- 2017年日本経済の推移
- 景気回復を示す地域別の景況判断と雇用情勢
- 「売り手」優勢が続く労働市場
- 安倍政権下における主な経済成果・効果
1.2017年日本経済の推移
アベノミクスという言葉が生まれてから5年が経過しようとしています。
長期にわたるデフレ時代からの脱却を目指し、各種金融政策が打ち出されている昨今、2017年はターニングポイントともいわれています。
今回は、2017年の地域別経済動向や雇用状況等の動向をまとめていますので貴社の経営判断にお役立ていただければ幸いです。
政府発表は「緩やかな回復基調」
2017年9月25日に内閣府が発表した「月例経済報告」のなかで、「わが国経済の基調判断」は、下記のように述べられています。
また、同報告は、「先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかな回復に向かうことが期待されています。
ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。」として、昨年12月同様、景気回復の動きは下振れのリスクを抱えており、確実なものとはなっていない事を示唆しています。
政府施策の基本的な態度
2017年9月の内閣府「月例経済報告」において、今後の経済政策の基本的態度として次の通り記載されています。
デフレからの完全脱却に向けての施策が重点項目として挙げられています。
GDP成長率の推移と予測
2017年4~6月期のGDP成長率は、1次速報値において、実質1.0%と6四半期連続のプラス成長となりました。
世界的な景気回復の動きは国内経済にも波及し、GDPの成長率は、以下のように推移することが予測されています。
4~6月期の実質GDP成長率は、大幅に加速しました。今後は反動により減速も見込まれますが、輸出の復調と内需の拡大が持続することにより、2017年度の成長率は前年比+1.7~1.8%まで高まると予想されています。
一方、2018年度は、設備投資の拡大一巡などにより+1.1~1.5%へ減速すると予測されています。
これらの日本経済の動向をまとめると以下の通りです。
2.景気回復を示す地域別の景況判断と雇用情勢
地域別の経済動向は、内閣府が四半期毎に公表している日本の各地域の経済動向を調査した「地域経済動向」と日本銀行が四半期毎に公表している「地域経済報告」があります。
内閣府の「地域経済動向」は、概況、分野別の動き、地域別の動向、主要指標、参考資料から構成されており、日本銀行の「地域経済報告」は、各地域の景気判断の概要、地域別金融経済概況、参考計表から構成されています。
日本銀行の「地域経済報告」は、現在、日本全国を北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の9地域に区分した上で地域毎の景況判断をしています。
日本銀行は、生産の増加や個人消費の改善、公共投資の進展を踏まえ、関東甲信越など5地域で景気判断を引き上げ、残り4地域を据え置きました。
関東甲信越以外で景気判断を引き上げたのは北海道、近畿、中国、九州・沖縄で、9地域のうち、景気判断に「拡大」という表現を用いたのは6地域で、2006年10月~2008年1月の3地域を大きく上回り、地域経済報告が始まった2005年4月以来、最多となりました。
各地域の需要項目等別の判断
人口減少と地域経済縮小の悪循環を断ち、地方創生を実現することが我が国の大きな課題となっています。
地方創生の推進には、地域特性に即した政策の実行とともに、地域の景気の現状を適切に把握することが必要となります。
以下は、日本銀行が示す各地域の需要項目等別の景況判断の中から本年4月から7月にかけて上向いている5地域を抜粋し、まとめました。
地域における雇用情勢の動き
内閣府が示す地域経済動向の中から2017年第2四半期の景況を「雇用」に焦点を当てると、以下のようにまとめることができます。
今の雇用環境を40年前と比べると、ハローワークに提出される求人票の数と求職者数はともに増えています。
特に大きく増えているのは、パート労働者数でバブル期にあたる30年前には10%台前半だったパート労働者の比率が今は30%を上回っています。
正社員より賃金水準が低いパート労働者を中心に雇用が増えれば、全体的な賃金上昇圧力は高まりにくい構造になりますが、その結果、従業員30人以上の企業の現金給与総額(1人あたり賃金)は2016年に1%増にとどまりました。
3.「売り手」優勢が続く労働市場
2017年8月8日に総務省統計局が発表した「労働力調査」のなかで、「雇用状況」、「完全失業率」、「有効求人倍率」、「非労働力人口」に焦点を当て、以下の通りまとめています。
役員を除く雇用者
正規の職員・従業員は3,422万人と前年同期に比べ44万人増加し、10期連続で増加しています。
また、非正規の職員・従業員は2,018万人と同21万人増加し、20期連続で増加しています。役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は37.1%と前年同期と同率で推移している状況です。
男性の非正規の職員・従業員(646万人)のうち、現職の雇用形態についた主な理由を「正規の職員・従業員の仕事がないから」とした者が、141万人(24.0%)と7万人減少しています。
