患者ファン化につながるコミュニケーション能力アップ手法

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患者ファン化につながるコミュニケーション能力アップ手法

  1. 歯科医院に不可欠なコミュニケーション能力
  2. コミュニケーション能力アップ手法
  3. コミュニケーション能力アップ事例

 


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1.歯科医院に不可欠なコミュニケーション能力

歯科医院経営を行う上で、患者さんとスタッフとのコミュニケーションを取ることは必要不可欠となっています。
コミュニケーションは、社交術や交渉術としてだけではなくマネジメントにおいても大きな役割を発揮します。
コミュニケーション能力の向上は、組織の結束を高め、歯科医院経営を発展に導くことになります。

1.患者はコミュニケーションを要望

複数の歯科医院において実施した患者アンケート調査の結果から、患者さんへの説明や、患者さんの話を聞いてくれる等、患者さんとのコミュニケーションへの要望が多くありました。
高い治療技術よりも説明や傾聴など、患者さんはコミュニケーション力を望んでいます。
院長やスタッフのコミュニケーション力は非常に重要なスキルといえます。

患者アンケート調査にみる歯科医院に求める要望、患者さんが望むスタッフ像

2.患者ニーズの把握と信頼獲得

(1)患者ニーズの把握

歯科医院側が提供する医療技術と患者が求める医療技術が連動していなければ、患者満足度向上は図れません。
そのためには、患者が取り戻したい健康のレベルを聞き出し、それを理解することが必要です。
また、医療のプロとしての治療方針を判りやすく説明し、理解して頂くことができなければ、患者満足は生れません。
情報を引き出し、また、提供する医療を理解してもらうといった一方通行ではない、コミュニケーションが必要となります。

(2)患者さんや院内スタッフからの信頼獲得

患者さんやスタッフからの信頼は、歯科医院経営の基礎となります。
患者さんから支持される歯科医院になるためには、患者さんとの信頼関係を築くことが前提となります。
また院長の立案した様々な目標を達成するためには、スタッフとの信頼関係が不可欠です。
たとえば、業務の中でミスをなくす努力をすることは大切ですが、もっと大切な事は、ミスが発生した時にしっかりリカバリーすることです。
そのことがスタッフからの信頼を得ることにつながります。

3.歯科医院経営とコミュニケーション

(1)コミュニケーショ能力の高い人とは

コミュニケーションを取るのがうまい人というと、相手に情報を伝えるのがうまい人(交渉力や渉外力がある人)をイメージする方が多くいます。
しかし、コミュニケーションは、情報の発信と受信がそろって初めて成立します。
よって、コミュニケーション能力が高い人は、発信だけでなく受信もうまい人ということになります。

コミュニケーション能力の高い人

コミュニケーションの最終目的は、ある種の等質性や共通性を持つことです。
他者から受け取った情報から相手の心理状態を理解・共感したりすること(他者理解)が出来る人がコミュニケーション能力の高い人といえます。

(2)満足度向上で患者をファン化

患者さんの満足度向上は、患者数の確保、紹介率の向上、自費率アップにつながります。
満足度向上のカギは、患者さんからいかに情報を引き出すか、歯科医院側の情報を判りやすく患者さんに理解してもらえるかにあります。
この「情報を引き出す」、「提供した情報を理解してもらう」ということがコミュニケーション能力になります。

患者満足度向上につながる医療の提供とコミュニケーション能力

患者さんの心は、痛みやその痛みからの不快感、病気やケガに対する知識不足による不安感で占められています。
患者さんの望む治療を行うには、症状を正しく聞き出す事はもちろん、心に抱えている不安感や疑問、治療後の望む健康状態と生活まで、理解することが理想です。
コミュニケーション能力を高めることで、患者さんが望む治療と治療後の生活を提供することができるようになり、結果的に患者満足度向上につながります。

(3)患者満足度を高めるポイント

患者さんの気持ちを正しく理解しないまま治療してしまえば、医学的にどんなに正しいことであっても患者さんには不満が残ります。
まずはしっかり聴く事から始めるのが重要です。
ただ、患者さんの訴えをただやみくもに聞くだけでは対処もうまい応対も出来ません。
聴く事にもテクニックが必要です。
患者さんが自分の状態をどのように理解しているかを把握するためにも「どのように聞くか、話させるか。」が重要になります。

