患者から選択される歯科医院を目指す!設備更新と資金繰りの留意点

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患者から選択される歯科医院を目指す!設備更新と資金繰りの留意点

  1. 設備更新時期の到来と患者不満要素解消
  2. 設備別更新の実施で患者満足度向上
  3.  設備更新時における資金繰りの留意点
  4.  少額資金でアメニティを向上させた更新事例

 


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1.設備更新時期の到来と患者不満要素解消

歯科医院経営には、増患対策や自費率向上、広報戦略、接遇、スタッフ育成といった様々なテーマが存在します。
その中でも、設備更新は非常に重要なテーマです。
建て替えやリニューアル、最新機器の導入、車両の購入等、多額の資金を必要とするものから、院内掲示の見直しや模様替え等少額な資金で済むものまで、多様なケースが存在します。
資金繰りを無視して過剰な設備更新を行うと、当然のことながら経営が危うくなります。
一方で、将来不安から過剰な守りに入り、設備更新を全く行わないと継続的に設備更新を行っている近隣競合先に差をつけられます。
資金繰りを考慮しながら、外部資金をうまく活用し、毎年継続的に効率的な設備更新を行うことが医院継続のポイントです。

1.設備更新時期の到来

厚生労働省が公表している「医療施設調査」から、平成10年から25年までの診療所数と、前年からの増加件数を下記の表にまとめました。
前年からの増加数をみると、平成10年は1,072件、平成25年は227件と1,000件以上増加していました。
このデータは、開業数と廃業数の単純差であり、廃業を除くとさらに多くの開業があったと推測できます。
この時期に開業した歯科医院は、開業後10年から15年が経過し、設備更新の時期を迎えています。

診療所数及び対前年増加数の推移

2.設備更新未実施が患者の不満要素に

患者アンケート調査において、患者が不満に思っていることに対する回答は、待ち時間が長い、院長の説明不足、治療費が高いといった項目が上位を占めます。
当社関与先が、昨年来院患者200名を対象に実施したアンケート調査では、同様の結果が出ましたが、その中で、設備が古いまたは不潔と回答した方が、それぞれ15%以上あり、この結果を受けて、院内のリニューアルに取り組んだ歯科医院があります。
何も言わずいつも来院する患者も、サイレントクレーマーとして院内の設備等アメニティ環境に不満を持っているかもしれません。
また、待ち時間が長いと感じている患者も、待合室のリニューアルによって不満解消につながるケースもあります。
患者から選択され、競合医院に患者が流れないための設備更新は、非常に重要な経営テーマです。

3.設備更新の考え方

開業後に多額な資金が必要となるのは、建物、看板、設備などのリニューアルです。基本方針(コンセプト)に沿った計画立案と資金調達計画と、返済計画の両面から検討しなければいけません。
建物等外観や内装のリニューアルは、外壁の種類・色、癒し効果を考えた照明といった見栄え(対象患者層を意識)を、看板等は形状や字体、ロゴマーク、表示内容といったデザインの部分と視認性(目立ち方)と医院への誘導性を考えます。
駐車場や玄関等バリアフリー設備は、細かな気配りが必要です。
また、医療機器のリニューアルは、導入効果や治療内容から必要性を検討します。
備品関係は、待ち時間の長さを感じさせない工夫が必要です。

リニューアル時の留意点

4.医院規模別にみた投資構造の違い

診療所の規模、もしくは形態によって投資構造が違います。
テナントや不動産所有、都市型、地方型、1件の診療所から分院展開している診療所まで様々です。
何にいくら投資するかを十分検討してから、取り掛かる必要があります。
形態別の特徴と留意点は、下記のとおりです。

小規模のテナント診療所、中規模の地方都市の戸建診療所、大規模診療所もしくは分院展開している診療所

2.設備別更新の実施で患者満足度向上

患者から選択されるためには、定期的な設備更新を行うことがポイントです。
一言で更新といっても、借入を伴う多額な投資から、自己資金で調達可能な少額な投資まで様々です。
自院の資金力に合わせて、計画的に行うことが重要です。
無借金経営にこだわる院長がいらっしゃいますが、自己資金で、または金融機関から計画的に借り入れを行って設備更新を行うことは、患者から選択される歯科医院になるための必須条件です。

1.設備別更新の目的と種類

(1)建物関連のリニューアル

建物や内装工事、看板等の改修工事、医療機器等の入替によるリニューアルは経過年数を考え、実施する必要があります。
無理のない事業計画を立て、出来る範囲でのリニューアルを行わなければ、患者は離れてしまいます。
適切な設備投資と借入は歯科医院経営にとっても良いカンフル剤となり、節税効果も表れます。
また、お金を使わない改善もあります。
こちらは、最終章でご紹介します。

