「働き方改革」で労働生産性の向上を実現する!時間外労働削減のポイント

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「働き方改革」で労働生産性の向上を実現する!時間外労働削減のポイント

  1. 「働き方改革」と時間外労働削減の意義
  2. 組織の仕事を「5S」の観点で見直す
  3. 社員個々人でできる時間外労働削減のポイント
  4. 時間外労働の削減に成功した企業の事例

 


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目次

1.「働き方改革」と時間外労働削減の意義

日本の労働制度と働き方にある課題

昨今の新聞紙上、TVニュース等で「働き方改革」に関するテーマが頻繁に取り上げられています。
日本は、欧州諸国と比較して労働時間が長く、仕事と子育てや介護を無理なく両立させるためには、長時間労働の是正が必要と内閣府は提言しています。
内閣府が発出している「働き方改革実行計画」では、働き方改革の意義(基本的考え方)として下記の課題を提起しています。

働き方改革実行計画

このような情勢の中、中小企業においても「働き方改革」への対応が企業経営で必要不可欠な取り組みになってきています。
時代の流れは確実に「労働時間の短縮」に向かっています。
今回は、上記の「日本の労働制度と働き方にある課題」のうち、長時間労働の是正にテーマをしぼって残業削減・生産性向上の手法を解説します。

2.労働時間削減に取り組む意義

以前のように、単純に競合他社とのコスト競争を繰り広げる中での人件費削減であれば、残業を減らすことで何とか対応できました。
しかし、長引く景気低迷によってモノが売れない上に、デフレの進展で価格も低下し、残業代を削減するだけでは追いつかなくなりました。
企業が生き残り、そこで働く社員が健康でいるためには、仕事量をコントロールする必要があります。
そのために、一つひとつの仕事の中身を効率化していたのでは追いつきません。
発想を根本的に変えて、「仕事のそのものをやめたり、変えたり」しなければならないのです。
また昨今では、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に対する関心も高まってきています。
会社全体で労働時間削減に取り組むと、社員一人ひとりの仕事や生活を充実させ、豊かにしていくことにも繋がります。
上記のことを整理すると、企業が労働時間削減に取り組む意義は、(1) コスト競争力を高めること、(2) 社員の仕事と生活を充実させること、この2点に集約されるといえます。

残業の削減により得られるもの

3.なぜ時間外労働は減らないのか

ムダな残業をなくすことは、会社・社員双方にとって必要不可欠な課題といえます。
しかしながら、どこからが「ムダな残業」なのかを理解しないまま、残業削減に向けてさまざまな施策を講じても、狙い通りの成果をあげることが難しいのも事実です。
なぜなら、いくら会社が残業時間を削減しようと労働時間の管理を強化したり、業務を効率化しようと働きかけても、「自分はムダな残業などしていない」「自分の部下は遅くまで一生懸命働いている」という意識が社員のなかにある限り、残念ながら形だけのものに終わってしまうからです。
長時間にわたる残業が発生する理由は、次表のとおり3つあります。

長時間にわたる残業が発生する理由とは

長時間残業をしている社員、ないしは部下の長時間残業を許している管理職に聞くと、多くの人は、「季節偏重型や期間限定型のいずれかなので、仕方がない」と答えます。
しかし細かく分析すると、長時間残業をしている本人の仕事の仕方に問題が潜んでいたり、仕事の仕方そのものにムダが隠れているかもしれません。
この事実があるため、恒常的に長時間残業をしている組織が存在します。
会社としては社員の意識改革を図り、働き方を見直して生産性の向上につなげていくことにより、ムダな働き方から発生する恒常型残業、いわゆる「ムダな残業」の削減が必要です。

4.5Sの観点で時間短縮に取り組む

画期的に残業時間を減らしていくためには、今までとは発想を変えてみる必要があります。
一つひとつの仕事の効率を変えるのではなく、職場全体の生産性を考えていくのです。
そのためには、仕事の捉え方、割り振り方法や管理方法などを見直す「仕事そのものの5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」によって、仕事自体をやめたり、適切に行えたりするのです。
5Sとは、製造業・サービス業などの職場環境の維持改善で用いられるスローガンです。
各職場において徹底されるべき事項を5つにまとめたもので、資料や機材、工具、材料、部品などのモノに対して行われ、「必要なモノが、必要なときにすぐに使えるようにする」ための活動です。
しかし、通常の5Sでは残業時間削減に関して、目に見える大きな成果は得られません。
そこで仕事そのものに5Sを適用し、組織における生産性や品質、リードタイムを画期的に向上させることで、必然的に残業を減らすことができます。

