- 歯科医院スタッフの業務範囲と法令順守
- 歯科衛生士の具体的業務範囲
- 歯科助手の業務範囲
- 院内業務基準書の作成事例
1.歯科医院スタッフの業務範囲と法令順守
歯科医院に従事する職種は、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、放射線技師、歯科助手、歯科医療事務兼事務、受付兼会計等とありますが、全職種を雇用している歯科医院は少ないのが現状であり、スタッフは各職種を兼任して業務を行っています。
ただ、この業務兼任が歯科医師、歯科衛生士等の有資格者が行わなければいけない業務と準備や整備・片付け等業務との明確化が図れず、混在している歯科医院もあります。
例えば、大阪府で無資格の歯科助手らにX線撮影を行わせたとして、診療放射線技師法違反で歯科医師と歯科助手ら11名が書類送検された事件や、歯科助手が医療業務を行っているというインターネット上での相談や報告も出ています。
歯科助手や歯科衛生士の業務違反は、行わせた歯科医師だけでなく、行ったスタッフ自身も罰せられます。
業務範囲を明確にし、法律を遵守することが患者だけでなく、スタッフを守ることにつながります。
1.歯科衛生士の職務範囲の法的根拠
歯科業界は人材不足が常態化しており、歯科衛生士の診療介助業務の範囲が広くなっている傾向があります。
その際、「明らかな違法行為の範囲=ブラックゾーン」に踏み込むと、内部や患者からの告発によって、監督官庁より医業停止や場合によっては逮捕されるなどの処罰を受けることがあります。
このため、「解釈によっては適法とされる範囲=グレーゾーン」であるかないかで経営の安定性に大きな違いが出てきます。
そのため、どこまでが適法とされているのかを正確に認識しておく必要があります。
歯科衛生士の業務範囲に関しては、「歯科衛生士法」と「保健師助産師看護師法」に定められています。
昭和63年8月31日に厚生省健康制政策長通知として、歯科衛生士の業務にある歯科訪問事業の実施内容に「口腔清掃・義歯の使用方法等の保健指導」とあり、訪問担当者に歯科医師及び歯科衛生士とあるため、保健師助産師看護師法も適用となっています。
2.歯科衛生士や歯科助手の業務を管理する法律と違法行為
今年1月、無資格の歯科助手らにX線撮影をさせたなどとして、大阪府警は、診療放射線技師法違反容疑で大阪市の歯科医院の歯科医師と助手ら計11人を書類送検した事件がありました。
送検容疑は2017年6月~2018年5月、資格のない歯科助手や受付事務員にX線撮影をさせて、患者12人に計17回X線を照射した疑いとなっています。
X線撮影は医師と歯科医師、診療放射線技師の有資格者だけができる医療行為であり、歯科助手は歯科衛生士のような国家資格ではありません。
民間で歯科助手の資格を出していることもありますが、業務にあたり必須資格ではありません。
医療法や医師法歯科医師法、歯科衛生士法によって国家資格での業務範囲は規定されていますが、歯科助手を管理する法的基準はなく、歯科助手が行える業務の範囲は国家資格者の業務以外となります。
具体的には、「患者の口腔内に自身の手を入れる行為や口腔に触れる行為」と「X線撮影行為」を行うことはできません。
3.管理者である歯科医師の監督業務
歯科医院の管理者は、当該医療機関における安全を確保するとともに、当該医療機関を医療法に適合するように適正に管理することが義務付けられています。
具体的には、安全管理体制確保義務と従業者監督義務のほか、その他の義務として、医療機関が提供する医療サービスにかかる一定の情報について、都道府県知事に報告すること、およびそれらを記載した書面を当該医療機関において、閲覧に供するかホームページ等に掲載する必要があります。
2.歯科衛生士の具体的業務範囲
歯科衛生士法第二条に、歯科衛生士の業務内容を規定しています。「予防処置」「診療補助」「歯科保健指導」が歯科衛生士の業務です。
