- ダイバーシティマネジメントの全体像
- 中小企業が目指すべき社員多様性の在り方
- ダイバーシティ推進のための取組みポイント
- ダイバーシティの積極的推進事例
1.ダイバーシティマネジメントの全体像
1.ダイバーシティマネジメントとは何か
「ダイバーシティ(Diversity)」とは、多様性のことで、性別、世代、国籍、障害の有無等の違いのことです。
その多様性を最大限に活用し、企業の組織力や競争力の強化に結び付けようとする経営手法のことを「ダイバーシティマネジメント」といいます。
これまで、実際にダイバーシティを拡大する企業は、大企業や外資系企業、一部のIT・通信関連業種などに留まっていましたが、昨今では以下の2つの理由から、中小企業においても取り組みが加速しつつあります。
わが国は、少子高齢化にともない労働力人口が減少するという構造的な問題に直面しています。
このことは、大企業に比べ人材確保が総じて困難な中小企業においては、とりわけ深刻な経営課題となります。
そこで多様な人材に活躍の機会を提供し、従業員の様々な個性を基とした違いを企業内に取り入れ、活用することにより組織力と競争力を強化することが喫緊の課題といえます。
2.ダイバーシティの推進が必要とされる背景
人材という最も重要な経営資源を最適に構成し、有効に活用することがダイバーシティマネジメントです。
では、何故ダイバーシティの推進が求められているのでしょうか。
それをマーケット事情を軸に過去と現在で表すと以下のようにまとめることができます。
ダイバーシティの推進が必要とされる背景として、一つにはマーケットの変化があります。
高成長下において右肩上がりに市場の拡大が見込まれた時代から、現在は低成長で市場が成熟し、需給が飽和する状態の時代に変化しました。
そのような中、消費者が求めるものは「他とは違うもの」、「人とは違うもの」といった他と差別化された嗜好性の高いものになる傾向があります。
もう一つの重要な背景は、労働市場の変化です。経済変動が激しく企業としても先行き不透明な中、終身雇用制度が当たり前である時代は去り、雇用の流動化が進んでいます。
また、従業員が働くことについて求める価値、すなわち労働観も多様化しています。
加えて、生産年齢人口が減少局面に入り、売り手市場になる時代が到来します。
このような中、企業は従業員に対して終身雇用や処遇といったものとは異なる次元で、例えば「働きやすさ」や「働き甲斐」といった新たな価値の提供を人材マネジメントに織り込み、優秀な人材を確保することで収益の最大化を図ることが求められるようになりました。
3.日本におけるダイバーシティの現状
ダイバーシティの推進は、世界における日本の立ち位置とも関係します。
国際的な世界経済フォーラムから毎年発表されている世界各国の男女格差に関するレポート(The Global Gender Gap Report 2014)で、上位は北欧諸国が占めている中、日本は104位と後順位で、フィリピン(9位)、シンガポール(59位)、中国(87位)等のアジア諸国の中でも劣後しています。
評価項目のうち「経済活動への参加と機会」や「政治への関与」のスコアが低いことが順位を下げている原因であり、これらの分野において、女性の能力を発揮することが強く期待されています。
この順位付けはジェンダーギャップ指数という数値で評価されます。指数は、男性と女性の格差の指数で、平成18年の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で創設されました。
男女格差の解消が世界経済の発展につながるとして、国別、地域別に、経済・政治・教育・健康維持の4項目を算出根拠としています。
2.中小企業が目指すべき社員多様性の在り方
1.女性の活用を企業の戦力とする
日本では近年、「全ての女性が輝く社会」の実現を成長戦略の中核に据えて集中的に施策を講じてきています。
また、女性の就業者数及び生産年齢人口(15~64歳人口)に占める就業率(年平均)は、平成20年のリーマンショック以降、伸びが停滞していましたが、平成24年から平成26年にかけては、経済の好転とも相まって、就業者数は75万人、就業率は2.9%の伸びとなりました。
本年8月には、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が成立したことを受け、国や地方公共団体、民間事業主は以下の事項を実施することとなります。(労働者が300人以下の民間事業主については努力義務)
2.高齢者の活用で企業ノウハウを伝承させる
生涯現役で、より長く働きたいと考えている高齢者にとっての仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)は、育児後の女性と同様に、より長く勤続するという意味での働き方の見直しになります。
人口減少、高齢化が進むわが国において、働く意欲のある高齢者が長年蓄積してきた経験と能力を存分に発揮することは、経済の活力を維持・向上させていく観点から非常に重要な課題です。
