- 叱れない上司、叱られたい部下
- 部下との信頼関係を強くするコミュニケーション法
- 「褒め方」「叱り方」をチェックする
- 自社の成長に直結する「褒め方」「叱り方」
1.叱れない上司、叱られたい部下
部下を育てるために、叱るべき場面で本気で叱ることができているリーダーはどのくらいいるでしょうか。
自社の基準を遵守させたり、行動を早期に是正させるためには、厳しく叱らなければならない場面があります。
部下の成長を願って本気で叱る上司の気持ちは、相手にも確実に伝わります。
リーダー自身も「叱る」ことを通じて、自身の成長につながるのです。
もちろん、「叱る」だけでなく、良い行動や考え方に対しては、「褒める」ことも欠かせません。
部下育成のためには、「褒める」と「叱る」のバランスが重要なのです。
本レポートでは、部下との信頼関係を高め、部下の力をさらに伸ばす「コミュニケーション法」と「褒め方・叱り方」のポイントを解説します。部下のさらなる成長を期待する経営者、幹部社員の方々に是非参考にしていただきたいと思います。
1.上司と部下におけるコミュニケーションの実態
公益財団法人日本生産性本部が報道機関向けに公表している「日本の課長と一般社員 職場のコミュニケーションに関する意識調査」(2012年3月29日)によると、課長と部下の意識の差が以下のように明らかになっています。
まずは、「職場で有益な情報が共有されているか」についてですが、「共有されている」と回答した課長が68.0%に対し、一般社員は45.1%にとどまっています。
また、「部下または後輩が言いたいことが理解できる」と回答した課長が88.9%とほとんどを占めているのに対して、「上司は自分のことを理解してくれている」と感じている一般社員は62.2%にとどまっています。
最も顕著な差となって現れた項目としては、部下を「褒めている」と回答した課長が90.4%に対し、「上司は自分を褒める」と感じている部下が49.9%と非常に低い結果となっており、約4割近くの差となっている点が明らかになりました。
このような結果から分かることは、まだまだ上司と部下のコミュニケーションは不十分であるという実態があるということです。
まずは、上司に求められることは、「褒める・叱る」の前に、日頃のコミュニケーションの機会を増やす努力が望まれます。
2.褒められたときの部下の意識
ある会社がインターネットを通じて集計した経営層・一般社員対象のアンケート調査によると、一般社員の71%が褒められると「嬉しい」、63%が「もっと頑張りたくなる」と回答しています。
「売上に貢献したくなる」も33%におよび、部下を褒めることは会社の売上・利益にもつながるといえます。
3.「褒める」だけでは人は育たない!
今の主流は“褒めて伸ばす”ことです。でもそれだけでは部下は育ちません。
それは、部下を指導する立場にある上司にとっては、現場の実感として理解いただけると思います。
一方で、「部下を叱れない」リーダーも増えてきているといわれています。
特に最近は、「すぐにパワハラと言われる」「叱ったら次の日から出社しなくなる」ということも珍しくなく、一昔前のように精神論では通用しなくなっているのが現状です。
しかし、昔から「言われるうちが花」といわれますが、史上最高キャッチャーとして名高く、引退後はヤクルト等の監督を努めた野村克也氏は、「三流選手は無視、二流選手は褒め、一流選手は叱って育てる」と言っています。
「叱り」によって成長するのは部下だけでなく、上司も人間として成長することができます。
そして部下は、面倒であっても自分のことを真剣に考え、叱ってくれる上司を待っているのです。
4.意識心理に働きかける
「叱れない上司」が増えている一方で、「叱られたい部下」が増えています。
人間の心は、個人に与えられた素質に、指導者(リーダー)のあり方を中心とする生育環境、さらにそれらの受け止め方が加わって形成されていきます。
人間の心に大きな影響を与える「意識心理」は、リーダーの関わり方一つで変えることができます。
ある若者に関するアンケートの結果等をみてみると、「直すべきところがあればしっかりと指摘して欲しい」という意見が多く見られました。
部下は、叱った時には反抗的な態度を取るかもしれませんが、最後は「本気のリーダー」についていきたい、と思うものです。
