- 2020年 経営実績とその傾向
- 2020年 収入上位診療所の経営実績
- 2020年 収入ランク別経営実績
- 2020年 医療法人経営指標分析結果
- 優良クリニックの経営改善事例
1.2020年 経営実績とその傾向
1.2020年経営実績の概要
本調査は2020年の決算書に基づいて、実数値から経営状況を把握することを目的としています。
その上で、連続して調査を実施している2019年との比較を通して、改善または悪化の状況を分析しています。
抽出したデータは、2021年3月までに決算を終えた歯科診療所309件(医療法人89件、個人開業220件)の数値を抽出し、平均値を算出しています。
なお本分析では、役員報酬を除外、個人データについては専従者給与を同じく除外しています。
2.全体動向と利益の傾向
(1)全体動向
2020年における歯科診療所の経営実績は、2019年と比較して減収減益となりました。
コロナ禍の影響と消費税増税の影響が出ていると思われます。
保険診療収入は0.8%減、自由診療収入は2.0%減少しています。
(2)利益状況
限界利益、医業利益ともに減少し、限界利益が前年対比97.8%、医業利益は同97.5%という結果となりました。
3.医業収入の傾向
医業収入の実績は、下記のとおりです。
医業収入合計では、対前年比98.9%となり、保険診療収入が0.8%、自由診療収入が2.0%の減少となっています。
4.医業費用の傾向
(1)医業費用対前年比較
医業費用の実績は、次のとおりです。
変動費は3.8%、人件費は1.7%の増加、その他固定費は4.2%減少しました。
なお、人件費には、役員報酬及び専従者給与は含まれておりません。
それぞれ個別に集計し、参考データとして掲載しました。
役員報酬の母数は89件、専従者給与の母数は118件です。
(2)医業費用の傾向
2.2020年 収入上位診療所の経営実績
1.収入上位診療所の経営実績の概要
第1章で分析した歯科診療所309件(医療法人89件、個人開業220件)の決算書より、医業収入上位20%を抽出し、経営データを集計しました。
対象は62件で、内訳は医療法人46件、個人開業16件となっています。
なお本分析では人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
2.収入上位診療所の動向と利益の傾向
(1)経営動向と利益状況
2020年歯科診療所全体の経営実績は、収入上位診療所では増収増益となりました。
保険診療収入、自由診療収入も増加しています。
(2)利益動向
限界利益が3千円の微増で、医業利益が増加となりました。
限界利益が対前年比100.0%、医業利益は同103.8%という結果となりました。
3.医業収入の傾向
収入上位診療所の医業収入の実績は下記のとおりです。
医業収入合計では、対前年比100.6%となっています。
保険診療収入、自由診療収入とも伸びを示しています。
(1)医業収入 対前年比較
(2)医業収入分析結果
4.医業費用の傾向
(1)医業費用対前年比較
医業費用では、変動費は3.3%増加し、人件費△8.8%、その他医業費用は7.6%、それぞれ増加しています。
なお、人件費の取り扱いは前述の通りで、役員報酬の母数は46件、専従者給与の母数は12件となります。
(2)医業費用分析結果
3.2020年 収入ランク別経営実績
1.収入ランク別経営実績の概要
本分析で抽出したデータは、2020年に決算を終えた歯科診療所309件(医療法人89件、個人開業220件)から、医業収入が年間5千万円未満、5千万円以上1億円未満、1億円以上に分けて、分析しました。
第2章のデータ同様、個人開業に統合したため、人件費から役員報酬と専従者給与は除いています。
医業収入別の個別データは、次ページ以降に掲載しました。
収入ランク別に集計した主要データは、下記のとおりです。
2.収入ランク別診療所経営実績分析結果
(1)医業収入5千万円未満の診療所の平均データ
医業収入5千万円未満診療所の歯科診療所は、減収減益となりました。
医業収入は1,860千円の減少(対前年比△5.7%減)、また医業利益は1,000千円の減少(同△9.2%減)となりました。
