人口減少時代に労働力を確保する 非正規社員戦力化のポイント

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

人口減少時代に労働力を確保する 非正規社員戦力化のポイント

  1. 生産年齢人口の減少時代における企業の課題
  2. 非正規雇用労働者を守るための労働契約法改正
  3. 非正規雇用労働者の戦力化に向けた手法
  4. 60歳を超えた社員の戦力化のポイント

 


この記事をPDFでダウンロードする。(企業経営情報)

目次

1.生産年齢人口の減少時代における企業の課題

労働力確保のために企業が取り組むべき喫緊の課題

今後、長期にわたって生産年齢人口が減少していく中で、人手不足がわが国の経済成長の制約になることが懸念されます。
自社の成長及び生産性の向上を図るという点においても、労働力を確保するための対応を急がなければなりません。
そのために、働く意欲と能力のある未就労者の労働参加機会の拡大や、企業における人材活用の在り方の見直しなど、取り組むべき課題が多くあります。
特にわが国の労働市場においては、女性パート、高年齢者の契約社員や嘱託社員などの非正規雇用労働者の戦力化が必要となっています。
今回は、このような非正規雇用労働者の早期戦力化に向けた取り組みについて解説します。

わが国の労働市場において企業が取り組むべき課題

非正規雇用労働者数が増加している日本の労働市場とその要因

平成28年には、役員を除く約5,391万人の雇用者のうち、37.5%にあたる2,023万人が非正規雇用労働者となっています。
さらに、非正規雇用労働者のうち約1,400万人が有期雇用で働き、約3割弱の420万人が通算5年を超えて働いているといわれています。
このような身分の安定しない非正規雇用労働者を守るために、平成25年4月に改正労働契約法が施行されました。
この法律の改正により、契約を更新し続けている通算5年以上働く非正規労働者は、平成30年4月から無期雇用を申し出ることが可能になり、企業は原則それを受け入れなければなりません。
この法律は、労働者の3分の1超まで増えた非正規雇用労働者の雇用安定を図ることを目的としていますが、企業としては、非正規雇用労働者の無期雇用への転換にとどまらず、戦力化に向けた対応も必要となってきています。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者数の推移

多様化した非正規雇用労働者の戦力化の必要性

(1) 非正規雇用労働者はまだ十分に戦力化されていない

これまで、人事制度を始めとする組織と人材のマネジメントは、基本的に雇用期間に定めのない、正社員を前提に設計されてきました。
したがって、多くの企業の新入社員の育成プログラムやキャリアプランなどは、将来的に組織に長期貢献することを前提として策定されています。
一方、非正規社員の育成プログラムやキャリアプランの整備は、遅れているという指摘があります。
しかし、前述のとおり、非正規雇用労働者が増加している傾向を踏まえると、非正規雇用労働者にも目を向け、戦力化に向けた雇用形態を整備し、育成システムの構築も必要となってきています。

雇用期間と形態

サービス業や流通業、福祉関連の事業などでは、パートタイマーやアルバイトでも店舗や現場のオペレーションの主要な部分を担当しているケースが増えています。
また、団塊の世代が大量退職し、若年労働者のスキル不足している企業においては、熟練労働者を嘱託社員として継続雇用するケースも増えています。

(2) 生産性向上のためには非正規雇用労働者の戦力化が急がれる

業績の好転や生産性向上を図るために非正規労働者の戦力化を行い正社員への転換を進めている企業では、生産性や利益率においてより競争優位に立つことが明らかとなっています。
非正規雇用労働者の正社員への登用を実施している企業側は、非正規雇用労働者から人材を発掘できること、非正社員で雇用している間に従業員の資質をチェックしながら本当に必要な人材を確保できること、正社員への転換という目標を設定することで非正社員の就業意欲の向上につながっているというメリットもあります。
企業の側から見ても、非正規労働者を戦力化して活用することや、非正社員から正社員への転換の実施など、非正規労働者のキャリア形成機会を提供することは、非正社員のなかの優秀な人材の確保、採用におけるミスマッチの回避や非正規雇用労働者のモチベーション向上などの好影響をもたらします。

2.非正規雇用労働者を守るための労働契約法改正

改正労働契約法の改正により雇止めの減少が期待される

平成25年4月に改正労働契約法が全面施行されました。
この法律は、有期労働契約に関する新しいルールを定めるものであり、有期労働契約の反復更新の下で生じる雇止めに対する不安を解消し、働く方が安心して働き続けることができるようにすることが目的です。
リーマンショック以来、雇止めをする企業が続出し、雇止めを不服とする労働者と企業間での個別労働紛争が急増しました。
こうした紛争を解決するための民事的なルールや判断基準が十分でなかったため、労働契約についての基本的なルールを定めた労働契約法を改正し、働く意欲のある非正規雇用労働者の確保を図ることとなりました。
改正労働契約法の改正点は、有期労働契約に関する次の3点です。
本法の施行日は、下記の(1) と(3) については平成25年4月1日です。
(2) については公布日(平成24年8月10日)です。
(1) については、平成30年4月になると施行日から5年を超えることとなり、同法への対応が必要となります。

