適切な対応で患者満足度向上につなげる患者クレームの要因とその対処法

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適切な対応で患者満足度向上につなげる患者クレームの要因とその対処法

  1. 患者クレーム増加の背景と要因分析
  2. クレームを予防する事前対策
  3. クレーム発生時の対処法
  4. 代表的な事例と対応における留意点

 


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1.患者クレーム増加の背景と要因分析

現在、インターネットを活用したSNSなどの普及により、歯科医療知識にも触れやすくなっているとともに、歯科医療に対するニーズの複雑化、多様化が起こっています。
しかし、その中には間違った医療情報や一方的な悪評判・悪口も多々存在し、患者はその見分けがつかず、そのまま信じてしまうということがあります。
その情報を鵜吞みにして、受けた診療によって生じた疑問や不満を、歯科医院へクレームとしてぶつける、という流れになっています。
このようなマイナス情報を、プラスの力として変えるために、患者からのクレームを歯科医院への強い要望と捉え、予防対策を講じて患者満足度向上につなげる必要があります。

1.クレーム増加の背景

歯科診療を行う上で、法的な問題が生じることは確かにあります。特にここ数年、患者から歯科医師会、保健所、弁護士事務所等への「医療ミスではないか」という相談件数が増加しているようです。
しかし、年々医療技術が発達している状況と歯科治療機器の進化している現状を考えるとミスが増加しているという事は考えられません。
あるとしたら、TVやラジオ、インターネットやSNSの発達で、様々な情報があふれていること、また、患者の権利意識が高まったこと、そして少数であっても対歯科医院に損害賠償等を行った事が広まっているという事が考えられます。

クレーム増加の背景

2.患者クレームの要因分析

(1)診療行為・診療内容に関する項目

診療行為や内容に対するクレームは様々あります。
実際の診療行為に対するクレーム以前に、診療に関する説明不足から発生しているという事例もあります。
インフォームドコンセントやコミュニケーション不足があり、診療後も治らないといったクレームも、事前の説明不足等が一因となっている事があります。
その他、待ち時間が長い、予約しているのに待たされる、受付会計専門が居ないため、受付時や会計時に時間がかかる、といったものもあります。

診療行為・診療内容に関する主なクレーム内容

(2)コミュニケーションに関する項目

スタッフへは、病状を診るだけでなく患者自身を観ることが重要だと指導する必要があります。
患者との関係を良くするだけではなく、上記の診療行為へのクレームの原因となる「説明不足」の解消にもコミュニケーション能力の向上は重要なポイントです。

コミュニケーションに関する主なクレーム内容

(3)医療情報の取り扱いに関する項目

現在、多くの医療機関で診療の明細書を領収書と合わせ発行していることと、個人情報保護法の浸透のため、診療の記載内容についての質問や治療が適切だったかどうか開示を求める事例が出てきていますが、カルテ開示や個人情報の開示については慎重に行う必要があります。
患者本人からではなく、身内や知人友人、と名乗る方や保険会社や弁護士からも開示の連絡が来ることがあります。
本当の方かどうかの確認や開示請求の理由を証明してもらい、開示する必要があるかどうかを判断することが重要です。

医療情報の取り扱いに関する主なクレーム内容

(4)医療費に関する項目

医療費に対するクレームとしては、自由診療の費用が「高い」「他医院より高い」、または「治療したのに痛みが治まらない、補綴物が合わない」等で医療費返還を求めるもの、「説明が無いまま痛くない歯まで診療されたので医療費を払わない」等があります。

医療費に関する主なクレーム内容

(5)医療施設、医療機器に関する項目

医療施設や医療機器に関する項目としては、スピットンが汚れている、うがい用の水に臭いがある、バリアフリーになっていない等、様々なクレームが出ています。

医療施設、医療機器に関する主なクレーム内容

2.クレームを予防する事前対策

クレームの対処方法の確立も大事ですが、クレームが起こらないようにする予防への取り組みが必要です。
診療の技術向上の研修や患者との接遇力、コミュニケーション能力の向上、診療行為への患者との書面による契約、バリアフリーへのリニューアル工事、治療ユニットの大掃除、予約システムの導入等による待ち時間対策等、様々な手法があります

1.クレーム予防対策

(1)診療への技術向上対策

外部への臨床研修やセミナー(コロナ禍のためリモートによる研修等)への参加や、院内で実技指導を繰り返し行います。
土日や夜間の診療を行っていると研修時間を取ることは難しいかもしれませんが、診療の質の向上のために時間を取りましょう。
一つひとつの診療行為も大事ですが、受付から診療、検査、会計まで一貫した模擬診療もクレーム防止に役立ちます。
患者役はスタッフに行ってもらいます。
普段当たり前に行っている患者応対が、第3者の目には、態度や言葉使い、表情、会話のタイミング等で気になる点が出てくるかもしれません。診療技術だけでなく、接遇力向上につながります。

診療への技術向上対策

(2)コミュニケーション能力の向上対策

クレームで多いのが、患者の話を聞かない、説明がない、もしくは説明が少ないといった内容です。
初対面になる初診時からコミュニケーションを取れるよう研修が必要です。
コミュニケーションを上手に取る方法は、話し方と聞き方です。

コミュニケーション能力の向上 話し方と聞き方

(3)医療施設、医療機器に関してのクレーム対応策

診療ユニットの汚れや色落ち等への最終手段は入替ですが、定期的な大掃除の実行や専門の清掃業者による清掃で落ちる場合もあります。
また、シートの色落ちや傷等は張替ができる機種もあるので、メーカーに確認しましょう。
トイレの洋便器取り換えやシャワー付き便座、手すりの取り付けは比較的簡単にできますので、設備会社等へ見積りの依頼をして検討します。
バリアフリー工事はそれ自体に必要な面積もありますし、建物の構造も関連するため、まずは建築会社に医院を見てもらい、計画立案と見積りを依頼して検討します。

