャンネル」の特徴

これらの取り組み事例は、いずれも社員の定着、育成につながっているものです。
自社で参考にしていただければ幸いです。

 

■参考文献
『人材確保に「効く」事例集』(厚生労働省)
『若者が定着する職場づくり取組事例集(厚生労働省)
『人材の定着を促す中小企業の取り組み』(日本政策金融公庫 総合研究所)
『中小企業のためのキラリ人材活用・事例集』(株式会社 日本マンパワー)

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