「聴く・話させる」ポイント

病状を治療するだけでなく、その周りにある感情に対しても対応し、不安を取り除く事で満足度が大きく変わってきます。

(4)医療相談機能を強化し情報収集

歯科医師やスタッフとしてだけでなく、相談担当者として生活指導はもちろんのこと、医療費の相談にものることが必要です。
一番多いのが医療費の相談です。治療方法と保険診療・自費診療に関して説明する際、費用の事を良く聞かれることが多くあります。
治療の継続のためには、歯科医師やスタッフも診療の中で、患者さんの経済状況などを把握し、患者さんと相談しながら治療法、治療材料を決める必要が出てきています。
茶話会や相談会を開き、患者さんからの意見を聴く機会を設けている医院もあります。
投書だけではなく、患者さんの生の声を聴き改善策を策定しています。
患者さんの立場で物事を考えられるようにするのが狙いで、治療中に受けた良いサービス、悪いサービスなどを患者さんに率直に語ってもらいます。

患者さんからの相談内容

(5)コミュニケーションが歯科医院経営を変える

一般企業において「顧客満足」ということがよく言われます。多くの企業はお客様のための「満足する商品開発」「満足するサービス」を考え、企画しています。
真の顧客満足とは、社員やスタッフが仕事にやりがいや誇り、そしてモチベーションを持った結果の副産物として生まれてくるものです。
「顧客満足」も重要ですが「スタッフ・社員満足」も重要となります。
歯科医院においても同様に、院長自らがコミュニケーション能力を高め、スタッフに仕事をしている意味を理解してもらい、クオリティの高い業務をしてもらう、その結果が「患者満足度の向上」につながり、患者ファン化になっていきます。
医院も企業も「人」によって決まります。
コミュニケーションが歯科医院経営を根本から変えていくカギになります。

2.コミュニケーション能力アップ手法

1.相手への気持ちの持ち方

コミュニケーション能力とは、「観る(把握・理解する)」「聴く」「話す」の三つの要素から成り立ち、ヒューマンスキル(人間力)と密接な関係があります。
相手との信頼関係構築がなされ、その上での情報提供と情報交換、意識の共有化につながっていきます。
その根底には、「自分と相手に対しての尊厳の気持ち」を持つことが大事なポイントとなります。

2.相手の個性・感性の許容

各人が持っている感性や価値観は異なっています。
同じものを見たり体験しても、感動や感想等、反応は様々です。
個性の違う人と円滑なコミュニケーションをとるには、まず相手に対する尊厳の気持ちを持ち、同時に自分に対して尊厳の気持ちを持ちながら相手を観察し理解し認めていくことが大切になります。
会話においても相手はどのような意図でその言葉を発したのか何が伝えたかったのかどのような表現をする傾向があるのかを考えるようになります。

コミュニケーションの前提は相互理解

このように異なる個性同士の間で情報を授受し、理解し合おうと思うならお互いの個性に対する尊厳を持つことこそが、コミュニケーション能力の根底にあるもっとも重要な部分なのです。

3.聴くというコミュニケーションスキル

(1)患者さんの話を聴く

「聴く」は「意識的に相手の話を聞こうという状態」のことです。
患者さんに興味を持ち「相手が何を伝えようとしているのか」「相手の言いたい事は何か」を考えながら聴くので、患者さんの意図や真意伝えたい内容を聴き取ることができます。

(2)正しく聴くための3手順

しっかり患者さんの話を聴くためには次の三つの手順を踏むことです。
患者さんが話しやすい態度を意識的にとることで相手は離しやすくなりこちらも情報を引き出しやすくなります。
また、患者さんから話を聴こうとする姿勢をとることで聞き手である自分の耳にも話が入りやすくなるという効果も生まれます。
人間の心理は態度を意識的に正すことで心理もコントロールできます。

話を聴く3手順

(3)質問により理解を深める

正しく聴くということは、正しく理解しているかを確認する必要があります。
話を聴いても患者さんの意図することや真意とは違う意味に受け取ってしまったのでは、コミュニケーションは成立しません。
正確に聴き取ったかを確認するには、質問の形で患者さんの話した内容を繰り返したり自分の言葉で言い換えたりすると間違いは少なくなります。

(4)感情の汲み取り方

正しく聴き取ることに合わせ、その話を通して患者さんが意図するところや感情を理解してあげるように意識することも大切になります。
患者さんの感情をないがしろにして事実に関する情報の授受だけでよいものではありません。
患者さんの話の内容を正しく理解することは、患者さんの意図するところや感情についても察することにつながりますし、患者さんは「理解されている」と感じて非常に安心して話せるようになります。
そのため、こちらの意見も患者さんに受け入れてもらいやすくなります。

