- IoT(Internet of Things)の概要
- 身近にあるIoTの事例
- 消費・サービス業のIoT
- 製造業・モノづくりのIoT
- 中小企業で活用しているIoT事例
1.IoT(Internet of Things)の概要
新聞や雑誌など、多くのメディアで「IoT」という言葉を目にする機会が増えました。
従来のインターネットの世界は、ヒトがパソコン等のIT機器を介して繋がっていました。
IoTの時代になると、それが身の回りのあらゆるモノにまで広がっていきます。
IoTは企業、社会にインターネット以上の大きなインパクトをもたらすとも考えられています。
そこで、今回は「IoT」の概要と動向、企業経営で活用できる事例を紹介いたします。
2.IoT(Internet of Things)とは何か
(1)IoTの全体像
「IoT」とは、Internet of Thingsの略で「モノのインターネット化」と定義されています。
あらゆるモノがインターネットにつながることによる革新と捉えられることもあります。
これまでネットワークとは無縁だったものが対象になるため、今後、市場規模が爆発的に大きくなるといわれています。
(2)モノ(Things)の定義
Thingsを直訳すると「物」ですが、IoTで定義されるThingsはこの世界に存在するあらゆる「形ある物」を指します。
身近な例を挙げると、テレビ、車、電化製品のように日常的に使う物や、時計、スマートフォン、眼鏡など普段から肌身離さずに持っている物、さらに、洋服、くつ、財布といった電子的ではないアナログな物もThingsに含まれます。
このように、Thingsの指す範囲は、インターネットにつながりやすいデジタル機器に限ったものではなく、アナログな物も含まれます。
(3)IoTとIoEの違い
IoTからさらに進んだ「IoE(Internet of Everything)」という概念も登場しています。
IoEは全てのモノがインターネットにつながるという概念で、IoTが接続するモノやコンテンツだけでなく、人もデータも全てをつなぐのがIoEの概念です。
IoEは、人や場所に紐付いた情報でIoTよりも範囲が広いのが特徴です。
言葉の意味から考えてもIoTがIoEに包括されていると考えることができます。
スペインのバルセロナ市は、IoEをいち早く取り入れた事例として知られており、ヨーロッパでは初となる仮想市民サービス、バーチャルの市役所を作り出しています。
バルセロナ市では、市役所に足を運ばずとも、バーチャルの市役所で市民サービスが受けられます。
2.国内企業のIoT取り組み状況
では、国内企業は、IoTにどの程度取り組んでいるのでしょうか。
IoTの活用状況を自社ビジネスの状況別に見たものが下記のグラフです。
自社ビジネスの状況が好調な企業ほど、IoTを積極的に活用していることが分かります。
「非常に不調」な企業でIoT導入予定のない割合は71%で、「非常に好調」な企業は9%と比較して、多く存在しています。
ビジネスが好調な企業は、先進ITを駆使して、さらにビジネスを成長させようとしていることがこのデータから見て取れます。
3.IoT時代のセキュリティの課題
IoTの利用者は、多岐にわたると予想されています。
そして、そうした人々に向けて、さまざまなサービスが展開されると期待されています。
この結果、当初想定していなかったサービスやアプリケーションとIoTデバイスがつながることが考えられます。
思わぬリスクにさらされる恐れもあります。
セキュリティの世界では、常に弱いところが狙われます。
IoTデバイス単体ではセキュリティ対策を講じていても、それが連携するサービスやアプリに脆弱性があれば、そこが糸口となって侵害を受け、情報漏えいや誤作動などにつながる恐れがあります。
IoTデバイスを開発する側はもちろん、サービスやアプリを開発する側にも、これまで以上にセキュリティへの対応が求められることになるでしょう。
2.身近にあるIoTの事例
1.生活関連のIoT
(1)離れて暮らす親を見守る電気ポット
テレビをはじめとした生活家電では、ネットにつなぐことができるIoT製品がすでに出始めています。
そのIoTの先駆けとも言えるのが、「象印 みまもりほっとライン i-Pot」です。