仕事の5S

2.組織の仕事を「5S」の観点で見直す

1.整理:仕事を捨てて残業を削減する

整理の最初の手順は、不要なモノを捨てることです。
ここのステップでは「仕事を捨てる・やめる」ということになります。
やめる対象となる仕事は、顧客にとって価値を生み出していない仕事です。
組織にとって必要/不必要で判断するのではなく、顧客にとって価値を生み出している/いないで判断するのです。
組織にとって必要でも、顧客にとって価値を生み出していない仕事を「やめる」ことを考えていくことで、自分たちにとっての顧客が何を求めているかを改めて感じることができます。
そして、それを感じることができれば、顧客に対して新しい価値を提供することができるようになります。

顧客の視点と組織の視点

例えば、週次や月次で行われる進捗管理などの打ち合わせを考えてみます。
組織にとっての価値は、「状況に合わせた要員配置ができる」「予定通りに納品できる」「発生している問題を把握し、対応がとれる」等でしょう。
次は、顧客にとっての価値は何なのかを考えてみます。
「製品を予定通りに受け取れる」「期待通りの品質(機能、性能など)が得られる」ことでしょうか。
これらは顧客にとって当たり前のことであり、なんら新しい価値を生み出していません。
このように顧客にとって価値を生んでいない仕事が現実の世界では大量に発生しています。
顧客にとって価値を生み出していない仕事を抽出し、仕事の中に埋もれている組織や自分自身にとっての価値を他の仕事に移転したり、代替する方法を考え実現して、初めて仕事を捨てることができるようになります。

削減対象の仕事例

2.整頓:仕事の見える化で業務効率を上げること

営業、企画、研究・開発部門や管理部門の仕事は、書類やパソコンあるいは頭の中にある知識や情報、経験など直接目で見ることのできないモノを使ってアウトプットを作ります。
このアウトプットも資料などの目に見えるモノの場合もありますが、アイディアやサービス、アドバイスなど目に見えないモノもあります。
そのため職場を見渡しただけでは、どれだけ仕事があって、どの仕事がどこまで進んでいるのか分かりません。
管理者であればそのチームが抱えている仕事の総量は把握できているかもしれませんが、現在の仕事の状態や、顧客にとって価値がある仕事なのかどうかまでは把握しきれていないのが実際です。
この危険な状態を回避していくために、まず行わなければならないことは仕事を目に見える形にすることです。
社内システムのグループウェアを使用しても良いですし、カードや付箋紙などに書き出しても構いません。

仕事を見える化する

このように仕事を目に見えるようにすることで、チームとして仕事を考えることができるようになり、お互いの仕事に関する認識の違いなどを共有することができるようになります。
管理者も仕事のムダや、顧客への価値提供の側面からチェックすることができます。
そして、それらの環境が整っていくことによって、顧客にとって価値ある仕事をいつも適切に行うことができる職場環境になります。

3.清掃:仕事がいつも適切に行える環境を維持すること

仕事は顧客の要求によって発生します。
現在および将来の顧客が求めないことを行うことは仕事ではありません。
顧客は自身の都合で要求してくるため、仕事が均等に発生することはありません。
そのため、職場では日による繁閑の差が発生するのです。
仕事に繁閑の差があるということは、忙しいときにはムリ(過負荷)をして残業が生まれ、暇な時にはムダ(能力過剰)によって生産性が低下するということです。
仕事の繁閑の差をならしていくためには、まず忙しい日の仕事を暇な日に移せないかを考えます。
次に、仕事を移すことができないのであれば分割することを考えます。
本当にその日に行わなければならないことと、事前に準備できることや事後でも処理できることを分割できないかを考えるのです。

4.清潔:いつ誰が見ても仕事が適切に行われていることを分かるようにすること

仕事には流れがあります。
顧客から依頼を受け、その内容が色々な部門で処理され、最終的に顧客へ届けられます。
仕事が流れているかどうかを把握するためには、仕事の流れを明確にする必要があります。
仕事の流れを把握するためには、下記のような業務フローを作成することをお勧めします。
業務フローを作成することで、特定の作業者に対する仕事の偏りや、部門内メンバーの繁閑を確認することができます。