「予防処置」については事細かに歯石除去やフッ素塗布ができることが記されています。
ただし、「診療補助」「歯科保健指導」について詳しくは記されていないため、歯周病患者の歯周組織検査や歯周初期治療、メンテナンスケア等を歯科衛生士が実施することはできないとする解釈が一部であるようです。
1.診療補助と相対的歯科医行為
歯科衛生士であっても、全ての歯科医行為を行うことができるとは限りません。様々な条件によって、違ってきます。
診療補助として行うことが可能な行為は「相対的歯科医行為」とされ、歯科医師自らが行う「絶対的歯科医行為」と区別されています。
ただし、全てが具体的に明示されているわけではありません。
(1)相対的歯科医行為と絶対的歯科医行為
歯牙の切削に関連する事項や切開、抜歯などの観血的処置、精密印象をとることや咬合採得をすること、歯石除去のときの除痛処置をのぞいた各種薬剤の皮下、皮内、歯肉などへの注射は、主治の歯科医師が歯科衛生士に指示することは適切でないと考えられており、これらは歯科医師のみが行うことができる「絶対的歯科医行為」となります。
これら以外は、歯科衛生士が歯科診療の補助として行える「相対的歯科医行為」であるとされています。
(2)相対的歯科医行為とは
「歯科衛生士は、歯科医師の指示があった場合を除いて、診療機械を使用したり、医薬品を授与したり、医薬品について指示することなどができない」と記載されています。
このことから、歯科衛生士は、ある条件下であれば、主治である歯科医師からの指示で、診療機械の使用や、医薬品授与、医薬品について指示することなどができるということになります。
厚生労働省の通達によると、歯石取りやホワイトニングなどについては、歯科衛生士は主治である歯科医師の指導の下で行うことができるというような趣旨を記したものがあります。
これにより歯科衛生士は、主治である歯科医師の指導の下という条件で、ホワイトニング行為をすることができると解釈されています。
(3)歯科衛生士のX線撮影について
X線は診療放射線技師法により、放射線技師か歯科医師でなければ撮影することができません。
(4)歯科衛生士の麻酔行為について
歯科衛生士は、医師または歯科医師の指示のもとであれば、医業として麻酔行為の全過程に従事できますが、診療補助の範囲を超えることはできません。
また、実態上医師または歯科医師の指示ができない状態での麻酔行為はできません。
3.歯科助手の業務範囲
歯科助手の業務は、歯科医師や歯科衛生士の補助だけではありません。
受付や会計、事務、歯科医療事務という窓口業務も行うことから、患者との接点が一番多い職種でもあります。
歯科医療のほか、歯科医療事務や高い患者コミュニケーション能力まで求められます。
1.歯科助手の業務範囲
歯科助手の主な役割は、「歯科医師が診療に専念できるように、歯科衛生士が診療介助を行う際にスムーズに補助業務ができるよう、クリニックの環境を整え、サポートすること」です。
また、受付会計・患者誘導・介添業務において、患者の不安をやわらげるように、明るく丁寧なコミュニケーションを取ることも重要な業務です。
歯科助手は医療器具を操作したり、患者の口腔内での診療を行ったりすることはできません。
ただし、歯型を取るために印象材を練ること、ライトを使って口腔内を照らすこと、バキュームを使って唾液や歯の削りカスを吸いとることなどは認められています。
2.歯科助手の認定制度
歯科助手には資格は必要がなく、未経験でも業務は行えます。
一方で、歯科助手の業務範囲は非常に広いため、高い専門知識と能力を持っている方も多数います。
その能力向上のため、各都道府県の医師会や民間団体などの講習会を受講し、認定資格を取得する方や歯科医院側の負担で受講させているところもあるようです。
全国の歯科医院では歯科衛生士が不足しているため、歯科助手の確保で歯科医療が行えているという歯科医院が多く、戦力になる認定資格を持った歯科助手が重宝されているようです。
