情報発信とスタッフ教育の実施が重要 自由診療を増加させる取組み強化策

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情報発信とスタッフ教育の実施が重要 自由診療を増加させる取組み強化策

  1. 収益改善における自由診療の重要性
  2. 情報発信と情報提供ツールの整備
  3. 健康志向に合わせたメニューづくり
  4. スタッフの意識改革と協力体制がポイント

 


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新型コロナ禍の影響で、多くの歯科医院が収入減少となっています。
当社の集計データでは、2020年度の医業収入平均が対前年比1.1%のマイナス、自由診療収入平均は、対前年比2.0%のマイナスとなりました。
歯科医院数の増加と人口の減少や、小児う蝕の減少に対して高齢者の受診患者増加など、今後保険診療の大幅な増加は見込めないため、歯科医院の収益改善には「自由診療のアップと安定」が重要です。
自由診療は、一診療当たりの単価が高いため、経営の安定に大きく貢献します。
自由診療への取り組みにおいての考え方や患者へのアプローチの仕方、スタッフへの自由診療への研修によって、歯科医院の収益改善が図れます。

1.医業収入と自由診療収入の推移

当社の歯科医院調査では、2019年度の医業収入平均が59,975千円だったのに対し、2020年度の医業収入平均が59,338千円と前年比98.9%となり、その中でも、保険診療収入が前年比99.2%であったのに対し、自由診療収入平均が2019年10,903千円から2020年10,688千円と前年比98.0%となっていました。

医業収入比較

2.自由診療割合

当社で実施した歯科医院調査では、医業収入の内、自由診療収入が占める割合が、10%以上20%未満が全体の約23%、10%未満が約20%、すべて保険診療が約3%となり、自由診療率20%未満の歯科医院が半数近くを占めていました。
また、20%以上70%未満の歯科医院も50%あり、取組み方によっては自由診療の収入をアップする可能性があると思われます。

自由診療率

3.自由診療収入確保のメリット

自由診療の取組みが進まないのは、高い診療費に加えて美容的要素が大きい、といった患者の認識不足もありますが、働いているスタッフ自体が正確な情報や知識を持っていないため説明が不足しているという事が影響しています。

(1)審美歯科は治療の他、審美性や快適性等を兼ね備える

日本審美歯科協会では、『審美歯科は、歯や口元の美しさに焦点を当てた総合的な歯科治療のことを指します。
歯科治療には「虫歯や歯周病を治す」「よく噛めるようにする」といった機能的な側面と、「白く形のいい歯にする」「歯並びを整える」といった美観の側面があります。
この両方を満たす美しさという観点をプラスした歯科治療です。』としています。

(2)自由診療は金属アレルギーや歯茎への負担にも対応

詰め物やかぶせ物が保険診療では銀合金やプラスチックが基本ですが、自由診療では金属アレルギーを発症しにくいゴールドの選択ができます。
入れ歯や義歯でも保険適用の材料では金属バネが使用されています。
自由診療では金属不使用の物や、入れ歯と歯茎の接地面がシリコンでできたものがあり、クッション性があるため、歯茎への負担軽減になります。

自由診療のメリット

4.自由診療選択率を高める

医業収入に占める自由診療の割合である自由診療率も大事ですが、総患者数の内、どのくらいの患者が自由診療を選択しているかという自由診療選択率が重要なポイントです。
年齢層や男女別のほか、どういった病状の患者層が自由診療を選択しているか、さらに選択された自由診療が何か、という傾向を知ることが大切です。
地域によっても傾向が違うため、自医院での傾向をつかむことが必要です。