建物関連のリニューアル

(2)最新技術の導入

歯科診療技術や医療機器は日々進歩しています。
患者は、長年通院している歯科医院が新たな医療機器を導入し、新たな技術を進められることは、安心感につながります。
今までの診療を良しとせず、新たな治療技術を学び、自院の診療圏内にいる患者さんの満足度を向上させる努力が必要です。
研修会への参加による診療技術の向上は必須です。

最新技術の導入

(3)備品関係の更新

備品の更新については、患者やスタッフの目線で検討します。
すべてを一気に進める必要はありません。
毎年、少しずつ変わった印象を患者にアピールすることを心がけます。
また、スタッフ定着のために、福利厚生面にも気を配ります。
小さなテーブルひとつでも、スタッフにとっては大切にされているという印象を持ちます。

備品関係の更新

(4)事業の拡大

順調に患者を獲得し資金を蓄え、分院展開やインプラントセンターの併設、介護事業への進出等に積極的に取り組むことも選択肢の一つです。
口腔衛生に関してのプロフェッショナルであることを前面に出して、社会福祉法人を設立し、介護保険福祉施設(特別養護老人ホーム)の経営を行うなど、関連業界へ展開している歯科医院も多数存在しています。

事業の拡大

2.特徴ある診療サービスへの投資

院長の強みをさらに磨いて、特徴ある診療サービスを確立することもポイントです。
この場合、競合医院の診療内容を調査する必要がありますが、診療サービスの選択と集中を行い、他院との差別化を図ることができます。
各選択肢に応じた設備を装備し、新たな患者層の発掘や非効率な診療部分を排除して、勝ち組医院に転換します。

特徴ある診療サービス

3.地域社会への貢献も目に見えない投資

雇用しているスタッフ、医療機器卸やメーカーを協力者として考えると「人財」という言葉が適切です。
また、歯科医療という行為を通じて地域への貢献度が「好評価」として重要な財産になります。
これらは、目に見えない投資と言えます。
最も重要なのは患者さん自体が「財産」であることです。
この無形の財産をどれだけ備蓄しておけるかが、歯科医院経営の将来が約束される重要なポイントです。

目に見えない投資~地域貢献、社会貢献

3.設備更新時における資金繰りの留意点

設備更新の方向性が固まれば、次は資金繰り上に問題がないかを検討します。
設備更新にかかる費用を自己資金で賄うことができれば問題はありませんが、自己資金が不足している場合は、借入やリースに頼るしかありません。
本章では、資金繰りについての考え方や資金調達に関する考え方や留意点について解説します。

1.資金繰りの考え方

「設備更新を計画しても資金が足りない」、「利益は出ているのに」といったケースは帳簿上の「利益」と実際の「資金」の有高が一致しないことにその理由があります。
損益計算書は「発生主義」といって、役務の提供をした、又は受けた時点で収入や費用が計上されます。
実際の資金繰りは、窓口収入は日々入金しますが、社保・国保診療報酬は請求して翌月に入金することになります。
つまり、収益の計上と実際の入金に期間の差が生じます。
また、借入金の返済や保険積立等の支出は、損益計算書には記載されません。
実際の資金の流れは、下記のとおりであり、これらの出入りを経て、最終的に資金が手元に残ります。

資金繰りの考え方

手もとに残る資金が減少した場合、収入の減少やコストの増加、借入金の返済が多いなど様々な観点から、どこに問題があるのか見直すことが必要ですが、まずは現状を把握することから始めます。

2.資金繰りを行う上での留意点

設備更新を実施する上で重要なのは、資金繰りは安全かという点です。
更新する設備によっていくらの費用が増加するかを試算し、損益分岐点を算出します。
そのうえで、費用を賄うための必要収入の算出を行い、この収入を必要患者数と診療単価に分解します。
患者数の確保に問題がなければ、資金繰りは安全です。
しかし、患者数の確保が困難な場合は、変動費と固定費を見直して、損益分岐点を下げる検討を行います。
次に、借入れ又はリースについて検討します。
リースは、担保や保証人が不要なうえ、借入より手続きが簡単で、毎月一定額の支払いであるためコスト管理が容易ですが、償却資産税・保険料、手数料等のコストが含まれています。
また、医療機器の場合は、メンテナンスを含む契約もありますので、更新する対象ごとに検討が必要です。
高額な設備更新は、当然のことながら借入金が発生しますが、安全な資金繰りのためには、余裕をもって返済できる期間をいくつか設定して、シミュレーションします。
併せて据え置き期間の必要がないかも視野に入れて検討します。