しかし専門学校で学んだ生徒たちの中には、歯科衛生士の資格について知らなかったり、歯科助手になってみて歯科衛生士と待遇が大きく異なっていたり、歯科衛生士に比べ業務範囲が少なく雑用ばかりであったりという場面に直面し、歯科衛生士資格の重要性に気づくことがあるようです。
歯科助手が持っている知識に対し、採用した院長が確認することが必要です。
3.歯科助手業務においてのポイント
(1)受付業務
受付は医院の顔です。
謙虚で礼儀正しい態度で応対し、笑顔を忘れずに患者の目を見て話すことが重要です。
(2)電話応対
予約診療が主流となっている歯科医院の受付業務では、電話応対は重要です。
心を込めた応対で、心を込めた診療をしていることを、直接的な言動と姿勢で相手に伝えることが求められます。
(3)会計時の応対
会計はスピーディーに行うことが求められます。
会計時に予約を取る場合には、会計・予約の手順ごとに説明し、患者に確認します。
会計の最後には、温かみのある言葉であいさつをし、見送ります。
(4)診療時の応対
診察室では、解りやすい説明が重要です。
「解りやすい」「質問しても嫌がられない」「解るまで説明してくれる」という要望は、アンケート結果でもいつも上位を占めています。
4.院内業務基準書の作成事例
歯科医院は、歯科医師はじめ歯科衛生士、歯科助手、受付、歯科技工士等のチームでの診療を行います。
その中でも、診療補助において歯科医師行為を行う国家資格である歯科衛生士と、その補助業務を行う歯科助手の存在は重要です。
歯科衛生士や歯科助手がその業務を適切、適法に実施していくことができるように、院内での業務範囲を明確にする基準書を作成することが必要です。
1.歯科衛生士の知識技能レベル
歯科衛生士が行える診療補助による「相対的歯科医行為」の範囲は、主治の歯科医師の判断に任せられます。
主治の歯科医師が、歯科衛生士の知識や技能をみて任せられると判断した際は、法的にも問題なく、診療補助として相対的歯科医行為を行うことができます。
ただし、指示をした歯科医師とその歯科衛生士は、行った行為と結果に対する責任も負うことになります。
2.歯科衛生士の診療の補助業務について
歯科医師は、歯科衛生士に指示して行わせる相対的歯科医行為の一つひとつについて、患者の状態や病症、行為の影響の軽重、対応する歯科衛生士の知識や技能の能力について認識し、判断を下す必要があります。
そのため、歯科衛生士が行う業務基準書には、経験度や熟練度まで表示されていることが重要です。
3.院内業務基準書の作成事例
院内基準書は、法律に基づいて作成する必要があります。
歯科衛生士や歯科助手が安心して業務を行える内容にします。
無資格者である歯科助手に対し、行う業務の指導時に「この業務は歯科衛生士が行うからしなくても良い」と話すだけではなく、「資格者しかできない業務」という法令基準を教える必要があるため、基準書には明確に記載します。
業務基準書は、未経験の新人でも理解できるように作成する必要があります。
基準表だけではなく、法的基準や説明の記載のほか、法的罰則や院内罰則まで記載し、適切で安心できる業務を明確にすることで、患者だけでなく、働くスタッフからの信頼を得るためにも必要なツールです。
各職種のマニュアルに代わるテキストとして、院内で活用している歯科医院もあります。
■参考資料
セミナー歯科衛生士、歯科助手の職務範囲について(講師:株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久)
一般社団法人 日本ヘルスケア歯科学会 ホームページ「歯科衛生士業務に関する業務ガイドライン」
ジョブメドレーホームページより 「歯科助手って何するの?」
ヒューマンアカデミーたのまなホームページ 「歯科助手の仕事」
新東京歯科衛生士学校ホームページ 「歯科衛生士と歯科助手の違い」