そのため、高齢者の雇用管理では、高齢者が年齢に関係なく意欲と能力に応じ働き、企業に貢献できる環境を整備することが重要で、以下の4点に着目する必要があります。
3.障害者の活用で社会的責任を果たす
厚生労働省では毎年、民間企業や公的機関などにおける「障害者雇用状況集計結果」を取りまとめています。
また、障害者雇用促進法では、事業主に対し、常時雇用する従業員の一定割合以上の障害者を雇うことを義務付けています。この義務を法定雇用率といい、民間企業には2%が課されています。(平成25年4月1日に法定雇用率が、民間企業で1.8%から2.0%に引き上げられました。)
以下は、平成26年の「障害者雇用状況集計結果」です。雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新し、雇用障害者数は43万1,225.5人、対前年5.4%(22,278.0人)増加し、実雇用率も1.82%と対前年比0.06ポイント上昇しています。
3.ダイバーシティ推進のための取組みポイント
1.トップが経営戦略として位置づけメッセージを発信する
ダイバーシティが組織に浸透するためには、経営トップの強いコミットメントが必要です。
また、成長戦略の一つとしてダイバーシティマネジメントを掲げ、将来ビジョンを明確にする必要があります。
経営トップがダイバーシティマネジメントの意義や目指すべき会社の方向性を定期的に繰り返し発信することによって、従業員に会社の「本気度」を伝え、意識改革を促すことが可能になります。
ダイバーシティが生かされている組織の特徴は、以下のように柔軟かつオープン、公平といった特徴があります。
つまり、多様な人材を活かし、その能力を発揮させるためには、一人ひとりが自分らしい形で仕事に関わり、公平に機会を提供されることが重要です。
2.「個」に着目した複線型人事制度を導入する
複線型人事制度とは、働き方の多様性に照らし合わせた人事制度の仕組みです。
従業員の多様な価値観や働き方を尊重する観点において、配置・評価・報酬等の人材マネジメントの仕組みを「個」に着目して柔軟かつ多様な選択ができる複線型の仕組みとすることも重要な課題といえます。
公正で、かつ従業員の納得性を高め、効率的に企業運営をするための複線型人事制度の導入ポイントは以下のとおりです。
ダイバーシティの推進は企業において重要課題であり、組織強化のために取り組む企業も増えています。
これを推進していくためには、制限のある人材を活かすことが不可欠です。
現状の人事評価制度は、基本的に制限のない人材を対象に設計されており、抜本的な見直しが必要な企業も多いはずです。
そもそも、大多数の日本企業での人事評価制度は、残業も休日出勤も出張も対応する従業員を対象に設計されています。
いわば、職務遂行に特段制限のない人材を対象にしているということです。
ところが、ダイバーシティの推進を図っていると、制限のある人材を活かすことが必然です。
それはもちろん、多様性という個を活かすのであれば、当然のことです。
育児中や介護中、障害、性別、キャリアなどの違いを活かすことにおいて、残業も休日出勤も出張も実質不可能です。
そこで、欠かせないのが人事評価制度の抜本的な見直しです。制限のない人材と制限のある人材をその職務に応じて設計することです。
つまり、求める能力や役割に照らし合わせた職務遂行度とプロセスをきちんと評価することが必要です。
3.ES調査による満足度を把握し経営に活かす
ダイバーシティを上手く機能させるためには、既存従業員の満足度を把握し、内部の現状分析をすることも重要です。
従業員一人ひとりの行動の集積が、最終的に会社の業績に繋がる事は言うまでもありません。
企業は、「ヒト・モノ・カネ・情報等」の経営資源を活用し利益を上げています。
この中でも意識すべきなのは、「ヒト=人材」であり、実際に行動するのも人なので、最も重要な経営資源として考えるべきです。
「従業員満足(ES)なくして、顧客満足(CS)なし」と言われているように顧客にサービスを提供するのは従業員です。
もし従業員が不満に満ちた状況である場合、顧客に最大限の満足・感動を提供するのは困難であると考えるべきです。
以下は、従業員満足(ES)の構成です。従業員満足は大きく分けて次の2つの要因から成り立っています。
従業員満足は、従業員一人ひとりの感性のため、まずは、総合的な満足度(会社に満足しているか否か)を問いかけ、具体的に、何に満足し、何に不満を抱いているのかを細かい設問を設定しながら明らかにしていきます。
調査の結果、自社の従業員満足度を向上させるために、何を優先して改善するのか、またどのように改善するのかを決定します。
この際に、衛生要因は可能な限り早急に改善・検討すべき課題となります。
従業員満足を経営に活かすためには、継続的に満足度を測定し、実際に行った改善施策の効果を測定・評価することでPDCAサイクルを回すことが求められます。