資金繰りチェックポイント

3.資金調達計画の策定

資金繰りについて把握した後は、実際に設備更新に伴う費用をどのように調達するかという計画を立てます。
外壁や内部の改装、看板の取り換え、最新医療機器の購入等でも数百万円~千万円の資金が必要になります。
現状維持で満足せず、新たな取組をすることは必要ですが、返済財源を考えないと医院経営に危機的状況をもたらします。
金融機関の提示する返済条件や金利を比較しながら借入先を検討することはもちろんですが、設備投資の見積もりを優先するのではなく、借入返済が出来る金額内での設備投資を決定すべきです。

資金調達の留意点

4.資金調達方法の検討

資金調達手法の種類は、大きく以下の4つに分けることができます。

資金調達手法の種類

重要なのは資金使途、利益計画、資金繰りを考え、一番適切に対応できる融資手法は何であるか、そして、その手法を提供している金融機関、リース会社はどこであるかを判断することです。
本来、資金調達とは、事業を円滑に行うことを目的としています。
ですから、目先の金利の安さや体面・世間体などを重視して融資先を決定することは得策とはいえません。
まず資金使途との相性を考え、その上でスムーズな事業運営が可能となる資金調達法を選択すべきことを肝に銘じておきましょう。
それぞれ、メリット・デメリットがあり、担保や保証人の有無によって、実行できる範囲も制限されますので、どの借り入れが可能で、どれが有利なのかを検討したうえで、調達方法を検討します。

5.融資審査における留意点

資金調達計画を策定し、金融機関から借り入れを行う計画を立てた場合、金融機関の融資審査を受けることになります。
その際、重要視されるのは以下の5点です。

融資審査における留意点

融資交渉を行う際には、事業計画とともに、最低限希望借入金額の他、上記の点について整理しておくことが重要です。

4.少額資金でアメニティを向上させた更新事例

設備投資には、リニューアル等多額のお金を使うだけではなく、お金を使わずに行う方法があります。
実際に、施設等ハード面において、改善を行った事例を紹介します。
重要なのは、来院した患者の視点で院内全体を見直すことと、院長の理念や好みを患者に理解いただくことで、競合医院に差をつけるという姿勢です。

1.待合室の壁の見直し事例

医院内の壁は、待合室で診療を待つ患者にとって、一番目につく場所です。
また、トイレ、診療室、レントゲン室、受付周辺等の壁は、どのような状況になっているでしょうか。
業務用ポスターがはがれ、黄ばんでしまっていては、医院のイメージダウンとなります。
医院の理念や院長の好みで、テーマやストーリー性を持った絵をそろえると、院内がまとまった雰囲気になります。

院内掲示の例

院内では、さまざまな制約が多いので、院内掲示はできるだけ優しい言葉で表現することがポイントです。

2.混雑予想図の作成

空いている時間にゆっくりと治療を受けたいという気持ちは、どの患者にも共通だと思います。
この曜日のこの時間はどうしても予約が集中してしまう、この曜日だったら待ち時間が少なくて済むのにという場合に対応するために、混雑予想図を作成している歯科医院があります。

混雑予想図の作成

スタッフも予約を入れる際の目安になりますし、患者も予め混雑している曜日等が理解できるので、患者の分散化を図ることができます。

3.駐車場の見直し

自院の出入り口や左右の塀・門柱にキズがないかチェックします。
広い駐車場を確保している場合を除き、出入りしにくく狭い駐車場であれば、キズがついているかもしれません。
痛みがあって体調が悪い中来院された患者は、集中力が欠けています。
患者目線で、もう一度駐車場を見直してみましょう。

駐車場の整備ポイント

駐車場のキズは無言のクレームです。それらの声をキズから聞き取って、改善につなげましょう。

4.トイレの見直し

トイレは、患者から安心・信頼を獲得する大切な場所です。
清掃は行き届いているか、ユニバーサルデザインになっているか、視覚・聴覚の工夫がされているか、という3つの視点で見直してみましょう。
また、スタッフは男性用トイレのことはよくわからないので、トイレについてミーティングを行い、話し合うこともポイントです。

トイレの整備ポイント

5.イスの設置場所の改善

診療所のイメージを決定する中で大きなウェートを占めるのがイスです。
開院時には、イス選びに時間をかけたはずですが、現在のイスの状況はどうでしょうか。
既存のイスを見直すのと同時に、患者に配慮したイスの設置場所の検討を行った事例を紹介します。

イスの整備ポイント

■参考文献
『アポロニア21』 2014年6月号、7月号
院長先生の知恵袋 クリニックの目のつけどころ大辞典 鈴木竹仁著
(株)アーバンプロデュース発行

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