2016年診療報酬改定の注目点、歯科訪問診療の実態と取組みポイント

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2016年診療報酬改定の注目点 歯科訪問診療の実態と取組みポイント

  1. 増加する歯科訪問診療ニーズと重点評価
  2. 中医協 特別調査にみる歯科訪問診療の実態
  3. 歯科訪問診療開始に必要な準備と連携強化
  4. 歯科訪問診療における報酬請求時の留意点

 


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1.増加する歯科訪問診療ニーズと重点評価

高齢化の進展にともない、高齢者の歯科診療受診患者は増加しており、3人に1人以上が65歳以上(65歳から74歳20.7%、75歳以上15.4%)となっています。
2014年診療報酬改定の中でも、「在宅歯科医療の充実等」が今後の取組の課題として挙げられており、歯科訪問診療は、患者からの需要の他、歯科医院経営の観点からも重要なポイントとなっています。

1.高まる高齢者の歯科需要

(1)増加する高齢者の歯科受診患者

全国の歯科診療所を受診する1日当たりの推計患者数を見ると65歳以上の患者数が増加を続けています。

加する高齢者の歯科受診患者

(2)診療報酬改定における重点評価

2014年の診療報酬改定より、在宅歯科医療、在宅療養、医科医療機関との連携等を行っている歯科診療所に対し、評価できるようになるなど、訪問診療に対して重点的に配分がされてきました。
今後もこの傾向は続くと思われます。

新規施設基準、歯科訪問診療2の見直し及び歯科訪問診療3の新設等

2.増加する歯科訪問診療等の算定患者数

中医協のH26診療報酬改定に係る特別調査の速報によると、平成23年と平成24年の9月の「歯科外来患者総数(1ヶ月延べ人数)」は2.1人のマイナスとなっています。
一方で「歯科訪問診療患者総数」「歯科訪問診療料1」「歯科訪問診療料2」「歯科疾患在宅療養管理料」「口腔機能管理加算」「訪問歯科衛生指導料」の算定患者1ヶ月延べ人数は下記の通り、全て増加しています。

歯科外来患者総数・歯科訪問診療患者総数・各種算定患者数

2.中医協 特別調査にみる歯科訪問診療の実態

平成26年12月、中医協より平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査の速報案が公表されました。
以下に、全国の在宅療養支援歯科診療所の届出を行っている歯科診療所2,000施設を調査対象とし、回答のあった1,106施設の主な調査結果について解説します。

1.歯科訪問診療開始の要因

近隣にある介護施設から直接の依頼や施設入居者の家族からの依頼により、歯科訪問診療を始めた医院が最も多く、施設入居者が通院していた医療機関からの依頼、歯科医師会からの依頼と続きます。

歯科訪問診療を実施するようになったきっかけ

2.訪問先状況

歯科訪問診療先としては、自宅が多く、次に介護施設等となっています。
また、歯科を標榜していない病院もあり、歯科訪問診療先への需要の掘り起こしはまだまだあると思われます。

訪問先状況

3.歯科訪問診療の実施時間帯

実施時間帯については、一般外来診療の時間を調整している診療所が27.6%と一番多く、次に昼休み又は診療時間外が25.9%、特定の曜日・時間に実施21.7%と続きます。

歯科訪問診療の実施時間帯

4.歯科訪問診療を行うスタッフ数

歯科訪問診療を行う職員数を見ると、常勤・非常勤を合わせた歯科医師は平均1.9人、歯科衛生士は平均2.7人、歯科技工士は平均0.3人、その他の職員は平均2.4人となっています。
訪問専門と外来診療併設では人数は違うと思いますが、一歯科医院平均値が7.3人、中央値が6人となっています。

職員数全体、常勤職員数

訪問対象患者数は着実に増加していますが、今後の課題として、外来診療を行いながら歯科訪問診療の時間をいかに確保するか、また、訪問診療の業務ができる歯科衛生士等スタッフの確保がポイントとなってきます。

3.歯科訪問診療開始に必要な準備と連携強化

歯科訪問診療を開始する際には、既存患者への認知活動や、医療機器の購入等の準備の他、医療機関との連携構築が必要となります。
以下に、そのポイントを解説します。

1.訪問歯科診療の認知活動

(1)既存患者への認知活動

訪問歯科診療の患者は、一般歯科のように、待っていても来院しません。
まずは、訪問歯科診療を始めたことを、知って頂くことが必要です。
通院している患者に、院内にてお知らせを掲示するとともにホームページでのお知らせ、お医者さんガイドのような雑誌へ掲載して、徐々に認知度を高めていきます。