また、CSや会社業績とどのように相関するかを時系列で調べ、「従業員満足を高めることを、会社業績の向上に繋げる」という視点が重要です。
4.ダイバーシティの積極的推進事例
1.従業員の成長と新しい働き方を追求するA社
A社は、神奈川県にある昭和40年に設立された従業員26名の電気設備会社です。
同社は、「社員重視の経営」を理念に掲げ、働き甲斐のある職場環境を築くために以下の4つの視点を重要視しています。
CSを向上させるためには、ESのみならずFS、PSも満たす必要があるという考えを掲げています。
具体的な試みとしては、月に2~3回、業務終了後に自社の従業員のみならず、取引先や同業の企業と連携し、資格取得のための勉強会を開催し個人としてのスキルアップの機会を与えています。
また、一人一台のパソコン貸与と自社構築のシステムによりテレワークの実現を可能にしています。
テレワークとは場所や時間にとらわれない以下の3つの柔軟な働き方のことで、業務効率を上げるとともにPSも向上させることができます。
同社は、ワーク・ライフ・バランスへの取組みも重視しています。
顧客担当を2名体制とすることを基本としており、情報共有の体制が構築されているため、「育児・介護」に関わる休暇制度を存分に活用することができています。
特に育児休業は、平成21年からの6年間で10名の男性が利用していることから各種マスコミからも注目を浴びています。
2.仕事と家庭の両立支援で女性の躍進を推進するB社
B社は、埼玉県にある昭和41年に設立された従業員250名のプラスチック成型品表面処理加工会社です。
同社は、自由で生き生きとした社風に基づき、常に現場主義で意見を出し合い、全員参加による高品質製品づくりを目指し、人材育成にも力を入れています。
具体的には、「社会に貢献し、明るく健康な職場づくりを目指す」という企業理念に基づいて以下の取り組みを実践しています。
同社の従業員のうち約4割が女性従業員であり、女性人材の育成と活用、仕事と家庭の両立支援を積極的に推進しています。
また、人事考課、目標管理の導入、各種研修への参加奨励によって女性従業員の管理職候補者の育成も図っています。
同社が両立支援を推進するにあたり採用している「出産・育児休業、継続雇用」のための取り組みは以下の通りです。
休業中の従業員に対する月1回以上の情報提供と職場復帰のための教育訓練も規程に明記されており、育児・介護のために退職した従業員の再雇用制度も2008年から導入されています。
社内報、朝礼、各種会議を通じて育児休業制度の周知徹底を図るとともに、育児休業取得者・経験者による「子育てモニター委員」や「子育て社内アドバイザー」の制度を設けて、仕事と家庭、子育てを両立させ、働きやすい職場環境の整備に努めています。
年次有給休暇についても推進月間を設けて取得促進を図っており、2008年度の取得率は68%に達しています。
以前は結婚・出産を期に退職する女性従業員が多かったようですが、ここ数年、出産・育児休業制度の利用が増え、2度目、3度目の利用者も出ており、女性従業員の継続就業と勤続年数長期化が促進されています。
3.生涯現役をテーマに高齢者のスキルを伝承しているC社
C社は、北海道にある昭和42年に設立された従業員245名の飲食サービス会社です。
同社は、従業員が自らの生涯生活設計を明確にし、働き続けられることが会社経営にとって大切な課題と考え、平成24年に定年制を廃止しました。
また、パートタイマーも雇用期間の定めのない雇用契約とし、長期間にわたり仕事を行うことができるようになったため、従業員同士の信頼関係が高まり、協調して仕事に取組むことができるようになりました。
さらに従業員に対して、評価制度を取り入れ、年2回~3回の賞与査定を行うことでモチベーションを高めています。
従業員の評価は本部が行い、接客態度や責任感を特に重視し、各店舗の売上状況も勘案して、学生アルバイトも含め賃金を決定しています。
同社の従業員の年齢構成は60歳未満が216名、60歳以上が29名です。
60歳以上の従業員は全従業員の11.8%を占めており、生涯現役の社風が根付いています。
わが国は、高齢化と少子化の進行により、今後ますます労働力人口の減少が深刻化することが見込まれています。
こうした中、経済・社会の活力を維持し生活の安定を図るには、高年齢者の高い就労意欲と経験・技能を活かすことが求められてきます。
企業の戦力として、65歳を越えて70歳まで、さらには年齢にかかわりなく生涯現役として働くことのできる職場づくりをすることが、中小企業にとってますます重要になってきます。
以上、解説してきた通り組織で成果を生み出すことと、従業員一人ひとりが充実した日々を送ることを両立させるためには、人材と働き方の多様性をマネジメントする必要があります。
■参考文献
『多様性を活かすダイバーシティ経営』(日本規格協会)
『ダイバーシティマネジメントの実践』(労働新聞社)
『男女共同参画白書』(内閣府)
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