実家に一人で暮らす家族がお茶を入れるときにポットを使うと、離れたところで暮らす子供にメールで通知が届く。
無線通信機を内蔵した「i-Pot」をお年寄りが使うと、その情報がインターネットを通じて、離れて暮らすご家族に通知が届きます。
ご家族はその様子を携帯電話やパソコンでいつでもどこでもさりげなく見守ることができます。
(2)スマートフォンで全ての家電を操作する
スマートフォンのアプリから家電製品やAV機器を操作できるリモコンユニットが登場しました。
本製品は、スマートフォンやタブレットからWi-Fiで送られてきたリモコン信号を赤外線に変換して送信することで、家電をコントロールします。
外出先から利用無料のクラウドサーバーに接続して、自宅の家電を操作することもできます。
主なメーカー・機種のリモコンデータを事前に登録済みで、アプリ画面にしたがって選択するだけで、すぐに使用できます。プリセットされている以外のリモコンは、手動でリモコン信号の登録を行います。本製品は、赤外線フォーマットに依存しない「万能学習方式」を採用しており、海外メーカーなどの独自フォーマットも学習させることができます。
2.経営関連のIoT
(1)書類や資料、手書きメモなど全てをデジタル化
富士ゼロックス株式会社では、複合機やビジネスプリンターといったデバイスと、IT利活用のためのソリューションサービスを両輪として中小企業の業務支援に注力しています。
それは、文書管理サービス「DocuWorks」をスマートフォン、タブレットに対応させ、文書の閲覧・編集、クラウドサービスや文書管理サーバとの連携、複合機へのプリントといった機能をすべて端末から利用できる仕組みです。
例えば、営業訪問時に用意する書類や資料、手書きメモなどすべてをデジタル化し、持参する印刷物はカタログだけにするといった使い方です。
図面や提案書をタブレットで見せ、修正があればその場で編集し、クラウドサーバ経由で本社スタッフともリアルタイムに共有します。
あとは上長に電話をかけて承認を得れば商談スピードの向上が図れる仕組みです。
ドキュメント共有のためのクラウドサービス「Working Folder」と連携させることで、デジタル化した文書そのものをタブレットにダウンロードさせずに閲覧できます。
(2)ビル管理にIoTを活用
株式会社竹中工務店は、IoTとクラウドシステム、機械学習エンジンなどを活用した、次世代のビルエネルギー管理システムの構築と提供をしています。
このビル管理システムは、これまでビルごとに独立して機能していた機能を、クラウド上の共通プラットフォームに接続し、空調や照明などの設備や環境センサーからデータをクラウドで収集、統合監視できるようにしました。
そして、集積したデータをシステムで統計処理、分析することができるようになり、さらに機械学習を通じて、ビルの熱源や動力の効率的な制御モデルの構築と自動制御につなげています。
これまでのビル設備管理は“経験と勘”に頼っていました。
この暗黙知の部分を、IoT技術とクラウド化によって、実データに基づく制御モデルの構築や管理の自動化に成功しました。
3.消費・サービス業のIoT
1.小売・店舗のIoT
近年、スマートフォンの普及が、マーケティング手法を一変させました。
例えば、スマートフォン・アプリにより、広告やクーポン配布などはより効率的・効果的に実施できるようになりました。
また、最近では、GPSを使った位置情報測位機能を活用したエリアマーケティングなども一般化しています。
これらは、IoT活用型のマーケティングと定義されます。IoT活用型マーケティングでは、商品購入者の心理・感情も把握できるようになります。
将来的には「手には取ったが最終的に購入しなかった商品に対する、消費者の心理・感情」や、「商品を購入・利用し始めた後の、消費者の満足度・不満度」といった、企業が従来、収集・把握することが難しかった情報までも把握できる可能性もあります。
2.サービス業のIoT
典型的な個人向けサービス業である旅行サービスも、その予約手配やサービスの受け方が大きく様変わりしています。
仕事上の出張であっても、机の上のPCやスマートフォンから直接航空会社の予約Webにログインして、日程や行程を考えながら直接予約することが普通になりました。