改正労働契約法の主な改正点

無期雇用労働者への転換要件

(1) 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申込により、無期労働契約に転換させるしくみを導入しなければなりません。
ただし、6ヶ月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、空白期間の前契約期間は通算されません。
無期契約への転換後は、「別段の定め」がない限り、転換前と同一の労働条件となります。

有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

(2) 有期労働契約のみなし更新等(「雇止め法理」の法定化)

有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している、または、有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、労働者の合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めらないときは、有期労働契約が更新されたものとみなされます。

(3) 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮し、不合理と認められるものであってはなりません。

無期雇用転換ルールの適用者

無期雇用転換ルールの適用者は以下が対象となります。
無期転換ルールは、船員や公務員等の本法の規定の適用が除外されている者以外、全ての労働者に適用されますので社員側の年齢や雇用側の業種や規模による適用除外はありません。

無期雇用転換ルールの適用者

高年齢者雇用安定法では、事業主に高年齢者の60~65歳の間の雇用確保を義務付けています。
使用者がこの規定に基づき、60歳で定年後、有期労働契約の形態で嘱託・契約社員として再雇用した場合でも、有期労働契約が通算5年を超えれば、その高年齢者は無期転換の申込ができることになります。
しかし、定年後の再雇用者が無期転換した場合は、65歳を超えて再現なく雇用を継続しなければならないわけではありません。
無期転換した労働者を対象として、別途、当該社員を対象とした就業規則等で定年を定め、その定年に達すれば雇用を終了させることは可能です。
その際には、定年を定めることについての合理性が認められ、労働者へ周知することが必要となります。
60~65歳の再雇用期間を通算5年までにしておくことで無期転換権を発生させないことも可能です。
また、派遣社員についても、派遣元事業主(人材派遣会社)との労働契約が有期労働契約である場合には、無期転換ルールが適用されます。
この場合には、派遣社員と労働契約を結んでいる派遣元事業主との有期労働契約について、通算契約期間を計算します。

起算日は法施行日以後の契約から開始となる

通算5年を超えて契約更新された場合には、無期雇用へ転換しなければならないとなっていますが、期間の計算は、改正労働契約法の施行日(平成25年4月1日)以後に締結した有期労働契約期間から起算されます。
したがって、施行日前よりも前の有期労働契約については、通算契約期間には参入されません。

起算日は法施行日以後の契約から開始となる

3.非正規雇用労働者の戦力化に向けた手法

非正規雇用労働者をマネジメントするための課題

コスト削減、および即戦力の獲得という観点から、非正規雇用労働者は、現代の経営においては、なくてはならない人材です。
しかし、単に契約期間の定めをなくすという法への対応だけでは、戦力化は図ることは難しいでしょう。
そこで非正規雇用労働者をマネジメントする上で課題となるのは、以下3点です。

非正規雇用労働者をマネジメントするための課題

(1) 正社員中心に偏重しない業務分担

非正規雇用労働者には、単純作業や臨時の定型作業のみ任せるという方法もありますが、このような業務の任せ方では、非正規雇用労働者のモラルやモチベーションが下がる危険性があります。
すでに、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の両者を区別せずに、パート社員にも店長、現場責任者、売り場の企画などを任せ、成功している企業が増えています。
非正規雇用労働者は、正社員の補完あるいは定型的なサポート業務を担当する役割、という正社員中心の考え方を改めることが大切です。

(2) 仕事そのものへの動機づけ

非正規雇用労働者は、正社員に比べると組織に対するロイヤルティが形成されにくいといわれます。
そこで、非正規雇用労働者のロイヤルティを高める工夫をする必要があります。
例えば、専門性の高い業務を任せている派遣労働者に対しては、さらに高い専門性を発揮できる役割を与えるなどで仕事そのものに動機づけられるようにします。
パートやアルバイトに対しても、限定した仕事を与えるだけでなく、能力に応じてより高度な業務を任せることも考えられます。この場合も仕事自体に興味を感じてもらい、モラルを高めてもらう事が狙いです。

(3) ビジョンや方針、戦略の共有

さらに、積極的に非正規雇用労働者の組織へのロイヤルティを高めるためには、正社員と区別することなく、組織のビジョンや方針、戦略を共有することです。
一時的な関係なのだからといって共有しないのではなく、たとえ一時的でも一緒に働く仲間なのだという意思を見せることが重要です。
マネジメント層からのこうしたメッセージによって、非正規雇用労働者が組織との一体感を持つようになります。