業務フローサンプル

そして、5Sの最後(躾)として、決めたことを習慣化させることが重要になります。

3.社員個々人でできる時間外労働削減のポイント

前章では、時間外労働削減について、組織的な取り組みの例を紹介しました。
本章では、社員個々人が取り組める残業削減の手法を解説いたします。

1.残業ゼロで結果を出す社員

(1)仕事に取り掛かる前に全体把握を心がける

多くの業務量を抱え、さらにプラスアルファの仕事の依頼があっても動じず、上手くこなせる社員がいます。
多忙でも余裕を見せる社員に共通している点は「段取りが良い」、この一言につきます。
段取りとは、「事を運ぶための順序。事がうまく運ぶように、前もって手順をととのえること」と辞書では定義されています。
つまり、段取りとは「先を読んだ行動ができる」ことを指します。
段取りが良いというのは速いスピードで手際良く作業を処理するのではありません。
常に仕事の目的を考え、確実な達成に導くため、「先読み」した手順を踏むことを指します。
人はいったん作業を始めると、目の前のことに一生懸命になってしまうものです。
企画書や書類を作成している時、没頭してしまい気がつけば時間オーバーになってしまった経験はないでしょうか。
その結果、時には残業でカバーせざるを得なくなってしまいます。
これらは「仕事に取り掛かる順序」を変え、全体把握をすることで解決できる場合があります。

全体把握のポイント

(2)所要時間を決めてから取り掛かる

段取りが良い人は、仕事全体を見て何が必要かを考えます。
そして、タスクを書き出し、各タスクに充てられる所要時間を決めます。
所要時間を決める理由は、「納期に間に合わせるため」です。
「納期」というのは、そもそも守られるべき当然のことで、場合によっては品質よりも大事な前提条件です。
そして、タスク管理の本質は「所要時間」をコントロールすることです。
今抱えているタスクには何時間必要なのか、余裕を持って間に合わせる設定になっているか、無理があるなら1つのタスクの所要時間を短縮できないか等の「検証」が必要です。
そのためにも、タスクを書き出すだけでなく、「所要時間」も設定するべきです。
目に見える形で時間を意識することで、時間オーバーで締め切りに間に合わないといった事態は予防できます。

「所要時間」を決めてから動くことで残業を防ぐ

2.仕事を「5W1H」で分解する

仕事は書き出すことで、やるべき手順が見えてきます。
段取りが悪い人ほど紙に書いて整理しない傾向があります。
段取り良く作業をするポイントは、仕事の要素を「5W1H」で分解することです。
そうすることで、見えにくいものが見えやすくなります。

段取り力を高めるステップ

STEP1:「5W1H」の切り口で考える

「5W1H」とは、「何を(What)」「なぜ(Why)「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「どのように(How)」の6つの要素を指します。
よく目にする切り口ですが、段取り力を高めるときにもこの切り口で考えます。

STEP2:切り口ごとに「2~3個」の想像を働かせる

「5W1H」の要素ごとに、最低でも2~3個の行動を考えると、自ずと段取りの良い人の行動になるという法則です。
上司から「会議時の昼食」を手配する指示を受けたシーンで考えてみます。

切り口ごとに「2~3個」の想像を働かせる

このような事例で大事なことは、自分なりに「想像」をしてみるということです。
時系列に整理すると、やるべき手順の整理ができます。
慣れないうちは紙に書いてみると良いでしょう。
段取りの良い社員は緻密に物事を考えています。

4.時間外労働の削減に成功した企業の事例

1.顧客を巻き込んだ業務改善により業務効率を向上

(1)事例企業の概要

事例企業の概要

(2)時間外労働削減の取り組みの背景

業務の繁閑があるだけでなく、繁忙期には人員が不足する傾向がありました。
そのため顧客を巻き込んだ業務改善、残業実施状況の管理などの取り組みを進めることで業務効率が向上し、結果として時間外労働の削減につながった事例です。

(3)取り組みの内容

(1) 残業の事前申請と実施状況の管理

始業時と終業前に行うミーティングの際に、管理職が残業予定者の業務内容と退社予定時間を確認し、急ぎの業務以外は翌日に行うように指導をしたり、他の社員へ仕事を割り振ったりするなどの調整を必要に応じ行いました。
残業の実績は、毎月2回、15日と25日に各部の管理職が集計をして、管理部門に報告しています。
残業が多い部門はその都度、なぜ残業が多いのかという理由も報告し、適切に業務を進め、みだりに残業を行わないよう管理しています。