2.部下との信頼関係を強くするコミュニケーション法
1.言葉と同様に重要な非言語コミュニケーション
部下との信頼関係を築くことができていれば、「褒め言葉」や「叱り言葉」は相手に響きますが、いくら自分の思いを言葉でうまく伝えたいと思っていても、その伝え方次第で相手の受け止め方は変わります。
ここで重要になるのは、言語を伴わない非言語コミュニケーションの活用です。
非言語コミュニケーションを心掛けると、相手とのコミュニケーションがより円滑になります。
この非言語コミュニケーションの代表的なものとしては、以下の4つがあります。
「表情」のポイントは、穏やかな落ち着いた表情で相手を見ることです。
目線は、相手の目をむやみに直視せずに視線をやや下にするとよいでしょう。
凝視したり、じろじろ見たりすることは相手に威圧感を与えます。
「姿勢」は、リラックスした姿勢を保ち、相手に威圧感を与えないことを心掛けます。
相手の言葉をブロックするという印象を与えてしまう腕組みや、椅子に寄りかかった姿勢は避けるべきです。
「うなずき」「あいづち」は、貴方の話をしっかり聞いているということを動作で示します。
気をつける点は、ワンパターンなうなずきやあいづちは逆効果になるので、動作にメリハリをつけたり、「はい」「なるほど」「へー」などの様々なあいづちを組み合わせると良いでしょう。
「ボディランゲージ」は、相手の話の内容に合わせて手や体を動かすと、相手にしっかりと話を聞いていますというメッセージを送ることができます。
2.双方向のコミュニケーションを実践する
日頃から、上司と部下の間で円滑なコミュニケーションが取れていれば、信頼関係もできていきます。
上司から部下へ、単に指示をするだけとか、報告を聞くだけなどの一方通行のコミュニケーションで終わらせてしまうと、相互の真意が分からず、信頼関係はうまく築けません。
コミュニケーションを行う際には、一方通行でなく、双方向のコミュニケーションを意識することが大切です。
双方向コミュニケーションとは、例えば、何か指示をする場合に、相手の考えや疑問点を聞き出すことです。
反対に、部下から何か報告を受けたときには、ただ返事をするだけでなく、その報告に対して、内容を確認したり、自分の考えを述べるなどを心掛けることです。
このように、日頃からコミュニケーションを深めていくことができていれば、褒めたり、叱る場面でも、相手にはその言葉が響きます。
3.上司は、部下を育てる喜びを持つ
上司という立場に立った人が、部下を育てることに喜びを持って接していれば、部下の立場に立って考え、適切な指導を行うことができるようになります。
また、部下の成長を願って、部下の立場に立って叱ることを心掛けていれば、人格を否定したり、一方的にどなりつけるような叱り方はしないはずです。
指導を受ける側の部下の意識も「自分のために厳しく叱ってくれている」ということも分かってくれるはずです。
「褒める」ことも「叱る」ことも、大きなエネルギーを必要としますが、上司が身に付けなければいけない必須のスキルの一つです。
両方を効果的に行なえる上司が良い上司なのです。
4.「叱り」も重要なコミュニケーションである
叱られて嬉しい人はいませんし、叱るのが好きな方もいないと思います。
叱られた方は二度と叱られたくはないので、その人から距離を置くようになり、叱った方は部下を思って叱ったのにその後気まずくなってしまった、ということを経験している方も多いのではないでしょうか。
「部下や後輩に嫌われたくないから叱れない」というのは誰もが抱くごく当り前な感情です。
しかし、相手のミスや不十分な点を「嫌われたくない」という理由で見過ごしていると、「嫌われる」では済まない大きな損失が生じます。
そうさせないためにも、上司は部下を育てるために「叱り」も重要なコミュニケーションであるということを認識しなければなりません。
仕事は、失敗から学ぶことの方が多いと思います。
そんな中、部下の失敗や不十分な点に気付いているにもかかわらず見て見ぬふりをしてしまえば、部下は成長の機会を失ってしまいます。
上司は、部下の誤った意識や行動に対して、すぐに「叱る」ことで部下は自分の誤りに早く気づくことができるようになり、改善を重ねながら成長していきます。