医療施設、医療機器への対応策

2.契約によるクレーム予防策

自由診療においては、高額な治療費に対し、保証を付けることがほとんどです。
また、インプラント等を含む最新医療・高度医療となるため、治療期間が長いことや技術の高さが求められます。
そのためクレームも多いので、口頭での診療契約ではなく、診療契約書を取り交わし、細かな条項を設定することによるリスク回避を図る必要があります。

診療契約の必要性、契約内容

3.待ち時間へのクレーム対策

(1)待ち時間対策

待ち時間を無くす対策には様々な方法があります。
スタッフや患者の時間を守るという意識改革を行う方法、カルテ作成時間短縮の方法、自動予約システムの導入、カウンセリングを行い、待ち時間としない方法等があります。

待ち時間対策

(2)予約システムの導入

歯科医院予約システムは費用が掛かりますが、様々なメリットがあります。
予約対応する担当者が新人でもできる、中断患者・無断キャンセルの減少、症状別による予約受付と管理、365日24時間の予約ができる等です。

歯科医院予約システムのメリット

3.クレーム発生時の対処法

クレームの多くは些細なことをきっかけにして発生します。「クレームになりそう」と感じた場合には、すぐに適切な対応を取る必要があります。

1.クレーム対応のルールづくり

クレームが発生した場合を想定してルールを決めておくことが重要です。
誰が応対するのか、記録を付け、冷静に対応することがポイントです。
その場しのぎで損害賠償や金銭での解決を図るようなことは逆効果になる可能性があります。

クレーム対応のルール、クレーム対応時の禁止事項

2.クレーム対応時の注意点

クレーム対応時には様々な注意点があります。
ルールに基づいて対応するのは基本ですが、その場でなければ判断がつかない場合もあります。
その時の患者の感情やクレームの対象となったスタッフの思い、事実と思い込み等、はっきりしていることと、目に見えないことが混在しているのが当たり前です。その現状を踏まえ、対応しなければいけません。
患者とスタッフ双方の思いと事実を聞取りし、その上で患者に対応する必要が有ります。

クレームを聞く際のポイント

スタッフは通常の行為のため「患者がこう思っているはずだ」という思い込みがあるかもしれません。
また患者側も同様に「自分の思いや要望・期待が通じているはず」という思い込みもあるかもしれません。
この気持ちのズレから発生しているクレームも多々あります。
客観的事実をつかみ、当事者同士の思いと感情を理解した上で解決策を探る必要が有ります。

3.一般的なクレームなのか、クレーマーなのかを見極める

一般的なクレーム以外に、常に威圧的な態度や大声で騒いだり、悪評判を流布したりするクレーマーも存在します。
暴言や暴力、金銭要求等の大きな問題となった場合の対策も講じておく必要が有ります。

(1)暴言や暴力を振るわれた場合の対応

安易に制止しようと身体を抑えたり、収めようとして原因や事情を知らないのにすぐ謝罪したりはせずに、まず加害者の近くから避難し(非常ベルなどの設置も有効)、警察に連絡します。
その場にいた他の患者、スタッフなどの関係者の証言をまとめ、日時等を明記の上、それぞれ署名をもらい証拠を作ります。
防犯カメラは目立つ所に設置して、存在をアピールすることで暴力・暴言を抑止することもできます。
その際、入口に「防犯上の理由からカメラを設置し、画像を記録しています」等を院内掲示すれば、個人情報保護法やプライバシーの問題は発生しません。

(2)金銭等を求められた場合の対応

その場では話を聞くだけで、結論を出さないようにします。
次回の日付を確約し(あまり長い時間を空けず、また、しっかり準備できる時間を確保する)、一度帰宅してもらいます。
それに応じなかったら弁護士や警察等に即時連絡を取りましょう。

金銭等の請求が出た場合の対処法

クレーム発生後に、スタッフから正確な事情を聞取りし、正悪の判断をすることは必要です。
ただし、スタッフ側の責任だとしても、起こることが想定されるミスの場合、必要以上な叱責と処分は他のスタッフのモチベーションにも影響します。
ミスが起こらないような研修・教育、チェックシステムを構築し、スタッフを守ることも院長の責務です。

4.代表的な事例と対応における留意点

クレームが発生し、その対応を間違うと訴訟になることもあります。
ただし前章でもあった通り、医療は必ず病気を治すことを確約できません。
治療をすることを委任されているだけであり、このような契約を準委任契約といいます。
結果を出すことは受託者の義務ではありません。
そのため、ミスのない診療で完治しないことは問題ないとしても、説明をしていない、医療ミスがあった、接遇に問題があった等、別な要素へのクレームに対しては、謝罪や損害賠償等の責任が発生する可能性があります。
クレーム対応の事例を知り、自医院でもし起こった場合に備えておくことも必要です。

1.長い待ち時間と緊急時受付可へのクレーム

クレーム内容、トラブルに至った原因と解決内容

2.勝手に歯を抜かれたため、患部の出血が止まらず腫れている

クレーム内容、トラブルに至った原因と解決内容

3.治療費が高い

クレーム内容、解決内容

 

■参考資料
「歯科医院の医療過誤とクレーム対策の実際」セミナー より
講師:株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久 氏
モリタDENTAL PLAZAホームページ: クレーム対応の注意点 より
厚生労働省:療養担当規則 より

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