感情の扱い方

4.話すというコミュニケーションスキル

(1)個性や感情を意識して話をする

コミュニケーションというと、伝えることばかりに目がいきますが、相手の話を聴く姿勢・基礎ができていないと、どんなに良い話をしても聴いてもらうことは難しいです。
話をするとは単なる言葉のやり取りをすることではありません。
相手の感情を意識して話をすることが大切なのです。

コミュニケーションにおける心理階層

情報を伝える時は、正しくわかりやすく伝えることにプラスして、相手の個性を尊重し、「相手を理解し、相手に配慮して、自分の思ったことを正直に伝える」ことを心がける必要があります。
人間はだれしもが、自分の置かれている状況・立場・気持ちを理解してほしいと思っています。
ですから相手が自分のことを理解・配慮してくれていることを感じ取ると相手の言い分を受け入れやすくなります。
その点をしっかり意識していれば、円滑なコミュニケーションをとることができるようになるのです。

(2)タイプ別コミュニケーション法

人のキャラクター(生来からの気質・性質)は「感情優先型」「行動優先型」「思考優先型」という大きく3つの類型に分類することが出来ます。
この類型に合わせたコミュニケーション方法を取ることが重要となります。

(1) 「感情優先型」

感情優先型の人は人間を重視するタイプです。
周りとの人間性を重視し、仲間や家族を大切にし、「和」を求める傾向があります。

「感情優先型」とのコミュニケーション方法

(2) 「行動優先型」

「行動優先型」の人は本能的な直感やタイミングを重視し行動するタイプであり、すぐに行動を起こす傾向があります。

「行動優先型」とのコミュニケーション方法

(3) 「思考優先型」

自分のペースや世界を重視するタイプで、思い通りにしたいという気持ちがあります。
計画性に優れ、物事の運び方や進め方を大切にする傾向があります。

「思考優先型」とのコミュニケーション方法

3.コミュニケーション能力アップ事例

1.場面別コミュニケーション

相手や目的、場面に応じて、自分の思いや考えを適切に言葉で表現したり、伝えられたことを正しく理解したりすることは極めて重要です。
わかりやすく的確に話すことで、想いなどが正しく相手に伝わり、人と人がよりよい関係を結ぶことにつながります。
わかりやすく話すポイントは、論理的思考力です。
論理的に話を組み立てることによって、筋の通ったわかりやすい話となるのです。
歯科医院という場面に立ち、話を整理していくことが、患者さんの理解を深める近道です。
そして、話す目的を明確化することが最初のステップです。

主要な3つの「話す目的」とは

「なぜ、この内容を話すのか」という話の目的をはっきりさせると、話題も選びやすくなり、難しい話題でも話が組立てやすくなります。

2.タイトルと結論の確認

(1)タイトルを付ける

話が上手に組み立てられないと、いきなり話が始まるうえに、話題があちこちに飛び、要点が理解を得られず、何について話をしているのかわからないまま終わってしまうということが多々あります。
このような話し方は、患者さんに混乱を与え、不安をあおることにもつながるため、話の最初に何について話すかを明確にすると、話の内容が伝わりやすくなり、患者さんも聞く準備や姿勢を整えることもできます。
この最初に話す項目が「タイトル」です。
「これから○○について説明します」と前置きするだけで、話が伝わりやすくなります。

(2)結論から始める

何を言っているのか解らない話ほど、聞き手はイライラを募らせ、混乱します。
結論から始まり、その内容について説明される組立てであれば、聞きやすくなるものです。
患者さんは待ち時間の長さや痛みによって、感情が過敏になっています。
患者さんに対して不快な思いをさせることなく、聞きやすい会話・説明をするためにも、「結論」を先に話すよう組み立てる必要があります。

3.受付時会計時の応対

(1)受付

受付は、歯科医院の顔です。
最初の来院受付時の応対がその医院を印象づけるといっても過言ではありません。
医院を代表している立場と意識して応対しましょう。

(2)会計

会計はスピーディーに行います。
診療後は、心を込めてねぎらいの言葉を掛けます。
会計時に予約を取ることもあります。
次回の支払が高額になることが予想されるのであれば、予め金額の概算を伝えるなどの気配りが重要です。
会計・予約の手順ごとに説明し、確認します。
会計の最後には、温かみのある言葉であいさつをし、見送ります。

4.診察時の注意ポイント

診察室では、解りやすい説明が重要です。
「解りやすい」「質問しても嫌がられない」「解るまで説明してくれる」という要望は、いつも寄せられます。
そのため、「説明する」ではなく、「説明内容を十分伝える」ということを意識して対応します。