部下を成長させるのは、上司の責任です。周囲は想像以上に上司の指導力や管理能力を見ています。
部下の失敗を見て見ぬふりをせずに、ダメなものはダメ、間違いは間違いと言い続けることで、「部下を叱れる厳しい上司、リーダーにふさわしい人」という周囲の評価が得られ、上司の指導力向上にもつながります。
「人に嫌われたくない」とか「部下とうまくやりたい」と思えば思うほど、逆効果になります。
3.「褒め方」「叱り方」をチェックする
本章では、第4章における具体的な「褒め方」「叱り方」のテクニックの解説の前に、今実際に行っている「褒め方」「叱り方」が正しいものなのか、現状把握をしてみます。
1.「褒め方」をチェック
「褒める」ためには、まず部下を普段からよく観察し、良い点・優れている点をより多く把握しておく必要があります。
また、短所と思われる点も裏を返せば長所になる、という視点も褒めるためには必要です。
ここで20個以上「褒め言葉」が見つかった方は、普段から部下をよく観察し、様々な角度から部下の良さを見られる人といえます。
残念ながら10個を下回った結果となった上司は、まだ部下を褒めようという意識が足りないかも知れません。
これからは、出来るだけ部下を観察する時間を作り、部下の良さを発見する努力が必要といえます。
「褒め言葉」は、つい自分の感性で言葉を選びがちですが、自分が言われて嬉しい言葉でも、相手が必ずしも喜ぶとは限りません。
相手が喜ぶ「褒め言葉」を適切なタイミングで言うためには、普段から相手がどんな価値観を有し、どんなことに興味や自信を持ち、どんな言葉をかけてもらったら嬉しいのかを把握しておく必要があります。
そのためには、相手をよく観察し、相手の立場になって言葉を選ぶことが大切です。
2.「叱り方」をチェック
部下がミスを犯したときに感情先行で上司に叱られると、自分の非を認めていても、素直に反省することなく、かえって反発心を煽ってしまいます。
叱る上司も、相手のためというよりも、相手を責め立てることで自分の感情を発散させるだけになっている可能性がありますのでこのような叱り方は要注意です。
叱る際には、何を伝えたいのかを整理し、冷静な状態で相手の成長を願って忠告する姿勢で伝えることが必要です。
相手の人格を否定するような叱り方は、禁物です。
叱る対象は、あくまで「行動」です。
頭ごなしに「お前はダメなやつだ!」でなく、誤った考え方や行動に着目し、なぜその考え方や行動が悪かったのかを伝える気持ちを持つことが必要です。
責任転嫁型の叱り方は、「自分は言いたくないけど課長が言ってたから」とか「不満があるならば上司に言って」などという言葉を発するようなケースです。
部下からは、「この件については、真剣に関わろうという意識がない」と見透かされてしまいます。
叱るときには、自分も部下指導に関わっているという意識を持ち、このような発言は控えるべきです。
説教型の叱り方は、内容は的を得ていても、「だらだら」、「ネチネチ」と長い時間をかけて叱っているうちに部下は反省するどころか、早くこの場を離れたいという意識になってしまいます。
叱りたいことを事前に整理し、「何を叱るのか」、「どこに問題があったのか」「今後どうあるべきか」についてポイントを絞った叱り方を心掛けると良いでしょう。
「叱る」と「怒る」は違う、といわれるように、前述の感情型のように、ただ感情をぶつけても相手の反省を促すことは難しいかも知れません。
また、事実確認もしないうちに思い込みで叱ったものの、実は内容は違っていたということにもなりかねません。
このようなことにならないためにも、叱る前には十分な準備や事実確認をしておくことが望まれます。
4.自社の成長に直結する「褒め方」「叱り方」
1.「褒める」メリット
第1章において、「褒める」ことの重要性を説明しましたが、「褒める」ことによって、もたらされるメリットは何でしょうか。
大きく分けると下記のとおりです。
お客様に高い満足度を与えるためには、社員が職場や自社の商品に対して高い満足感を感じ、自社の商品を積極的、かつ丁寧な応対で販売することが必要です。
そのためには、社員をしっかりと観察し、褒められるところをたくさん見つけ褒めてあげることが大切で、それを繰り返すことで社員のモチベーションが上がり、売上に反映され続けるのです。
