歯科医院の働き方改革 改正労働基準法の 実務ポイント

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歯科医院の働き方改革 改正労働基準法の 実務ポイント

  1. 歯科医院における働き方改革
  2. 年次有給休暇取得の義務化
  3. 労働時間に関する具体的対応策
  4. 職場意識改善助成金制度の活用

 


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1.歯科医院における働き方改革

2018年6月に働き方改革関連法案が成立し、労働基準法、労働安全衛生法、パートタイム労働法、労働契約法等の改正が2019年4月から順次適用されています。
働く人の健康を重視し、また正規職員と非正規職員の格差是正が今回の改正点の主な目的です。
歯科業界では歯科衛生士の慢性的不足のほか、土日診療や夜間診療による勤務体系ため、歯科助手や歯科医療事務等の不足と子育て後のパートでの職場復帰も難しくなっています。
今回の働き方改革関連法をうまく活用し、職場環境の改善からより働きやすい環境提供を行い、スタッフの充足につながるよう、対策を講じる必要があります。

1.働き方改革関連法とは

働き方改革関連法とは、長時間労働の見直しや正規雇用非正規雇用労働形態にかかわらず、同一労働同一賃金推進、有給休暇の義務化等、8つの労働法改正案の総称です。

改正された8つの労働法

2.医療機関における働き方改革関連法の適用関係

医療機関における適用関係は次ページのとおりで、特に注意するポイントは3点です。
1点目は、時間外労働の上限が月45時間かつ年360時間を限度に設定されたことです。
さらに月60時間を超える時間外労働があった場合、割増賃金率が25%から50%以上になりました。
2点目は、有給休暇取得の義務化です。10日以上の権利を持つ従業員には年5日以上取得させることを義務付けました。
パート職員にも有給休暇の権利があり、有給休暇の権利を取得しているパート職員にも5日は時季指定して与える必要があります。
3点目は、同一労働同一賃金制の推進です。
正規・非正規の労働形態に関わらず、同一内容の業務に対しては、同じ水準で賃金が支払われる制度です。

医療機関の規模別の適用関係

3.歯科医院における実務上の注意点

土日診療や夜間診療を行っている歯科医院が多くあり、人員不足から既存スタッフの時間外労働が多くなったり、有給休暇を取得できなかったりしている状況がみられます。
今回の改正で初めてパート職員の有給休暇の権利を知り、パート職員に時給以外の手当ての支給を始めた歯科医院もあります。

働き方改革関連法による実務上の注意点

4.罰則規定

罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われますが、労働基準監督署の監督指導において、その是正に向けて丁寧に指導し、改善を図ってもらうことを前提とし、違反即罰則とはならないとされています。

職場意識改善助成金制度の各コースについて

2.年次有給休暇取得の義務化

年次有給休暇は、働く方の心身のリフレッシュを図ることを目的とし、原則として労働者が請求する時季に与えることとされています。
平成30年就労条件総合調査によると全国約6,400社の平均有給取得率が51.1%と低調な現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっていました。
このため、2019年4月から、すべての企業が年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員(管理監督者を含む)に対し、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
よって、すべての歯科医院も「年次有給休暇年5日取得」の対象となります。

1.有給休暇対象者

法定の年次有給休暇が10日以上付与されるスタッフが対象となります。
対象スタッフには、管理監督者や有期雇用労働者、パート職員も含まれます。
有給休暇の発生要因及び付与日数については、以下のとおりです。

年次有給休暇の発生要件、付与日数、パート労働者など、所定労働日数が少ないスタッフに対する付与日数

2.有給休暇取得の自院分析

少人数のスタッフで運営している歯科医院が多い中、有給休暇を充分に取得できている歯科医院はそう多くはありません。
忙しい時期に有休を取得したら他のスタッフに負担がかかる等、遠慮してしまうスタッフがいるのは事実です。
院長は、有給休暇の対象者や付与日数、取得状況を分析・把握する必要があります。