人件費は増加していますが、他の経費を節約し、医業収入の減収分をカバーした結果だと思われます。
(2)医業収入5千万円~1億円の診療所の平均データ
医業収入5千万円~1億円の歯科診療所は増収増益となりました。
医業収入は702千円の増加(対前年比1.0%増)、医業利益は、509千円の増加(同2.2%増)となりました。
これは、医業費用の内、人件費は増加しましたが、他の経費の節約による結果だと思われます。
(3)医業収入1億円以上の診療所の平均データ
医業収入1億円以上の歯科診療所は、増収減益の結果となりました。
医業収入は、1,024千円の増加(対前年比0.7%増)、医業利益は2,189千円の減少(同5.7%減)となりました。
4.2020年 医療法人経営指標分析結果
1.医療法人経営指標分析結果
本章では、医療法人歯科診療所81件の貸借対照表の数値から経営指標を算出し、収益性、生産性、安全性、成長性の4つの視点で分析を行いました。
第3章までの分析は、医療法人・個人開業のデータを合算しましたが、経営指標分析においては医療法人歯科診療所を対象としています。
●2020年 比較損益計算書 医療法人無床診療所平均
経営分析に必要となる主要損益数値は、次のとおりです。
役員及び職員数についてはその平均値から、役員3名および、職員数7名の計10名で計算しています。
2.収益性分析結果
3.生産性分析結果
4.安全性分析結果
5.成長性分析結果
5.優良クリニックの経営改善事例
1.前年対比で増収となった歯科診療所の割合
本章では、前年対比で増収となった歯科診療所の取り組み事例を紹介します。
2020年に決算を終えた歯科診療所309件のうち、コロナ禍の影響もあり、前年対比で増収となったのは67件で全体の21.7%でした。
法人・個人別の割合は、法人開設89件のうち、19件で法人全体の21.3%でした。
個人開設220件のうち、48件で個人全体の21.8%でした。
前年対比の伸び率の平均は、個人開設が117.8%、法人開設が108.9%でした。
2.新型コロナ感染対策をアピール
患者が来院を躊躇するのは、新型コロナの感染が不安なためです。
増患を図るというより、来院患者の減少を抑えるためにも新型コロナ感染症対策を十分に行っているというアピールを十分に行い、患者の来院への安心安全を与えることが必要です。
(1)標準予防策の徹底
新型コロナウイルス感染の前から、医療では院内感染防止への取り組みが法律で定められています。
まずは標準の感染予防を徹底します。
(2)院内感染を防止するために
新型コロナウイルス感染の原因としては、飛沫感染と接触感染からの発症が多いとされます。
「3密」からの感染防止にもつながります。
(3)SNS広告からの情報発信
インターネット活用の情報発信が重要です。
情報収集がパソコンからスマホへ変わってきているため、スマホ対応が必須になってきています。
3.支援策の活用とコスト管理の徹底
(1)助成金・給付金、無利子等の借入の活用
新型コロナウイルス感染症拡大により、特に大きな影響を受けている事業主に対して、事業の継続を支え、事業に活用できる支援策があります。
(2)コスト管理の徹底
コロナ禍における感染対策費の他、消費税増税による経費増加が如実に表れています。
診療材料や技工物、事務消耗品費等の増加に対し、全体的なコスト管理は重要です。
4.院内ミーティングの開催
(1)院内ミーティングの実施
新型コロナウイルス感染症に対し、患者はもちろん、一番身近に不安を感じているのはスタッフです。
医療機関のスタッフは診療への責任感から働いています。
不安解消や安心・安全の確保、モチベーションの保持等に院内ミーティングは欠かせません。
(2)コロナ禍における院内ミーティングの議題
新型コロナウイルス感染症は、発症状態や感染方法、最善の治療方法は不透明です。
ワクチン接種に関してもその成果や副反応等が明確にはなっていません。
コロナ禍における新たな診療理念や経営方針、診療体制等、今後の医院運営をどうしていくのかをスタッフに伝え、スタッフの不安を払しょくすることが重要になります。