一方、女性の非正規の職員・従業員(1,371万人)のうち、現職の雇用に就いた主な理由を「正規の職員・従業員の仕事がないから」とした者が144万人(11.1%)と8万人減少しています。
男女ともに「正規の職員・従業員の仕事がないから」の割合、人数ともに減少傾向にあり、内閣府の見解である景気の「緩やかな回復基調」と比例していることがわかります。
完全失業者と有効求人倍率の推移
完全失業者(200万人)のうち、「3ヶ月未満」が75万人と前年同期に比べ6万人減少し、「3ヶ月以上」が118万人と8万人減少しています。
このうち「1年以上」は68万人と10万人減少しています。
完全失業率とは、労働力人口(就業者と完全失業者の合計)に占める完全失業者の割合のことで、4月は完全失業率も2.8%と低く、雇用情勢は「売り手市場」の様相を強めています。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示します。
4月は2ヶ月連続で上昇し、バブル期で最も高かった90年7月の1.46倍を上回り1.48倍となりました。
正社員の有効求人倍率は0.97倍で2004年に統計を取り始めて以来最高の値を示し、企業は長期の視点で人手を確保するため、正社員の求人を増やしています。
非労働力人口の実態
非労働力人口(4,350万人、前年同期に比べ60万人の減少)のうち、就業希望者(就業は希望しているものの求職活動をしていない者)は、372万人と前年同期に比べ8万人減少し、就業非希望者(就業を希望していない者)は3,891万人と59万人減少しています。
このうち、「65歳以上」は2,623万人と24万人増加しています。
以下は、就業希望の有無と非求職理由別非労働力人口の統計です。
就業希望者(372万人)のうち、「適当な仕事がありそうにない」とする者は102万人と前年同期に比べ8万人減少しています。
このうち、「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」とする者が41万人と6万人の減少し、「自分の知識・能力にあう仕事がありそうにない」とする者が13万人と3万人減少しています。
また、「出産・育児のため」とする者は88万人と7万人増加し、子育て世帯は減少していますが、就業希望者が増加していることがわかります。
4.安倍政権下における主な経済成果・効果
アベノミクスにおける賃金関連施策
アベノミクスにおいては、「成長と分配の好循環」の実現を通じたデフレ脱却に向け、賃金の引上げに関する取り組みを継続的に進めてきました。
具体的には、政労使会議の開催による賃金改定交渉に向けた社会・経済情勢のコンセンサス醸成や、最低賃金の継続的な引上げを進めるとともに、予算措置を伴った様々な事業等を展開した結果、一定の成果が見られます。
以下に、2013年以降の賃金関連施策の中で重点施策となっている最低賃金の引上げや「所得拡大促進税制」などを成果としてまとめています。
男女間の賃金格差はやや縮小された
2016年の月額の賃金は、男女平均304.0千円(年齢42.2歳、勤続11.9年)、男性335.2千円(年齢43.0歳、勤続13.3年)、女性244.6千円(年齢40.7歳、勤続9.3年)となりました。
また、賃金を前年と比べると、男女計及び男性では0.0%と同水準、女性では1.1%増加となっています。
女性の賃金は過去最高となっており、男女間賃金格差(男性=100)は過去最小の73.0となっています。
女性従業員の割合はさらなる上昇が期待される
2017年の帝国データバンクによるリサーチによると、自社の従業員に占める女性の割合が「30%以上」が29.8%と前年と比べ1.6ポイント上昇しました。
また、女性従業員割合が10%に満たない企業は、29.4%と前年と比べで0.4ポイント低下しています。
全従業員に占める女性従業員の割合は、24.6%と前年に比べ0.4ポイント上昇しています。
他方、自社の管理職(課長相当職以上)に占める女性の割合では、「30%以上」とする企業は6.4%にとどまったものの、前年の5.6%より0.8 ポイント上昇しています。
しかし、管理職の全員が男性という企業も半数近くあり、結果、女性管理職割合は全体で6.9%と2016年より0.3 ポイントの微増となっています。
日本の女性の就業率は欧米に比べ、まだまだ低く、管理職に占める割合も1割に満たず欧米の3〜4割を大幅に下回っています。
安倍内閣は成長戦略の柱の1つに女性の活躍推進を掲げ、2020年に女性の管理職比率30%を目指しています。
労働力人口が減少していく中で、女性労働力を確保することは非常に重要となっています。
したがって、女性労働力の確保に向けた一層の取り組みが期待されます。
■参考文献
『月例経済報告 2017年9月25日』内閣府
『四半期別GDP速報 2017年8月14日』内閣府
『経済見通し 2017年8月16日』信金中央金庫
『地域経済動向 2017年8月31日』内閣府政策統括官
『地域経済報告~さくらレポート~2017年7月10日』日本銀行
『~アベノミクスにおける賃金・所得関連施策の効果試算~』内閣府政策統括官
『女性登用に対する企業の意識調査 2017年8月15日』株式会社 帝国データバンク
『平成28年賃金構造基本統計調査』厚生労働省