自由診療選択率、自由診療率とは

患者が自由診療を選択する理由は様々あります。
美しさ、耐久性、自前の歯と同じ噛み心地、入れ歯と判らないように、等の結果を求めています。
ですが、「この自由診療を行いたい」と決めて来院する患者の割合はそう多くはありません。
やはり歯科医院側からの詳しい説明と勧めから選択することが多数を占めます。
患者自身がその自由診療に対し、『価値』を認めたために選択したのであり、価値観が違えば選択されません。
歯科医院側は、その価値を認めてもらうための手法や話法、ツールを用意し、患者とのコミュニケーションをとりながら勧めることが自由診療選択率を上げることになります。

自由診療選択率アップの準備

2.情報発信と情報提供ツールの整備

日本は他の先進国と比べて、口の中の健康に対する意識や、歯の病気に関する知識などのデンタルIQが低いと言われています。
痛くなってから歯科医院へ行って治療する、さらにはできるだけ歯科治療には通いたくない、という人がほとんどです。
しかしながら、口腔内の健康保持が身体全体の健康のためにも重要であり、国の政策上でも医科歯科連携して高齢者治療に当たるという計画が実施されています。
歯科医院の自由診療は、長期的に考えても口腔内の健康を守るという国の取組みに大きく貢献します。
自由診療への取組み準備のポイントは、患者満足度の向上のために、患者側の立場に立った視点で行うことです。

1.自由診療のメリットを明確に

(1)患者のデンタルIQの向上

近年では、保険診療を中心に行っている歯科医院でも、自由診療の予防歯科に取り組むところが増えてきています。
ところが、予防歯科の中心となる定期健診を増加するため、ハガキやメール等で患者に働きかけていますが、大きな効果は表れていません。
予防歯科がいかに重要かという情報提供を行い、啓もう活動から始める必要があります。
同じように自由診療のメリットや効果を十分に理解してもらうためにも、デンタルIQの向上は必要です。
予防歯科を含め、自由診療への理解を促す啓もう活動を行います。

デンタルIQ向上のための啓もう活動

(2)自由診療の情報発信

自由診療の情報発信には、ユニットの口頭での説明では患者に伝わりません。
一番は患者自身から情報探索や研修会等への参加が望ましいのですが、数は少ないため医院側が患者の気持ちを促す必要があります。
SNS等や院内研修会等のイベントを定期的に行うことがポイントです。

自由診療のイベントによる情報発信

(3)自由診療の情報提供ツール

自由診療を増加させるためには、情報提供するツールの準備が重要です。
一度の口頭での説明だけで患者に自由診療を選択させることは非常に難しく、判りやすいツールを作成し、視覚と感覚、記憶に働きかける必要があります。
歯科メーカーや技工所のパンフレットもありますが、自前のパンフレット等の作成が手作り感もあり、より効果を高めます。
また、自由診療の説明時やカウンセリング時だけでなく、診療の待ち時間に眺めることのできるツールも必要です。

自由診療のツール

2.自費治療のカタログ作成

自由診療を勧めるにあたり、カタログが必要となります。
ありきたりのカタログではなく、自院での説明に沿ったカタログが必要です。
また、治療ユニットで行う事が多い為、文章も必要ですが、ビジュアルに訴える事の方が重要です。

カタログ作成のポイント

3.待合室での自費PRを工夫する

待ち時間が患者にとって一番の苦痛です。
その待ち時間を有効に利用しましょう。
待合室での工夫が自費治療を増大させるだけでなく、クレームや医院への不満を少なくする重要なポイントになります。

待合室での自費PRを工夫する

3.健康志向に合わせたメニューづくり

自由診療への取り組み方にも変化が見られます。従来の歯科診療では、保険診療の限界という視点から、治療の内容や仕上がりの比較により自由診療を勧めていましたが、近年は一般的に健康への意識が高まり、口腔内の健康保持が身体全体の健康にも影響が出ることが広く知られるようになりました。
それに併せて、歯科診療においても患者が健康志向に合わせた自由診療を選択するケースが出てきています。