社員のモチベーションが上がれば、離職も少なくなります。
求人誌に広告を出せば、大きさ等によっても異なりますが数十万円はかかります。
さらに求人誌でも成果が上がらなければ、人材紹介会社を頼ることになります。
そうすると、年収の3割程度の手数料がかかるといわれています。
「褒める」ことは、これだけ大きなメリットを生むのです。
2.人ではなく「行動」を褒める
新人とベテラン社員とでは、褒め方も全く違ってきます。
新人は基本的に何をしたらいいかがわかりませんから、具体的な作業レベルのことを言ってあげることが必要です。
一方、ベテラン社員は、基礎知識や基本動作は身に付いているはずですので、細かい事を言ったり、褒めたりしても、うっとうしいと思われてしまいます。
ベテラン社員には大枠の指示を伝え、自主的に考え行動したことや、後輩への指導、顧客への臨機応変な対応等、その行動を褒めるようにします。
また、新人とベテラン社員では、褒めるに値する行動レベルは違います。
新人にベテラン社員に期待するレベルを求めることはナンセンスですし、逆にベテラン社員に新人と同じレベルで褒めれば、馬鹿にされたと思われてしまいます。
褒める時は、社員に求める期待レベルに合わせて褒める必要があるのです。
3.感謝と期待を伝える
具体的な「行動」に対して褒めることが大切と前述しましたが、特にベテラン社員には会社の一員として今まで頑張ってきてくれたこと、そして一人前になり、会社の戦力として活躍してくれていることに対して、「ありがとう」「会社の貴重な戦力と認めている」と伝えることも非常に重要です。
「そんなこと今さら…」「当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、当たり前のことも言葉にしないと伝わらないのです。
今まで社員が頑張ってきたこと、会社への貢献度を具体的に伝えることで、「できる社員であること」「会社にとってなくてはならない存在であること」を認識してもらうことが大切なことです。
今の時代、ささいなことで「自分はダメな人間だ」「今の仕事は向かないんじゃないか」と思う人が多いのです。
ですから、「君は今までしっかりやって結果を出してきた」「これかもしっかりやっていける」という事実を伝え、自信喪失になったときの心の支えを作ってあげることが必要なのです。
4.絶対にしてはいけない叱り方
「叱る」の前提として、部下の成長を願う気持ちがなくてはなりません。
この気持ちがないのであれば、すでに「叱る」とは言えません。
5.社内規律を逸脱したときは即座に「叱る」
自社の規律を維持するためには、社内規律を全社員が遵守することが絶対に必要です。
もし、規律を逸脱するような場面に直面したときには、気づいた時点でただちに「叱る」ことが必要です。
その場面を見逃してしまうと、わが社は規律を守らなくても特段問題にはならない、と都合よく解釈されてしまうからです。
そのときの「叱る」ポイントは、ただ一方的に叱るだけでなく、なぜ自分が「やるべきことができなかったのか」とか「やってはいけないことをやってしまったのか」を振り返らせます。
そして、社内規律を維持するためには、全社員が社内基準を遵守することが重要であることを自覚させることが必要なのです。
6.「叱った」後のフォローを忘れない
上司が、叱った後に不機嫌な顔をしていたり、避けるような態度をとってしまうと、叱られた部下は「まだ怒ってるんじゃないか」などと悪い方に勘ぐってしまいます。
上司としては、「叱ったばかりだし、俺とは話したくないだろうから、そっとしておいてやろう」という思いやりからの行動かもしれませんが、部下はそう受け止めません。
ですから、叱った後は何事もなかったように上司から明るく話しかけることが大事です。
そうすることで嫌な空気は払拭されます。
そして、叱ったことに改善が見られたなら、褒めてあげます。
そうすることで、部下は「正当に見てくれている」と感じ、上司の「叱る」に愛情があることを理解するのです。
■参考文献
知識ゼロからのほめ方&叱り方(幻冬舎、本間正人著)
叱って伸ばせるリーダーの心得56(ダイヤモンド社、中嶋郁雄)
売上が上がるほめる基準(商業界、原邦雄著)