非正規雇用労働者の能力開発への取り組み

パート・アルバイトには単純作業や定型作業を任せ、現場の運営管理や売り場の企画、新商品の開発などは正社員が担うという業務分担が一般的ですが、パート・アルバイトに新入社員への業務指導や、勤務シフトの作成、在庫管理や商品企画の一部を担わせることで人材活性化を図っている企業も多く見られるようになってきています。
一方で、長期間勤務していても補助的業務の範囲を越えられないような業務分担では、下図に示すようなパート・アルバイトのニーズに応えられず、非正規雇用労働者の定着・活用からは程遠い状況といわざるを得ないでしょう。
このような環境下で、様々な就業志向や勤続期間が見られるパート・アルバイトをマネジメントしていくためには、以下3点の取り組みによりキャリアアップ・プランを明示することが必要です。
このキャリアアップ・プランの明示により、パート・アルバイト社員の就業意欲の向上と離職率の逓減、事業運営の安定化を図ります。

非正規雇用労働者の能力開発への取り組み

(1) 役割と職務の階層化

パート・アルバイトが担うべき役割を考えるためには、自社の実状に合わせて、パートタイム労働者の格付け(役割等級)制度を設計します。
目的は、パートタイム労働者の活用戦略を具体化することです。

非正規雇用労働者対象の役割等級制度例

さらに、等級別の役割基準別の達成レベルを明示し、レベルチェックを行いながら、レベルアップを図るための育成への取り組みも有効です。

非正規雇用労働者対象の役割基準例(スーパーマーケット業)

(2) 賃金制度の整備

建設や飲食、福祉関連事業をはじめ様々な業種で採用難が深刻化し、採用時の時給が高騰している現在こそ、採用後の賃金体系を整備し、一律的な昇給による総額人件費上昇を抑止する必要があるでしょう。
そのためには、上記の等級フレームに応じた基本給(時給)テーブルが有効です。
また一方では、事業への貢献度に応じた人件費分配の仕組みを作ることで、非正規社員の更なる活用が図れます。

非正規雇用労働者を対象とした賃金体系例

(3) 定期的な評価の実施

様々な勤務形態のパート・アルバイトへの一律的な評価は現実的ではないと思われることから、まずは評価対象となる水準の検討から始めましょう。
その上で評価視点を等級ごとに設け、年1回程度評価を行う方法が望ましいでしょう。

非正規雇用労働者対象の評価制度例

4.60歳を超えた社員の戦力化のポイント

中小企業における65歳雇用のあり方と選択肢

厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられていくことに伴い、平成25年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行されました。
平成37年まで、65歳までの雇用が段階的に義務化されていく中で、企業の選択肢は、「継続雇用制度」の導入、あるいは「定年延長」の2種類です。
継続雇用制度と定年延長のメリット・デメリットをまとめると、代表的な部分は以下のようになります。

中小企業における65歳雇用のあり方と選択肢

このように見ると、技術や技能の習得に長い時間を要する製造業やサービス業においては、定年延長の対応がふさわしいと考えられます。
一方、職務の習熟が早く定型的な業務が多い業種では、継続雇用制度の採用が望ましいといえるでしょう。
このようなメリット・デメリットを整理した上で、自社にどちらの対応がふさわしいか判断が必要です。

定年制を定めている企業の割合

上記は定年制のある企業の比率と、定年年齢の変化をみた統計(厚労省)ですが、定年年齢を引き上げている企業はほとんど見られないことがわかります。

65歳以降の高年齢者の雇用の検討

高年齢者雇用安定法改正により、企業における希望者全員の65歳までの雇用確保措置が図られたことで、60歳代前半の雇用情勢に一定の成果が見られました。
しかしながら一方では、既に団塊の世代が継続雇用の終了を迎えているなど、65歳以降の働く意欲のある高年齢者への対応には課題が見られます。
65歳以降の雇用状況を見ると、約3割の企業で働くことができないとなっており、希望者全員が働くことができるとしている企業は全体の1割にとどまっています。

65歳以降の高年齢者の雇用状況

なお、65歳以上の社員が「希望者全員働くことができる」あるいは「希望者で基準該当者のみ働くことができる」としている企業では、7割超が雇用に関する上限年齢を設けていないという結果も示されています。
本人の意向や企業の人材不足の実態を踏まえ、高年齢者の積極的な活用も必要となっているといえます。
これまで解説してきた改正労働契約法への対応や非正規雇用労働者の戦力化に向けたスキルアップを図るための取り組みを推進していただき、自社の非正規雇用労働者の定着を図り、競争力を高めていただければ幸いです。

 

■参考文献
知って得する!非正規社員の労務管理(労働調査会)
今日からはじめる無期転換ルールの実務対応(第一法規)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。