1.アンチエイジングへの取組み

アンチエイジングという言葉は今では当たり前に使われています。
歯科診療においても、患者に生涯を通じて自身の歯で好きなものを食べてもらうことで満足のいく食生活を送り、日常生活での満足感、幸福感、安心感などのQOL(Quality of Life:生活の質)の向上を目指してもらう『アンチエイジング歯科治療』という言葉を使い始めています。
QOL向上はアンチエイジングの原点であり、「究極の予防医学」だと考え、様々な取り組みが始まっています。

歯科治療のアンチエイジング

2.ヘルスケア志向と予防歯科

ヘルスケアとは、健康の維持や増進のための行為や健康管理のことを表わします。
東洋では、養生あるいは未病という概念によって、健康時からの体調の維持や健康増進が図られてきました。
歯科患者のヘルスケア志向も浸透してきており、予防歯科として自由診療を選択するケースも増えてきました。
日本ヘルスケア歯科学会では、「従来の修復・補綴に重きを置いた歯科医療から、健康な歯列を守り育て生涯にわたって人々の健康のパートナーとなる歯科医療へと、その転換が始まっている」と考えています。
こうした背景もあり、歯科医院においても、修復・補綴といった歯科医療から予防歯科へシフトが進んでいます。

ヘルスケア志向と予防歯科

3.ヘルス志向に対応した予防歯科メニュー

日本ヘルスケア歯科学会の報告書では、1998年にヘルスケア歯科研究会、2011年には日本ヘルスケア歯科学会が設立され、「疾病を未然に防ぐことが容易であるという歯科医療の可能性を患者利益の追求」とし、活動してきています。
近年では、治療の前後に予防歯科の説明をする歯科医院が増えています。
虫歯や歯周病は、削ったり詰めたりして完了した治療後も、将来において症状が進行し、再度治療が必要となることが多々あります。
歯科ヘルスケアへの取り組みは、まずは予防をし、それでも発症してしまったら、再発防止を目的とするより高度な診療(自由診療)を選択することが重要と考えています。

(1)PMTC治療

成人の口腔内には、およそ300〜700種類の細菌が存在すると言われています。
それらが集合して膜状のバイオフィルムを形成し、虫歯や歯周病の原因となりますが、バイオフィルムは歯ブラシでの歯磨き等で簡単には取れません。
プロによる機械的歯面清掃であるPMTCは、虫歯や歯周病の予防や血液への病原菌の進入を予防し、老化の予防を促進します。
実際にPMTCを行うのは歯科衛生士の業務であり、歯科衛生士の技術向上がPMTCの効果に反映されます。

(2)レーザー治療

レーザー治療は痛みが少ないため、麻酔をごく少量しか使わず、ピンポイントで治療部位を捉えることができます。
正確な治療が期待でき、出血もほとんど抑えられるため、身体への影響が少ないためヘルスケア治療として考えられています。

レーザー治療の自由診療

4.日本ヘルスケア歯科学会の認証制度

日本ヘルスケア歯科学会では、歯科医院の認証制度を設けて、「健康を守り育てる歯科医療」を「それを望む患者全てに対して」、「実践している診療所」に対して認証しています。
認証を希望する診療所は、年1回開催する認証ミーティングでプレゼンテーションを行うことが必要です。
歯科の外部審査員を含む審査で患者中心の診療所づくりを重視しています。

◆日本ヘルスケア学会来院調査結果

日本ヘルスケア歯科学会の学会誌において、ヘルスケア認証歯科医院と一般歯科医院との初診患者調査を実施しています。
その結果によると、初診患者比率が年令別で大きく違っており、一般歯科医院では0~9歳の初診患者が8%弱に比べ、ヘルスケア認証歯科医院では25%強、10~39歳でもヘルスケア認証歯科医院の方が30%から50%以上の割合を示しています。
ただし、60歳以上の年齢層では、一般歯科医院へ通院している割合が高い現状です。
小児の親世代と若い世代は、歯科ヘルスケアといった考え方が浸透している結果だと思われます。