(2) 顧客を巻き込んだ業務効率化・改善

自社のコストが増加すれば、顧客が当社に支払う費用にも影響します。
A社は、自社のコスト削減や業務効率化が図れるとともに、顧客にとってもコスト削減につながるような提案を顧客に打診しています。
例えば、顧客とやり取りする書類については、業務効率化を図るため、自社で使用する様式と顧客で使用する様式を統一してもらえるように依頼し、内容の整理や確認に要する時間を削減するなどしています。
このような業務効率化、作業量の低減により、自社と顧客双方の業務効率化が進み、双方の時間外労働の削減が図れるものと考えています。

(3) 多能工化を進めて業務を平準化

特定の人しかできない業務があると、その人に業務が集中し、長時間残業につながる原因になります。
そこでA社では計画的に多能工化を進めており、業務の多い従業員がいる場合には、部門の管理者が他の従業員に振り分けるようにしています。
多能工化を進める取り組みとして、各職場で必要とする技術・能力、資格・免許を整理し、必要な教育や人材ローテーションを計画的に実施しています。
その結果、特定の人に業務が集中することもなくなり、長時間労働の抑制につながっています。

(4)取り組みの効果

管理職が必要な業務を適正な時間で実施するようにきめ細かく指導、管理することで、無駄な残業を抑制できました。
時間外労働につながるものであっても、顧客からの要望には応える必要があります。
それだけに、顧客に対して自社と顧客の双方のコスト削減につながるような「win-win」の提案を行い、お互いに業務効率化を進めることによって、自社の労働時間削減と顧客の要望に応えることを両立させています。

2.パート・アルバイトの能力管理と改善提案で正社員の残業を削減

(1)事例企業の概要

事例企業の概要

(2)時間外労働削減の取り組みの背景

時期や天候、周辺地域でのイベントなどにより、業務の繁閑が大きく変動する中、忙しいときでも長時間の労働となることを避けるため、パート・アルバイトの能力向上を推進。同時に効率よく業務が進められるような工夫も行い、時間外労働を抑制しました。

(3)取り組みの内容

①パート・アルバイトの能力を向上させる仕組み

パート・アルバイトの方に可能な限り広い業務を担っていただけるよう、能力の向上に取り組むことが一人ひとりの業務を平準化し、時間外労働を削減する鍵となります。
b店舗では、パート・アルバイトの能力向上意欲を高める仕組みを取り入れました。
具体的には、パート・アルバイトに担っていただく作業をリストアップし、作業ごとの習熟度をチェックリストにして、作業ができるようになれば、教育する立場の者がチェックすることにしています。
さらに、このリストを皆が見える場所に掲示することで、各自ができる作業やその習熟度がわかるようにしています。
習熟度のチェックは1週間ごとに行い、各自の課題を確認して次に習得すべきことを明確にすることで、教える人も教わる人も仕事がしやすい環境を作り出しています。
また、習熟度は時給に直結する形となっていることも、能力向上意欲を高めています。

②パート・アルバイトからの業務改善の提案

パート・アルバイトの方から、業務改善のための提案を受け付けています。
正社員が呼びかけているわけではなく、教育を通して従業員の意識が高まり、より効率的に、より負担を少なく作業する方法をパート・アルバイト自らが考えて、提案してくれる場面があります。
パート・アルバイトの方から改善提案を受けた場合には、提案のあった店舗で実践し、有効であると確認できれば正社員が本部に報告する仕組みになっています。最終的に会社全体で採用され、業務マニュアルに組み入れられる場合もあります。
このような業務改善を行うことで、作業がスムーズに進められるようになったり、ミスを減らすことができ、結果として探し物や片付け、作業のやり直しなどの余計な手間を省くことで労働時間の削減につながっています。

(4)取り組みの効果

パート・アルバイトの能力向上により、店長固有の業務以外は多くの場面でパート・アルバイトの方が担当しています。
その結果、正社員の負担が軽減され、現在では店長以外の正社員については、ほとんど残業が発生していません。
パート・アルバイトによる改善提案は、業務が効率化され、時間外労働の削減につながるだけでなく、その改善提案が採用されることでパート・アルバイトのモチベーション向上にも寄与しています。

 

■参考文献
『時間外労働削減の好事例集』(厚生労働省)
『残業ゼロの仕事のルール』(株式会社PHPエディターズ・グループ)
『会社では教えてもらえない残業ゼロの人の段取りのキホン』(すばる舎)
『残業させないチーム仕事術』(明日香出版社)

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