診察時の応対のポイント

患者さんの不安である気持ちを考え、回答が楽になる話し方や言葉使いを覚え、安心と信頼を得られる会話を心がけます。
院長が患者さんと信頼関係が築けるということは、スタッフとの関係も良好に築けるということです。
また、言語によるコミュニケーションは、患者さんに対しては、クレームを少なくし、ファン患者の増加を意味します。
一方、スタッフに対しては、「ほう・れん・そう」が円滑に運用され、医療事故防止に向けた有効な対策になります。
さらにはスタッフのモチベーションアップにもつながり、院内が活性化することも期待できるのです。
正しい言葉遣いを身に付けるとともに、言語による十分なコミュニケーションを図るための取り組みを院内全体で推進することが重要です。

5.治療とコミュニケーションの分離を図った事例

患者さんとのコミュニケーションをしっかりととるため、歯科コーディネーターという役職を作り、カウンセリングを行っている歯科医院があります。
カウンセリング時に患者情報を収集し、歯科医院からの情報と治療の提供をし、患者理解を深めるため、時間を設けて分離させています。

(1)治療の前にカウンセリングを実施

多くの患者さんは、本来あまり馴染みの無い歯科医院という場所で、歯科医師から専門的な話しをされても、なかなか理解出来ないことが多い上に、歯科医師と患者という立場では、気軽に質問もしにくいものです。
自分と同じ目線で相談に乗ってくれる良きアドバイザーを求めています。
コーディネーターが歯科治療の専門的な部分、特に一般人には判りにくい難解な部分まで理解している必要は有りません。
治療の前にカウンセリングを行い、患者さんの不安を取り除き、ニーズを顕在化させてメンタル面のサポートを行ってから治療に入ります。
それは歯科医師がコミュニケーションを取らなくても良いということではなく、その負担が軽減されるということです。

(2)治療とマーケティングの融合

患者さんは治療技術の高い先生の所で診てもらいたい、安心して治療にかかりたいという潜在的なニーズを持っています。
院長の治療技術について、長年の研修、専門医・認定医、治療理念など、患者さんに知ってもらわなければいけません。
この状態を改善する方法の一つがカウンセリングシステムです。
第三者であるコーディネーターが先生を紹介し、アピールします。
色々な情報提供を説明と院内パンフレット等の情報誌によって、来院者と同じ目線のコーディネーターから受けると信頼関係が築かれていき、結果として院長の歯科医療に関する考え方・治療方針が患者さんに浸透していきます。

(3)カウンセリングの意義をスタッフへ正しく伝達

カウンセリングを導入しているのは、「自費率を向上するため」という歯科医院があります。
しかし、院長が「自費診療の収益を高める為だけ」という認識で導入しようとすると様々な問題が起こってくる可能性が有ります。
「金儲け主義」「セールス」とスタッフが思いこむと拒否反応を起こします。
歯科医院側としては、院長先生の医療理念、治療方針はどういうものなのか、どういう分野に力を入れてきているのか、得意分野はなにか等の目に見えない部分を伝えていく必要があります。
カウンセリングを行った結果、自費診療が増加してという事に過ぎないのです。
コーディネーターが院長と患者さんの架け橋になる事で、患者ニーズをくみ取り、医院側が伝えたいメッセージを、顕在化させていく事がカウンセリングのもっとも重要な意義であるといえます。

6.院長のコミュニケーション能力アップが重要

個人が持っている力を最大限に出すのは、高いモチベーションを持って、気分よく働いてもらうことが必要です。
細胞が元気でなければ、体全体も元気にならないように、個人のモチベーション(もちろん、全体目標達成に向けての)が高くなければ、組織全体のモチベーションアップもできません。
とくにトップが男性で、スタッフに女性が多い歯科医院では、トップに注意されると、そのトップの前では態度を変えるものの、そのトップがいないところでは、他のスタッフに気分悪く接するということがよくあります。
こうなると、スタッフ一人のモチベーションのダウンが組織全体のモチベーションダウンにつながることになります。
スタッフに気分よく働いてもらうというのは、決してスタッフに媚びるということではなく、全体目標を達成するためにすべきことなのです。
全体と個という両方の視点で見ながらコミュニケーションをとっていくことがパフォーマンスの高い強い組織を築いていくことになります。
院内コミュニケーションの目的が目標を達成できる組織の構築にあることを忘れないでください。

 

■出典(参考文献、引用文献)
『患者様をファンにする最強のコミュニケーション』井上裕之 著 
クインテッセンス出版株式会社

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