ヘルスケア認証歯科医院 来院患者調査

4.スタッフの意識改革と協力体制がポイント

自由診療を増加するには、来院した患者に、「自由診療」を選択してもらわなければなりません。
それには「患者のニーズ」をつかみ、「患者のウォンツ」に添ったものであることで、患者に「自由診療を行ってみよう」という気持ちを持ってもらえるかが重要です。
そのためには、自由診療のツールの他に、スタッフ全員がその知識を持ち、患者にとって有益な診療であるという認識があって、初めて患者へ勧めることができるのです。
自由診療への取組みは、スタッフの協力体制と教育が重要なポイントになります。

1.スタッフ研修会の実施

自由診療のスタッフ研修会を定期的に開催します。
常に自由診療への取組みを行うためには、スタッフの意識から変えなければいけません。
スタッフに対し、強制して自由診療を勧めるよう指示したとしてもスタッフ自身が理解していなければ無駄な努力に終わってしまいます。
スタッフが知識を深めて自由診療の良さを理解し、患者のために自由診療を勧めるという意識を持たせることが重要です。

研修会の例

2.自費治療の価格と効果の比較

スタッフの中には、自由診療が高いから患者に勧めると不快にさせるのでは、とためらう人もいます。
患者それぞれの価値観によって、対価が変わることを理解してもらいます。
患者にとって、ただ高い物なのか、より良い価値が認められるので高いのか、では判断が大きく違ってきます。

自費治療の価格と効果の比較

3.自由診療選択率のアップは患者要望の認識から

普段接している患者の考えていることをよく知り、歯科医療に対する意識の変革を促すことにより自由診療選択率のアップをはかります。
歯科医院に患者が希望することとしては、「夜間診療」「保険範囲の拡大」「待ち時間の短縮」「診療回数の短縮」「治療内容の説明」等があります。その中でも特に3つの要望が強くなってきています。

主な3つの患者側の要望と医院側の考え方

①の要望は別として、残り2つの要望に対し、どう対応するかで自費率アップが図れます。
院内ミーティングや研修によりスタッフの意識改革をし、患者に対して自信をもって自由診療への移行を勧めることで結果が出ます。

4.院内カウンセリングの研修

(1)初診カウンセリング

初診カウンセリングは、基本的に全スタッフが出来るように研修します。
初診カウンセリングは全ての来院者に実施するため、必要以上に時間をかけずに、15分程度で完了するようにします。

初診カウンセリングの流れ

(2)治療ユニットサイドでの再診カウンセリング時の情報提供研修

セカンドカウンセリングでは、初回来院時の検査結果を伝えながら、治療部位はどのくらいあり、どんな治療方法があるか、それに伴う治療期間や治療費用を説明していきます。
保険適用範囲内で治療を進めていくのか、必要に応じて自費診療も取り入れていくのかを患者が選択できるように情報を提供していく必要があります。

セカンドカウンセリング時の流れ

自由診療選択率のアップは、この情報提供研修がより具体的であるほど効果が出ます。
ロールプレイングでの患者役も、実際に自分が患者になった気持ちで応対することで、カウンセリングされる側での気づきがあるでしょう。
一度の研修ではなく、繰り返し行い、カウンセリング内容のブラッシュアップと共に、根気強くスタッフのレベルアップを図ることがポイントです。

 

■参考資料
ビズアップ総研セミナー:
「歯科の高収益化を実現 自費率倍増のための院内改善と最新の指導事例」
講師 (株)M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久氏
日本ヘルスケア歯科学会ホームページ
クインテッセンス出版(株):「今すぐ医院に貢献できる 歯科衛生士の育て方」(加藤 久子 著)
「歯科医院経営を成功させる50の心理法則」(妹尾 榮聖 著)
(株)モリタホームページ:「誰でもいつでも取り組める歯科医院の経営改善」
Doctors Fileホームページ:保険診療との違いとは歯科医療の幅が広がる自費診療
より抜粋

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