さらには、チケット類を発券することなく、ICカードやスマートフォンで電子的に乗車・搭乗することが多くなり、従来の紙媒体で切符やチケットを持ち運ぶことも少なくなっています。
このことにより、航空会社や鉄道会社では、誰がいつ、どこからどこまでどのように利用したかを克明にトレースすることが可能になりました。
マイレージやポイント制度も、個人と特定する手段であり、実際の乗車日や搭乗日だけでなく、予約日時や予約チャネル、さらには決済手段などもお客様情報として取り込んでいるのです。
これらの膨大なお客様情報を基に、個人的におそらく興味を持ってくれるであろう旅行先やツアーをお勧め(レコメンド)することが当たり前に行われています。
また、スマートフォンアプリを使ったタクシー配車サービスもIoT活用による新しいビジネスです。
スマートフォンのGPS機能を使って、客がアプリで現在地を通知します。
その情報にもとづき登録者の中から最も近くにいる車が選び出され、迎えに来てくれます。
これは、スマートフォンを通してヒトとモノが繋がるからこそ可能な仕組みです。
現在では複数の企業が同様のサービスを開始しています。
この需要と供給をリアルタイムでマッチングさせるためにIoTが活用されています。
今後、こうした需給の最適化ビジネスはさらに広がっていくと予想されています。
3.医療・介護のIoT
日本をはじめ世界的に高齢化社会を迎えようとしている中、高齢者介護や心臓病、がんなどの慢性疾患に対する医療コストが増加しているため、健康維持や病気の予防、患者のケアのための先進的なアプローチが求められています。
その分野でも IoTの技術が期待されています。
健康状態管理、家庭から病院へのコミュニケーション、見守りなどの生活支援において、生産性向上やコスト節減だけでなく、より高品質な患者の生活やケアの改善が可能となります。
医療機関においては、遠隔監視や追跡ソリューションにより、予測できる問題をリアルタイムに通知し、人員と設備の効率的な稼働ができます。
患者・高齢者にウェアラブル機器を着用してもらえば、病院に頻繁に来なくてもリアルタイムで経過を記録することが可能になります。
こうしたウェアアラブル端末は、個人がヘルスケア対策として使用することも想定されています。
体重・体脂肪率・血圧・心拍数といった情報が毎日自動的に記録されていれば、素人であっても自分の体の変化に敏感になるでしょう。
また、筋肉量や骨密度などもわかるような機器であれば、高齢者の健康増進対策としても活躍してくれます。
4.製造業・モノづくりのIoT
1.大量生産からカスタマイズ生産へ
IoTによって消費者とメーカーがつながることで、モノづくりの方法も劇的に変化します。
現在、消費者はメーカー側が用意したラインアップから製品を選びます。
自分好みにカスタマイズすることも可能ですが、手間がかかる分通常より高額になります。
ところがIoTを活用すると、消費者はカスタマイズされた一品モノの製品を、量産品と変わらない価格で買うことができるようになります。
消費者からのカスタマイズされた注文を受けた工場が、必要な組み立て工程を「自分で考えて」指示します。
その指示を受けて、自動的にラインが組み立てられて、あたかも量産品が生産されるかのように、カスタマイズ製品が出来上がる仕組みです。
2.製造業におけるIoT
製造業におけるIoTには、2つのタイプがあります。
1つは、自社が製造する製品をIoT化し、稼働時のデータを収集・解析することで、顧客対応力向上や売上拡大を狙うものです。もう1つは、自社の製造現場の設備・機器などをIoT化し、生産性改善や品質向上を狙うものです。
(1)自社が製造する製品のIoT化
顧客先で稼動している自社製品の状態に関する様々なデータを収集・解析することで、以下のような活用が考えられ、既に多くの事例があります。
(2)自社の製造現場のIoT化(工場のIoT化)
製造現場の設備・機器など生産に関わるモノをIoT化し、製造関連のデータを収集・分析します。
そして、ワークと設備、部品と搬送装置などモノ同士がつながって協調して動くことで、生産性向上、品質向上、さらにはエネルギー効率の向上が期待されています。