(2)介護事業所等への認知活動

ターゲットとなるのは近隣にある介護事業所等です。
介護事業所にいるケアマネージャーから紹介を頂くか、既存患者に担当のケアマネージャーを紹介して頂く方法が最も効率が良いでしょう。
介護事業所といっても、さまざまな種類があります。
サービスで分類すると、入所系、通所系、訪問系です。
それぞれの特徴を学び、それにあった集患方法を構築していくことが必要です。
また、近隣の状況を知る方法の一つに、地域包括センターを利用する方法があります。
地域包括センターとは、2005年の介護保険法で定められた施設で、地域全体の保健衛生、高齢者を中心とした介護、社会福祉全般をマネージメントしている施設です。
ここで、近隣事業所のリストを入手することが出来ます。

主な介護事業所の種類

(3)歯科訪問診療の周知方法

歯科訪問診療実施の周知方法をみると、「診療室や待合室、受付・会計窓口などの歯科診療所内にポスターを掲示する」「ホームページで告知する」「介護関係機関等へリールレット等を置かせてもらう」と続いています。
その他、「地区歯科医師会支部へ働きかける」「地区のケアマネージャー等に紹介依頼を行う」等が有ります。
前章にもある通り、訪問歯科のきっかけは施設入居者からの要望(同居家族や知人友人への口コミ)が一番多いため、幅広い認知活動が重要となります。

歯科訪問診療実施の周知方法

尚、介護保険の居宅療養管理指導を請求する際には、院内に「居宅療養管理指導運営規定」「居宅療養管理指導重要事項説明書」を掲示しておかなければいけません。

2.訪問診療を行うための医療機器

在宅歯科診療には特別な医療機器等の準備が必要です。主な医療機器を下記に整理しました。

在宅歯科診療用の医療機器

3.他の医療機関との連携

訪問歯科を行うにあたり、他の医療機関との連携は必須となります。
歯科訪問診療の患者は必ず医科の訪問診療も受診していて、どのような急変にも対応できる体制づくりが必要です。
また、医療機関同士の連携から患者の紹介も出てくるため、単なる連携ではなく、情報の共有化を含めた医療機関との担当窓口や上部とのコミュニケーションをしっかり取ることです。
医療機関先としては、「一般診療所」「病院」、次いで「他の歯科診療所」となっています。

連携施設数

4.歯科訪問診療における報酬請求時の留意点

歯科訪問診療を実施する場合、診療報酬請求において外来診療と異なる項目、摘要欄の書き方等、留意しなければならない点があります。
以下にそれらの留意点を整理しました。

1.歯科訪問診療にかかわる診療料

基本診療料は外来診療と同じですが、特掲診療料と加算については、下記のとおりさまざまな算定項目があります。
特掲診療料は、医学管理と在宅医療に分かれます。

特掲診療料、在宅医療:歯科訪問診療料の加算分

2.診療報酬請求の摘要欄の書き方

歯科訪問診療の理由の第一は「通院ができない」ということですが、診療報酬請求の摘要欄に通院困難理由の記載が必要となります。
記載方法としては、「病名」「状態」「理由」の順序で短い文章を作成することです。

診療報酬請求の摘要欄の書き方

3.介護保険対象の居宅療養管理指導

居宅療養管理指導とは、歯科医師が行う医学管理上の指導、歯科衛生士が行う口腔ケア等に係る実地指導のことです。
居宅には、グループホームや老人ホームなどの介護施設も含まれますが、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養型医療施設は含みません。

介護保険対象の居宅療養管理指導

4.介護保険の給付調整

(1)医療保険の算定ができない項目

介護保険で歯科医師が行う(介護予防)居宅療養管理指導費(503単位または453単位)を算定した場合には、以下の医療保険の項目は算定できませんので、注意が必要です。

医療保険の算定ができない項目

また、居宅(居住系施設も含む)で介護保険の要支援・要介護認定を受けた患者の場合についても同様に、以下の医療保険の項目は算定できません。

算定できない医療の項目

(2)介護施設と居宅扱いの違い

一般的に介護施設という言葉は、広く使われていますが、保険請求上は「施設扱い」と「居宅扱い」が明確に区分されています。
施設扱いとなるものは、いわゆる介護3施設のみで、有料老人ホームやグループホームなどは、居宅扱いとなります。

介護施設の取り扱い

■参考文献
厚生労働省HP
中医協 平成26年度診療報酬改定に係る特別調査
中医協 平成23年度在宅歯科医療及び障害者歯科医療の実施状況調査
一般社団法人 日本訪問歯科協会 医療事務ゼミナール 特別講座
東京都8020運動推進特別事業 はじめての在宅歯科医療 東京都福祉局発行

 

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