◆分析・把握項目

有給休暇対象者が誰で、正職員かパート職員かの雇用形態、付与日数が何日あるか(残日数)、基準日がいつからか、また、過去の取得実績を把握します。

有給休暇に関する自院分析と状況把握

3.年次有給休暇5日の取得に向けて

年次有給休暇は、スタッフが請求する時季に与えることになりますが、有給休暇を取得できてないスタッフに対し、年次有給休暇を取得させなければなりません。

(1)院長からの時季指定による有給休暇取得

有給休暇年5日の確実な取得のため、院長は、スタッフごとに年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させることが出来ます。

時季指定のイメージ、有給休暇発生と時季指定の基準日

(2)計画付与の活用

年次有給休暇の計画付与は、スタッフが自由に取得できる有給休暇日数5日を残し、それ以外の日数については院長が時期を指定し、有給休暇を計画的に付与する制度です。

有給休暇の計画付与制度の注意点

(3)時季指定を要しない場合

分析の結果、すでに5日以上の年次有給休暇を毎年請求・取得しているスタッフに対しては、院長が時季指定をする必要はありません。

有給休暇の年5日からの控除

4.就業規則への記載と年次有給休暇管理簿の作成

休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。
また、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

就業規則・年次有給休暇管理簿

3.労働時間に関する具体的対応策

厚生労働省より、平成29年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が公開され、始業・終業時間の管理方法が示されました。
歯科医院にとっての注意ポイントは、労働時間の把握については客観的な記録を基礎とし、やむを得ず自己申告で労働時間を把握する場合は、スタッフによる適正な申告を前提とすることです。

1.労働時間の適正把握

院長には労働時間を適正に把握する義務があります。
また、労働時間とは院長の指揮命令下に置かれている時間であり、院長の明示又は黙示の指示によりスタッフが業務に従事する時間は労働時間に当たります。
例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、院長の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当します。

始業・終業時刻の確認・記録、始業・終業時刻の確認・記録の原則的な方法、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

2.時間外労働の上限規制への実務上のポイント

労働時間は労働基準法によって上限が定められており、労使の合意に基づく所定の手続きをとらなければ延長することはできません。
また、時間外労働・休日労働をさせるためには36協定の締結が必要となります。
医療機関に認められている変形労働時間制を選択する場合も、協定の締結もしくは就業規則に記載し、労働基準監督署への提出が必要です。

労働時間・休日に関する原則

今回の改正により、罰則付きの上限が法律に規定され、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることのできない限度が設けられました。

法改正のポイント

上限規制に適応した36協定を締結・届出を行った場合、次の段階として36協定に定めた内容を遵守するよう日々の労働時間を管理する必要があります。
下記の労働時間の管理におけるポイントを守り、適正な労働時間となるよう心掛けることが必要です。

労働時間の管理における実務上のポイント

3.賃金台帳の適正な調整

院長は、賃金台帳に労働者毎の労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入する必要があります。

賃金台帳の適正な調整

4.職場意識改善助成金制度の活用

厚生労働省では、歯科医院を含む中小企業における労働時間等の設定の改善を通じた職場意識の改善を促進するため、職場意識改善に係る計画を作成し、この計画に基づく措置を効果的に実施した中小企業の事業主に助成金を支給するものがあります。
歯科医院にとって職場環境の改善からスタッフの待遇改善を図ることが、スタッフの仕事への満足度向上になり、スタッフの充足につながります。

1.職場環境改善コース

歯科医院の労働環境改善のためへの取り組みは多々あります。
生産性の向上を図り、所定外労働の削減や有給休暇取得促進に向けた環境整備作りに活用します。

課題別にみる助成金の活用事例

◆助成内容

年次有給休暇の取得促進や所定外労働の削減に向けて「成果目標」の達成を目指して実施することです。

助成内容

2.時間外労働上限設定コース

長時間労働の見直しのため、働く時間の削減に取り組む歯科医院を含む中小企業への助成制度です。
支給対象となる事業主や支給対象となる取り組みは、上記の「職場意識改善コース」と同様です。

成果目標の設定

■支給額

上記「成果目標」の達成状況に応じて、支給対象となる取り組みの実施に要した経費の一部を支給します。

2の上限額~限設定の上限額、休日加算額、

 

■参考資料
厚生労働省
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
「医療従事者の勤務環境の改善について」
「医師の時間外労働の上限規制について」
「職員意識改善助成金について」
厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」

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