3.設備メンテナンスでIoTを活用したケース
設備メンテナンスでもIoTが利活用されています。
設備を常時オンラインで監視している事で異常値が出たら警告を発する事が出来る等、IoTのメリットは多岐にわたります。
5.中小企業で活用しているIoT事例
1.中小企業にも広がる設備稼働状況の遠隔監視・メンテナンス効率化の事例
(株)オー・ド・ヴィは、飲料水自動販売機・浄活水器の製造・販売・保守、清涼飲料水の製造を手掛ける従業員数12人の中小企業です。
スーパーマーケット等に設置される飲料水の自動販売機を製造・販売しており、IoTを活用して、自動販売機に通信モジュールを導入し、稼働状況を自動的に収集する仕組みを構築しました。
週に1回、水の販売量や濾過状態などの機器状況を自動販売機が自動的にメールで送信される仕組みです。
従来は、スーパーマーケット等の設置先が自動販売機を確認、機器状況をFAXで送信し、担当者がパソコンに手入力していました。
現在はデータをパソコンに転記する必要がない上、故障時には即時に警告メールが送信されるため、保守担当者の対応が迅速になりました。
この取り組みにより、自動販売機の稼働率の上昇や、顧客満足度の向上を達成しました。
また、省力化によって業務規模拡大が可能になり、北海道から沖縄までのスーパーマーケットに設置できるようになりました。
2.みかん栽培にIoTを活用、高品質の果実栽培、商品開発に取り組む事例
和歌山県有田市の(株)早和果樹園は、約6万平方メートルの広大な園地を有し、みかんの生産・共同撰果・農産加工・出荷販売などを行っている従業員約50名の企業です。
同社では、システムベンダーと共同して、IoTを活用したみかん栽培の実証実験を実施し、甘くて美味しい高品質のみかんの栽培を進めています。
実証実験の中では、センサーで収集した気温・降水量・土壌温度などのデータや、従業員の日々の作業記録、従業員が園地で撮影した写真などをクラウド・スマートフォン・パソコン等で管理し、共有・分析して、適切な時期に適切な作業を実施するための指導をフィードバックできるシステムの構築を目指しています。
また、同社では、ベテラン従業員のノウハウ継承、農業経験のない新入社員の人材教育などの課題を抱えているところ、ITを活用することで、作業標準化や各作業にかかるコスト数値化を図るなど、その解決にも役立てています。
さらには、みかんの生産・加工の段階において、新しい生産方式・製法技術を積極的に取り入れ、高付加価値みかんジュース「味一しぼり」等を開発し、全国の高級百貨店等で販売することで、みかん産地の活性化に貢献していることが評価され、産業化優良事例表彰「農林水産大臣賞」を受賞しました。
3.IoTを活用してビジネスモデルを転換した事例~ケーザー・コンプレッサー~
ケーザー・コンプレッサーは、安価で使いやすい動力源としてあらゆる製造現場で利用される圧縮空気を作るコンプレッサーのメーカーです。
コンプレッサーは汎用品であるため競争が激しく、各社は圧縮空気の品質やコンプレッサーの省エネ性能、稼働率を競っていました。
ケーザー社は、従来からリモートセンシングを利用して稼働状況をモニタリングし、予知保全を実施することによって稼働率の工場やサービスコストの削減を実施していました。
そのような中、同社は、コンプレッサーの運用を顧客に代わって実施し、供給した空気の容量に応じて課金する新たなビジネスを開始しました。
つまり、コンプレッサーのサプライヤーから圧縮空気のサプライヤーへと自らのビジネスモデルを変化させたのです。
これにより、圧縮空気は固定費から変動費になり、初期費用が不要になったため、これまでコンプレッサーを購入していた大口の圧縮空気ユーザーだけでなく、小口のユーザーの開拓に成功しました。
ユーザーにとっては、効率の良い新製品が出た場合に装置の入れ替えをしやすく、さらなるコストダウンが図れる点等でメリットがありました。
■参考文献
『週刊ダイヤモンド2015/10/3』(株式会社ダイヤモンド社)
『すべてわかるIoT大全2016』(日経BP社)
『IoTまるわかり』(三菱総合研究所)
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